スリッパ
短いお話です。
最近スリッパが臭い。
使い始めて半年ほど経つが、くすんだ色が気になりだした。意を決して嗅いでみると酸っぱいような臭いがした。
文句を言ってやろうと思ったが、普段からおしゃべりな奴ではないので、タイミングを図る必要がある。
今朝、玄関で靴に履き替えたところで、努めて自然に切り出した。
「最近、お前臭くないか?」
「そうですか?」
スリッパは声の調子を変えずにそう言った。
「ずっと気になってたんだ。臭いぞ」
「僕は何も思いません」
スリッパはそこで話を終わらせた様子だ。
それ以上言うことが分からなくなったので仕方なく外へ出た。スリッパは、「お前の足が臭いんだろ」とは言わなかった。
その日の夜もスリッパは出迎えてくれたが、それ以来、顔を合わせるのが気まずくなった。