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紅い雨


「ねぇ、エリーお姉さま、サミュエルは寝てしまいましたわ」


妹の腕の中で生まれたばかりの小さな甥が静かな寝息を立てている


「こんなに遠出したこと無いもの疲れて眠ってしまったのね、ユリアも少し寝ておきなさい、着いたらきっと大騒ぎよ」


皆がエリーと呼ぶ私の名前はちょっと男性のように聞こえる


私の名前はエリアル・サンクフリード


サンクフリード・リアム辺境伯爵家の長女とし

て生を受けた。


お父様もお母様も私の誕生を喜んで下さったけど、私は少し違った


辺境であるがゆえ、何時なんどき争いがあるか分からない。

貴族として幼い頃より口に入る物に注意をし、微量の毒を摂取し続けている、それと体術、護身用だ


体術の先生から反射神経とセンスが素晴らしいとお褒めの言葉を頂ける


お父様との遊びはもっぱらチェスで徐々にKingが取れるようになった 


「エリーは戦略が上手い、とても聡明な娘に育ったな、私は鼻が高いよ」


そう言って少し悲しそうに微笑んでいた


サンクフリードは跡継ぎに恵まれなかった

このままでは、分家の叔父が後継者になる


叔父、ザッケローニは冷酷な人で使えないと思うと、直ぐに切り捨てた、利用価値が無いものは、まるで人間ではないと言うように


私も妹もお父様に見せない表情に怯えていた


もし、家督が叔父に移ればサンクフリードの民の苦労は目に見えている


私が男に生まれていれば、何度もそう思った


そんなとき、妹が先に婚姻をした、そしてあっという間に可愛らしい甥を産んでくれたのだ


サンクフリード特有のエメラルドブルーの瞳の天使。


念願の男の子に家中が歓喜した、この子はサンクフリードの光になる。


口には出さずともお父様は今度こそ純粋に微笑んでいた。


別邸にいるお爺様達にも、伝令を送り、ひ孫をみたいとの事で、今馬車に揺られているのだ。


「お姉さまもお綺麗なのだから、早く殿方を見つければよろしいのに」


そう言って頬を少しふくらませるユリアは子供の頃から変わらない


メイド達にも分け隔て優しく、皆に好かれる花が咲いたようによく笑う自慢の妹に言われ


それもいいかもしれないわね、とクスリと笑ってみせた


すると、ユリアは私の旦那様にはきっと負けますけど。


と、のろけてみせる


初めて父親になった義理の弟は涙で顔をグシャグシャにして喜んだそうだ


その顔を見たかったなと思う


義理の弟はもう他界している


辺境伯爵家は国を守る楯の義務がある

警備中に他国の兵士に斬り込まれ

そのまま帰らぬ人となった


傷ついた味方を庇っての最後まで闘い抜いたという


知らせを受けた妹はこう言っていた


「旦那様は私達を守って下さったのだから、わたしはこの子を守るわ。」



ポロポロ涙こぼしながら微笑んでみせた


お父様は喪があけて間もないのだから、後から行きなさいとおっしゃったけど、


「嬉しい知らせは皆を幸せにしてくれるわ。」


と、妹は珍しく言い張った、護衛だけには任せておけんよと、お父様も同じ馬車に揺られている


急にガタガタと馬車が強く揺れた、何事かと、お父様がドアを開けた

窓ガラス越しに外を伺う、馬車を包囲していたと思われる野盗達は、既にお父様を取り囲んで

従者も護衛も倒れているのが見えた

続いて窓が赤く染まる


お父様が1人で戦っている


思わず前へ体が動く、しかし、強い力で中へ引き戻された。

ユリアから反対のドアを開けて外へつき出される。


「お姉さまは強いから、きっとにげきれるわ。

前だけ見て走って、お願いっ」


絶望的な死の予感の中、お父様に頂いた未来を見通す家紋の着いた水晶のペンダントを自分の胸元から引きちぎり、サミュエルに握らせた。


「必ずあなたが返してね、神が守って下さるわ」


それから、別邸へ向かって走った


雨が降ってきた中、走りながら神に祈った


どうか、家族を守って下さい


裾を持ち上げないと走れないドレスを掴みながら私がドレスじゃなかったら、きっとサミュエルを抱いて逃げられたのにと思った


何度も木の根に躓きながら、ヒール高い靴を脱ぎ捨てて


森の中を走り抜ける、水を吸ったドレスを持つ腕が鉛のように重い


後ろから何者か追いかけてくる気配がする


スピードが落ちた所で後ろから男に羽交い締めにされた


「さすがはサンクフリードのお姫様、顔も身体も上物だ」


下卑た笑いをしながらそのまま前に回り込まれた、甘く見られたのだろう、相手は剣を持っていない


仰向けに倒されて逃げる足を掴まれた


その時、思い出した、体術の先生に何かあった時にと、短剣を渡されたことを。


いやらしいの顔が近づいたのを狙って頸動脈に短剣を突き立てた


ぎゃあと断末魔が森中に響き、男の呼吸音が聞こえなくなった


本当に死んだの?


恐怖が勝り、何度も何度も刺し続けた。


ようやく動かなくなったのを見届けて


ゆっくりと立ち上がった


方向は合っている、このまま歩けば別邸だ


血塗れのどろどろのドレスを引きずって門までついて

そのまま意識を失った

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