第44話 魔法のお勉強会
地下三階の激戦を終えた僕たちは何とか村へ戻りその日は解散となった。
次の日、まだ消耗が回復しきれてない僕は、まだあまり動けないエミリアの見舞いへ行った。
部屋でノックをしてからエミリアの返事を待って部屋に入る。
「入るよ、エミリア」
扉を開けて入るとエミリアはベッドに入ったままだった。
普段の服装とは違って薄着のパジャマを着ている。
部屋は散らかっており、調合素材や魔導書などがまだ片付けられてない様子だった。
「ご、ごめんなさいです、レイ…色々と」
調子が悪いのかエミリアは少し表情を赤らめてる。
あるいは恥ずかしがってるのかもしれない。珍しく少し弱気だし可愛い。
「ううん、大丈夫。これ頼まれてた本だよ」
「ありがとうございます。動けなくても勉強だけはしておきたくて」
今回エミリアに頼まれてたのは地下三階で入手した二冊の魔導書だ。
名前は『自然干渉魔法理論 応用編 -上巻-』と『下巻』だ。
上巻は魔法理論の組み立てと応用の式と下巻はそれを実践するための内容に分かれている。
僕にはさっぱり分からなくて姉さん聞いても、
「書いてあることは分かるけど何言ってるのか全然分からない」と言っていた。
「姉さんに聞いたら全然分からないって言ってたけど、エミリアは読めるの?」
僕はエミリアに聞いてみた。
エミリアはこの世界の住人で魔法にも明るいから読めるのかもしれない。
「いえ、私も式とか見たとしてもあまり理解できてません。
ある程度の魔法ならセンスと感覚で何とかできますからね、レイだってそうでしょ?」
最初はエミリアに<魔法の矢>を教わって攻撃魔法を教わって特に勉強したわけではない。
「言われてみれば……」
「だから私が知りたいのはどういう風に魔法を組み立ててるのかとそれの実践部分ですね」
具体的にはどういう感じでやるんだろう。
「私もまだよく分かりませんしちょっと見てみましょう」
ということで僕は少しエミリアと魔法の勉強をすることになった。
といってもエミリアが本を流し見して、僕はそれを眺めているくらいのものだ。
「なるほど…」
「何か分かったの?」
「昨日戦ったあの魔物がいくつか知らない魔法を使ってたのはこれみたいです」
昨日の魔物…あの白い狼か。
「確か、アイスランスとかファイアボールとか‥」
「それです。私たちが使ってる攻撃魔法を少し応用した感じみたいですね」
応用とな?
「例えばファイアボールは炎魔法と風魔法を組み合わせたり、
アイスランスは氷魔法の他に魔法の矢を同時に使用していたり、まぁ簡単に言えば二つ以上の魔法を同時に使って違う魔法を作ってるって感じですねえ」
「なるほど……?それって結構難しそうだけど…」
二つの魔法を同時に使用ってだけでも相当難易度が高いと思う。
「実際は魔法構成段階で複数の理論を組み立てる。
ってだけで同時使用とはまた違うっぽいですが、強力なのは間違いないですよ」
そこまで言ってエミリアは本を閉じる。
「ここまで判れば後は発想の問題ですね」
「えぇ……?」
今聞いただけでは僕にはさっぱりだ。
「あはは、レイは魔法は習いたてですから……今日はこの辺りにしときましょ」
そこまで言ってエミリアは僕に向き直ってジッと僕を見つめる。
「……どうしたの?」
「いえ、レイは不思議な人だな…と思いまして」
「不思議?」
「レイ達はどこから来たのか…とか、ちゃんと聞いたことなかったので」
「……」
異世界から来たと言っても信じてもらえないだろうな…。
「言い難いことなんだろうなってのはなんとなく分かります」
「……気にはならないの?」
「私もレイにまだ教えてないこと沢山あります。
気にはなりますけど、お互いさまじゃないでしょうか?」
「そういうものなのかな…」
「はい、ですから――」
エミリアは少し深く息を吸って、言った。
「―――今より仲良くなればそういうのも軽く話せるようになりますよ。
だからもっともっと、付き合いを長くして今よりも仲良くなりましょうね」
その時に見たエミリアは笑顔だったけど、少し寂しそうな表情をしていた。
それでは、と僕たちの話は終わった。
エミリアはまだ本調子ではないし、色々話すにも元気になってからでいい。
僕は部屋を出て、村の中を歩きながらエミリアとの会話を思い出す。
「今よりもっと…仲良くなりましょうね……か」
そうだよね、まだエミリアと出会って半年も経ってないんだよね。
(……隠したつもりは無かったんだけど、エミリアはやっぱり答えて欲しかったのかな)
「(うん、もっともっと仲良くなってエミリアと色々話そう)」
そうすれば異世界から転生したなんて話も笑って言えるようになる。
その後色々考えながら村を歩く。
「昨日の戦いで色々消耗品使っちゃったし、アイテムも買っておかないとなぁ…」
体力の回復薬や魔法の霊薬、携帯食料の調達、
調合に使う素材に武具の修理も出さないといけない。今やれることをやっておかないと。
そんなことを考えていると、
「おや、お兄様?買い出しでございますか?」
同じく買い物に来ていたレベッカに声を掛けられた。
「レベッカも?」
「はい、わたくしもいくつか矢を消耗してしまいまして…」
折角なので二人で買い物をすることになった。
その後、休憩ついでに村の酒場で食事を取ることになったのだが…。
「おう、レイじゃねえか!攻略は順調か?」
「あ、ジャックさん、どうも」
以前に話をした筋肉おじさんことジャックさんと出会った。
「レイさま、この方が以前言っていた…?」
「うん、キメラと戦った時に共闘してくれたのと、それと―――」
ここでは大きな声では言えないが、情報をくれた人でもある。
「ジャックさんは地下四階を攻略してるんですよね?」
「おう、って言っても中々手ごわくてな…情報は言えねえが覚悟した方が良いぜ」
見た目だとカマせっぽい人だがこの人もあの白い狼の魔物を倒したパーティの一人なのだ。
大苦戦した僕たちよりもきっと強い人達なのだろう。
「おめぇらは地下三階は攻略したのか?」
「はい、と言っても最後に戦った敵がかなり強くてギリギリでした…」
あの戦いに勝てたのは運が良かったのだと思う。
実力差もあったし敵も明らかに遊んでいた。もし全力だったら勝てなかっただろう。
「そうなのか?レイの実力なら問題なく攻略出来ると思ったんだがな…」
「いや全然そんなことは…」
キメラ戦の<魔力食いの剣>のせいでどうも過大評価されてるみたいだ。
「ですが、あの白い獣は恐ろしいほどの強さでした」
レベッカの言う通りだ。ここまで強いと地下四階以降の敵の強さが予想できない。
しかしジャックさんはおかしな反応をした。
「ん?白い獣って…何だ?」
「地下三階のボスの話ですが……」
ジャックさんは地下四階まで行っている。知らないはずはないのだが…。
「いや、そんな魔物は知らねぇが、というかその白い獣って確か地下五階に居たって話じゃ…」
「「え?」」「……ん?」
………どういうことだ?
―――次の日
まだ万全では無かったので攻略は更に次の日に回すことになった。
代わりに戦利品の割り振りや、昨日ジャックさんから聞いた話などを四人で相談することにした。
「―――ということを、ジャックさんから聞いたんだ」
「本来の地下三階に現れる敵とは違う相手だったってことですか?」
「うん、ジャックさん自身はまだ出会ったことは無いらしいけど、それは地下五階に現れるボスじゃないかって話だったよ」
実際に地下五階を完全攻略した人は未だに居ないようだが、
五階まで行った人の情報ではそれらしい姿が確認されたらしい、あくまで噂の範囲の話だが。
「ダンジョンの話は他の冒険者に漏らさないってルールって聞いてたんだけど…」
「筋肉おじさまを含め、意外と口の軽い方が多いのでしょうね」
筋肉おじさまって……。
この世界に来て数ヶ月冒険者やって分かったことだが、
多くの冒険者は自慢が多かったり喧嘩したり酒に酔ったりすると、
ポロっと大事な情報を言ったりする。おそらくそんな流れで話が漏れたんだろう。
「単に情報が交錯したり、誰かが嘘を言って誤情報を拡散させてる可能性もありますが…」
確かに、その可能性も考えられるが……。
「ジャックさんが嘘を言うとも思えないな…」
あの人は最初の印象こそ少し悪かったが、決して悪い人じゃない。
少なくとも人を間違った情報で陥れようなんて考えをする人ではないと思う。
「わたくしも、レイさまに同意します」
「レイとレベッカさんが言うなら、きっとその人は嘘を言ってないんでしょうが…」
「まぁまぁ、明日またダンジョンに行くんだし、私たちもそこに行けば分かるんじゃないかしら」
「……確かに」
姉さんの言う通り、実際に行けば分かる話なのは間違いない。
その後、戦利品の分配を終えて各自軽い実戦トレーニングを行なった。
前回の<魔力食いの剣>のような例もあるため、装備の性能を把握しておく必要がある。
―――そして次の日
「お待たせしました」
ようやく回復し終えた僕たちはようやく地下四階を目指す。




