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2.はじめまして

ただいまんもす(激うまギャグ)




「うわああああああ!!!しぬしぬしぬううううう!!!」


 風切り音が鼓膜を震わせる。

 数秒後には穴の天辺は遠くなり光も少なくなってくる。

 体を僅かに押し上げる空気と大きすぎる風切り音は思考を強制的に冷やす。


 周は直ぐに息を整え、体の動かし方を工夫して姿勢制御を試みた。

 下を見れば…


「へぁ?」


 巨大な蜘蛛の巣が待ち受けていた。

 星空が鏤められたかのようにキラキラと光っている蜘蛛の巣だ。

 見たところこの大穴を全てカバーするほど大きい蜘蛛の巣だ。

 

「やめ!こんなところで蜘蛛に食べられてたまるかああああ!!」


 なにか打開策はないかと刹那の猶予に現在身につけている初期装備を手当たり次第にまさぐり、腰の辺りに装備された短剣を手に取った。


「ぜェアッ!!」


 そして振りぬこうとし…


すぽっ…


「あっ…」


 すっぽ抜けた。


(今日はいい天気ですね…)


 全てを諦め仏のような表情を見せる周。

 すっぽ抜けたダガーは遥か彼方。

 打開策は尽きたように見えたが…


バツンッ!!


 そもそもとてつもない速度で落ちていたわけで、それこそ地上の光すら届いていない。

 蜘蛛の巣一枚程度で止められるほど落下速度は遅くない。


 ただ、蜘蛛の巣は一枚だけではない


バツンッ

「ぶへぁっ!」

バツンッ

「ぶふぇあ!」

バツンッ

「ひぇあ!!」

バツンッ

「もう!」

バツンッ

「やめぇ!!」

ドッスンッ

「ぐへぇあっっっ!!」


 数枚の蜘蛛の巣がクッションネットになり、幾ばくか速度を落とした。

 ただそれでも少し足りず、周が底に着いた時には周は既に瀕死状態になってしまっていた。

 ネットとして機能した蜘蛛の巣ですら落下の衝撃を殺しきれずにダメージが入ってしまっていたのだろう。

 真っ赤な視界エフェクトに顔をしかめる。

 事前の情報収集で履修していた思考操作でアイテムボックスを開き、中身を見るが当然のように何も無くそこには虚空が広がっていた。


「くっ…」


 少し身動ぎをすれば、視界の端にバッドステータスのアイコンが表示された。


(これって…出血だったっけ…?)


 上げた頭から液体が滴り落ちる感覚に襲われた。その

あまりにリアルな質感に鳥肌が立つ。

 頭から血を流した経験と言えば、おでこを切った時の事だけしかなく、その時でさえおでこの切り傷の痛みで大したことは覚えていない。

 のだが、これが限りなくリアルな感覚というのは分かるのだ。

 


 そのリアルに対しての鳥肌は次の瞬間、違う意味の鳥肌に塗りつぶされることになる。


 ピチョン…


 頭から滴り落ちた血液が地面に小さな痕跡を作る。


サァッ


 それは砂の滑り落ちる音か、それとも潮水が浜辺に広がる音だったか、定かでは無いが。


 それは光の波だった。


 光が広がっていく。

 血が落ちたところを起点に波紋が爆発したかのように光が広がっていった。

 よく地面を見れば、キラキラとした砂原が広がっている。この砂が血という液体に反応しこのようなあたたかい光を発生させたのだろうか。


 赤い視界が気にならないほどの絶景に呆然としていると、周は視界の端に映る妙な物体を認めた。


 砂原の中央に、宝石を結晶の茨が覆っている、『綺麗だけど不思議なオブジェ』が鎮座していた。

 周はそれを見た時、意味もなく思った。


(誰かが…俺を呼んでいる…?)


 ふらつく足にムチをうって立ち上がる。

 滴る血が目に入らないように右手で傷跡を抑えればぐちゃりとした気色の悪い感触が指先とおでこに生じる。


(骨折のバッドステータスがつかなくてよかった)


「ふ、ふへへ、ざーこざーこくそざこ落下ダメージ…俺はまだ死んでねえぞ…」


 うろ覚えのセリフを血反吐とともに吐き出しつつ、上を見上げる。

 破れた蜘蛛の巣があるよりも上に小さい穴が見えている。

 かなり深いところまで来てしまったらしい。


「どうやって上に戻ればいいんだろ…?」

 

 溜息をつき一瞬だけ思考を止めて目の前の物体に対して考えを向ける。

 注意深くそれを観察した。

 触ってみると水晶の茨は見た目とは裏腹にとても柔らかく、もはや植物のそれだった。

 現実には存在しないおそらくこの世界ですら珍しいそれは周の知的好奇心を大いにかき立てた。


(なんだろうこれ…?名前とかあるのかな)


 イバラの質感、見た目、透き通り具合まで何もかもが未知。なんならこの大穴自体が周にとっての未知だが、初めて認識した未知がそれだったのだ。

 目をキラキラさせながらその植物を片手でいじっていると突然頭に声が響く。


《条件を達成しました。アルカナスキル【透き通る瞳】を取得しました》


 どうやらスキルを入手したようだ。

 周は直ぐに思考操作を駆使して自らが取得したスキルを確認する。


【透き通る瞳Lv1】

その透き通った無垢の瞳は無垢のモノを見通す

Lv.1 最低レベルの知性を持つMOBの情報を開示し取得する。

Lv.2 ???


 どうやら俗に言う鑑定スキルのようだ。

 ただ、周は事前の情報収集で鑑定スキルが存在していることを知っていた。

 その情報では【透き通る瞳】などという鑑定スキルは聞いたことがない。

 

 が、仄かな違和感を意識の外に放り出し、【透き通る瞳】を発動させた。


【星海竜の揺り籠】

 それは子宮であり、檻であり、楔であった。

 種は待つ。その母の再誕を。


 思った以上に要領を得ないその説明文に周は頭を抱えた。

 手を伝う血の感覚に顔をしかめる。

 この大穴に落ち、唯一の武器も行方知れずで八方塞がりもいい所。この目の前のオブジェこそがこの状況を打開出来るかもしれない唯一の可能性だった。


 宝玉を左手で撫でる。



「…お前は…」


 その宝玉の輝きは酷く魅惑的で、周は思わず自らの血で塗れた右手を無意識にその宝玉に置いた。

 その宝玉が血で汚れる。思わず周は冷や汗を流すが、その後の変化が冷や汗を吹き飛ばす。


 宝玉についた手形の血液がまるで吸い込まれるかのように宝玉の内側に消えていく。

 和紙を水に沈めるかのように血は宝玉に沈み、次の瞬間には螺旋を描き完全に消え滲み出すかのように、美しい水色の宝玉が真紅の宝玉へと姿を変えていく。


「こ、これって…」



 やがて、その真紅の宝玉はカタカタと動き出す。

 宝玉の中では、滲んだ周の血液が凝縮するかのように『ナニカ得体の知れない生物』が生成されていっていることを確認した。

 その時はじめて、周は確信する。


(卵だこれ…!!)


 まさか目の前のそれがボス戦前のイベントアイテムだったなんてとか無意味に後悔してみたり

 なんでこんな大穴がダンジョン扱いなんだとか嘆いてみたり

 初デスがこれかぁと勝手に諦めてみたり


 周が百面相しているとついに目の前の宝玉は変化を見せた。

 カタカタ行っていた目の前の宝玉にヒビが入り、そのヒビは全体へと広がっていく。

 その状態が長く続くはずもなく、直ぐに宝玉は砕け散った。

 中に入っていたのは…


「ピゥ」

 

 ……トカゲ?




 

読んで頂きありがとうございます。

評価感想ブクマお待ちしております。


前作と読み比べながら書くと新しい発想が出てきませんね。苦しかったです。

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[一言] おかえりなさい!!!! 更新心待ちにしてました!!!!
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