第5話 ホームシック
前回のあらすじ
年下の魔法使いの女の子に魔法を教えてもらって、レイは初めて魔法が使えるようになった。
その後褒められて、村に着きました。
「さて、まずは依頼人を探しましょう」
村に入ると木造の小さな家が5軒くらいの建っていた。
他にも端の方には大きめの2階建ての建物とその近くに露店みたいな手押し台車などもあった。
奥の方には大きな湖があり、小さめの木の舟がいくつかと釣り竿が置いてある。
漁業で生活をしているのだろうか。
ただ、その割には湖が随分淀んでいる気がする。
「エミリアさん、依頼人さんってどんな人なんですか?」と女神さま
「私も会ったことは無いのですが、姉の知り合いで体格の良い男性のはず」
自分も周囲を見て回ると、一軒の家の近くに体格の大きな壮年の男性が斧で薪を割っていた。
見た感じ40歳程度の男性だと思うが、立派な体格をしており服の上からでも鍛えられた体だというのがよく分かる。自分もあんな風になれたらなぁ…と細い自分の体と比べてしまう。
「エミリア、あの人じゃないかな?」
「お、多分あの人ですね、声を掛けてみましょう」
「すみませーん、アドレーさんで間違いありませんかー?」
エミリアが誰かの名前(多分依頼人の名前だろう)を呼びながら身振りでアピールする。
すると、立派な体格の人が反応した。
「お?俺の名前を呼ぶ奴は……おお、懐かしい奴に似てる嬢ちゃんだな」
◆
その後、立派な体格の人(アドレーという名前らしい)の家に招待された。
「すると、お嬢ちゃんはセレナの妹という事か、なるほどなぁちょっと似てるわけだ」
「はい、姉がお世話になったと聞いて」
セレナというのはエミリアの姉らしい。アドレーさんとセレナさんはお互い冒険者家業をしていたようで、同じパーティで戦ったり依頼を受けては何でも屋のような仕事を引き受けていたらしいのだが…。
話を聞いてると、冒険者ってのは魔物討伐や未開拓地や建物の調査を仕事とする職業らしい。
「それでですね、私がここに来たのはギルドの依頼です」
「おう、依頼主は俺で間違いない」
エミリアは折りたたまれた紙を広げてアドレーさんに見せる。
そこには依頼の詳細と『ゼロタウン』と書かれたハンコが押されていた。
依頼者の欄にアドレーさんの名前が書かれている。
「しかし派遣されたのは嬢ちゃんと、
……そこのヒョロい坊主と綺麗な姉ちゃんか……ちょっと心配だな」
合ってるけど、ヒョロいって。
「部外者のレイです」
「部外者の姉のフラウです、うふふ」
偽姉だけどね。
「部外者なのか……?何故ここに…」
「私は魔法の訓練を受けてギルドに正式加入した冒険者です。
そこの二人は旅先の同行者ですが、良ければ手伝ってもらえますか?レイとフラウさん」
何もせずエミリアの仕事を待っているのも悪いし、構わないかな。
女神さまにもアイコンタクトを取って、エミリアに頷くが…今はあまり調子は良くなさそうだ。
「という事です、勿論私が主導ですがこの二人にも手伝ってもらいます」
「まぁ、それは構わんがな」
ちょっと話が長引きそうだ、少し僕から言った方が良いかもしれない。
「――すみません、少し僕達、長旅で疲れていて…」
そこまで言ってエミリアも気付いたようだ。姉さんの気分が悪そうなことに。
「そうでした、ごめんなさい。
アドレーさん、私からもお願いしていいですか?」
「んん?よく見たらそこの人の顔色が悪そうだな。
分かった。依頼は明日でいいから今日は宿舎で休んでくれ」
僕たち3人は奥にある宿舎に案内してもらった。
宿舎は二階建てで一階は台所と食堂の部屋に分かれており、真ん中に入り口とロビーがある。
階段はロビーの左側、僕たちは二階に上がってそれぞれ個室に宛がわれた。
僕も疲れていたからアドレーさんの配慮に感謝しながら休んだ。
食事も出してもらえたのだが、僕は部屋のベッドで横になりそのまま深く眠ってしまった。
◆
そして次の朝―――
「ここは……」
いつもと違う、質素で物が殆ど置いていない部屋だった。
「……夢じゃなかったんだなぁ」
僕は交通事故で亡くなって、女神さまと会って、異世界に来たんだった。
その事に気付いてさっきまで見ていた夢を回想する。
学校で虐められて学校に行かなくなって、
僕はずっと引きこもっていた。それでもお父さんもお母さんも優しかった。
――お前は悪くない、俺たちが守ってやるって言ってくれたお父さん
――寂しくなったら、一緒に居てあげるから、いつでもお母さんは傍に居るからね…
「はぁ…」と僕はため息を付く。
考えないようにしてたけど、やっぱり――
「…………やっぱり、寂しいよ」
「おはよう、レイくん」
「女神さま…じゃない、フラウ姉さんおはよう」
心の内に気付かれないように振る舞う。
「おはようございます、二人ともご飯も食べに来なかったですね」
「エミリア、おはよう。姉さんも食べなかったんだ?」
「うん、私も昨日は体調が悪かったから…」
姉さんはいつもと違う服を着ている。
部屋に置いてあった女性もののパジャマだろうか。
「昨日の服はどうしたの?」
「えっと……そうね、着替えてくるね」
姉さんはちょっと痛いところを突かれたような顔をして部屋に戻った。
「フラウさん、寝ぼけてパジャマで出てきたんですかね…?」
「そうなのかな」
さっきの反応だと、忘れたって感じには見えなかった。
◆
昨日と同様、僕たちはアドレーさんの家に集まっている。
「改めて説明させてもらおうか。
この湖に悪影響を及ぼす原因を調査して解決してもらいたい」
そこまでは依頼書に書かれているみたいだ。
僕にもちゃんとこの世界の文字も読めるのが分かって安堵した。
「一言で言えば、この湖は汚染されている」
「汚染というのは具体的に、どういったものでしょう?」
「湖魚が浮かんで死んでいたり、
変異してしまってとても食べられたものじゃない魚になっている。
このままだと生活が成り立たない」
魚が汚染された原因を探りたいということか。
仕事でそういうのあったよね。
「調査の仕事とは聞いていましたけど、戦闘はあまりなさそうですね」
エミリアは戦闘系の魔法使いなんだろうか。
「レイやフラウさんも少し協力してもらえますか?」
元々手伝うつもりでいたから僕は頷いて言った。
「うん、なんでも言って」
「ここの湖の水がどうなってるか知りたいので、
湖からなるべく大量の水を汲んできて貰えますか?」
「それは構わないけど、直接湖を調べた方が良くない?」
エミリアは僕の質問に首を横に振って言った。
「今から使う魔法は広範囲に使用できないんです。
申し訳ないんですが、さっき言ったやり方でお願いできますか?」
まぁ無理な仕事じゃないし、僕は言われた通り手伝う。
◆
言われた通り湖から水を運んでくる。
エミリアが家の庭から離れてくれないからこ運んできたけど結構な肉体労働だ。
「結構しんどい…」
どれくらい運べばいいか分からないけど、多い方が判別しやすいらしい。
「レイくん、私も手伝いますよー……ってあれ?全然上がらない!」
女神さまはびっくりするほど力が無かった。
「うぅ……転生の間の面接以外だと、いつもデスクワークばかりでしたから…」
あれって面接だったの?
計10㍑ほどの湖の水を汲んできた。
エミリアは足元に円陣と模様を書き込んでいた、何をやってたんだろう。
「さっき言った補助結界ですよ、魔法陣が必要になるので描いてました」
強力な魔法を使う時に使うって言ってた結界魔法か。
それを描くためにエミリアはここから離れなかったってことかな。
「では行きますよ……魔力強化<鑑定Lv3>」
魔法だが水面に少しステッキを付けている。
補助結界で効果をブーストしてるから魔力強化なのかな、分かりやすい。
「これは結構不味いですね」
エミリアが引いたような顔をしながら呟く。ステッキを水面から引いてハンカチで拭いていた。
「何か分かったの?」と僕は訊いてみた。
「湖の水の中に強酸と毒素などが混入しています。
妙に粘々してますからスライムが紛れ込んでいますね。
早く除去しないと湖の中からそのうちスライムが這い出してきますよ」
あのスライムが?
それはちょっと怖い話だ。
「そんな奴が何故?」とアドレーさんの言葉。
「スライムは汚れた水に核となる寄生体が取り付くと生まれます。
この湖に通じている場所とかがあって湖に流れ込んだ可能性がありますね」
あのモンスターってそんな風に生まれてたんだ…。
「アドレーさん、そういう場所に心当たりは?」
「地下か…放置された廃鉱山だろうか?
地震か何かで内部が崩れてそこから偶然繋がったとも考えられるが…」
どうもアドレーさんは原因の場所だが大体掴めてるっぽい。
「そこがモンスターの巣窟になっていたら可能性はあるかもですね。
地中を掘り進むモグラみたいな魔獣が居たような気がします」
魔獣って何だろう?
「エミリア、魔獣って?」
「魔物の一種です。魔物化した動物と考えてくださいな」
「へぇ、そんな動物が…」
アドレーさんは少し考えながら言った。
「あり得ない話では無いか。
ただなぁ、廃鉱山は今の管理者が居るはずだが、それらしい連絡は受けてないな」
「質問ですが、そこってもしかして岩山の近くに一つ家がある場所ですか?」
ここに来る途中でエミリアは近くを通りかかったそうだ。
一軒家の岩山?もしかしたら地図に載っていたかもしれない。
「多分そこで間違いないぞ」
「なるほど」
「早いうちに湖からスライムを取り除きたいんだが、出来るか?」
「そうしたいのは山々なんですが…
私だと薬を調合して、それから湖に入れて浄化しようと思うと一週間掛かりますね」
薬ってそんなのもあるんだ。
「レイくん、レイくん」と女神さまが僕の肩を叩く。
「えっと、何かな、めが……フラウ姉さん?」
何か言いたいことがあるんだろうと思って聞いてみるのだが…
「むうう…!」と口を膨らませている。
「……お姉ちゃん、どうしたの?」と言い直すと、女神さまは頬を緩めて続きを話す。
……ちょっと、面倒くさいな女神さま。
「あのね、私多分ここの湖を浄化出来ますよぉ?ウフフ」
それを聞いたエミリアとアドレーさんが驚き、
口を揃えて「本当ですか!?」「本当か!?」と言って立ち上がる。
え、何?そんな驚く話だったの?
今一つ分かってない僕にエミリアが説明してくれる。
「浄化はかなり珍しい魔法でして、
使えるのは神に近い能力を持つ巫女や聖女とかしか出来ないんです」
へー、なるほど……まぁベルフラウ様って女神だからね、神に近いっていうか神だし。
「というか、フラウさんは魔法覚えてるじゃないですか。
何でさっき知らなそうにしてたんです?」
不味い、速攻で嘘がバレてしまいそうだ…。
「えっ!? ええと、これが魔法だと思ってなかったから…」
「そ、そうですか……知らないなんてことあるのかな?」
かなり無理のある言い訳だと思うけど、どうやら本当っぽい。
エミリアを納得は一応納得したようだ。
「さっきは綺麗な姉ちゃんとかぞんざいな言い方して悪かった
すまねぇが、村の為に湖の浄化をお願いしてもいいか? 坊主からも姉ちゃんに頼んでくれ」
綺麗な姉ちゃんって言われて喜んでたし良いんじゃないかな。
「お姉ちゃん、村の為にも浄化してくれないかな?」
「んーー、良いですよ~」
ちょろいぞ、この女神さま。逆に心配なんだけど。
「じゃあ今からやって貰えるかい?」
「はい、任せてください!レイくんも見ててねー」
「あ、うん」
浄化ってのがよく分からないけど、僕は二人についていくことにした。
レイくん、頑張れ。