第12話 怪我した
引き続き、僕たちは鉱山の中を進む。
「少し足場が柔らかくなってる気がしますね」
エミリアが足場を確認しながら先頭を歩く、僕も確認してみると下が若干湿ってるように見えた。
「多分、湖の水が…」「ええ…」
ここが湖と繋がってるのは間違いないだろう。
「ストップ」
と先頭を歩くエミリアの足が止まる。少し先に蝙蝠が複数いるように思えた。
「蝙蝠?」
「いや、あれは蝙蝠じゃなくて蝙蝠が魔物化したモンスターですね」
よく姿を確認すると、蝙蝠なのに赤い目と大きなキバが生えている。
「<吸血蝙蝠>だな」とアドレ―さんが教えてくれた。
ネーミングはそのままか、血を吸われるから危ないってことだね。
「レイ、気付かれないうちに攻撃した方がいいです」
気が付けれないうちに…って、そうかその手があった。
僕は左手の指を敵に向けて詠唱する。
「<魔法の矢>」
指から発射された魔法の弾は敵の一体を撃ち落とした。
「クギャアアア」
残りのモンスターがこちらに気付き向かってくる。
「大丈夫、<魔法の矢>」
そのままこちらに接近される前に全ての敵を打ち落とす。
敵に気付かれてからはエミリアが魔法で明るく照らしてくれたので狙いが付けやすくて助かった。
「見事ですね、随分狙いも良くなりました」
<魔法の矢Lv3を獲得>
<投擲 Lv2を獲得>
その後もゴブリンや吸血蝙蝠と数度戦った。
ゴブリンは厄介だったが、フラウ姉さんに敵を束縛してもらいながら僕とエミリアで止めを刺す。
吸血蝙蝠は僕の<魔法の矢>かエミリアの<初級風魔法>で接近される前に対処することで何とか対処していた。
<レイはLv7に上がった>
<剣の心得Lv3を獲得>
今の所、初歩魔法を10回使っている。
自分の魔力は20程度と把握しており初歩魔法の消費が1とするならあと半分程度。
ここからは帰りを考えて消費を抑えないといけない。
◆
しばらく歩くと、足元に水が溜まってきた。
その先を進むと左右に分かれた道があった。
「左の方から水の流れが来ているような気がする…」
おそらく、左の方が湖と鉱山が繋がっているのだろう。
僕たちは左側を進むことにした。
「スライムだね…」
左を進んだ先には沢山のスライムがうようよしていた。
「なんか、気持ち悪いですね…」
元女神さまに気持ち悪いと言われるスライムもちょっと不憫だと思う。
「坊主、スライムはいいのか?」
「スライムは生きてる生物には見えないので…」
人型の魔物や凶暴化した動物と比べて特に躊躇したことは無い。
「アドレ―さん、ここなら炎魔法使っても大丈夫ですよね?」
「ああ、大丈夫だろう」
「よし、なら一気に倒しますね <初級炎魔法>!」
エミリアが炎の攻撃魔法を連発して、スライムが面白いように蒸発していく。
スライムは液体にある核を砕けば霧散して倒せるが、炎魔法ならまるごと蒸発させられる。
そのため、こうなると剣を使う必要もなくエミリアの独壇場だ。
一応、足元の水や壁に紛れてスライムが襲ってくる可能性も考慮して警戒する。
そして殲滅したのを確認してまた先へ進む。
ずっとエミリアが前を歩いている。疲れていないだろうか。
エミリアに交代しないか、と言おうとするのだが――
「待って、みんな!」
僕の後ろを歩いていた姉さんの声にかき消された。
「姉さん、どうしたの?」
「ここに入ってから感じてた嫌な気配が強くなってるの。
この先は今まで以上に危険だと思うわ」
嫌な気配…ここに入った時に感じた異様な気配はもしかしてそれなんだろうか。
「分かった、聖女のお嬢さんが言うなら少し慎重に行った方がいいかもしれないな」
アドレ―さんの指示で一旦、隊列を変える。
先頭をアドレ―さん、フラウ姉さん、僕、エミリアが最後尾。
万一強力な魔物が襲ってきたときにアドレ―さんが即動けるようにするためだ。
しばらく進むと、他の通路と比べて開けた場所に出た。
周りに蝋燭が付いているのか、ランタン無しも十分目視できる明るさになっている。
そこで人影を見掛けた。
「あいつは確か……?」
アドレ―さんは知っている人らしい。でも何でこんな場所まで…。
「知り合いですか?」
「ああ、あいつがここの管理人だが……少し様子がおかしいな」
「ええ、何故こんなところに人がいるのでしょう?」
ここに来るまでに僕たちはそれなりにモンスターと鉢合わせしている。
少し前の通路に至ってはスライムだらけでまともに通れる状態では無かった。
「……ここからは俺一人で行く、お前たちは少し隠れていろ」
「アドレ―さん、でも危険では…」
そう言って僕が引き止めるのだが…。
「危険だからこそだ。もし俺の身に危険が迫りそうな場合は――」
「―――わ、分かりました」
いざという時は援護に入れということだろう。
「任せたぞ坊主……では行ってくる」
そう言ってアドレ―は管理人らしき男に近づいていく。
「……おお、そこに居るのはアドレ―殿ではありませんか!?」
「やはりお前か、タリザ」
タリザと呼ばれたのは見た目中年の男性だった。
見た目は40~50歳程度だと思われる裕福そうな壮年の男性だ。
「お前ここで何をやっている」
「いえ、最近ここから地響きが何度もしておりましてね
管理人として一応の調査をと、思いまして……アドレ―殿はどうしてこちらへ?」
「湖の村の湖に問題が出てな。原因究明に来た」
端的にアドレ―はそう答えた。
「成程、湖の水がこちらに漏れていることと関係ありそうですな」
そう言って、彼はこちらに背を向けて歩いていく。
「……タリザ?」と訝しげに声を掛けるアドレ―
「ですが、アドレー殿、ここに一人で来るのは失策だったのでは?」
「………それはどういう―――」
「こういうことだっ!」
タリザと呼ばれた男は不意に隠し持ってたナイフを取り出しアドレ―に斬りかかった。
―――キィン
「チッ!」
しかし、アドレ―さんは剣であっさり受け止めナイフを弾いた。
タリザは不意打ちで倒そうと思っていたのだろうがアドレ―さんは同時に反応していた。
「何のつもりだ、タリザ?」
「おやおや…怖い顔なさらないでくださいよ、アドレ―殿―――」
「―――――私ばかりに気を取られてて良いのですか?」
その瞬間、アドレ―さんの後ろに黒い影が飛び出して来て―――
「<魔法の矢>!!!」
「く゛っ!」
その黒い影に間一髪で僕の魔法が命中してよろめいた。
「大丈夫ですか!アドレ―さん!」
それを皮切りに僕たち3人は飛び出して部屋に入る。
「何か分かりませんが、攻撃するなら容赦しませんよ!<初級炎魔法>!!」
よろめいた黒い影にエミリアの追撃が入る。黒い影はその炎に焼かれ地に伏せた。
「に、人間…?」
黒い影だったのでモンスターかと思ったが人間の男だった。
炎に焼かれて体はボロボロでおそらくもう死んでいるのだろう。
アドレ―さんに不意打ちをしようとしたのだろうか?その割に何も持っていないようだが…。
「ちっ…一人じゃなかったのか!」
「助かったぞ、レイ……さて、タリザ、貴様何のつもりだ。何故俺を殺そうとした」
タリザはナイフを床に落として無手だ。
剣を突き付けられてはもはや何も出来ないだろう。
そう僕は思ったのだが、タリザは予想外の言葉を吐いた。
『ふん、貴様が邪魔だったからここまでおびき寄せたが、
どうも失敗したようだ。なら実力行使で行くしか無い様だなー―――』
「……!?今声が…」
タリザという男から声が聞こえたのだが、声がさっきまでとは変わっていた。
いや、声だけではない。瞬く間に奴の姿が―――
「………何………ですか、あれ…?」
男の変貌にエミリアが戸惑っている。気持ちは分かる。
まるで創作に出てくるような悪魔の姿だった。
服は消失し、皮膚は黒色、人間の顔だったモノがまるで髑髏のように皮膚が消え歯がむき出しになっている。頭部にはヤギのような角が生えている。
左右の手には尖った爪が武器のようになっており、トカゲのような尻尾まで伸びている。
「あ……悪魔!?」
「タリザ、貴様人間では無かったのか!」
『ハハハハハハ!ここまでまんまと騙されやがって!
貴様を殺すために村の方で色々小細工したつもりだが、もうここで死ね!』
「貴様、レッサーデーモンか」
アドレ―さんはこのモンスターを知っていたようだ。
「レッサーデーモン…?」
「悪魔系のかなり強力なモンスターです!何故人に化けていたのか……!」
僕とエミリアはそのモンスターから強烈なプレッシャーを感じていた。
(とても勝てるような相手じゃない…!)
アドレ―さんは分からないが、少なくとも僕とエミリアと姉さんでは勝ち目がない。
そう思い、気圧されて後ろに下がったのだが―――
「エミリアさん、危ない!」
姉さんの焦った声に僕とエミリアが驚いて振り向くと――――
「えっ――」
「エミリア!!!」
僕は咄嗟にエミリアを突き飛ばした。
グサッ――――
僕のお腹の辺りに鋭い痛みが走る。
「……ったたた、レイ、いきなり何を……………レイ?」
僕がおそるおそる痛みの場所を確認すると、
さっきアドレ―さんを襲おうとしたタリザのナイフが僕のお腹に突き刺さっていた。
「…あ、……あああ…」
自分が刺されたことを自覚して、目の前を見ると、さっきエミリアが倒した男が目の前に居た。
「ああ………あぁぁぁぁぁぁぁ!!!痛い、痛い――――――!!!」
痛い痛い痛い痛い嫌い痛い痛い痛い痛い痛い嫌い痛い痛い痛い痛い痛い嫌い痛い!!
刺されたお腹が熱くて血がいっぱい出て、痛くて…痛くて……!!!
あまりの痛みに、僕は後ろに二、三歩下がってから倒れ込んでしまう。
「レイくん!」「レイ!」
姉さんとエミリアは僕に駆け寄り、エミリアは僕を庇うように男の前に立つ。
「レイ! 貴様、許さんぞ!!」
アドレ―はレッサーデーモンに斬りかかる。
『…っ!』
かろうじてデーモンは後退し回避、右の爪で斬りかかるが、アドレ―は剣の腹で受け止める。
『なにっ!』
「遅いわ!」とアドレ―はデーモンを蹴り飛ばす。
「よくもレイを! <中級火炎魔法>!!」
エミリアは最速で発動が出来る最も強力な魔法を選択する。
男は魔法をモロに受けて黒焦げになって今度こそ倒れた。
「………」
意識が朦朧としてきた、目の前で膝枕してくれている姉さんの顔もぼやけ始めて――
「姉さん…僕は……死ぬのかな……」
怖い、死ぬのは怖い……もう死にたくないよ…………!
フラウねえさんはお腹から血を噴き出して泣いている僕を抱きしめる。
「大丈夫だよ、レイくん……今治してあげるからね…」
そう言って、姉さんは僕を抱きしめてこう言った。
「<応急手当>」
「エミリアさんに私に扱えそうな魔法を教えてもらったの。
だから大丈夫だよ。私はレイくんを絶対助けるから―――――ー!」
ベルフラウが今使ったのは、初歩魔法の『応急手当』
切り傷や擦り傷など致命傷にならない程度の怪我をした時に一時血止めをするだけの魔法だ。
そう、本来ならば、
しかし桁外れの魔力を持つベルフラウの魔法でレイの傷は徐々に塞がっていく。
「………………あ」
僕は………生きているのだろうか…。
「レイ!」「レイくん!」
「うわっ!……ふ、二人とも……どうしたの…!?」
いきなり抱き着いてきた二人に驚きながらも照れてしまい、僕はおかしな反応をしてしまう。
「どうしたじゃないですよ!危うく死ぬところだったんですよ!」
「そうだよ!レイくん痛い痛いってお腹から血がいっぱい出て死んじゃうところだったよ!」
二人してここまで心配されて、僕は自分が危うく死ぬところだったことを思い出す。
「そ、そっか……姉さんが助けてくれたんだね、ありがとう」
「うん、そうだよ。でもエミリアさんが魔法を教えてくれてなかったら危なかったわ」
「そうなんだ、エミリアもありがとう」
僕が何とか助かったのは二人のお陰だ。危うくこっちでも死んでしまうところだった。
「い、いえ…そもそもレイが私を庇ったことが理由ですし…」
エミリアはレイが助かったことに心底ホッとしたが、それと同時に疑問が沸いた。
「さっきの<応急手当>……」
「(私が教えた応急手当は一時的な怪我の処置をするだけの魔法だ)」
だが彼女の応急手当は処置どころか『中級回復魔法』を超える性能になっている。
「フラウさん、貴女は一体……」
痛そう




