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第八話 【魔法戦技訓練】

魔法戦技とは魔法以外での戦闘方法となる。


 魔法戦技科の教師の名は、エドモンド=ラーク。ラーク家は貴族の中でも騎士の位を戴いている守護八貴族の一つである。


 そしてエドモンドは教師であると同時に、王国騎士団の団員でもあり、緊急時は教務より騎士としても職務を優先する。


 彼が騎士だけでなく、教師をしているのは彼が身分など関係なく、イノセンスフィア王国の魔法士は全てに平等に学ぶべき、という信念の元から来ている。

 まだ20代の半ばで、容姿は爽やかイケメンであり、性格も気取るタイプでもないため、貴族平民を分け隔てないために身分問わず人気が高い。短所を挙げるのであれば、口調がやや偉そうな点だが、それも愛嬌として見られている。


「大半の魔法士は武器型の魔導具を使用するわけだが、一部の者は己の身体自身を武器として扱う者もいる。

多少差はあれど、魔法戦技とは魔法というよりも魔力そのものを操作するという点でおいては武器利用と身体利用とにあまり変わらないな。

というわけだが、ここから話より実践あるのみだ。さぁ、近くの学友と二人一組なってくれたまえ。」


今回は桜と獅子と鷹のクラス60人ほどが授業を受けており、計30組の2人組ができた。

今回エルはメリッサと組み、二人は他のペア同様5mほど離れて向かい合う。

それぞれの生徒の手にはラークより支給された杖型の魔導具が握られている。


「さて、まずは私が支給した杖に魔力を通してもらうわけだが、この杖は少々特殊だ。

この杖は魔力を通すことで、打撃武器となる。今日はこれを使って、簡単な模擬訓練を行う。」


人により使う魔導具の形などは違うが、これはあくまで訓練になるため、まず共通の魔導具を使い、初歩的な使い方から学ぶというのが今回の趣旨である。


「あたし、杖使うのはあまり得意じゃないんすよね〜。」


「そうなんだ。メリッサはどちらかというと、自分の身体を利用するタイプ?」


「そうっす!さらに言うと、キックが自慢っす!」


メリッサがひょいっと左足を上げたあと、軸となっている右足でそのまま回転しながら跳び、 空中で足を入れ替えて右足を振り抜いて着地する。

そのメリッサの身軽さにエルは感心すると同時に、少々試してみたくなった。


「メリッサ、ちょっと手合せしない?」


エルが何か企んでいるような、少々悪い顔する。


「手合わせすっか?残念だけど杖メインだと、私の蹴り技使えないっすよ、エルル。」


「確かに、手で持つ杖に魔力を集める方法なら確かにダメよね。

だ~け~ど、ソックスに杖挟めば、足でも問題ないと思わない?」


「うっわぁ!!エルルきったねーーっす!

考え方がこっすいっす。」


「冴えてるって言って欲しいんだけど~。

まあ、手で持たなきゃいけないなんて・・・、誰も言ってないしね。」


何やかんや周りが杖に魔力を込め、打撃道具にしてお互いに軽くぶつけ合い始めていた。

しかし、中には魔力を込め方が少ない者の杖はヘナヘナに萎れ、逆に込め過ぎた者の杖は先から四つにパックリ開いて割れていた。


「言い忘れていたが、これは上手く魔力が込められないと、杖が使い物にならないから注意したまえ。今まで我流でやってきた者は、これを機に魔力操作を覚えていくといい。」


ラークは失敗している生徒をチラりと見、アドバイスを含めた説明をする。


他の生徒たちを見ながら、ラークが歩を進めると、赤髪の少女が宙を舞っていた。メリッサだ。

跳躍と同時に蹴りを入れ、それが躱されると上体を捻り、反対の足で二発目の蹴りを繰り出していた。

対するエルは、一発目の蹴りを、身体をやや反らすことで難なく躱し、二発目の蹴りが来ることをわかっていたのか、後ろへ僅かに下がることで、簡単に躱したのだ。


さらに、三発目は無いとエルは判断し、メリッサの着地を狙って前進する。

同時に、右手の杖に魔力を流して打撃武器化して、メリッサへ容赦なく横振りの一撃をお見舞いする。

しかし、メリッサもエルの考えを読み、着地と同時に地に伏せて回避。さらにスカートがめくれるのもお構いなく、右肩を軸に身体を旋回させて逆さまになり、両足をプロペラのように回して、その勢いで間合いを開けながら起き上がった。

スカートの中はスパッツを履いていたため、見えることはなかった。

注意しようと近寄っていたラークは、覗き魔扱いされることはないな、と安堵の息を吐いた。


「本気じゃないとはいえ、かなりの体術ね。」


「エルルこそ、なかなか良ぃ……うげぇ!?」


メリッサはエルに答えようとしたが、エルの背後に立つラークに気づいて驚き、変な声を上げた。


「やあやあ、お嬢様方。何をしていらっしゃいますかね~?」


「アーモ…、エトモンド先生、どどどうかなさいましたか?」


エルも振り返りながら尋ねる。まさか見つかるとは思っていなかったため、図太いエルもさすがに焦って、王女のときに使っていたラークの悪口方面のあだ名を言ってしまいそうになる。

ラークの片眉がピクリと動き、非常に短い時間であったがエルをじーっと見つめる。


「えっと、名前は…。」


ラークはジャケットの内ポケットから一枚のカードを取り出す。これは生徒の名前と顔を映し出す魔法が込められたカードで、これを使うことで、学年・クラス・名前を特定することができる。仮に魔法で他者に変身をしていても、この情報を偽ることができない。見た目は薄っぺらく、汚れがあるが非常に高等な魔法で仕上がった高価なアイテムであった。


もちろんラークは、2人にカードを交互にかざして名前に確認をする。


(ロゼオ)のメリッサ=アトラクト嬢にエル=ヴィオラ嬢だね。2人とも、才能があるからといって勝手な真似をしてはいけないよ。怪我の元となるからね。

今回は大目に見させてもらうが、次は無いと思いたまえ。」


「アーモンドのくせに生意気な…。」


ラークが言いたいことを言うと、二人に背を向けてまた別の生徒たちの方へ歩き始めた。ラークに気付かれなかったことに安堵しつつ、エルは聞こえないように文句を言うのだった。



魔法戦技科の授業が無事終わり、エルたちが廊下を少し歩くと、(ファルコ)のエンブレムが刻まれた腕章の少女たちが道を塞いでいた。


エルは一瞥したのち、何やらめんどくさそう空気を感じ取る。


(ある程度目立つことは目的としてたけど、こういう絡まれ方って正直想定外なのよね。

というより、こいつら暇よね〜。昨日絡んできた・・・えと、ドムトン?ドルルン・・・?どうでも良いけど、貴族って何?馬鹿なの暇なの?)


エルは心の中で深いため息をつく。

ふと後ろを振り返ると、リズやオリバーのいたたまれない視線と交差する。

その目は「早く終わらせてね。」と完全に言っていた。


「他人事よね、貴方たち。」


「自業自得です、エル。」


みなを代表して、アニスが簡潔に答える。


「・・・不本意だけど、しょうがないわね。」


「いつまでワタクシたちを待たせるつもりかしら!?」


彼女らの少し手前で立ち止まり、身内でトークを始めるエルたちに痺れを切らしたのか、おカッパロングのお嬢様らしき少女が声を上げる。


「貴女たちが勝手に私たちを待ってるだけでしょ・・・。」


「ワタクシの名はリリエル。守護八貴族の一つ、アースリウムに連なる魔法士よ!」


続いて4人の連れが名乗るが、エルは上手く聞き取れないので、とりあえず取り巻き1~4と認識することにした。

守護八貴族とは王侯十貴族の下につく、主に軍事を司る上流貴族たちのことである。

十貴族と八貴族の大きな違いは、過去王家の血が混じったか混じっていないかの差である。


「魔導具の1件、そして先程の1件にそれら諸々・・・。平民風情がワタクシたち貴族の時間を邪魔するなんて、全くもって許し難いですわ!!」


「どういう理屈よ・・・。それにそこまで悪さした覚えがないわよ。」


「他の平民たちと同様のその生意気な性根、このワタクシが叩き直してあげますわ!」


「余計なお世話だし、人の話聞きなさいよ暇貴族。」


「ひひひ暇ぁっ!?」


エルの話に全く聞き耳を持たなかったリリエルだったのだが、何故か暇貴族という単語だけは何故かしっかりと聞き取ってしまう。


「許せませんわ!ワタクシは貴女に決闘を申し込みますわ!えっと・・・。」


「私はエル=ヴィオラ。いいわね、しましょう決闘。私こそ、貴女の性根を叩き潰してあげるわ。」


エルはニコっと笑って告げる。

後ろから皆のため息が聞こえたが、エルは聞こえなかったフリをした。


「では私めが審判をさせていただきます。」


アニスがそう言って前に出る。


「貴女は・・・、宮廷メイドのミス・ブラッドボーン。」


「お久しぶりですね、アースリウム様。

この決闘、我が主エルオーネ様に誓い、正々堂々と仕切らせていただきますね。」


アニスは挨拶もそこそこに、中庭に移動しながら、そう告げる。

そう、そこが舞台であると無言でいっているのである。

エルとリリエルは1度視線を合わせたのち、アニスに続いた。


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