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07 突き動かす心の声 カイルSIDE


(情けない……魔術をかけられ、こうもおかしくなってしまうなんて。騎士失格かもしれないな)



 それでも今は彼女に冷たくするほうが違和感がある。緊張しているのだろう。冷たくなった手を温めるように彼女の手を包んでいると、今までの人生で感じたことのない心地よさが俺を満たしていく。



 ――このまま、ずっとこうしていたい。



 頭に浮かんだ馬鹿げた考えを、急いで追い払う。さすがにこんな気持ちでは、仕事ができない。そんなことを思っていると、次第に何の反応も示さない検査板を見て、周囲がざわつき始めた。



「魔力がない?」



(そんな馬鹿な。魔力がないなら、俺のこの感情はなんなんだ? 目が合った瞬間に妙な動悸もあったのに、彼女に魔力そのものがないとは……)



 この場にいる者たちも魔力なしの存在を聞いたことがないようで、動揺しているようだ。アンジェラ王女の「わざと話せないふりをしている」という言葉にも賛成し始め、しまいには「拷問すればいい」などという馬鹿げた提案まで出てくる始末。



(たしか、王女の家庭教師のエリックだったか? 本当にこいつは家庭教師なのか? 暴力による自白の強要は国で禁止されているのに、そんなことも知らないとは。しょせんは遊び呆けている王女の話し相手、といったところなのだろう)



 苦々しい気持ちでエリックの提案を却下すると、案の定冷静さを知らないアンジェラ王女が叫びだした。



「ならすぐにこの者を牢屋に入れなさい! わたくしは聖女としての仕事があるのですから、こんな女を見ていたら魂が汚れてしまうわ!」



 芝居がかったその言葉も、この部屋にいる半数以上の者は信じていないだろう。今この国に聖女はアンジェラ王女だけとなっているが、歴代の聖女は異世界から召喚している。国内から出たことはないのだ。



 ある日突然「聖魔力」が覚醒したと言い始め、たしかに検査板でもそれは証明されたが、協会側は微妙な反応だった。そもそも瘴気の穴が開いているのに修復しようともしないし、瘴気で病気になった人の治療もしない。



(アルフレッド殿下も信用していないようだが、ここで一番権力があるのは王族である彼女だ。それに侵入者の彼女を、殿下の許可なしに王宮から出すこともできない)



 拷問という言葉にビクリと肩を震わせ、青ざめた顔でオロオロしている彼女を見ていると胸の奥が苦しい。しかし牢屋に入れるしか方法はないだろう。俺は乱暴をしないよう注意をし、牢屋に入れることを命令した。



(牢屋の看守に見張りをつけるか……あの王女とエリックの態度、妙に侵入者に冷淡で、執着しているように見える)



 妙な違和感からこっそりとケリーに指令を出し、王女たちの動向を探ることにしたのだが、悪い予感というのは当たるものだ。夜中にケリーから報告があり、王女たちが牢屋の侵入者を訪ねたことを知る。



「不思議ですよね。わざわざあんな地下にまで王女が行くなんて……」

「ああ。それで何を話していたか、わかったか?」

「いいえ。看守も聞こえなかったそうです。ただ侵入者の女性が泣き叫ぶ声が聞こえたと」

「……そうか。ご苦労。明日には殿下がお帰りになる。何かするのなら、朝には動くだろう。注意しておくように」

「は!」



 ケリーから聞く報告が、みぞおちの辺りをズンと重くさせている。そのままベッドにゴロリと横になるが、頭は怒りの感情でいっぱいだ。



 ――彼女を傷つける者は、許さない



 今はもうこの馬鹿げた考えを、振り払う余裕すらない。むしろこの声に同調し始めている。魔術をかけられていないのに、なぜこんな感情を持つのかまったくわからないが、今はただ牢屋にいる彼女が心配でならなかった。



(彼女は、今も薄暗く寒い牢屋で、一人泣いているのだろうか……)



 そのままほぼ一睡もしないまま朝まで体を休めていると、慌てたケリーの声が部屋に飛び込んできた。



「団長! 大変です!」

「王女が動いたか?」

「はい、実は――」



 なんて下劣なことをするつもりなんだ。王女は昨日の女性の処刑を行うという。誰が許可したかというと、やはり王女の父親である国王陛下だった。



(やはり、陛下に頼んだか……)



「どうされますか? まだ侵入した理由もわかっておりませんし、彼女はただ送り込まれただけかもしれませんよ」

「ああ、しかしアルフレッド殿下が戻るのは、早くても昼過ぎだ。それに殿下が止めたとしても、陛下が決断されたのなら、時間の問題だろう」



 実際に王家の権力は強い。対抗できる力は聖教会しかないのだが、まったく関わりのない事件に首を突っ込ませるわけにもいかない。



「……ケリー、無謀なことかもしれないが、頼みを聞いてもらえるか?」

「今さらですよ! 俺の命は団長に預けてるんですから!」



 俺はケリーの頭を乱暴に撫でると、侵入者である彼女を救うための作戦を話した。


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