激突 ~ あっけない終劇
※ 激突
「警戒せよ、新たな敵が来る!!」
アクシェイ達は遥か前方を見据えていたが、やがて煌々と輝くランプの光と轟音が近づいてきた。
ブリジッドはイサベラを抱えて走る傷ついたルルと、それを追跡しながら攻撃を加える曲芸自転車上の『インド大魔術団』を視認した。
「ルルちゃん今助けるわよ!!」
ブリジッドの両肘付近で爆発の閃光と轟音が轟き、両手の二の腕が爆煙と炎を吹き出しながら砲弾の様に『インド大魔術団』に向って放たれた。
ルルを仕留めようと焦っていた団員達はそれを感知し動きが止まる。
「なんだ!?」
その一つは僅かに狙いが外れている様に見えたが、もう片方は真っ直ぐ自転車の真ん中の大男を狙っていた、アクシェイはその片腕を小さな光の壁で弾き返したが、それはブリジットのフェイントだった。
もう片方の腕が自転車の後部座席の後ろのフレームをつかんでいた。
ブリジッドは自転車と高速度で交差してそのまま後ろに走り抜ける。
「なんだこれは?」
アクシェイはブリジッドの腕が極めて細いワイヤーの様な物で本体と連結されている事に気がついた。
「ケーブルに気を付けろ!!」
自転車とブリジットが交差し、強靭なワイヤーは限界まで引き伸ばされた、ブリジットの100kを優に越える体重と運動エネルギーがワイヤーに加わる、強靭なワイヤーはそれに耐え、その衝撃が曲芸自転車を急停止させた。
自転車から『インド大魔術団』の団員達が前に投げ出される、だが全員が曲芸師の様に安全に着地してのけた。
だがこれによりルルとイサベラは脱出する猶予を得られたのだ。
「お嬢様ありがとうございます、イサベラ様を送り届けましたらすぐ戻ります!!」
ルルは一度だけ後ろを振り返りエルマーの自動車の灯りを目指してそのまま走り続けた。
「なんだこいつは?」
インド大魔術団の団員たちは困惑していた、先程の敵はバランスこそ悪いが非常に人間に近かった、だが目の前の敵はあまりにも異質だった。
金属質で長身、真紅の巨大なドレスに茶色みがかかった金髪、両サイドに垂らされた真鍮製の縦ロールがうずを巻き金色に煌めく、ドレスの肩から突き出た細くて長い金属製の腕が生え、顔は中世の兜のようで金属性の大きなあごに三角錐の鼻が目立つ。
露出した鈍い灰色の鋼鉄の肌には規則正しくリベットが打ち込まれて、そして目は煌々と光輝いていた、宇宙人が実在するならこのような姿と思わせる姿だった。
ブリジットの体内でウインチが駆動を始めた、それが両腕のワイヤーを巻き上げはじめ、曲芸用自転車が引きずられて行く。
「自転車を奪い返えせ!!」
我に返ったアクシェイが命令を発した。
「あなた達を行かせはしないわ!!」
※ イサベラの生還
ルルは気絶したイサベラを抱き上げたまま走り続ける、お嬢様が気になるが今はエルマーにイサベラを届けなくてはならなかった。
やがてエルマーの自動車のエンジン音が前方から聞こえてきた、エルマーがやっと追いついてきたのだ、ルル達の速度が早すぎたのもあるが、自動車のエンジン不調から速度があまり出せなかったのだ。
「ルル、どうしたのかしら?」
イサベラがやっと目を覚ます。
「イサベラ様は妖しいインド人に誘拐されておりました」
イサベラはまだ半分寝ぼけていたが。
「上から持ち上げられたのよ!!」
ルルに抱きかかえられたままイサベラは立ち上がろうとした。
「イサベラ様、しばらくはこのまま大人しくしてください」
イサベラはルルに抱きかかえられている事に初めて気がついた。
「ルルどうしたの?だいぶ傷ついていない?」
「誘拐犯の不埒者と交戦いたしました、私は問題ありません、修理すれば済みますので」
ルルはそれに事務的に応じる。
「救けてくれたのね・・・ありがとう」
「任務ですので気になさらずに」
ルルはイサベラの視線から少しだけ目をそらし、何時も以上に無表情に応じた。
エンジン音が高鳴りランプの光でイサベラには前が全く見えなくなった、エルマーの自動車がやっと二人と合流したのだ。
「イサベラ!!ルル!!無事か!?」
エルマーが自動車から飛びおりに二人の元に駆け寄る。
「イサベラ様はご無事です、私も致命傷は受けておりません、ですがお嬢様が心配です!!」
「ルル、すまない、イサベラを救けてくれてありがとう」
ルルはめったに人には見せない微笑みを浮かべた、それを見たイサベラにはルルが機械だとはとても思えなかった。
「とにかく自動車に乗ってくれ、今度はブリジットを助けに行こう」
三人にはブリジットを見捨てる選択肢は初めから無かった。
「イサベラ様は後ろに乗ってください、そして私の螺子を後ろから巻いてください、もう私の動力も限界が近いようです」
「ええ、わかったわ!!」
エルマーの自動車が再び進み始める。
「ルル、このまま進めばいいのかい?」
「はいこの先にお嬢様と曲芸師の方々がいるはずです」
エルマーは焦っていたが自動車の調子が悪く思い切った加速できない。
後部座席のイサベラは螺子巻鍵をルルの鍵穴に挿し込もうとしたが、そこでルルの背中が大きくひび割れ一部が欠けているのに驚いた。
「ルル!?これ大丈夫なの?」
イサベラは目を瞠った。
「外殻が破損しただけです、内部の装置はほぼ無事でございます」
「わ、わかったわ」
イサベラはルルの螺子巻鍵を鍵穴に挿し込み螺子を巻き始めた。
「ルル、前の方に灯りが見える、あそこにブリジットがいるはずだ」
※ あっけない終劇
ブリジットは苦戦していた、ブリジットは鋼鉄製で頑丈だったが非常に重い、ルルのような素早い動きが苦手であまり戦いには向いていない、半包囲されインド大魔術団の奇怪な攻撃にさらされ続けていた。
(ルルちゃんイサベラちゃんを頼むわ)
鋼鉄の皮膚がへこみ真紅のドレスが穴だらけになり火を吹き始めた。
僅かな間にブリジットが傷ついて行く。
「アクシェイ様、奴らの車が来ます!!」
アクシェイが北西の方向を見ると、エンジン音とランプの光が急速に近づいてくる。
「奴ら逃げなかったのか?これは幸いだ終劇も近い、早くこいつを潰せ」
そこに小さな影が飛び込んで来る、影は花火の様な光弾を放つ男に飛び蹴りを入れる、男は吹き飛ばされたが辛うじて受け身を取り着地、しかしそのまま片膝を立てたまま蹲っている。
これによりインド大魔術団のブリジットへの攻撃が止まった。
「またお前か!!」
アクシェイがルルを睨み据える。
ルルはメイド服がボロボロでショートの髪も乱れ焼き焦げていたいた、肌の露出した部分も傷ついていて、一部の皮膚の裂け目から、金属の骨格が露出していた。
「だが良い、お前の涅槃の宝珠も貰う」
「貴方達の目的は宝石目当てでしたか、私達そのものか宝石狙いだとは思っていましたが」
ルルが蔑む様な視線をインド大魔術団の一行に投げつける。
「エルマー、ルルちゃん、なぜ逃げなかったの!!」
ブリジットは悲痛な声を上げた。
そこにエルマーの自動車が到着した。
「ブリジットを見捨てるなんてできないよ」
エンジンを動かしたままエルマーは自動車から降り立った、彼の手には拳銃が握られていた。
「そうね、私もよ」
イサベラも自動車の後部座席からそれに賛同した。
その時の事だ、エルマー達には周囲の闇が突然消えた様に感じられたのだ、先程までの漆黒の闇が去り、日没から暫く経った、僅かに明るさを残した夜の闇に変わっていた、そして月が出ている事に気がついた。
どこからとも無く、怒りのどよめきと怒号を感じた様な気がしたが、それはすぐに遠く消えていく。
それはインド大魔術団の者達もそれを察知した、エルマー達はただ困惑しているだけだが、彼らはあからさまに動揺し衝撃を受けていた。
「あれ?」
少し間の抜けたようなイサベラの声がだけが響いた。
僅かな沈黙の後アクシェイが叫ぶ。
「何が起きた!?我らの舞台が壊れたのか?」
「アクシェイ様!!確かに壊れています」
「くそ、撤収する!!」
インド大魔術団はそのままピーク・ディストリクトの夜の闇に走り去って行った。
それは余りにもあっけない幕切れだった。
エルマーは何が起きたのか理解できずにただ立ち尽くすだけだった。
ルルがブリジットの側に駆けて行く。
「そう言えばいつの間にか真っ暗になっていたわね、いつからそうだったのかしら?」
イサベラが自動車の後部座席で独り言を呟いた。
「エルマー様!!こちらに誰かが近づいて来ます」
ブリジットの被害を確認していたルルが、暗視野赤外線モードの赤い瞳を輝かせながらエルマーに警告を発した。




