第2話 過保護な女神様
女神さまとの邂逅の後に、異世界へと転生した桜井鈴くん。
目を覚ますと、女神様の言葉通り全くの別世界に僕は来ていた。
何故か、予定の無かった女神様といっしょに……。
―――ここが異世界。
目の前にはあまり見られないような大自然が広がっていた。
目を凝らして先を見ようとするが、近くに町や村などは見当たらない
一帯は草原が広がっている。
「(地球とは別の場所とは言ってたけど……)」
元住んでた地球では中々見ることが出来ない大自然ではある。
だけど、想像ほどかけ離れてはいない。本当に異世界?
強いて言えば地球に比べて少し空が薄暗い。
空気感もちょっと違うか、あと体が少し軽いような感じはする。
「地球と似た世界なのかな?」
外見がほぼ同じだとしても、女神さまが言っていたように危険な生物が居たとしたら全くの別物にはなる。食べ物もあまりないだろうし、何処かの街を探さないと……。
「あの…桜井鈴さん」
ちょいちょい……と袖を引っ張られる。
振り向くと、そこには不安そうな表情を浮かべた女神様。
「どうしたんですか、僕の事はレイで構いませんよ」
どういうわけかこの女神さま。
僕一人で転移するところを間違って付いてきてしまったらしい。
転生の間で話してる時に比べると女神さまの声がはっきり聞こえる。
あの空間が夢のような場所だったからだろうか。あの時はシチュエーションのせいで神様と言われても納得してしまう雰囲気があったけど、今は普通の人みたいに思える。
「レイさん、私、しばらく帰れないみたいです」
「そんな棒読み声で言われても困ります」
緊迫感がまるで感じられない。
「<次元転移>はかなり力の消耗が大きくて……転生の間なら力が戻るんですが、異世界内だと暫くは回復しないみたいなんです。困りましたね」
神様が間違えて転移したら戻れないって事?
「他の神様に迎えに来てもらうとかは」
「さっきから連絡を入れようとしてるんですが、全然繋がらなくて」
「となると、回復を待つしかないのでは…?」
「そ、そうなんですけど…仕事がまだ残ってて……。
先輩に怒られちゃう………!」
女神にもそういうのがあるのか、全然女神っぽさがないなぁ。
「まぁ、嫌な先輩だから仕事押し付けちゃえばいいんですけど」
女神様は小さい声でボソッと漏らした。
多分、僕に聞こえないように言ったつもりなんだだろう。
異世界に来たのが理由か何なのかは分からないけど、以前より僕の五感が鋭くなっているせいか、女神様の小声すら聞こえてしまっていた。
が、まぁそういう愚痴はあまり聞かれたくないだろう。
ここはあえてスルーして話を戻す。
「戻れないなら仕方ないですし、
暫くすれば回復するなら、その時まで一緒に行動しませんか?」
僕も一人だと心細いから、本音を言うとありがたい。
「!? ……そうですね、仕方ないです! 休暇と思うことにしましょう!」
切り替わり早い人だ。
いや、女神だから人じゃないんだろうけど。
とはいえ、今見える場所には何も見当たらないしどこに行けばいいのか。
いや、ここに女神さまが居るんだから直接聞けばいいか。
「女神さま、この近くに街はあるのでしょうか?」
「えーっと、そうですねぇ。確か鞄の中に地図が入れてあったと思いますよ」
女神さまに貰った鞄の中を開けて中身を探ってみると、地図が入っていた。
周辺の地図かな? この近隣の地形が描き込まれている。
「ここは、そうですね。湖の傍に村のような場所があるようです。
少し遠くに行けば大きな街が存在しますね。そっちに行ってみましょうか」
街と聞いて少しテンションが上がってしまう。
異世界の街並みってどんな感じなんだろうか?
行ったことないからどういう場所なのか分からないけどね。
「ん?」
近くの草陰から生き物らしき物体が視界に移った。
いや、あれは生き物というか……何だろうか?
ゼリーみたいなのが動いている。
「女神さま、何か変な生き物がいるんですが……?」
緑色で何かが蠢いているのだが、形という形がない生き物だった。
いや、あれは生き物なのかすら疑わしい。
まるで液体が意思を持っているかのような、ジェル状の存在がこちらに近寄ってくる。
「あれはスライムというモンスターですね…」
「スライム?あのゲームとかで見る?」
RPGでよく見る、最弱のモンスターかな?
「私はゲームには詳しくないので分かりません。
体の内部にある核が汚れた液体に寄生することで生まれる存在です。
ほら、よく見るとうっすら体の中が透けて見えませんか?」
確かに体が透けているようだ。
体内に玉のようなものが浮かんでいる。ここからだとよく見えない。
僕は詳しく知るために前に出た。
「もうちょっと近づいてみないと……」
僕が近寄ろうとすると女神さまに慌てた感じで止められた。
「レイさん、気を付けて!
スライムの粘液は強酸で出来ていて、皮膚が爛れたり毒も持っています!」
危なっ!危うく近づくところだった。
「どう対処すればいいんですか?」
「体の中に浮いてる球体がスライムの核なので、あそこに攻撃を当てれば倒せるかなと」
倒せると言っても素手だとどうしようもない。
というか、さっきからこっちに寄ってきてる。もしかして狙われてる?
「女神さま、一旦離れましょう!」
僕はそう言って女神さまの手を取って駆け出す。
「え、あ、はい!」
そうして走っていると、目標だった街に遠ざかってしまった。
「逃げるなら反対にすればよかった……」
一旦距離を取れたことを確認しつつ、息を整えながらそう思った。
「少し休憩してからまた目指せばいいですよ」
「そうですね…ちょっと休憩しましょう」
◆
休憩を終えて再び街を目指すが、またスライムに出くわした。
「またスライム居ますね」
「うんざりですねぇ」
流石にまた逃げるのも疲れるし、どうしようか…。
そこまで考えて気付いた。
「(そうだ、こっちには女神さまがいるじゃないか)」
きっと神様のパワーであんな魔物どうにでも出来るだろう。
他力本願と言われるかもしれないが、考えてみてほしい。
何の力も持たない現代人にいきなり戦えなんて土台無理な話だ。
何しろ僕は武器も持ってないし、魔法みたいな超パワーなんて使えないのだ。
「女神さま、ああいうの神様の力とかで何とかなりませんか?」
「えぇ!?」
僕がお願いします!と頼み込むと…
「し、仕方がないですねぇ、私に任せてください!」
女神さまがスライムに向かって手をかざすと、
スライムの周囲の草木が急成長し始めてスライムを取り囲む。
「おおー!すごい!完全に身動き封じてます!」
周囲の蔦や草木が伸びてスライムを縛り上げている。
しかし、よく見るとスライムは少しずつ這い出ようとしている。
体が液体で出ているためか、
液体と核が少しずつ周囲の蔦の隙間を通って流れ出ているようだ。
「私の能力だと攻撃に向きません。
何か核に攻撃を当てれば、それで倒せると思います!」
僕は周囲の見渡すと少し大きめな石がいくつか転がっているのを発見した。
「よし、これで……てやっ!」
石を投げてみるが妙にウネウネ動くため核には当たらず透明な体をすり抜けてしまう。
「てやっ! ……これでどうだ!」
石を探しながら5発くらい投げたところでようやく核に命中した。
命中した核は砕けて周囲の液体は霧散した。
「やった!」
「レイさん、頑張りましたねー!よしよし…」
「女神さまのお蔭で動きが鈍かったのでなんとか当てられました」
<投擲 Lv0を獲得>
「ん?」
今、頭の中に何か文字が浮かんだぞ?
「どうかしましたか?」
「いえ、今頭の中に文字が浮かんだような」
そういうと、ああ成程と言って女神さまは説明してくれた。
「それはですね、ペンダントの力で貴方の能力が可視化されたからですね」
「『投擲レベル0』って出ましたけど」
「石を投げて標的に命中させたからですね
いっぱい当てればまたレベルが上がって命中精度も威力も上がっていきますよ」
レベル0は習得したばかりの状態です、と補足してくれた。
「なるほど、じゃあ全然当たらなかったのはレベルが低かったからですね」
良かったー、別に僕がノーコンなわけじゃないんだー。
「そうですねぇ…(運動神経の良い人なら普通に当てると思います)よしよし」
本音が聞こえてますよ。撫でて誤魔化さないでください。
その後、少し疲れたので少し高台を見つけて見晴らしの良い所で休憩を提案した。
◆
「さぁ、食べてくださいね♪」
休憩するのならと、女神さまが作ってくれたお弁当を食べることになった。
「結構多い!」
普通に3人分くらいの量がありそうなお弁当箱だった。
都合よく水筒も用意されててお茶が入っている。何ならコップも二つある。
……ん?何で二つもあるんだろう?
この鞄は見た目は小さいのに色々入っているようだ。
鞄の中には大きめのレジャーシートももあり、今はシートを敷いて上に座っている。
「(目の前で食べるのは恥ずかしいんだけど、そんなに嬉しそうだと食べないわけにはいかない…)」
「じゃあ、頂きます」
パカっと開いて中身を覗いた。ハートマークが見えた。
そっ閉じ。
「何で食べないんですか?」
「い、いや…食べますけど…」
もう一度蓋を開けて中身を見た。
お弁当の中身はハートマークでピンク色のご飯と、可愛いタコさんウインナーやミートボールなどいかにも子供が好きそうなお弁当だった。でも美味しい。一緒に用意してくれたお茶ものど越しが良くて量は多いけどなんとか食べきれそうだった。
「そうだ、女神さ―」
「ちょっと待って!」
食べながら何気なく質問しようとしたのだが、遮られてしまった。
「どうしたんですか?女神さま」
少し真剣な表情だったので思わず姿勢を整える。
「女神さまって言うの、あまり良くないので止めましょう。ほら、人に聞かれると不味いので…」
ああ、それは確かに。
女神って人に知られると困るよね。
「なら、ベルフラウ様と」
「敬称もあんまり……それに本名だと後々困ることになるかも」
女神さまというのも様付けもダメとなると失礼な気がするけど。
「ここで女神さまの名前は有名なのですか?」
「有名ではないと思いますが、一応女神の端くれなので、
神様繋がりで名前が知られてしまってる可能性が……」
神様繋がりってなに、友達繋がりみたいなもんなの?
「女神でなくなれば名前を知られても問題ないのですが、
この世界で下手に有名になってしまうと元々居た神から信仰を奪ってしまう可能性があります。だから今は正体を隠そうかなと思っています」
女神で無くなることなんてあるんだ…。
「ではなんと言えば」
「お姉ちゃん、とかどうでしょうか?」
何を言ってるんだこの人は。
「いやいや、流石に女神さまをお姉ちゃんとは言えませんから…」
「うぅ……」
泣かないでよ、女神さま。
本当にこの人は女神なんだろうか?
女神と思いこんでいる普通の人なのでは?
「じゃあ、そのフラウ、さんで…」
本名がダメということで縮めて呼んでみた。
「じゃ、じゃあ…最初はそれで……」
モジモジしながら言わないでください、年頃の男の子には毒ですから。
ちなみにさっきの質問は
「そうだ、女神さまって何歳なんですか?」
そう言おうとしたのだが、今思うとすっごい失礼だった気がする。
女神さまなんだから何百年とか平気で生きてそうだし。
「ところでさっき何を言いかけたんですか?」
「いえ、なんでもないですよ」
◆
女神さまとのお弁当タイムを終えて、
少し休憩を挟んでから高台を降りていく。
そこからしばらく歩くと少し湿気のある場所に出た。
どうも雨水が溜まっていたようだが、そこにスライムが沸いていた。
「うわ、またスライムだ……」
関わりたくないので、さっさと退散しようとするのだが…
◆
「お腹いっぱいで走るのが辛い…」
「だ、大丈夫ですか? 食べた後にすぐ走ると気持ち悪くなりますよ…」
お腹をさすさすしてくれる女神さまだけど、今そんな場合じゃないの。
「スライムがいっぱい近寄ってくるんですけど!」
「ま、まずいので私が足止めしますね!」
フラウさんが、手をかざしてさっきのように植物を操るが、なにぶん数が多すぎる。
「一旦逃げましょう!」
「お、お腹が辛いけど仕方ない」
と、二人でゆっくり逃げるのだが、すぐ足が止まってしまう。
――――と、そこに声が掛かる。
「危ないから二人とも、少し離れてください!」
そう聞こえ振り返ると、とんがり帽子とマントを付けた女の子が僕らとスライムの間に割って入っていた。僕たちは訳も分からず言われた通りに離れる。
「<中級火炎魔法>」
女の子はそう呟き、前方に持っていたステッキを向けた。
途端にスライムの周りから炎の渦が発生し、瞬く間に総勢5匹程度のスライム達が蒸発した。
倒し終えると、こちらを振り向いて、
「大丈夫ですか?」と気遣ってくれたのは、
自分より小柄な女の子だった。
第2話をお読み頂きありがとうございます。
次の話から二人目のヒロインが登場します(最後に出てるけど)。
※2022年11月16日
ほんの少しだけ修正しました。1話ほど力は入ってないです。
今は、小説家になろうの方だけ修正版を載せています。そのうち向こうも変えると思う。