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1.プロローグ

 ども『だきにてん』です。

 おまたせしました。こちら『Final EDEN 〜メスガキプレイするつもりがドラゴンのお母さんになってしまった俺の話〜』のリメイク作品になっております。

 大きな展開の変更点もございますので楽しんでいただければ幸いです。

 不定期更新です(ここ重要)

 


 開け放たれた窓から、光が漏れる。

 いささか強く感じる光に対して、そういえば今日は満月だったかと一人で納得する。

 その強い月光を光源に読むのは、ゲーム雑誌だ。

 雑誌は最近のものでそこには最新技術を余すことなく注ぎ込んだとされるVRゲームが特集されていた。


 細かい文字でつらつらと書かれてはいるが、詰まるところこのゲームは未知が詰まっているらしいのだ。

 古来から人を惹き付けてきた未だ知らぬナニカ。

 このゲームは開発会社こそ分かっているものの、その会社そのものが未知とかいう未知の宝石箱だ。

 その会社の名前は「グッドパルス」。

 名前は平凡だが、中身はオーバーテクノロジーの宝庫だの、宇宙人が地球を侵略しようとしてるだの、その他数々の陰謀論などなど。

 そんなゲーム遊べるのかと思うかもしれないがその面に関する信用はかなり高い。

 実際のところ、グッドパルスは昔から数々の神ゲーを生み出してるわけで、今回のVRゲームが次元を超えてきたせいで変な輩が出てきただけなのだ。

 まあそれとは別に情報隠蔽技術のせいで怪しまれているわけなのだが…


閑話休題(そんなことより)


 時計を見ると、時刻は深夜零時を過ぎようとしていた。

 机の上に置いてあるノートパソコンのモニターを見ると「complete(コンプリート)」の文字が映されている。


 その文字を一瞥した後、ノートパソコンとコードで繋がっていた白いケースを手に持ちベットに腰かける。

 ケースを開けるとその中にはコンタクトレンズが入っていて、半透明のゲルに包まれていた。

 すぐにそれをまぶたの中に放り込み、急いで準備を終わらせる。


「食事排泄性欲その他もろもろ全てヨシッ!!」


 腰に手を当て、得意げな表情を浮かべる。ゲルがいくらか入った潤んだ瞳で時計を見ればもうちょっとだけ過ぎている。

 滑り込むようにしてベッドに寝そべり


 神母坂(いげさか) (あまね) は小声でこう言った。


linkstart(リンクスタート): Virtualion(ヴァーチャリオン)


 するとタイトルロゴが現れる。


『Final Eden』


 暖色、寒色、極彩色、様々な色が視界をめぐり、最後にはついに意識は暗闇へと落ちていった。




◇◇◇◇



──────星は巡る。



──────トマリギを求めて。



──────星は巡る。



──────母を求めて。



──────星は巡る。






──────死地を求めて。






◇◇◇◇


 数瞬の後、まぶたの向こうから光が滲む。


 目を開け、最初に視界に入ったのは木製の簡素な机。

 執務に使うようなそんな感じのやつ。

 どこか荘厳な雰囲気を持つその机から視線を外し周りを見れば、摩訶不思議な事だが星空が天井はもちろん地面から壁に至るまですべてにひろがっていた。

 深く考えれば正気が失せそうな光景だが、宇宙的な恐怖をテーブルゲームで履修済みなため、すぐに考えるのをやめて目の前に鎮座する椅子に腰をかけて机に視線を固定した。

 だが同時になんの変哲もない物を過剰に調査するのもテーブルトーカーの(さが)だ。

 机の角に目を凝らし、机の下を覗き、机の足を蹴る。

 表面を撫で、舐めるように睨める。

 一通りこなしたらメインディッシュ、机の引き出しだ。


 中には質素な革張りの本があった。

 手に取って椅子に座り観察してみる。

 タイトルの印字はなく、落ち着きのあるベージュの革で革張りの本なんて触ったことの無い周にとっては酷く珍しく映った。


「…よしっ!」


 変な覚悟をしながら本を開く。

 周の予想と裏腹にすんなりと本は開き、本に目を通そうとすると数瞬後にVRウィンドウが立ち上がった。

 洒落た表現に周は口角を上げつつそのウィンドウに目を通した。

 見れば個人情報の入力画面のようだ。プライバシーポリシーや利用規約なんてものもある。全てを確認した証にチェックを入れ、個人情報を入れていく。

 これは事前の情報収集で見た。この入力が今後のFinal Eden人生を大きく左右するとのこと。

 虚偽情報を入力した人間は酷い目にあったらしい。


(酷い目ってなんや)


 パパっと入れると一瞬ウィンドウにノイズが走った。


(?バグか?)


 ノイズが消えると今までになかった項目が現れた。


・あなたの憧れの人を教えてください。


・あなたのこの世界での在り方を教えてください。


・あなたのことを好きな存在を教えてください。


 突然のことに困惑しながらも、事前情報のこともあり慎重に考える。


・あなたの憧れの人を教えてください。

母親


 この質問の場合、普通なら芸能人などの有名人を選ぶ人の方が多いんだろうが周の場合は少し違う。

 周はひ弱な体格に長いぼさぼさの髪、そして事故によって変形してしまった顔、それらの要素のせいで小さい頃からいじめられていた。

 教師は対処してくれていたのだがいじめに暇はなかった。

 そんなとき、周の頼りになっていたのが母親だ。時に慈愛を、時に叱責を。柔軟な愛情を注いでくれた母親は周にとって芸能人なんかよりも身近な憧れの人だったのだ。


 苦い思い出も大事な思い出も、全部しまい込んで次の項目に回答する。


・あなたのこの世界での在り方を教えてください。

メスガキ


 改めて書くには恥ずかしすぎる。周は顔を真っ赤にしながらこの世界での自分を想起した。


 もっと自信を持って世界に在りたい。


 それが周の、第三陣でFinal Edenに参戦する周の心に決めた在り方であった。


 偶然読んだ漫画でメスガキと呼ばれていたキャラクターに惚れ込んだのだ。

 社会的には弱者であるにもかかわらず、自信を胸に周りの社会的強者を敵に回していくその在り方に周は惚れ込んだのだ。

 ちょっとおかしい。


・あなたのことを好きな存在を教えてください。

ドラゴン


 これは相当に悩んだ。

 そもそも周はいじめられている。自分のことを好きな存在など家族以外にありえないし、家族でこの欄を埋めるのは流石に憚られる。

 なので最近やっていた別ゲーのことを回答した。

 パソコンでやるゲームなのだがモンスターのテイムシステムがあり、そこでついにドラゴンをテイムしたのだ。

 ただ何故か知らないが全然好感度が上がらないのでレベル上げが終わらないのである。理不尽。

 何とか好かれないだろうかと半ば願望の回答をした後、完了のボタンを押下した。


・あなたの憧れの人を教えてください。

母親

・あなたのこの世界での在り方を教えてください。

メスガキ

・あなたのことを好きな存在を教えてください。

ドラゴン


 

 押下し、ウィンドウが消える。

 次のアクションをワクワクしながら待つ。

 すると、部屋全体が光り出した。

 見れば周りに広がる星の海が光っている。


(まっ眩しい!星空が、光ってる!)


 あまりの眩しさに目をつぶる。その鮮烈な光は瞼を閉じていても視覚に届く。やがてそれは収まっていった。

 だが、閃光に潰された目の不快な感触はまだ残っており瞼を開くのを躊躇わせる。


「ようこそおいでくださいました」


 そう声が耳に届く。

 半ば戦慄しながら不快な感覚を振り払い瞼を引っ張りあげる。

 するとそこは今までいた星の海に浮かぶ執務室ではなく、宇宙(そら)を収めた図書館が目の前に拡がっていた。


「ここは星海ノ禁書庫(アカシックレコード)。貴方々、異世界の旅人の母体であり只人では立ち入ることの出来ない禁域。私はココの管理人でございます」


 本棚が立ち並ぶ中、その中央に執務机があり、その横に燕尾服を身につけモノクルをかけた顔の印象がハッキリしない男性が立っていた。


「お、おお…お?」


 目の前の執事に対しての困惑もそのままに、声がおかしい。鈴を転がしたかのような可愛らしい声が自らの声帯から出ている。

 喉を触る。慣れ親しんだ感触がない。喉仏が無くなっていた。


「こ、これって…」


「はい。僭越ながら貴方様の理想の姿をお作りしました。ご不満がございましたらお伺いしますが…」


「か、鏡!鏡ください!」


「かしこまりました」


 管理人が指を鳴らす。すると鏡が虚空から浮かび上がってきた。その様子に周はびっくりしたが、そこにさらに驚愕を重ねることになった。

 

 まとめられた銀糸に星々の光が浸透する。その光で滑らかに光るその髪は銀河のようであり、流星群の軌跡のようでもあった。

 その銀髪に負けず、光る黄金色の瞳は瞳孔を縦に裂いておりつり気味なその眼差しも一役買い、獰猛な獅子を思わせた。

 口から覗くギザギザした歯はその内面に秘めた獰猛な本性を表出させたシンボルのようだ。

 手足が短く、下腹部はポテポテしている。

 

 周は、震える短い手足と震える表情筋を制御して、鏡に向かってポーズを決めた。


「かんっぺきなメスガキだぁ!!」


 興奮から幾ばくが紅潮した頬、目の前の光景に金の双眸は輝いていた。


「ククク…」


「あ?」


「いえ、あなたのその理想の姿。アチラとは性別が違いますね?」


「そうだけど、なに?」


「心を分けることが出来るのですか?」


「え?…そんなことできないでしょ」


「では修行でも?」


「なんだよそんな事しねーよ!ただ…自分を信じたいだけだ」


「ほう…その姿を自覚し自我が変容したのは…………ワタクシ、貴方様の道行(みちゆき)に興味がございます」


「勝手に見れば〜?誰に見られてもやること変わんないし」


「よろしいので?」


「問題なし」


「ククク…ありがとうございます」


 管理人は綺麗なお辞儀を見せる。

 そしてポケットから懐中時計を取り出してこう言った。


「時間です。これから貴方様を産み落とす作業に入ります。異世界の方々を産み落とす際の座標は一人一人違いますが構いませんか?」


「問題ない」


「ありがとうございます。始まりの街に近い座標ではありますが目の前に魔物が、というケースも珍しくないので注意してくださいね」


「了解」


「星の位置を算出…まず始まりの街を目指してください」


「…ありがとう」


「簡単にお礼を言っていると不信に繋がる…と言うのは野暮ですね。こちらこそ、珍しいものが見れました」


「珍獣扱いすんな執事め」


「……あなたが星海に至るのを待っていますよ。お嬢様」


 印象に残りづらいその笑顔を頭に焼き付け、目を閉じる。

 『これから』に対する期待に胸をふくらませる。


「貴方様に星の加護があらんことを」


 目の前が暗転し、転移する。

 嗅覚を刺激する草の匂いと土の匂い。

 聴覚を刺激する鳥の鳴き声。


 そして若干の浮遊感。


「ふぇっ?!」


 地面の感覚がない。


「星の息吹が感じられなぁーい!!」


 別に空高くにスポーンした訳では無い。

 穴だ。

 周の足元に大穴が空いている。

 視覚情報を脳が受け取ると、心の奥底から困惑が溢れ出た。

 なぜあの執事はこんな所に転移させた?

 これ死ぬんじゃ?

 始まりの街行くまでもなく死ぬ…?

 そんな困惑を込めて周はこう叫んだ。



「なんでええぇぇえええ?!?!」

読んでいただきありがとうございます。

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