第五話 【魔法学院の授業】
1年生は200人おり、40人編成で5クラスに分けられる。
この5クラスにはそれぞれ名前がつけられており、獅子・蠍・鷹・鯱・桜がエンブレムとなって、腕章が各自に配布される。
モチーフの由来は、ランティス学院の創設者の5人の家紋から制定された言い伝えられているが、創設家は既に断絶してから数百年経過しているため、真偽はさだかではない。
エルたち一行はみな桜のクラスに編入されたようで、桜のエンブレムが腕章に刺繍されている。
このクラス編成の主な役割は、少人数で受ける講義や実技などで効率的に人数分けを行うことと、クラス分けをすることで競争性を取り入れ、より優秀な魔法士を育てることである。
また、実技などでは、実際に魔法を行使することもあるため危険が伴う。生徒たちの管理や事故防止の対策のため、人数を絞るということは教える側にも大変メリットがあったりもするのだ。
エルたちの最初の講義は魔法史だ。
魔法史は魔法世界の歴史だけでなく、魔法の成り立ちや魔法についての細々なことなど、座学が多い科目である。
毎年初日はクラスの担当教師が講義するのが習わしになっていたりする。
教室は半円型の形になっており、円の中心側に黒板と教壇が置かれ、生徒の席は放射状に段々になっている。
エルたちは教室の比較的中心寄りに陣取り、前後の座席に座る。
他の生徒たちも好きな席に座り、これから受ける授業の準備をしたり、雑談をしていた。
「はい皆さ〜んおはようございま〜す。」
明るい挨拶をしながら、教室に若い男性教師が入室してくる。
「私が桜の担当教師になりますミハエル=ラインで〜す。
まぁ、担当教師といっても〜、このクラスを統括するという意〜味だけで、それ以外に特にすることもございませんが〜ね。」
杖型の魔導具を取り出して、右手を素早く振るうと、炎の文字が名前を綴り、空中に浮かび上がる。
「と、ホントは言い〜たいところなんだけどね〜。
とりあえ〜ず、この講義だ〜けは担当教師であ〜る私がやらな〜いとい〜けないんだよね〜。
あー、めんどくさ〜い。」
ミハエルはめんどくさそうに、何もない空間から一冊の本を取り出す。
「と〜りあえず皆さんもすっご〜いめんどくさ〜いけど〜、教科書開いてお〜くれ。」
「どうも調子狂うわね、あの教師。頭湧いてるの?使えるの?」
「・・・エル、彼は【風切羽のライン】と呼ばれ、あれでも王国でも高名な魔法士の一人ですよ・・・。」
エルの言葉に、アニスもため息をつきながら答えるが、少々刺がある言い方である。
「風切羽と言えば、陽光位ってことね。
そういえば、エステルが扱い辛いって前に言ってたっけ。」
エステルとは、エルの妹であるエスティリーゼの愛称であり、齢13にして、王国の軍備を預かる王女である。
その妹が過去に【風切羽のライン】は、戦略で使いづらいと言っていたのをエルは思い出した。
そんなエルをつゆ知らず、他の生徒たちは、アニスの言うミハエルの高名をよく知っているためか、彼のふざけた態度を見ても緊張が隠せない。
「魔法とは、自身の魔力または世界に満ちーる魔力を用いて世界に干渉すーる力です。
干渉の仕方は様々ですが、それを叶えるた〜め、魔法士は魔導具と詠唱を利用することで〜魔法と成すわけですね〜。」
杖型の魔導具をもう一度振るい、ミハエルは火、水、風、土、雷のエレメントを顕現する。
そして、魔法のエレメントについて小一時間ほど話が続き、エルは途中で力尽きた。
「エル、大丈夫?ライン先生がチラチラと貴女のこと見てたわよ。」
次の魔法工学の教室までの移動中、リズが心配そうにエルに声を掛ける。
授業初日から机に突っ伏して居眠りを初めるのは前代未聞だと、ライン先生が遠回しに言っていたとのこと。
「授業中に居眠りってさ、ちょっと憧れだったんだよね、私。」
「いやー!僕やオリバーですら寝てないのに・・・、ヴィオラさん大物だわ。」
「悪いんだが、さすがに俺だって、初日に寝るつもりはないぞ、レンジ。
一緒にしないでくれ。」
肩を組もうとするレンジの腕を避けながら、オリバーが不満そうに言う。
いーけーずーと言いながら、レンジはオリバーから離れていった。
「にゃはー、ノー君とマー君の禁断の愛は叶わなそっすね〜。」
「そこ、勘違いされる言い方をするのはやめろ!
それと何だ、その呼び方は!」
「んん?
ああ、これはあたしの親愛の証っすよ!
別に他の考えてもいいっすよ。」
「・・・普通に呼べないのか?」
「却下っす!」
メリッサは親指をビシッと立てて宣言した。
「はいはい、次の授業遅れちゃうから、バカやってないで急ぐわよ。」
何か言おうしたオリバーの背をリズが押し、やり取りを無理矢理終わらせたため、オリバーのあだ名はノー君で決まったのだった。
ランティス魔法学院は、かつてこの辺り一帯を治めた大貴族の居城であったため、敷地だけでなく校舎もかなり大きい。
そのため、教室の移動の際にモタモタしてると間に合わないなんてこともある。
広いだけならまだマシなのだが、かつての生徒たちが残したイタズラ魔法も残っている区画もあり、ハマれば1日抜け出せないなんてこともあり、毎年1年生の何人かは餌食になっていたりする。
これからエルたちが向かう魔法工学の教室近くには、そういった危ない区画はないが、非常に遠い。
最初の授業が3階の北東側であったが、魔法工学の教室は1階の南西側だ。
担当教師の工房も兼ねているため、魔導具を製作したらすぐに外でぶっ放したいという思惑から決まったのだが、職員以外は誰も知らない。
「魔法工学とは!即ち愛!!」
つなぎに裾がボロボロの白衣をまとい、ゴーグルをつけた女性教師が自己紹介をする間もなく叫ぶ。
顔や白衣のところどころが黒く焼け焦げており、得も知れぬ不安が周囲を包む。
ここには桜と鯱の2クラスがいる。
「良いですか皆さん、現代の魔法士の戦闘に詠唱などしてる暇はありませんよー。
そんなことしてれば死にます!
戦闘において、魔導具こそ全てなのです!そんな自分の命を預ける恋人に愛が無くてどうするのです!!
つまり、魔導具こそ愛の結晶・・・であり、魔法工学って・・・、真なる愛なのよ・・・。」
生徒たちを前に持論を広げ、右に行ったり左に行ったり、たまにクルクル回転したり、落ち着きがない。
「申し遅れました。
私こそは愛の理、魔法工学の伝道師、ファルウラム=スウ=ラムエットでぃす!
ささ、皆さん座学なんてつまらないものなどではなく、愛を感じあいましょう。」
教壇に置いてあった分厚い本を投げ捨て、ラムエットが叫ぶ。
生徒一同どうすればいいのかわからず、完全にフリーズしてしまう。
「なーにをしてるのですか!
さぁ、みんな魔導具を使った愛の実演をしますよ!」
ラムエットが指を鳴らすと、壁の一部が開き、外への出入口ができる。
ラムエットが新しい魔導具を開発したときに使う専用の演習場だ。
「さぁ、みんなこっちよ。」
ラムエットの指示で、エルたちは外の演習場へ出るのだった。