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メカ令嬢とメイドロボ  ~ ニルヴァーナの宝珠  作者: 洞窟王
第一章 モーカムへの旅
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喜劇の始まり ~ ウォースパイト蒸気力財団

※ 喜劇の始まり


それは僅か数分前の事、イサベラ達がウッドベリー公園脇を通過した時のことだ。


「バラトあれを見よ、あの自動車だ!!」

バラトと呼ばれた男は、呼びかけた男が指差す自動車を視線に捉えた、すでに仕事に向かう人々が道に溢れ始めていたが、道路上にその車一台しかいないのだから見間違える事はない。

「どうしたラケス、あれがどうかしたか?」

バラトは普段冷静で物静かなラケスから激しい動揺と興奮を感じとり驚いた。


バラトは初老の男で痩身で僧侶のように無髪で僅かな白髪が頭の後ろに申し訳程度に生えている、ラケスは対照的に雪の様に白い長い髪と長い髭の高齢の男性でまるでヒンズーの行者のように見えた。


「あの自動車から『涅槃の宝珠』の大きな力を感じた」

「なに!?本当か?こちらに来て初めての接触になるぞ」

「どうする相手は自動車だ、あっと言う間に遠くに行ってしまう」

バラトが団員に指示を出しはじめた。

「アクシェイ!!人数を選び追跡しろ!!大型の輸送馬車を使うんだ、宝珠に感応できる奴を入れる、そうだダーシャが良い、あとお前のチームも連れて行け、あとドルーブだな奴は英国人とのハーフで英語も堪能だ」

アクシェイがこれに答え矢継ぎ早に追跡隊の編成を初めた。


彼らは正しくスマイリーサーカス団が誘致したインド大魔術の一行だった、彼らが慌ただしく駆け回る中、周辺にいるスマイリーサーカス団の関係者や作業員達は何事もなかったかのように働き続けている。

そしてインド大魔術団一座も彼らに何の関心も抱いていない事は明らかだった。


無関係な者がそれを間近で見ていたならば、生ける亡者が与えられた仕事をこなしているだけならまだ納得できたかもしれない。

スマイリーサーカス団の者達は、管理者達は仕事の打ち合わせを行い進捗の遅れを憂慮し計画を修正しようとしていた、会計士達は従業員の給料の計算に気を悩ませ、現場監督は遅刻者を叱責し、業者からの仕入れを受け取りサインを記入し、作業員達は雑談しながら鼻歌を歌いながら楽しげに仕事をしている。

その日常から遊離した彼らは果たして現実の姿なのか疑った事だろう。


「ダーシャ様が来ました」

ラケス達の前に進み出てきたダーシャは10代後半と思われる女性で肌が浅黒くそして額にビンディを付けている。

「先ほど『涅槃の宝珠』の力を感じた、お前は感じたか?」

「先ほど一瞬でしたが強く感じました、電撃が右から左に流れる様な感覚、今も移動する力の源を感じる事ができます、すぐ導師様に呼ばれましたので何が起きているか理解できました」

「さすがじゃ、感応力に関してはワシよりもお前の方が優れておるからの、バラトから指示があったと思うがアクシェイの指揮下に入って宝珠を追跡してもらう」

「かしこまりました導師様」

「お前がいなければ見失ってしまうだろうて」


そして素早く編成された追跡隊の前にラケスが進み出る。

「お前たちは単に敵を葬り宝珠を取り戻すだけでは役目を果たせない事はわかっておるはずだ、我らは主を喜ばす為、その生も死も捧げ無くてはならない、この世は総てが舞台、お前達は最高の舞台を作り上げなければならない。

迷い、混乱、安心、笑い、喜び、怒り、恐怖、その総てが我が主への捧げ物となるのだ、観客はただ一人我が主のみ、敵すら舞台の道化回しにすぎぬ、さあ行け!!我らインド大魔術団の総力を上げて、最高の楽しみを魅せ捧げるのだ!!」







『やっと最初の宝珠に巡り会えたようだ』

『ああ、奪略者が奪いし涅槃の宝珠の一つが見つかった』

『まずは一つでも良い必ず奪い返すのだ』

『奪うには力がいるが、力を得るためには奪わなければならない、難儀な事よ』

『残された猶予は残り少ない、無理をせねばなるまい』



※ ウォースパイト蒸気力財団


テムズ川の対岸にロンドン塔を望む中心街の一角、

石造りの重厚なサビオスセンタービルの前でデリア=バークマン博士は立ち止まった、ここに『ウォースパイト蒸気力財団』が入居している。

「ライオネル氏もやっと戻ってきたようね、今まで何をやっていたのしら?」

と独り言を零した。


玄関をくぐると、正面の壁に巨大な大理石のレリーフが飾られている、財団の思想を刻んだ文字らしいが、デリアは今までその思想に関心を持った事が無かった、

これは彼女の欠点で関心の無い事には徹底的に無関心なのだ。

だが今は蒸気力財団に少なからず関心を持っている。


【蒸気力は未来を開く、往復運動を旋回運動に変えて、世界を回そう地球を回そう、蒸気力は走る、力強く走る、希望を乗せ夢をのせ、歓喜の力で力行せり】


(うーむ、何んだこれは詩なのか?)

デリアは顎に指を当て小首を傾げた。


そして受付に向かい理事長との面会要求をしたが、受付はデリアの顔を覚えているようで。

「バークマン博士おはようございます、理事長は先ほど参られて理事長室におられます」

「あらケントさんおはようございます理事長室にこのまま行って大丈夫かしら?」

「はい、すでに理事長はご存知です」


(私は感じる事ができるぞ、君が理事長に感じている負の感情を、まあ私に対する感情は許してあげよう)


デリアは2階の理事長室に向かうため階段を昇り初めた、壁や中階に飾られている絵画や彫像に意識を巡らす、今まで目に入っていたが意識していなかったのだ、これらから得られる情報もあったかもしれないのに無関心だった事を反省する。


理事長室の前まで到達すると呼吸を整えドアをノックする。


(さて気を確かに保たないと、理事長と面会すると精神的な消耗が激しいからな)


ドアを開けたのはデリアも顔なじみの理事長の陰気なアフマドと言う名のエジプト人秘書だった、理事長がエジプトの考古学に関心があり、それに関する学術財団の設立に関わってそこから召し抱えるようになったと聞いていた。

「理事長がお待ちですお入り下さい」

その陰気な男がデリアを理事長室に招き入れる。


(この男を見る度に私も最悪な気分になる、他の誰かに替えてもらえないだろか?)


理事長室の重厚な机の前に座っていた理事長が立ち上がりバークマン博士を迎えに歩んできた、それは自然な応対のはずなのだが、デリアは内心では後ろに下がりたかった。


「おはようございます、ライオネルさんお久しぶりですね」

「おはよう、バークマン博士、色々と多忙でね、ご迷惑をおかけした」


蒸気力財団の理事長ライオネル=ウォースパイトは、40台の壮年の男で大富豪で幾つかの財団を設立し運営している。

だがこの男はデリアにとっては恐怖の対象だった、ライオネルが犯罪者で危険な男と言うわけでもなく、むしろ社会的には信用のおける一級の人物とされているのであるが。


まずライオネルの外見が問題だった、フランス人が描く戯画の中から抜き出てきた最悪の英国紳士のような姿をしていたのだ。

この男の個々の要素はハンサムな壮年男性だが、総ての要素が奏でる交響曲として悪夢の英国紳士像となってしまっている。


その上にデリアの特殊能力である『感情の力場』を知覚する能力が苦悩を増幅する、彼女自身の感情が知覚できないのは不幸中の幸いだが、周辺の人間の『感情の場』を知覚させられるのが苦痛だった。


ライオネル=ウォースパイトに抱く周囲の人間の『感情の力場』が彼女を苦しめる、それでもライオネル氏に対する単純な嫌悪感はまだ許容できるのだ、受付のケント氏のような感情はまだ人間的な反応だったからだ。


だが、ライオネル氏に接触した人物の中には、外見で人を判断しない自分を公正で知的に優れた人間として酔っている人物も数多くいて、そういう人物ほどライオネル氏を過剰に持ち上げ交友関係を誇る傾向にあった、デリアは内心では鼻で笑ったものだった。

多くの人はライオネル氏に険悪感を抱くが、外見で人を判断すべきではないと言う良識と、彼が一級の人物と社会的に認められている為、自分が間違っているのか人を見る目が無いのかと悩んでいるのが良く感じとれるのだ。


(『裸の王様』と言う寓話があったな、皆に言いたい事があるぞ、奴が嫌いなのは君だけではないんだとな)


だがこの陰気なアフマドの場合、ライオネルを信仰しているのだ、尊敬や信頼ではなく信仰している以外の例えが無い、それがデリアには耐えられない嫌悪感をそそった。


そして最大の問題が目の前のライオネルから『感情の力場』を感じる事ができない、それが最大の恐怖だった。そして彼の内面と言うものが理解できなかった、特殊能力に頼りすぎて人を見る目が失われているのだろうか、ライオネルと言う一個の人間をどうにも捉える事ができない。

これは彼の外見などより遥かに深い不安と恐怖を掻き立てる。


『感情の力場』が無い特殊体質なのか、ライオネル氏以外にも数多く存在するのか、この世でライオネルだけなのか、デリアには知覚できないが『感情の力場』は存在するのか、それを検証する術は今の所失われている、そして知覚する力を持っているのはたぶんデリアだけ、それが孤独をなお深めた。


その時彼女の全身を電撃が走りある可能性に思い至った。


自動人形達は『感情の力場』を知覚できるのか?なんで今までそこに気が付かなかったんだ?

知覚できる場合はエルマー達に隠している事になる。


思考力や精神がある自動人形達に『感情の力場』があるかどうか調べ確認したがそこは見落していたのだ。


「バークマン博士大丈夫ですか?顔色が悪いようですな?」

何か心配げにライオネル氏がデリアの態度を訝しんだ、

「いえ大丈夫ですわ、軽い貧血だと思います」

「ならば良いのですが、まずはどうぞそこにおすわりください」

デリアは応客用のソファーを進められ、彼女はソファーに身を委ねた、ライオネル氏と一定の距離が保たれるのでむしろ心地よい、今のデリアにはライオネルに『感情の力場』が無い事が恐ろしかったのだ。


(他人の『感情の力場』に入るのは今だに慣れないが、まったく存在しない恐怖は私にしか理解できないだろうな)


「今日こちらに参りましたのは、ライオネルさんの娘シャルロットさんの事です」



(´・ω・) ライオネルの外見は闇落ちしたアルセーヌ=リュパン 

それをフランス人のポンチ絵風味の悪の英国紳士にした感じだよ。


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