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メカ令嬢とメイドロボ  ~ ニルヴァーナの宝珠  作者: 洞窟王
第一章 モーカムへの旅
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幕間劇 ~ 探偵アンソニー・バリュー

我らの主の夢に物語を捧げねば

※ 幕間劇


【エルマー邸応接間】


デリアを見送った後、応接間に戻り、窓から旅行鞄を引きずりながら帰っていくデリアを眺めながら、イサベラはエルマーに向かって人差し指を文字通り突き出した。

「あの人いろいろおかしいでしょ?全部事故のせいなの?」

「いや昔からあんな感じだから」

「でもあんな事するなんて酷すぎるでしょ?」

「あんな事って?」

「ええ!?」

心の中を覗かれるようなマネされてなんとも無いと思っているのだろうか?

エルマーを拗ねたように睨みつけてやった。


彼はイサベラの視線から逃げるようにあちらの方を向いている。

「エルマー!!」

本気でわかって無いのかな?

「なんだイサベラ元気になったようだね?」

何を言っているのよ!?かなり脱力したわ、もういやね。


少し気まずくなったので。

「えー、そうねデリアさんはヒギンズ博士の教え子なの?」

「いやヒギンズ博士は僕と同じ工学だよ、デリアは物理学者、石の研究を始める時に昔からの知り合いだった彼女に協力を求めたんだ」

エルマーとデリアさんはその前から知り合いだったようね。


「僕は考古学や宗教や新種の鉱物情報や、父の軍隊時代の記録から宝石を追いかけていたんだ、宝飾品オークションは盲点だったな」

「考古学、宗教?」

「父の残したメモからね、意識的にぼかした内容でね、それでも廃寺院にあった仏像から持ち出したことぐらいはわかった」

「どこのお寺かわからない?」

「父の所属部隊の記録が驚くほど少なくてね・・わからない」


そこにあらかた片付け終えたルルが話に加わる。

「デリア様にお会いしたのは今日が初めてですが、あの方はまだ何かを隠しているようですね、あと彼女を尾行している人物がいるかもしれません」

「デリアが尾行されている?」

「はい不確定ですが」

「ルルどんな奴が尾行していたんだい?」


突然、ルルが壁の一点を見つめたまま固まった。

「ルル?」

ブリジットもルルが見ているのと同じ壁の一点を見つめているようだ、どちらかと言うと壁のはるか先を見ている様に思えた、だがそれも僅か数秒の事ですぐに向き直った。

「誰かに呼ばれたような気がしました、集音器にノイズが乗ったのかもしれません」

「ルルちゃん私も聞いたような気がしたわ」





【オークリーニューバネット街のあるアパートの一室】


何もない部屋で中年の男が粗末な三脚椅子に腰掛けている、イサベラのしょぼくれた隣人ボリスさんだ。

「俺はこのまま終わっていくのか?」


父親の遺産を食いつぶし無一文、投資に失敗したわけでもない、そういった冒険はしない人生だった、ただ人に嫌われたくない良く思われたいと生きてきただけ、それが寄生虫のような友達未満を数多く惹きつけたのだ、そして何もしない内になんとなく総てを失った。


もう売れる物はすべて売りつくした、残っているのは模造品の宝石が嵌められたネックレスだけとなった。


二人目の妻が去り際に残した言葉が刺さる。

「あなたが心の底から小説家になりたいと思っていたのなら、支えて生きてみたいと思ったかもしれない、でもそれすら無いのに貧乏に耐えられるわけないでしょ?」


「俺の人生はこの偽物の宝石と同じだな」

樹脂に色を付けただけの無価値な品と鑑定されたそれを手に。


「あいつの言葉を聞いたとき、俺がなぜ小説家になろうとしていたか思い出せなかった、忘れていたことに初めて気がついたんだよ、有りえないよな?そんな重要な事を忘れていた事すら気がつかないなんて、俺は今まで眠っていたのか?」


ボリスは乾いた笑みを浮かべた、彼の眼は暗く虚無を湛えていた。


突然、ボリスはきょろきょろと周囲を見渡しはじめた。

「なんだ? 誰かいるのか?」




【オークリーニューバネット街の路上】


「宝石はすべて使われたのは確かね、でも消滅したわけではない、ルル達にかなりの大きさの石が使われているのはわかる、これからがたいへん・・」

デリアはふと何かが気になったのか足を止め周囲を見回した。

「今のはなにかしら?」

しばらくしてデリアはふたたび歩き始めた。






【まったく光の無い場所】


「まだわからんのか?」

「あまりにも遠く離れております、敵の妨害もありますれば」

「言い訳は良い、扉が開く刻まで残された猶予は残り少ない」

「しかるにあの者共だけでは力不足ではありませんか?」

「われらは力を失いすぎた、贅沢は言えぬ」



「我らの主の夢に物語を捧げねば」



※ 二人目の来客


この日二度目のドアベルの音が邸内に響き渡った。

「来客の予定はないはずだけど、今度は誰?」

「本日の予定はございません、イサベラ様、お手数ですがまたお客様の応対をお願いします」

私は再びエントランスに向かう。


ドアを開けるとそこには20代なかばと思われる男性がいた、長身でラクビー選手のような頑健な体躯、身長も6フィートは越えているだろう、金髪の髪に、瞳は薄い青、服装は安物でラフなものだが清潔そうだ、靴も安物だが丁寧に使っているのがわかる。

顔もどこか育ちがよさそうな美丈夫だ、だがイサベラの好みからは外れている。


イサベラは頭を回転させ何時もの様に訪問者のプロファイリングを始めた。

育ちは悪くないはずよ、スポーツで鍛える事のできる環境で育ったわね、わざと下町言葉をつかっている可能性あり。

落ちぶれた名家の令息ってとこかしら?

軍隊に行く根性は無いみたいね、服装からゴシップ新聞の記者とか禄でも無い仕事していそうね、脳筋で力まかせでネタを拾ってくるような使えない男に違いないわ。

頭の中でエルマーと訪問者を比較しながら速攻で断定した。


「私はエドガー探偵事務所のもので、アンソニー・バリューと言うものです」

エドガー探偵事務所の名は聞いたことがある、たしかエドガー・オーギュスター・デュラハン率いる探偵事務所だわ、イサベラの鼓動と血圧が上昇し始めた、名探偵と呼び名も高い『思考する筋肉』エドガー・オーギュスター・デュラハンは多くの難事件を解決してきたが、思索型とは思えない容姿から相手の油断を誘う曲者と言われている、それでいて酒場の用心棒を数人叩きのめすほどの頑強な男らしい。


イサベラの中でアンソニー・バリューの評価が上がり始めた。


そういえば身長も体格もエドガー氏の特徴に似ているわね、調査員も似たような肉体派で揃えているのね、と大いに感心した。


「私はある事件の調査を行っております、それに関してお話を伺いたいと思いまして、アポイントもなく押しかけて申し訳ありませんが、ご協力をお願いいたします」

なかなか紳士的じゃない?

「わたしはエルマーさんにお世話になっているイサベラ=オブライエンです、しばらくお待ちください、エルマーに伺ってまいります」

「ところでお嬢さまは、もしかしてエルマー様の奥様ですか?」

アンソニーはニッカリと微笑んだ、彼の虫歯一つ無い白いきれいな歯並びに驚いた、森林の様な爽やかな香りが漂う、白い歯がキラリと輝いた様な気がした、イサベラは少し引きながら。


もしかして香り玉でも口に含んでいる?高原の白樺林のような香り?たしかキシトールだっけ?まあ殿方なら柑橘系は痛いかな、えっ!?


『奥様ですか?』と言うパワーワードがイサベラの脳にやっと到達したようだ。


「奥様!?違います!!わ、私はエルマー=ワイルド博士の助手です!!」

「助手をされているのですね、不躾で失礼しました」

「そうです、でも若い女の子が助手だと変に思えるかもしれませんよね?」

「いえ、そのような事はありません、貴女のような素敵な女性が学問の世界に貢献されているなんて、尊敬いたします」

イサベラの中でアンソニー・バリューさんの評価がうなぎ昇りだ。


「お上手ですわね」

機嫌が良くなったイサベラはふんわりと微笑みながら切り返した、家庭環境もあるが、いつも子供扱でお世辞なんて縁がなかったのだ、普段使わない言葉で切り返せた事で大いに満足した。

心のなかで『お上手ですわね』と繰り返し。


「ではエルマーに伺ってまいります、しばらくお待ち下さい」

と階段を軽やかに登っていった。


予想通りエルマーはデュラハン調査会社が追っていると言う連続宝石盗難事件に強い興味をしめした。



※ 探偵アンソニー・バリュー


ふたたび一階の応接間を使うことになった、給仕は私、ルルとブリジットは二階で待機している。あたりさわりの無い挨拶から始まり仕事の愚痴や苦労話から始まった、ある程度お互いにカードを見せ合う儀式みたいなものなのよね。


彼は探偵事務所で雑用の様な事をさせられているみたい。

「いやー、いつもボスに怒鳴られてばかりですよ、お前は筋肉より頭を使えと言われましてね、あははは」

などとアンソニーさんは頭をかいている。

あのエドガーさんから脳筋と思われているなんて凄いわね、などと生暖かい目でアンソニーさんを見た。

「はは、僕もイサベラにはいつも叱られているばかりさ」

などとエルマーも笑っている。

「先生を叱るなんて凄いですね、僕は学生時代は劣等生で成績もひどかったですよ、先生を叱り飛ばすなんて憧れます、ははっ」


私達は初対面とは思えない雰囲気でお茶を楽しんだ、そして私のお腹はお茶でタプタプになった。


アンソニーさんは陽気で明るくて真っ直ぐな性格ですけど、頭を使うのは得意じゃ無いようで、探偵向きじゃあない、いろいろ苦労してそう、でもうっかり口を滑らせても安心なのは助かるわね。


「さて、私は最近頻発している宝石盗難事件を追っていまして、最初に説明いたしますが、守秘義務から依頼主に関わる事はお教えできません」


「私の仕事は、宝石関連のカタログや著名な宝飾品の収蔵家の情報を調べたり、さらに過去の宝飾品オークションなどの取引記録を熱心に調べている人物を洗う事です、そこで複数の人物が浮かびあがっておりまして、これに関して警察もある程度は関心を持っているようですね」

これ思い当たる事が多すぎるでしょ、エルマーやデリアが注目を集めるわけね、現に探偵が乗り込んできたし、いろいろタイミングが悪すぎたわけね。


「一応全員洗う予定なのでご心配なく、全員が窃盗団と関わりなくても、そこから手掛が見つかる可能性はあるわけです」


「ところであなたが調べているのは女性ですかね?」

そこでエルマーが切り込んだ。

「・・正直に言いますと、先ほどここを訪問されていた女性を調べておりまして、彼女が宝石に関心がある理由がいまいち解らない、いやー女性が宝石に関心があるのは解ります、そういう方も多いですから、ボスも奥様から宝石をねだられて困っていまして、ははは、ですがそれとは違うとなんとなく思うわけです」

エドガーさんって夫婦仲がよろしいようで・・・


あっ!!もしかしてルルが言っていたデリアさんを尾行していたのはこの人?


「失礼ながらバークマン女史は貴方の研究仲間でしょうか?」

アンソニーさんはエルマーとデリアとの関係や研究内容などについていくつか質問をし、エルマーは研究内容に関してぼかしながら説明している。

この人手の内を晒しすぎじゃあないかしら、やっぱり探偵向きじゃないわね、などとイサベラが分析に勤しんでいたら突然話を振られた。


「ところでイサベラさんは宝石に関心がありますか?」

「そうね、関心が無いわけではないわ、でもお高いですし、好きな人から贈られたらご厚意を疎かにはできないわよね」

「エルマー博士、宝石を学問として研究するならどのような分野があるのでしょうか?」

イサベラの中でアンソニー・バリューさんの評価が暴落した。


「えー地質学や化学かな?あと物理学なら水晶などの圧電効果のような新しい分野で取り扱うかもね」

「水晶ですか!?では他の宝石なども研究対象になるのでしょうかね?僕は科学には弱いものでして」

「ああ、ありそうだねー」

「物理学者のバークマン博士も興味を示す可能性はあるわけですね」

「えっ!?まあそうなるかな・・でも宝飾品である必要は有りませんよ?」

「実験の為にあえて盗み出す必要はないと?」

「はは、少なくとも宝石の様にカットされている必要はないと思います、原石をカットした残り物のクズでも十分かもしれません」

「ああ~なるほど、それでもバークマン博士が宝飾品やその金銭的な価値に興味があっての行動とは思えなくてですね、そこらへんが落ち着かない、気になるとついこだわってしまうんです、ははは」


「あっ、もうこんな時間か」

アンソニーさんは窓の外が暗くなり始めている事に気が付いたようだ。

「これはいけない、長話をしすぎた様です、いろいろ有意義なお話を伺え感謝いたします、調査へのご協力ありがとうございました」



そしてアンソニーさんは去っていった・・


「イサベラ、明日、エドガー探偵事務所に行って、アンソニーという人物が働いているか確認しに行ってくれないかい?」

「もちろんよ!!明日行ってくるわ!!」




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