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第二話 【王女、エルオーネ=ヴィントヴィオーレ=イノセンスフィア】

王女エルオーネはイノセンスフィアの第二王女として、この世に生を受けた。

彼女が産まれる日は、猛烈な勢いで雨が降っていたのだが、彼女が産まれる直前に雨は止まり、外は月や星の光に照らされていたという。

そんなことから、臣下達からは第一王女の【陽光の姫】と呼ばれるティターニアと合わせるように、【夜光の姫】という二つ名を親しみを込めて贈った。


生誕直前より、王家直轄の神官によって見定められていたエルオーネの才能は、5歳になる頃には本格的に開花を初めていた。

それまではあくまで偶然の事故も多かったのだが、この頃になると意識して魔法を行使することが増え、生来の悪戯好きな性格が合わさり、使用人などの周りの人間の頭を抱えさせることが多かった。


「マーサ、見て見て!すっごい綺麗でしょ?」


城内の中庭にある花畑の中、鮮やかな金髪が映える純白のドレスを着たエルオーネは、自身を中心にして風の魔法を螺旋状に起こしていた。

そうして、吹き上げられた花弁が色鮮やかな竜巻をつくる。


「いけません、姫様ー!

花畑の花が無くなってしまいますー!」


やや太り気味の使用人マーサは、エルオーネの起こす風に吹き飛ばされそうになりながらも、なんとかエルオーネに声を掛ける。


「そぉー?折角綺麗なのになぁ。」


諌められたエルオーネは風をピタリと止め、次に右手を振るうと、激しい風で無惨に舞い散った花畑が再生していた。


詠唱も道具も使わず、当たり前に発動された魔法は、彼女の意思を寸分違わず具現していた。


魔法は一般的には、詠唱または魔導具を使用することでその効果を発揮すると言われている。


しかし、細かく言うと魔法は使用者の魔力の注入量とイメージにより、世界への顕現を果たす。


だが、発動するに相応しい魔力量の制御とイメージの構築を同時に行う必要があるため、なかなか至難の技である。

そのため、魔法士は一般的には詠唱や魔導具を利用し、必要魔力量以外のイメージなどの部分を補完するのである。


このことから、エルオーネのように無詠唱かつ魔導具を利用しない魔法士は稀有な存在であるし、他の魔法士からも恐れられる存在である。

準備をすっ飛ばして、いきなり魔法が飛んでくるのだ。これには王城内の魔法士たちはみな度肝を抜かれた。


「これでよし!っと。」


魔法の発動後、エルオーネは周囲を見渡して、花畑が元に戻ったことを確認する。


その中、先程には無かった書物が彼女の足元に落ちていた。その書物を拾い上げ、マーサに手渡す。


「これは何だろ?マーサわかるー?」


「どれどれ・・・。」


受け取ったマーサは、パラパラとページをめくる。


「エルオーネ様。

これは書物のようですが、城内では見た事のない文字で書かれているようです。

それと何故か、表紙に愛らしい女の子が描いてあるのが疑問ですね・・・」


その書物は見た事のない文字で書かれていた。


「変な本ね。中身は異国の文字かな?中身がなんて書いてあるのか、すっごい気になるの!読んでみたいわ。」


「ふむむ〜困りましたね〜。

そうですわ、これを神官長様にお持ちになってみてはいかがでしょうか。

博識な彼女でしたら、エルオーネ様に何かしらお伝えできるやもしれません。」


少し考え、マーサは王城内に居る神官長ベロニカに思い至る。

イノセンスフィアの魔法士の中でも指折りの実力と知識を持つ人物だ。


「良いアイデアね、マーサ。

早速、ベロニカのところに行ってみる。」


エルオーネはマーサから書物を受け取ると、神官長ベロニカがいる城内の神殿へと走り出した。





中庭から王城内に戻り、長い廊下を駆け足で進む。

何度か城内で働く従者たちや、口うるさい役人たちを振り切りながら神殿へ向かう道中、エルオーネは1人の少女と出会う。


ウェーブのかかった金髪に赤いドレスの着た3つ上の姉だった。


彼女はイノセンスフィア王国第一王女、ティターニア=ヴェルヴィング=イノセンスフィアだった。


「エルオーネ、そんなに急いでどうしたの、また変なことでも始めたのかしら?」


ティターニアは馬鹿にしたような笑顔で、エルオーネに言う。


「いきなり失礼ねティータ姉様!

ふっふーん!私ね、面白い書物を見つけたのよ!

これね、この国とは違う異国の言葉で書いてるの。」


エルオーネは両手で書物を持ち、姉にこれでもかと見せつける。

ティターニアの方は、書物の表紙の露出が激しい女の子の絵を見て怪訝な顔をして言う。


「ふーん、異国の言葉ねえ〜。私はあまり興味ないわ。

っていうか何?表紙が気持ちを悪いんだけど。

あんた大丈夫なの?呪われるんじゃない?」


「べー!呪われませーん!!

でも私は中身が分かればいいから、呪いなんてへっちゃらよ。

私の魔法で消し飛ばせばいいんだから!

じゃあ行くわね、姉様。」



話もそこそこにして、エルオーネは姉と別れ、神殿へとたどり着いた。


豪華な装飾で彩られた大きい扉を押し開けると、そこは静かで荘厳な雰囲気の場所だった。


神官長は壇上の祭壇の前で片膝をつき、両手を胸の前で組み、神へ祈りを捧げている最中だった。



「ごきげんようベロニカ、今時間いいかしら?」



「これはこれは、エルオーネ王女殿下。

私めに何か御用でしょうか。」



祈りの最中であったにも関わらず、神官長ベロニカは立ち上がり、エルオーネに振り返る。

その顔には優しい色が浮かび、駆け寄ってきたエルオーネと同じ目線にするため、再び片膝をついてしゃがみこむ。



「私、この書物の中身が知りたいの!

マーサが、ベロニカなら読めるって言うから持ってきたの。」



ベロニカはエルオーネから書物を受け取り、中身に軽く目を通すとエルオーネに視線を戻し言う。



「殿下、見た事のない書物のようですが、これをどこで見つけられましたか?」



「中庭の花畑よ。

風の魔法で花吹雪をつくって遊んでたんだけど、いつの間にか足元にあったの。」



「左様ですか・・・。

そう言えば副神官のザイルから、殿下が先日噴水を消し飛ばしたとお聞きしてますが・・・、また何か違う魔法をつかいませんでしたか?」



少し考える仕草したのち、ベロニカは笑顔で、エルオーネがやらかした事案を持ち出しつつ、聞き取りをする。


これは並外れた魔力を持つエルオーネに、正しいコントロールを教えるため、神官たちが王命によりエルオーネに魔法を教えているがためである。王城内にいる神官たちは皆オーブ以上の位を持つ優秀な魔法士たちである。


中でもこの神官長ベロニカは、16歳という異例の若さで、魔法士の七位階の上から3番目である【陽光位(ソレイル)】に至った魔法士でもあった。


なお、現在は25歳になり、【陽光位(ソレイル)】の1つ上の【煌光位(グランツ)】の魔法士であり、4年前にグランツを戴く際に神官長へ抜擢された。


この位階は、この国でも10人もいない魔法士である。

なお、だいたいの魔法士は四~六位階止まりだったりする。


「うーん・・・。あ、そうだ!

ちょっと吹き上げる風の威力を上げるために、空間を捻じ曲げてみたわ。

これが、だいぶ凄くて。風の力が一気に強まったの。」


自身の魔法を振り返り、エルオーネは悪びれなく報告する。


(あー、これが原因ですね…。

捻じ曲がった空間が、どこかの異界に微かに繋がったのでしょうね…。

というより、何故空間を弄るという発想に至るのでしょうか?)


ベロニカはポーカーフェイスのまま、エルオーネの思考に薄ら寒さを覚える。


「殿下、この書物はおそらく異国ではなく異界の書物と思われますわ。

(わたくし)めが解読してみますので、お預かりさせて頂けますか?」


「異界?よくわかんないけど、ベロニカなら捨てなさそうだし、いいよー。

その代わり、分かったら読み方教えてね。」


「承知いたしました。

ああ、それと殿下、空間を弄る魔法はこれ以上使わないようお願いいたします。

とっても危険ですので。」


「ベロニカがそう言うなら、気をつける。バレたらお父様に怒られそうだし・・・。」


先日の噴水消失事件で、国王である父親に大目玉を食らったエルオーネは、あっさりと忠告を受け入れた。


のちほどわかったことだが、この異界より紛れ込んだ書物の内容は、とある女王により異世界から召喚された勇者が圧倒的な力で世界を救いつつ、道中出会う美少女たちとロマンスを紡ぐという物語であった。



つまりラノベだった。



このラノベとの出会いが、化け物じみた魔法の力を持つエルの生きる方向性を間違いなく変えたのだった。

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