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17 アルフレッド殿下の登場

 

(アルフレッド様……、なぜここに?)



 金色の髪に青い瞳。少し垂れ目ぎみで甘い顔立ちが、いつも優しい彼の雰囲気にとても合っていた。しかし目の前にいる彼には普段の優しさが一欠片も見当たらず、それどころか妹である王女を軽蔑の目で見ている。



 後ろにはケリーさんを筆頭にカイルの部下たちが、殿下の警護をしていた。



「お、お兄様……」



 険しい顔をした殿下が一直線に向かったのは、妹であるアンジェラ王女のもとだった。なにか言い訳をするように王女の隣にいるエリックがモゴモゴと口を動かしたけど、殿下は一瞥(いちべつ)もくれず通り過ぎる。



「アンジェラ。侵入者の審議もろくにせず権力を振りかざしたうえ、勝手に処刑を行うとはどういうことだ?」



 一瞬、王女はその言葉にビクリと肩を震わせたが、すぐに威勢よく睨み返し反論した。



「わたくしは、王宮の安全を守っただけですわ! あの女がなんらかの魔術を使って、無断で王宮に侵入したことはあの場に居た者なら皆知っております! それにお父様の許可もいただいてあるのですから、わたくしは間違っておりません!」



 静まり返った部屋に、殿下が鼻で笑った音が聞こえた。まるで話にならないといった様子で、眉間にしわを寄せるとまた話を続ける。



「父上の許可? 陛下は今、ご病気だ。遊び暮らすおまえは知らなかったのだろうが、君主が病気の際は王太子である私があらゆることを決定する立場にあるのだ。どうせ陛下はおまえの言い分を信じたのだろうが、その許可証は無効だ」


「そ、そんな……! でもエリックが……!」

「ああ、おまえが容姿で選んだ無能な家庭教師など、耳あたりの良いことしか言わないだろうな」



 チラリと視線を向けることすらなく自分への辛辣な意見を殿下に言われ、エリックはカッと顔を赤くした。唇を歪ませ、握った拳がぶるぶると震えている。



 アンジェラ王女も子供のようにオロオロとし、それでも私への処刑が正しいのだと駄々っ子のように叫んでいる。



「わ、わたくしは王族として、お兄様の代わりを――!」

「……そんなに王族として責任を負いたいのなら、ちょうど良い話があるぞ」

「えっ……?」



 アルフレッド殿下の声色が急に甘く優しさを帯び始め、その変わりように背中に寒気が走った。殿下はアンジェラ王女の肩にそっと手をかけると、優しい微笑みを顔に浮かべている。



「隣国から縁談が来ている。王族として国のために嫁げるのだ。素晴らしいことだな」

「え、縁談? どういうことですの? わたくしはカイルと婚約しております!」



 一気に顔を青くした王女が、カイルのもとに駆け寄って来ようとした。しかしすぐさまケリーさんがそれを止め、カイルはよりいっそう強い力で私を抱きしめる。



「カイルとの婚約はおまえに甘い陛下が、王命として無理やり決定したものだ。本人は望んでいない」

「そ、そんなことありません! ねえ! カイル! わたくしが他の男と結婚だなんて、そんなことカイルが許さないわよね!」



 ケリーさんが抑えているのにもかかわらず、アンジェラ王女は必死の形相でカイルに手を伸ばしている。しかしカイルはその手を取ることもなく、私を自分の胸にぐっと引き寄せた。



「私は一度たりとも、アンジェラ王女との結婚を望んだことはありません。私には心に決めた女性がいます!」



(カイル……)



「まさか、その女だというの? その女は犯罪者で、あなたと会って数日しかたってないのよ! やっぱりそうよ! この女がなにかしたのよ!」



 ダンダンと靴音を鳴らし私に飛びかかろうとする妹の姿を見て、殿下は呆れ返っている。



「もう止めないか。王女だというのに権力を使って臣下に婚姻を迫るなど、見苦しいにもほどがある」

「い、嫌です! わたくしは子供の頃からカイルと結婚を――!」



 しかしこの場にいる者は誰一人として、王女の言葉に耳を傾けない。エリックでさえ分が悪いと思っているのか、うつむき黙っていた。その様子にますます王女はあせり、抑えられている腕を振りほどこうと暴れ始める。



「やっぱりおかしいわ! この女が魔術で皆を魅了しているのです! お兄様、目を覚ましてください!」

「ケリー、二人を連れて行け。多少、手荒に扱っても良い。許可する」

「は!」



 ケリーさんが指示を出し、数人の騎士がアンジェラ王女とエリックを連れて行く。



「嫌よ! 絶対に嫌! わたくしはカイル以外とは、結婚しないわ!」



 最終的に暴れるアンジェラ王女を、騎士たちが引きずるように部屋から連れ出し、二人は去って行った。しかしようやく部屋に静けさが戻ったが、誰も話す様子はない。するとそんな気まずい状況でも気にせず声をあげたのは、やはり我が師匠のジャレドだった。



「アル! ちょうど良いタイミングで来たね! 僕もけっこう時間を引き伸ばしたんだけど、王女たちを捕まえに来てくれて良かったよ〜」



 師匠の明るい声に、部屋の空気が一気に和み始める。話しかけられたアルフレッド殿下も師匠の飄々とした態度を見てクスッと笑った。



「ケリーからアンジェラの愚行を聞いてあわてて教会に来たのだが、そのカイルが抱きしめている彼女がもしかして……」

「はい。彼女が王宮に侵入した罪で処刑されるところだった無実の女性です」



 ハキハキとカイルが説明したけれど、それを聞いた殿下は目を丸くし、戸惑いながら私たちを見ている。



「えっと、カイルはいったいどうしたのかな? こんなベタベタと女性にさわる男じゃないはずなんだが? それに早馬で受け取った手紙には彼女が聖女だったと書かれていましたが、司教様、それは本当ですか?」



 問いかけられた司教様もカイルの変化に首をかしげ、結局答えたのは最後の質問だけだった。



「はい。それがちょっと説明が長くなるのですが、彼女が聖女だとジャレドは申しております」

「へえ……。彼女が聖女……」



 それを聞いたアルフレッド殿下は私とカイルを交互に見て、意味深な表情でニコリと笑った。



「それなら君が、私の婚約者になる女性ということかな?」


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