第457話 外出届
次の日、僕はエミリアと一緒に王宮の陛下の元へ向かう。
「ふむ、レイ君ではないか。
君から私の元に訪れてくれるのは珍しい……何か用かな?」
陛下は、いつも通りフランクに僕に接してくれた。
僕と一緒に訪れたエミリアは、一礼をして僕と一緒に前に出る。
「陛下、申し訳ありませんがレイを一時借りても良いでしょうか?
カレン……じゃなかった、自由騎士副団長のカレン殿を癒すために、彼の力を借りたくて……」
「……何だ、そんな事か。
彼は君の仲間だろう、わざわざ私の許可を取らなくても構わないぞ」
「え、良いのですか?」
「ああ、それにカレン君の事は私も心配している。
彼女の為に出来ることがあるならば、協力は惜しまないつもりだよ。
ずっと王都から離れるなら許可は出来んが……」
「長引いても1~2日で済むと思いますが」
「なら構わんよ」
「ありがとうございます、陛下」
僕とエミリアが恭しい態度で答えると陛下はため息を吐いた。
「……陛下?」
「……いや、立場というのは中々面倒なものだ。
私としてはタメ口でも構わんのだが周囲がそうさせてくれん。
……今も、私の口調を諫めようとする騎士が横で見張ってるしな……」
陛下はじろりと玉座の右側で立っている騎士の男性を見やる。
その男性は、「はっ!」と短く返事をした。
「まぁ、私の事は気にするな。
今は彼を含め、王宮騎士団が王都を守護している。
守りは万全だ。気にせず行ってくると良い」
「はい……あ、サクラちゃん……じゃない、サクラさんの力も借りたいのですが構いませんか?」
「ふむ……まぁ、良いだろう。彼女は今日は詰所にいるはずだ、許可する」
「ありがとうございます!!」
「では、失礼致しました」
◆
僕達が退室した後、
背後から「よろしかったのですか?」と騎士の声が陛下に静かに問いかけられる。
「……何がかね?」
「あの少年の事です。あの若さで、既に王宮内でもアルフォンス団長に並び立つほどと噂されております。それほどの武力を有する彼をあのように奔放に扱うのは……」
「……籠の中に閉じ込めておけ、とでも言いたいのか?」
「……」
「誰がそんなことを言った? 君の考えではあるまい?」
「……いえ、その、団長が……」
「……ダガール団長か……困ったものだ……」
陛下は頭を抱えながら呟いた。
◆
僕達は王都の騎士団の詰め所に向かい、サクラちゃんを誘いに行く。
その道中で姉さん達が待機している宿に向かい、姉さん達とも合流した。
そして、詰所の机でボンヤリしていたサクラちゃんに声を掛ける。
「いた、サクラちゃん! えっとね……カレンさんの薬の材料を―――」
と、僕が言い掛けると、サクラちゃんが超速で反応し、
「えっ!? 先輩の薬の材料を探しに!? 行きます!!」
「あ、うん、よろしくね」
「物凄い勢いで食いつきましたね……」
エミリアが少し引き気味でサクラちゃんを眺めている。
「あ、でも許可を貰わないと」
「大丈夫、陛下に頼んできたから」
「本当ですか!! じゃあわたし、準備してきますね!!!」
そう言って彼女は一目散に詰所から出ていった。
「勢い重視の子ですね……話が早くて済みますけど……」
「カレンさん絡みだから気合い入ってるんだよ」
「……サクラ様の逸る気持ちも理解できます」
「そうね……」
そこまで付き合いが長いわけじゃない僕達でも、
カレンさんが居なくなってから言い様の無い寂しさと不安を覚える。
幼少の頃から仲が良かったサクラちゃんは僕達よりも何倍も辛いだろう。
それから三十分程詰所で待たせてもらい、ようやくサクラちゃんが戻ってきた。
「お待たせですー」
戻ってきたサクラちゃんは軽戦士風の鎧と短剣の二刀流装備だった。
カラーバリエーションに拘ってるのか、普段よりも色合いの鮮やかな衣装である。
「どうです、レイさん?
普段より少しだけオシャレしてきたんですよ。似合っています?」
「うん、可愛いと思うよ」
「えへへ、ありがとうございます」
はにかみながらも嬉しそうにするサクラちゃん。
「それで、出発はいつにしましょう? 今すぐですか?」
「うん、目的地まで馬車で向かうよ。
魔物が多く生息してる場所らしいから戦闘の準備も万全に……」
「わくわく……!」
「……問題なさそうだね」
「じゃあ、早速向かいましょう!!」
僕達は、厩舎に預けていた馬車と馬二頭を引き連れて王都を出た。
◆
王都を出てから数時間後、僕達は目的の森に到着した。
馬車と馬二頭は、森の入り口の木に括りつけておいて、僕達は森に入る。
森の規模はそれなりといったところ。
規模で考えるなら前回ユニコーンを討伐した森よりも広大だ。
森の奥地には魔物のボス的な存在も居るらしい。
希少な薬草などが採取出来る場所なのだが、
生息する魔物のレベルが高く駆け出しの冒険者ならこの森に入るだけでも命を落とす恐れがある。
その為、ベテラン冒険者のパーティーでも入るには慎重さが求められる。
エミリアが僕とサクラちゃんの両名を連れていきたかったのはそれが理由だろう。魔物が多い上に強力となれば、呑気に採取もしていられない。
「わぁ、良い雰囲気の場所ですね~」
「……そ、そうでしょうか?」
レベッカはサクラちゃんの言葉に疑問を投げかける。
森の中の様子は薄暗くてじめっとしており、その影響かその辺はキノコなどがよく生えてる。それに、空気中に漂う魔力の濃度も濃い。普通の人間ならば、気分が悪くなるほどの濃さだ。
「ここを良い雰囲気と言えるサクラちゃんは大物ね……。
お姉ちゃんとしては、正直あんまり好きじゃないわ」
「そうですか? こういう場所だと身体が疼いちゃって走り回りたくなりますよ」
サクラちゃんは姉さんの呟きに、楽しそうに返事を返す。
「……にしても魔力の濃度が随分濃い場所ですね」
「ええ、これほどの濃度であるなら、精霊様もいらっしゃるでしょう」
エミリアとレベッカの会話を聞いて、
前を歩いていたサクラちゃんは足を止めて振り返る。
そして興味津々に言った。
「もしかしてレベッカさんも精霊さんが見えたりするんです?」
「……という事は、サクラ様も?」
「うん! 良かったー、精霊さんをはっきり認識出来る人って殆ど居なくて~」
「そうでございましたか……。
故郷では精霊様と共に生活をするのが常識だったのですが、
上京してきてからそのような機会が無くて、少し嬉しく思います」
「そうなの? レベッカさん、まだ小さいのに大変じゃなかった?」
サクラちゃんの心配に、レベッカは穏やかな笑顔を向けて言った。
「……いえ、旅の途中、色々な方々に支援して頂きまして……。
今はこうして、信頼できる素晴らしい仲間達と共に旅をすることが出来ました。
ですので、故郷の事を時々思い出しますが、決して不便ではございませんよ」
レベッカは、僕達の方を見て微笑む。
「わぁ、素敵ですねぇ♪
よければ、レベッカさんの話、色々訊かせてください♪」
「では、わたくしの故郷の話などを―――」
レベッカはサクラちゃんに視線を戻す。
そして、二人は意気投合して楽しそうに話を始めた。
「あらあら、二人とも前に注意して進んでねー」
姉さんは彼女達に注意をすると、「はーい」と彼女達から返事が返ってくる。
僕、エミリア、姉さんは先行する二人に付いていく歩き出す。二人は周囲の遮蔽物や足元の根っこや生い茂った雑草などの地形を特に気にすることなくスイスイ歩いていく。
僕達は彼女達に付いていくのがやっとだ。
僕の隣を歩いていたエミリアは言った。
「しかし、サクラ……。
精霊が見えるという事は、精霊魔法が使えるのでしょうか……?」
「久しぶりに聞いたね、その単語」
精霊魔法。簡単に言えば、魔法を効率的に扱うための技能だ。
習得者は大気のマナを取り込んでそれを自身の魔力に変換することが出来る。
「いいなぁ……私も使えたらいいのに」
エミリアは二人を羨ましそうに見ながら呟く。
「そんなにそれって便利なの?」
「便利というか、魔法使いの憧れですよ。
自身のマナを魔力に変換して魔法を使うのが一般的なんですけど、
精霊魔法は大気からマナを吸収して魔法に利用できるから効率が数段上なんです」
「エミリアはまだ使えないの?」
「レベッカに時々教わってるんですが……。
どうも理論的思考の私には相性が悪いみたいです。レベッカのように、感覚的に理解出来るようにならないと駄目らしいんですよね……」
「へぇ……」
「私も、使えたらもっと魔法の扱いが上手くなりそうなんだけどなぁ……」
隣を歩く姉さんはそう言いながらため息を付く。
「ベルフラウも昔から回復魔法の扱いは上手かったじゃないですか」
「でもそれしか出来ないからサポートがせいぜいだもの」
「それだけで十分助かってるよ、僕達は」
「ええ、レイの言う通りです。
私達のパーティは攻撃主体ですからベルフラウの存在はとても有り難い。
それに、前に特訓したお陰随分強くなったと思いますよ?」
「そ、そう……? どうも、私、戦闘では役に立ってない気がして……前回も囮役だったし……レイくんに裸見られたし……」
ユニコーンの時の話だ。
「見てないし安心していいよ、魔物と交戦中だったからそれどころじゃないし」
「うっ……」
何故か姉さんが精神ダメージを受けてるような声を出した。
「最近、レイくんはお姉ちゃんに塩対応だよね……」
「え、そんな事ないよ、今も昔も姉さんのことは大好きだよ」
「ノータイムでその返事を返せる辺り、もうちょっとお姉ちゃんの扱いを改善した方がいいと思うの」
あれ、姉さん結構落ち込んでる?
「ねぇ、エミリア、僕そんなに塩対応だったりする?」
「塩……? それってレイの世界にあった調味料の事ですよね。
つまり、しょっぱい対応という意味ですか?」
「そうそう」
「んー……最初はベタベタしてて満更では無さそうだったけど、最近のレイは、姉に対しては手慣れた対応が多いですね」
「ぐはっ!?」
姉さんがまた変な声で呻いた。
「思うに、姉離れが出来たのではないかと」
少し前に出来た義理の姉なのに、僕はもう姉離れ出来てしまったのか。
成長したと喜んでいいのだろうか。
「わ、私にとっては憧れてたレイくんとの生活だったのに……もう飽きられてしまうなんて……!」
「ベルフラウも弟離れした方が良いのでは?」
「イヤ! 私はレイくんが結婚してもずっとベタベタするんだからー!」
そう言いながら僕にガバッと抱き付いてきた。
「それは流石に僕が困るかも……」と、言いながら姉さんの頭を撫でる。
僕が結婚したら、多分姉さんは寂しくなって泣くんじゃないだろうか。
「レイが姉に依存してるイメージでしたけど最近は逆ですね……。
良かったですね、レイ。ずっとベルフラウと家族のままですよ」
「それは素直に嬉しいけど」
「ならもうちょっと私に興味を持ってレイくん。
昔みたいに、私に泣き付いてきた頃のピュアな君に戻ってほしいの」
僕は苦笑しながら言った。
「……大人になるって悲しいことだよね」
「止めて、その発言」
そんな平和な会話を続けながら僕達は森の奥へ向かっていく。




