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【完結】女神様といっしょ!【1000話達成】  作者: ノノノ
第三章 ダンジョン攻略編(前編)
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第48話 レイくん考える

「えっと…カシムさん?」

 村をブラブラしていたらレベッカと、以前に縁のあった冒険者のカシムさんが居た。


「やぁレイくん、久しぶりじゃないか!」

「お久しぶりです、カシムさん。もしかして貴方もダンジョンですか?」

 カシムさんは以前ゴブリン召喚士が現れた時に話を聞いた人だ。あの時はカシムさんのパーティがボロボロになってて一人は命の危険があったから姉さんを呼んで回復してもらった。 

「うん、その通りだ。という事は君たちもだな」

 相変わらずイケメンの人だ。二十歳くらいだろうか、体格も自分とは違ってしっかりしている。

 以前の鎧から新調したのか真っ白い鎧になっていて、騎士のような清廉な鎧だ。

「ところで、何故レベッカと一緒に?」

「ええと、それには深い理由があってね……」

 カシムさんは苦笑しながら事の顛末を話す。


 あの後カシムさんのパーティはすっかり元気を取り戻し、今はゼロタウンでも討伐数の多い期待の冒険者として活躍していたようだ。その後、メンバーを一人加えて依頼をいくつもクリアしていき、今回はここのダンジョンに力試しに挑戦することになったという話だ。

 そこまでは問題なかった。ただ、その加えたメンバーが女性だったのが不味かった。


「言い難い話なんだが俺のパーティの一人とその新入りの女の子が、

 いつの間にか付き合い始めていてね。その二人の情事を別のメンバー目撃がしてしまって………」


「――じょうじ、とは?」

 とレベッカが頭を傾げる。

 知らなくていいんだよ、よしよし。

「はぅ……」と僕になでなでされてレベッカは大人しくなった。


「目撃した奴も女の子に惚れていたみたいで、

 嫉妬で大喧嘩してしまい、その後にパーティが解散してしまって…」

 カシムさんはその事を知り、必死に説得したのだがもうどうしようもなかったみたいだ。

「カップルは二人で駆け落ち、嫉妬した奴は冒険者家業を引退したらしい。

 他の無関係なメンバーは呆れて他のパーティに移った。止めたのだがもう遅かったよ」


「それは…………災難でしたね」

 僕はそうとしか言えなかった。それに対し、「全くだ」とカシムさんは答えた。


「恋愛が絡むと友情とか全部吹き飛ぶようだ。キミも気を付けた方がいい」

 その言葉を聞いて心臓にグサッと来た。


「レイさま?どうかされたのですか?顔が青くなってますよ?」

「い、いや……なんでもない、よ?」

 事情は全然違うけど、今の自分に微妙に刺さることを言われた気がした。


「話は戻るのだが。聞いての通り今俺はフリーでね。

 何処かのメンバーに入れてもらえないか色々なパーティに当たっていたんだ」

 ああ、なるほど、それで知り合いのレベッカに声を掛けたのか。


「カシムさまは実際に加入するかは別として、

 色々なパーティと一度実戦を通して連携出来ないか試しているそうです」

「なるほど……」

「入ってみても動きが噛み合わないと長続きしないからね。

 是非君たちメンバーにもお願いしたいんだが――――どうかな?」

 特に断る理由もないし、僕は承諾した。


「ありがとう!」

 カシムさんはとても良い笑顔で笑った。

「しかし、レイさま、今はエミリアさまは魔力不足で戦えませんが」

「あ、確かに…」

 もっと言えば今僕は姉さんと色々あって顔を合わせづらい、どうしようか…。

 ちょっと悩んだ挙句、今居る三人だけで一度やってみようという流れになった。


 実戦する前、酒場でカシムさんと連携の確認中の時の話だ。


 その時にレベッカにこう言われた。

「レイさま、もしかしてお体の方を痛められているのですか?」

 特に何も言わなかったし、痛がったわけでもないのにレベッカには気付かれたみたいだ。

「あ、うん、朝から筋肉痛で…よく分かったね」

「動きがいつもと違って違和感があったので、少しお待ちくださいね」

 そう言ってレベッカは座ってた僕の傍にしゃがんで足を揉み解してくれた。


「やはり……足から太ももに掛けて大分痛んでおられますね」


 レベッカは見た目の割に姉さんやエミリアと比べてもかなり力がある。

 姉さんの時はくすぐったいだけだったのに、レベッカに揉まれるとかなり効いた。

 普段から槍や弓を使ってるだけのことはある。


「いやぁ、キミたち仲良いね。もしかして兄妹だったりするのかい?」

「いえ、よく間違えられますが、兄妹でっ――わっ!」

 兄妹では無いって言おうとしたらレベッカに凄い力で太ももを握られた気がする。


「…………ぷくー」

 下を見るとレベッカが顔を膨らませてちょっと怒っていた。

「ど、どうかしたのかい…?」「い、いえ…何でもないですよ、あはは」

 二人の時は完全に兄妹として接してたからなぁ……。


 ◆


 レベッカのマッサージで良くなったため実戦となった。


「レイくん、どこで練習するんだい?」

「以前に姉さんと採取した時に、森の奥にある湖の畔でモンスターが出まして」

 以前に倒したキメラというモンスターだ。

 結構な強敵ではあったけど、多分三人でもどうにかなる相手だと思う。

「ああ、その話はベルフラウさまに聞いております。

 ジャックさまと一緒に退治されたとか、まだ魔物は他にも居るのでしょうか?」

 あの人の話だと既に何匹も退治されてるのに出てくるらしい。


 僕たちは以前に来た湖の畔まで来た。

「ここです」

「こんなところにモンスターが…」

 そうして僕たちは近くの薬草を採取しながら探索してると気配に気付いた。


「「!!」」

 僕とレベッカは自身が持つ技能により気配を感じ取りやすい。

 そのためカシムより先に敵の存在を感知した。


「どうしたんだい、二人とも?」

「多分、探してた魔物が近くに居ます」「レイさま、あちらです!」


 レベッカが指を差した方向を見ると以前見た魔物がこちらを見て威嚇していた。

「な、なんだ、あれは…!」

合成魔獣(キメラ)です!火を吐く魔物なので注意してください!」

「話で聞いていた通り、禍々しい姿の獣ですね…!」


『グルアアアアアアアアアアァァァァア!!』

 キメラが唸り声を上げながらこちらに飛びかからんと威嚇してくる。


<筋力強化Lv8>(力を与えよ)

<速度強化Lv8>(韋駄天の力を)

<感覚強化Lv8>(呼び覚ませ)


 レベッカの強化魔法が僕とカシムさんに次々と付与されていく。

 以前よりも更に詠唱も早く、手際も良くなっている。レベッカは本当に頼もしい。


「では行きましょう!」「ああ!」

 僕たちは既に互いの情報を共有している。ある程度即席の連携は取れる。


「では行くぞ!魔物!」

 まずはカシムさんが最初の一手で敵に接近する。


<初速>という技能がある。

 最初の一歩を予備動作ほぼ無しで動き、僅かな時間で最高速度に到達する能力だ。

 これにより、敵からすれば一瞬消えたかのような速度で詰め寄ることが出来る。

 カシムさんは初手でこれを使い、一気に敵に詰め寄る。


「それじゃあ僕も……」

 僕も続いて魔法の詠唱を開始する。

 この魔法を実戦で使うのは初めてだけどエミリアが言うには最も簡単だろうとおススメされた。

 ゴーレム退治の時には使いどころは無かったけど、今なら…!



「食らえ!」

 カシムさんの剣とキメラの爪がぶつかり合い、競り合いとなる。

 今のカシムさんはレベッカの強化魔法で筋力が大幅に強化されている。

 そのため、本来力負けするはずのキメラ相手でも拮抗できる。

「ぐぐぐ………!!」

 この時、カシムさんは目の前の敵と競り合うことに集中することになるが、

 キメラをこの程度で止めることは出来ない。奴は口から強力な炎を吐くことが出来る。


 眼前の騎士を焼き払うべくキメラは大きな口を広げ―――


<氷の槍>(アイスランス)


 ―――――その口の中に氷の柱が突き刺さった。


 基本骨子となる<魔法の矢>を生成しそれを自分の周囲に浮かせて待機。

 その後に<魔法の矢>に<初級氷魔法>を付与し、その後に矢のように敵へ飛ばす。


 元々敵が使ったことのある魔法で、

 エミリアに見本を見せてもらったから出来たけどこんなの発想が無いと思い付かない。

 そもそも一度発動した魔法に魔法を付与なんて誰が思いつくのか。


 この魔法で炎を吐けなくなりダメージを受けたキメラは、

 状況が悪くなったと判断したのか、後ろに後ずさりし始めたのだが…。


 その体の複数個所にレベッカの銀の矢が突き刺さる。

『グゥウゥゥゥゥゥ………!!』

 魔物に刺さった銀の矢は魔物に対して特効の効果を持つ。

 特に自然で生まれたモンスターではない異形の合成魔獣(キメラ)に対しての効果は絶大だ。

 相当なダメージを受けたキメラだが、立ち上がって逃げるだけの力は残っている。


 しかし目の前に対峙するカシムがそれを許さない。

 逃げようとすれば速度強化を受けたカシムの『初速』で敵に正面を取って張り付く。

 常に敵に立ち塞がり圧力を与え続けて攻めるのがカシムの戦い方なのだ。


 僕は『魔力喰いの剣』を抜き、魔力を込めながらキメラに駆け寄る。


 そして――

「逃がしません<重 圧>(グラビティ)

 レベッカの重圧の魔法を受けてしまえば敵は動くことは敵わない。

 例え倒せなくてもこの魔法を正面受けてしまえば、後の連携に繋ぐことが出来る。


「レイさま!今です!」


<剣技・雷魔法>(ソードライトニング)!!!」

 振りかぶった僕の魔法剣はキメラの頭に直撃し、そのまま真っ二つに両断した。


 ―――その後


「いやぁ、すごい経験だったよ!」

 上手く連携出来た僕たちは互いの戦いぶりを褒め合っていた。


「いえ、カシムさんの戦いも凄かったです。敵に一切逃げる隙を与えませんでした」

「あれほどの魔物相手に一歩も引かないとは、カシムさまは勇敢です」

 実際、僕ではあんな戦い方は出来ない。

 力がないから正面から受けるよりは躱すし、距離が離れたら仲間に任せようとする。


「……いや、凄いのは君たちの方さ。

 俺にはあれほどの魔物と戦える力なんて無かったんだから」

 大幅な強化のお陰で敵と力比べが出来て何とか敵の速度に追いつくことが出来たと。

 それでも自分ではあの魔物を倒す術は無かったと、そう言った。


「そんなことは…」

「レベッカ君は、補助、射撃、魔法のどれも隙が無い。素晴らしい強さだ」

「そ、そんな…レベッカはそんなに強くはありません…」

 僕から見てもレベッカの強さはかなりのものだ。今までどれほど助けられたか。


「そしてレイくん、キミだ」「僕ですか?」


「君は仲間を信じることに長けている。

 俺が必ず敵の進行を食い止めると信じてチャンスを待ち、

 レベッカ君が必ず布石を作ると信じて、その力を最大まで高めていた」


「………」

「俺はそれが出来なかった。だからこそパーティは解散してしまった」

「いえ、カシムさんは…」


「良いんだ、レイくん。

 ……そもそも僕が仲間をしっかり見ていなかったのが、事を悪化させた理由だよ。

 今の俺は強さを磨くよりももっとやることがあるかもしれないな…」


 そう言って、カシムさんは僕らの前から去っていった。

 しばらくは心身を鍛えるために旅に出ると言った。


『僕に必要なのは信じられる仲間じゃない。仲間を信じる心が足りなかった』


 カシムさんが最後に言ったことだ。



 ―――その夜の事

 僕は宿の姉さんの部屋へ向かった。


「あ、れ、レイくん……その……」

「姉さん!ごめんなさい」

「……え?」


 僕はまず今日のことについて姉さんにしっかり謝った。

 そして自分がどこか皆に甘えていたことや曖昧にしていたことも。

 そして、姉さんに抱いていた感情も…。


 本当の気持ちを隠していて、『信じている』なんて言えるんだろうか――


「……もう、そこまで言わなくていいのに」「……うん」


 静かに話を聞いていた姉さんは顔を赤らめながら言った。


「レイくんの気持ちには私も気付いてたよ。

 でも、レイくんはエミリアちゃんやレベッカちゃん、みんな好きなんでしょ?」


「………うん」

「素直なんだから、そこは隠しててもいいの」

 隠してても良いのだろうか……。


「今はまだ良いの。貴方はまだまだ経験を積んで時間を掛けて、

 そうして大人になって、貴方が本当に好きになった人に気持ちをぶつけてあげてね」



「その時―――もし、私を想ってくれたなら―――――」

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