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03 忘れられた聖女

 

(カイルだ! ようやく会えた!)



「グッ……ゲホッゲホッ」



 カイルの名を呼ぼうとすると、また喉に強烈な痛みが走り、言葉が出てこない。でもカイルと会えた。それならすぐにこの拘束も取ってもらえるはず!



 それなのに、目の前のカイルはさらに険しい顔をして、私を睨みつける。



「おまえは何者だ! どこから入ってきた! 答えろ!」


(……どうして? カイルは私のこと、わからないの?)



 こんなにはっきりと目が合っているのに、カイルは私の名前を呼んでくれない。それどころかますます怪しいと判断し、私の首筋に剣を当ててきた。ヒヤリとした刃の感触に、現実に起こっていることだと、嫌でも思い知らされる。



(顔が似てる別人なの? だってカイルなら私のこと、忘れるはずがないもの)



 でも彼には兄弟はいなかったはずだ。だってプロポーズしてくれたあの日「俺は一人息子だから、サクラと結婚したら娘ができたと言って、両親が大喜びするぞ」って言ってたからよく覚えてる。



 何かがおかしい。それによく周囲を見てみると、見知った顔が何人かいた。名前までは覚えていないけど、たしかアルフレッド王子の側近だったはず……。



(一人で歩いている時に挨拶してくれた人もいるから、絶対に私の顔がわかると思うのになんで?)



 彼らはカイルと同じように、突然現れた私を睨んでいる。私が聖女だと気づき、助けてくれる人はやっぱり出てこなかった。



「おい! キョロキョロするな! 誰か仲間がいるのか? 答えろ!」



 何も話さず挙動不審な私に苛ついたのか、カイルはいっそう乱暴な口調で問いただす。押し当てられている剣の刃も、力が込もっているのかカタカタと震えていた。



 それでも話そうとすると喉が焼けるように痛くなるから、話すことができない。そのうえ私が聖女だと証明してくれる人もいないのだ。



(どうしよう! どうすれば、私が聖女だってわかってもらえるの?)



 私を刺し貫くのではないかと思うくらい睨みつけるカイルの姿に、ここには私を助けてくれる人がいないのだと感じ始めた時。私を囲む人だかりの奥から、一人の女性の声が聞こえてきた。



「カイル、その者は危険だわ。わたくしには、わかるの。だってこの部屋に突然現れたのよ? みなさんも見ていたでしょう?」



 私を囲む人だかりの奥から、一人の女性の声がした。この声は聞いたことがある。たしか、この人は……。



「アンジェラ王女! 近づいてはなりません!」

「あら、大丈夫よ、カイル。だって婚約者のあなたが、守ってくれるのでしょう?」



(婚約者? 今、カイルのこと、婚約者って言った……?)



「王女、それは……。とにかく私は剣を手にしています。この女が暴れたら取り押さえないといけません。下がってください」

「もう、私の婚約者は心配性ね。それだけ私のことを大切にしてくださってるってことだけど」



 フフッと笑って、アンジェラ王女はカイルの後ろに身を隠す。まるで彼女を私から庇っているみたいだ。その信じたくない光景に、胸がえぐれるような痛みを感じる。



(もう、わけがわからない。一年前、カイルはたしかに私と結婚しようと言ってくれた。それなのに、なぜアンジェラ王女の婚約者になってるの? この一年で何があったの?)



「うっ……ううう……」



 ボロボロと勝手に涙が出てきて、止まらない。そのうえ、うめき声をあげるたびに苦しい痛みが襲ってきて、ビクリと体が動いてしまう。するとその動きで、カイルの剣が私の首に食い込み、つうっと血が流れ始めた。



「うう!」


(痛い! 喉も首も痛いよ……)



 ギリッと歯ぎしりのような音が聞こえた。きっと私がメソメソと泣いているから、そうとう苛立っているのだろう。顔をあげると案の定、カイルの睨みは凄みを増していた。



「……おまえはこの王宮に、転移の魔術で現れたのか?」



「転移の魔術」はこの国で、カイルと師匠のジャレドしか使えない。カイルもジャレドに教わって、ようやく習得できたのだ。私も何回か練習したが難しくてできなかったので、首を振って否定する。



「それならどうやって、この部屋に入ってきたのだ! 王宮は魔術師が結界を張っている。許可した者以外は入れない!」



 その質問には答えようがない。だって私はこの王宮に入る許可をもらっている。ここにはいないようだけど、アルフレッド殿下が直々に私の血を登録したのだ。



(それに許可は持っているけど、王宮にに召喚されたことは説明できないよ。でも頑張ってみるしかない……)



 私は手を広げ、指の腹を切る仕草をした。そしてトントンと手のひらに押し付け、奥の部屋にある魔法陣に血を登録したことを伝えようと頑張った。それなのに、また喉に痛みが走り、私は前のめりに倒れてしまう。



「う、ううう! ゲホッ」

「……なにをしているんだ?」



 痛む喉を押さえ、なんとか座り直す。するとカイルはほんの少し表情をゆるめ、ボソッと呟いた。



「もしかして、言葉を話せないのか?」


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