表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メカ令嬢とメイドロボ  ~ ニルヴァーナの宝珠  作者: 洞窟王
第一章 モーカムへの旅
9/24

史上空前の横領事件 ~ あれは人間ではない

※ 史上空前の横領事件


「今日こちらに参りましたのは、シャルロットさんの事でお話があるからです」


そのデリアの言葉にライオネルはどこか嘲りを含んだ視線を投げ返す、デリアの背中に悪寒が走る、ライオネルの目を見たくないのだ。


「実は吾輩が博士にお会いする気になったのは、シャルロットの事もあるが、あなたの共同研究者のヒギンズ博士に関して極めて重大な問題が発生したので話し合いが必要になったからです」

ライオネルは貴族的で尊大な雰囲気を持ってはいたが、急にそれが酷くなりはじめた、何か怒りを感じているような態度だがそれすら違和感しか感じない。


「ヒギンズ博士がどうかされましたか?」

「まだ表沙汰になってはいないが、ヒギンズ博士は我輩の財団の資金を横領したのだ、それも尋常(ジンジョウ)では無い額だ」


(なんだって!!博士が横領だと?信じられん!!本当なのか?学者にそんな事ができるのか?)

デリアは付き合いの長い知人の犯罪容疑に動揺し混乱した。


「さすがに驚いているようだな、貴女がここまで驚くとは想像がつかなかった」

「ヒギンズ博士がそのような人物とは思えません!!」

「私も驚いたくらいだ、だが彼はやってのけた、それどころか彼はあちこちで膨大な資金を不正に手に入れている、私はその対応で欧州中を駆け回っていたのだ」


「彼はその金で膨大な資材と器具類を購入しどこかに運び去った、ダミーの貿易会社をいくつも作り、中古船をかき集めリスボンに本社のある海運会社まで作っていたのだよ、とても学者にできる事ではない、大規模な組織的犯行だぞ、恥ずべき事だが我輩の会社や財団の内部で協力していたと思われる連中も消えた、まったく訳が分からん」

ライオネルは応接机を強く叩いた。


デリアは唖然として何も言えなかった、信じられない以上に、博士は何者かに利用されていると確信しはじめていた。

「どのくらい横領したのでしょうか?」

「驚いてくれたまえ!!吾輩の関係だけで78万ポンドだ、すべて合わせると600万ポンドは越えているはずだ」


「そんな事はありえん!!博士がそんな大金を何に使うんだ?」


「バークマン博士!?口調が変だぞ?冷静になりたまえ」

「すみません、つい取り乱してしまいましたわ」

「貴女を責めているわけではない、ただヒギンズ教授を窓口としていた研究支援はもうなくなる、それだけは了承して頂く」


(横領が事実なら支援は打ち切られる、しかし600万ポンドともなると軍艦が何隻も買える額だぞ?高額の研究支援の打ち切り話とはいえ、公式発表が近いのかもしれないが、私にそんな重要な話をして良いのか?)


「公的機関の関係者が捜査の為に貴女の所にも行くだろう、我が国の歴史に残る、いや国際的な規模の横領事件だからな」


(ああ、そういう事か私は既に重要参考人なのか)


「ええ、大変な事になりましたね」

「吾輩は大変どころではないぞ、この蒸気力財団の存亡の危機どころか我輩の事業本体すら危ういわ!!」

ライオネルは再び机を強く拳で叩く。


そんなライオネルが激昂している様をデリアは眺めていたが、デリアはいつもライオネルの感情が作り物めいた何かである、そんな感覚から逃れられなかった、このようなシュチュエーションならこう振る舞うべきであるからそう振る舞っているに過ぎない、いつもそう感じてしまう、世の中には処世としてそう振る舞う者もいるが、そんな連中からは下心を知覚できるし非常に人間臭い。

ライオネルは本質的に異質だった。


(私がライオネルに感じているモノは何だ?喉まで出かかっているのだが出てこない)


(これでシャルロット嬢の話は完全に飛んでしまったな、もう一刻も早くここを立ち去りたいだけだ)


「ああそうだった、我輩はシャルロットを密かに療養させていたのだ、その場所を博士にお教えしよう、面会も問題無いと医者が診断したのでな、貴女も娘の事が心配だろう?」

「はい、ですがこの事態の急変で研究の見通しが立たなくなりましたから、その事を合わせてシャルロットさんと話したいと思います」

「娘は繊細なところがあるのだ、慎重にたのみたい、吾輩は多忙で当分は戻ってこれない」


それは娘を思う父親の姿のはずなのだが、デリアはあまりにも疲れていたため、いくつかの疑問を取りあえずは仕舞い込み退出する事にした。



(ヒギンズ博士いったい貴方は何をやっているのだ?)





※ チィープチップス


インド大魔術団の焦りをよそに、エルマー達はウッドベリー公園から僅か半マイル先の駅のロータリーで新聞を購入していた。

「エルマーついでにオヤツ買って来たわよ」

イサベラはホカホカな揚げ物を包んだ紙袋をエルマーに手渡す、だがエルマーは微妙な表情でそれを一瞥したが。

「イサベラありがとう」

と微笑んで受け取った。


「ご主人様ご無理はなさらないように・・油が強くて胃に来ます・・」

後部座席からボソボソ声がする。

「大丈夫だよルル、ははっ」

「ルル?私の買って来たものにケチを付けないでよ?」

「油が強い物を食べると眠くなります、安全運転第一です」

エルマー達はスマイリーサーカスの緑の馬車が近くの路上に止まっている事に気がつく事はなかった。


「さーてそろそろ出発するよ!!今回の旅は大都市は避けて進むからね」

「えっ!?どこ通るの?」

「バーミンガムやマンチェスターを避けるコースだ」

あからさまにイサベラが落胆した、大都市見物をしたかったのだろう。

「その代わりに自然が綺麗な所を通るよ」

イサベラはロンドンの鉛色の空を一瞥してから

「ええ、それは嬉しいかしら?」

エルマーにはイサベラの穏やかな表情から彼女が喜んでいるように見えた。


そして自動車は再び北に進み初める。



※ 追跡者


神の目線があるならば、エルマー達の自動車の約200ヤード程離れた後から、緑に塗装された大型の二頭立て箱型四輪馬車が追走しているのが見えるだろう。

観察力の優れた者なら、その馬車が大きさの割に随分と軽快過ぎる走りをしている事に疑問を感じるはずだ、それは早く軽く静かに街道を疾走していく。

馬車にはスマイリーサーカス団の記章とピエロや空中ブランコの絵が描かれており、沿道の子供達がたまにそれを目撃し歓声を上げる。

自動車は時速20マイル程の速度で進んで行くが、馬車はその自動車に振り切られないだけの速度を維持しながら距離を保っていた。


そのサーカス団の馬車の中に12人程のインド大魔術団の団員が窮屈そうに詰め込まれていた。

御者のドルーブを含めると13人になる。


「アクシェイ様、いつ奴らを攻撃しますか?」

アクシェイが何事かと声の主を見た、それは身長2メートルはあろう大男だ。

「やつらが目的地に着くまで泳がせる、奴らの行き先に協力者や別の『涅槃の宝珠』が有るやもしれぬ」

「たしかに」

「そこが目的地か奴らの家かは解らんがな」


「まずは奴らを少しでも知る必要がある」

「ダーシャ殿、こちらに来ていただきたい、宝珠に関して今の時点で判っている事をどんな小さな事でも良いから教えてほしい」

ダーシャは馬車の前方にいたが、アクシェイのいる後部に移動してきた。

「はいアクシェイ、宝珠を二つ感じる事ができます、宝珠の場所ですが自動車の後部座席あたりに左右一つずつ、私の知る宝珠と随分様子が違いますわ、感応が不安定でまるで嵐のようなざわめきを感じます」

「そうか『涅槃の宝珠』に関しては俺から言えることは少ない、導師達の判断にまかせる」

ダーシャは少し小首をかしげ何か考え込む、その可憐な姿にアクシェイは一瞬見とれたが気を取り直し。


「ここからでは自動車の中が見えない、奴らが休息をとったら前に出る、そこで馬車を隠して奴らを観察する、奴らが動き出したらやり過ごし追跡、これは何度もできない一度だけだ」

団員達はアクシェイの言葉にうなずいた。


「さてダーシャ殿、今できる事からやっておきたい、貴女が宝珠に感応できる限界の距離を今の内に掴みたい」

「そうですね協力いたします」

「ではドルーブに自動車との距離を調整させながら調べよう」



※ モーカムのニュース


イサベラは車の助手席でさっそく買ってきたディリー・チープチップス・ニュースを楽しんでいた。

「ねえねえ見て!!モーカムの事が出ているわよ?」

「なんだって!?どんな内容なんだい!!」

「ええっ?エルマーが興味を持つなんて珍しいわね?」

エルマーはこの新聞を信用などしていないが、目的地のニュースである事、父の親友の事で気がかりな事があったので興味を持ったのだ。


「『海からの侵略者現る』だって」

イサベラが大喜びで解説をはじめた。

「えーと、モーカム周辺で得体のしれない化物が出没していて、家畜やペットが襲われたと言う話よ、海からやってきて海に帰っていくらしいわ、浜辺に得体の知れない足跡が沢山残っていたそうよ、関係筋の話として火星人がモーカム沖の海底に基地を作って地球侵略を企てているんですって」


「まったく下らない話ですね、イサベラ様もそのような新聞を卒業して知的な高級紙を読むべきです」

後部座席からまたボソボソと声がしてきた。

「イサベラあとでそれ読ませてもらうね」

「ええ、いいけど?」

イサベラが意外そうな顔をしながらも、エルマーの反応から何か不安を感じ初めたようだ、イサベラの表情が少し硬くなる。

「何か気になることがあるのね?」


「イサベラちゃん私も読みたいですわ」

ブリジットがモゴモゴと発声し難そうに話しかける。

「お嬢様、後で少しお緩めいたします、しばらくご辛抱ください」



2時間ほど自動車は走り小休憩をとる、ロンドン市街は遥か後方になり田園地帯の真ん中だ。

エルマーはガソリンを自動車に給油しはじめた。

その時、緑の馬車が街道を通過していったが誰も気にも止めなかった。


「もう空っぽなの?」

「常時、満タンにしておきたいんだ、あとガソリンを車の荷台に積んで置くのは気分の良いものじゃあないからね」

後部座席ではブリジット達が新聞を読んでいる。

「いやね腰が疲れた(お尻が痛い)から少し散歩するわよ」

「あまり車から遠くに離れないでイサベラ」

イサベラは背伸びをしたり身体をほぐしている、雲の隙間から陽が射し美しい田園風景を照らす。

「だいぶ空気が良くなってきたわね、ここはどこらへんなの?」

「たぶんノーザンプトンの南あたりだね」


給油後にエルマーは運転席に戻り一休みする。

「ブリジット、新聞を読んだら僕に貸してくれないか?」

「ええ、私はもういいわ、ルルちゃんは?」

「私は下品な新聞は好みでは無いようです」

「ところでエルマー、そんな記事が役に立つの?」


「そうだね、こういう記事は宇宙人の部分が余計なんだ、謎の関係筋を出して人々の興味を引きそうな話を盛っている、重要な事は家畜やペットが襲われる謎の事件が起きていると言う部分だけなんだ、余計なものを抜くと役に立つ情報が現れる事もある、権威のある新聞は曖昧な事件や噂の域を出ないニュースは初めから手を出さないからね」


「関係筋が宇宙人の侵略と言ったのは事実かもしれないし、嘘つきなのは関係筋ってことになるのよね?」

エルマーはイサベラを残念な娘を見るような目で眺めた。

「私にも関係筋が欲しいわ、何を言っても関係筋のせいで済むのに」

エルマーはイサベラのチョッピリずるい部分を改めて認識した、イサベラならディリー・チープチップス・ニュースの編集員とか喜んでやりそうだと思ったのだ。


「じゃあ進もう」

イサベラが助手席に乗り込むと、自動車は再び北に進み始めた。



※ あれは人間ではない


その休憩中のエルマー達を監視する者がいた、彼は完璧に気配を殺し動揺を隠しながらエルマー達を観察していたのだ、やがて自動車が動き始めると影は緑の馬車に戻る、そしてその馬車もまた動き始めた。


「まず奴らの構成をのべよ」

「あっ、はい・・」

「どうした?」

「まず前席に男が一人、女が一人、男は白人で30歳前後で運転手、女も白人で15歳程、ここから非常に言いにくいのですが、見たまま感じたまま報告する事をお許しください」

「・・・それで良い、見たまま感じたままで良い、何を言ってもお前を責めない」

「ありがとうございます」

「後部座席に、子供のような女性と布で巻かれた物体が座席に座らされていました、女性は非常に整った美しい顔立ちの様に思えましたが、帽子を深く被りベールを垂らしており詳しくはわかりませんでした」

『子供のような女性』と『女性は非常に整った美しい顔立ち』と言う表現に団員の表情が何とも言えない物に変わった。


「布で巻かれた物体は時々動き、腕があるようで、新聞を読んでいるようでしたが、人間には見えませんでした」

「人間に見えない!?」

「自動車の幌があるため後部座席は外からは大変見にくいのですが、前席の二人が降りた僅かな時間の間ですが観察できました」

大魔術団の者達は声もなく沈考している、偵察で信用を積み重ねて来た男の証言なのだ。

「生き物と言うより、鉄のような金属の肌で目が異様なまでに光輝いていました」

「なんだとそいつは本物の化物ではないか!?」

大魔術団の中から誰かが叫んだ、その声から怯えすら感じ取れる。


「あと子供のような女性ですが、直感ですが非常に人間離れした何かに思えてなりません」

「ダーシャ殿は宝珠を自動車の後部座席に左右一つずつ感じられたそうですな」

ダーシャは馬車の前の方に位置を占め、前方の窓から自動車を監視していたが、後ろを振り返り。

「そのとおりです、今も感じられます」

「後部座席の二人が身につけている可能性が高いと言う事だ」

大魔術団のメンバーはそれに頷く。

「さて、奴らはかなりの役者のようだ」


疲れを知らぬ馬に引かれる緑の馬車は不可思議な速度で静かに自動車を追跡する。




( ´_ゝ`) 戦艦三笠120万ポンドになります

J( 'ー`)し やったね平八郎!!これで敷島型5隻ふえるよ!!

∩( ・ω・)∩ 帝国海軍ばんじゃーい

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ