プロローグ
※ プロローグ
「ひどく壊れたな」
廃寺院を独り散策していた男がつぶやいた、あたりは崩壊した瓦礫で足の踏み場もない、寺院を占領していた反乱軍ごと支援砲撃で粉砕したのだからそうなる。
残されたレリーフから仏教かヒンズー教の寺院と思われるが、その男には建てられた時代や宗派まではわからなかった。
狂った騒動を各地で起こした邪教の掃討戦となった今回の作戦だが、その結果は不愉快極まりないものになった、戦意だけは旺盛で他がまったくなっていない軍隊とは言えない有象無象の群れをねじ伏せただけで終わったのだから。
軍事に詳しい者ならば、その男が英国インド軍に属している将校である事がわかるかもしれない、ねっとりと不快に纏わりつく熱気と湿気、焼け焦げたような臭いと、そこに死臭が僅かに混じる、不快指数がうなぎ昇りだ。
遠くから散発的な銃声が聞こえてきた。
「まだ残党がいるのか?」
休息中の中隊から離れていた男は周囲を見回し、部隊からそれほど離れては居ないことをたしかめ緊張を緩めた。
そろそろ隊に引き上げようかとふり返った時、廃墟の壁から何か光る物を捉えたような気がしたのだ。
「はて?」
もう一度そのあたりを注視するが特に何も見えない、そして壁の方角から何かの視線を感じたような気がした、微かな不安、それでも誘われるように壁に近づく、そして壁の一部が崩れかけている事に気がついた。
「ここに何かあるようだな」
軍用ナイフで亀裂を広げる、もろくなっていた壁は予想外にあっけなく崩壊した、壁の内部が空洞になっている、その内部に仏像の首が置かれていた。
人の頭と同じぐらいの大きさのその首に一瞬ギョットする。
その仏像の額には不釣り合いに大きな赤く輝く宝石が埋め込まれてのだ。
「これか!?」
魅入られた様にその宝石に手をのばすと、宝石はあっさりとあまりにも簡単に外れ、男の手の中に収まった、まるで初めから男の手に渡るべき運命であったかのように。
手のひらの上で宝石は僅かに熱を帯びている様に感じられた、見つめていると魂が吸い込まれるような錯覚すら覚える。
「ワイルド中尉どこにおられますか!?」
遠くから現地人下士官の呼ぶ声で我に返る。
男はあわてて宝石をポケットに落とし込んだ。




