3.竜母になった日
卵。
硬い殻で中の子どもを守る自然の中で生きる種族の進化の結果必要とされることが多かった子孫を残す方法。
「ピゥ」
「ひぅ…」
ごめんなさい現実逃避やめます。
神母坂 周。ゲーム開始直後に詰みました。
目の前にいる卵から生まれたトカゲ。
のっぺりとした卵の殻がそのまま顔になったかのような様相。恐らく目は見えていない。
特筆すべき興味深い点がそののっぺりとした外骨格は若干透けており、その中に星空が息づいている。
簡単に言えば、キラキラしている。
こんな見た目だ。通常の周ならば好奇心そのままに撫で回すだろうが…
如何せん生まれる演出が禍々しくどう接したらいいのか周は測りかねていた。
攻撃すりゃいいの?子どもだが?逃げりゃいいの?登れっつうのかこの壁を。可愛がりゃいいの?敵だったら?一生消えないトラウマ植え付けられるが?
思考の渦に飲み込まれそうになりながら顔を顰めているとその膠着状態をトカゲが破った。
「ピャゥ!」
尻もちをつき、動けないでいる周に近づく。
その足取りは産まれたてだからかたどたどしく、時折つまづきそうになる。
よたよたと近寄ってくるトカゲに対して周は怖がればいいのか助ければいいのか分からなくなっていた。
比率で言えば圧倒的に助けに行きたくなっていたが、ごちゃ混ぜになった思考からか顔は更に固くなり、体は動かない。
「ピッ!」
トカゲは、その足取りで苦労しながらもついに周のつま先にたどり着き…
抱きついた。
否、その言い方は正しくないだろう。
飛びついたのである。
短い前足でつま先を抱え込んで頭をこすりつける。
周はこの行為が何を意味するのか知っていた。
「は、はは。なんだよ。こっちは怖がってんのに…そんな甘えてくるなんて……」
子が母に対して甘えるように、その仔竜は周に甘えているのである。
卵を孵したのは周だ。
産まれてきたのは健気に母に甘える目の前の仔竜。
なら。
「ちっちゃくって…かるい」
まだまだ小さい仔竜の脇に手を差し込んで、持ち上げる。
とても軽い羽みたいで目を離したら飛んでいってしまいそうで。
星空のようで無機的な外骨格でもとても暖かい。
そして怖がったのがバカバカしくなるぐらいに弱々しかった。
周は子どもと接したことなど数える程しかない。
だがこの場でやるべきことはわかっていた。
仔竜を優しく抱っこし、恐る恐るではあるが血で汚れていない方の手で優しく撫でる。
そしてこう呟いた。
「俺が、お前のママだよ。お前の名前は…【ウロ】だ」
胸元を煉獄のような熱が這いまわる。
「ッッッ!!!」
あまりに唐突なことで声を上げる暇もなく、声が漏れそうになった瞬間、痛みも熱も全て消えうせた。
青天の霹靂に戸惑っていると頭の中に直接アナウンスが流れる。
『エクストラジョブ獲得。現在の役職である《異邦人》から《竜母》に変更されます。』
『役職に合わせた身体の形状変化が実行されます。……完了しました』
『エクストラスキル獲得。【竜母の教育】【竜母の叱責】【竜母の称賛】【竜母の児戯】【竜母の授乳】【母子手帳】以上6つのスキルを獲得しました。メニューから確認できます』
『称号を獲得。〈竜母になりし未人〉』
『キーアイテムを獲得。[揺り籠の残滓][竜紋]』
怒涛のアナウンスに目を白黒させる周だったが、それなりに場数(ゲーム経験)を踏んでいるため直ぐに復帰する。
エクストラジョブというのは事前の情報収集ですでに知っていた。
「えーと、確か…イベントジョブでありそのジョブ自体がストーリーになっていてそのストーリークリアが何よりも優先される…だったっけ?」
知ってはいる。
だが、周は『チュートリアルすら受けていないのに』エクストラジョブになってしまったケースを知らなかった。
このゲームはチュートリアルを受けても受けなくてもいいゲームであり、このチュートリアルこそ『エクストラジョブによるストーリー』なのだ。
《修練者》というエクストラジョブになってからそのストーリーを進めることでこのゲームの基本を学べる。
この過程で手に入る『コモンスキル』、【鑑定】【身のこなし】【武術】が強く、必須とされるものばかりであった。
【鑑定】は運良く『アルカナスキル』のカテゴリの【透き通る瞳】が手に入ったが、その他のスキルは違う。
というかチュートリアルをスキップしてしまうとこのゲームではまともにゲームが出来ない…“らしい”
だが周はゲーマー。チュートリアルと【竜母】を秤にかけることはしない。
それにこれらのコモンスキルはチュートリアル以外でも手に入れられないことは無いため迷う意味がなかった。
結論から言って他のユーザーよりも多少難易度が上がったくらいなのだ、わざわざやめることなどしない。
……
たゆん
たゆんたゆん
「っっはぁー!」
「ピゥ?」
「うーん。なんでもないよ」
(う、うぐ……メスガキみたいになりたかったのにまさかお母さん属性を強制的に押し付けられるとは思わなかった。完璧なメスガキ体型も…)
周が下に視線を向けると地面が見えない。
それ即ち巨乳を獲得したということである。
(ロリ巨乳かぁ…メスガキママになれと言うのか…)
「ざ、ざぁこ♡ざぁこ♡いい歳してマザコンとか恥ずかしくないの〜?♡……ちょっと恥ずかしいな…」
メスガキへの道は遠い。
「ピゥ……」
「うん?どうしたの?」
クルルル
周がたずねると、ウロのお腹から可愛らしい音がなった。
お腹がすいたようだ。
「うーん。どうしよう」
もちろん、ウロは赤ちゃんだから欲しているものがなにかは分かっている。周はそこまで馬鹿ではない。
先程膨らんだばかりの胸に目を向ける。
こころなしか張っているような錯覚すら覚える。
唐突だがこのゲームはリアルだ。
体には血が通っているし成長もする。それに服だって自分で脱げる。
震える手で、初期装備のボタンに手をかける。
一つ一つ外していくと、どんどんと心臓が早鐘を打ち吐息が熱を持っていくのがわかる。
「……む、むりぃ…」
ヘタレである。
周は一応全年齢のFinalEdenを買っている。
だが妙にヘタレなため、周はシャツの下半分のボタンを外し先端が自分からは見えないように工夫した。
「さ、さて、意外と余裕あるから…その中にウロを入れて」
「ピゥ!!」
「あっ♡」
◇◇◇エロ小説じゃないしノクターンに投稿する気もあんまりないよ◇◇◇
「感覚遮断!感覚遮断!…なんで設定で快感を切っておかなかったんだ…」
「くぅ…くぅ…」
「呑気に寝てるなぁ……あぁもう!俺は男だ!」
服は既に元通りにし、ウロは腕の中で寝ている。
悶々とした思考を振り払って、上を見上げる。光は届かないが、砂が光り視界は確保出来ている。
「この砂なにかに使えるかな」
砂をひと握りすくえばアイテムとしてアイテムボックスに収まった。
「[星屑]ね…」
黄昏ていると視界の隅にきらりと光るものを見つけた。
「あ!あれは…」
光る砂の海に刺さったショートソードだった。
先程投げてしまった最初から持っていたダガーとは違うなにか不思議な雰囲気をまとった武器がそこにあった。
手に持てば妙に馴染むそれを片手に、穴の岩壁を見回す。
「…意外と脆そう…?」
◇◇2時間後◇◇
「ぶはぁ!!」
穴の縁に小剣を突き刺し、無理やり体を引き上げる。
服の中に入れているウロに気を使いながらのロッククライミングはとてもスタミナを使った。
精神的にはもちろん、身体的にも疲れが凄まじく草原にへたりこんでしまった。
特に辛かったのが途中でウロが起きて盛大に音を立てながら母乳を吸い出した時だ。
快感を遮断したことで形容しがたい感覚が胸の先端を襲い、遮断しているにも関わらず腕の力が抜け落ちそうになったのだ。落ちることは無かったが。
「ウーロ?」
「ピャゥ」
「お腹すいちゃったの?」
「ピゥ!!」
自信満々に「お腹すいたから吸いました!美味しかったです!」と言わんばかりの鳴き声を上げるウロに叱る気は失せその有り余る疲労感にログアウトした。
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