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メカ令嬢とメイドロボ  ~ ニルヴァーナの宝珠  作者: 洞窟王
第一章 モーカムへの旅
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夢を現実が越える時 ~ だが悪夢は終わらない

※ 夢を現実が越える時


エルマーとしては、ハーバート氏の夢の話をどこまで信じて良いのか解らなかった、少なくとも彼らを騙そうとしているとか、怖がらせようとしているとは思えなかった、だが彼が狂人である可能性も否定しない事にした。

エルマーがニルヴァーナのルビーに巡り合う前ならば、笑って相手にしなかっただろう。


ハーバートは語り続ける。

「夢を見る度に、手提げ金庫を持った私は廊下を数歩ずつ前進し、この部屋に戻って行くのだよ」

イサベラは思わず廊下の入り口を思わず見た、何かが廊下の奥からやって来るとでも言うかの様に。


「そして、この部屋に到達した、驚いた事に部屋の中に見知らぬ二人の男女がいたのだよ、夢の中で初めて自分以外の人間を見たのだ」

イサベラはある予想から泣きそうな顔になった。


「まさかそれは僕達だったのですか?」


『ガリッ』また家の壁か柱が軋む様な音がした。

イサベラがビクッと震え上がりうろうろと目線を彷徨わせた、エルマーは音の源を探ろうとしている。


「夢の中の男女は君たちと全く同じ姿形をしていた」

エルマーとイサベラはもはや声も出ない。


「夢の中の二人には見覚えが無かった、だがこの手持ち金庫の中身に関係がある人物だと推理した、もしかしたら男はアーウェルの息子ではないのかとね」


「その夢を見た後に返事を書いたのだ、君たちが自動車で丘を昇って来た時、私の推理が正しかった事を確信した」


「そして3日前に見た夢でその女性がスプーンをうっかり転がすのを見たのだよ」

イサベラが硬直したまま手元のティーセットを見つめた。

「私がスプーンを弾いた処を見たの?」

「まったく同じ情景だった」


「君たちには敢えて茶を出さないつもりだった、だがイサベラがお茶の準備を申し出た時、運命は変えられないと悟ったよ、彼女が選択したティーセットも夢と同じ物だった」

「ねえ全部私のせいなの?」


「10日前まで未来の夢を見ているなんて考えた事もなかった」

「僕たちを招いたのはそれを確かめる為だったんですか?」

「それだけではない、君に我々のインドでの任務に関して伝えておきたかったんだ、相次ぐ異変や悪夢がこの呪物と無関係とは思えない、この究明に力を借りたかった」


「あまり自慢できないが、夢を見始めてからあの廊下の奥に進むのが怖くなってね、夢の中で地下に下り始めてからは地下室に行く気が無くなった、私は疲れていたのだろう」

「だが、夢に君たちが出てきた時、決断がついたのだ」


「これでもまだこの呪物が欲しいかね?」


「もし僕が要らないと答えたらどうします?」

「焼くか破壊したい」


それは悪魔の選択の様にエルマーには聞こえた。


エルマーにはこの呪物の空洞の中にニルヴァーナのルビーが納められている可能性が捨てきれなかった、焼却や破壊など認める事などできない。

あれは新しい科学の分野を切り開くだけの可能性がある。

そしてこれらの呪物がニルヴァーナのルビーの真実に繋がる鍵である事も漠然と感じていた。


エルマーはイサベラを真正面から見た。

彼女の顔色は青白く何か哀願するかのような目をしている、彼女の表情ははっきりと語っていた。

『怖い、怖い、怖い』


だが暫くして彼女の口から出てきた言葉はエルマーの予想を外れるものだった。

「これはエルマーの研究に必要でしょ?なら受け取るべきだわ、私は夢なんて怖くないからね?」

エルマーは思わずイサベラの手を握り締めてしまった、だがイサベラは青白い顔のまま引き攣った笑いを浮かべているだけだった、魂が半分ほど抜けた様になっていたのだ。

「ごめんねイサベラ」


「ハーバートさんこれは僕の知り合いを通じて専門家の手に委ねます、結果などお伝えする事もできるでしょう」


ハーバートはどこか安心した様な表情になっていた。

「夢を現実が追い越したんだ、もう悪夢は終わりだ」






とても遠くて近いところで何かが嘲笑った




※ だが悪夢は終わらない


その時リビングの窓を外から叩く音がする。


「ご主人様、非常事態です、海岸から正体不明の二足歩行生物が多数こちらに向かって来ます」

「何よそれ!!モーカムの化物なの?信じられない」

(シボ)んでいた風船に急に空気が入った様にイサベラが復活した、エルマーは驚いたようにイサベラをまじまじと見つめる。


「エルマー君まだ誰かいたのかね?なぜ中に入れてやらなかった!?」

「説明は後でします」


窓から外を確認するが暗くて良く見えない、だが僅かな月明かりの下、人間の様な集団の影が丘を登ってこちらに向かってくるのが見える。

さらに見える限りの海岸線がそれで埋め尽くされている。

人に近いと言えば近いが不均衡な体形で二足歩行に慣れていないようだ。


「何だあれは?」

「あれが私の庭を荒らしていたのか?夢は終わったのではないのか!?」


「今まで家の中は大丈夫だったんだから中にいれば安全かも?」

「確かにそうかもしれないね」

「自動車が心配だが、こうなったらルルとブリジットにも中に入ってもらおう」

「二人もいたのか!?何か理由がありそうだな」


「ルル、ブリジットを連れて中に入って来てくれ」

「・・・かしこまりましたお嬢様をお連れいたします」


金属が軋む音と共に、巨大な真紅な影と煌々と光り輝くランプが、そして小柄な人影が居間の窓の前を通過していった。

ハーバートはそれを目撃しそれに言葉もなかった。


イサベラが玄関に走りドアを開ける。

「二人共中に入って!!」

「イサベラ様、これがネジ巻鍵と自動車のクランク棒です、預かっていてください」

「解ったわ、でも少し重いわね?」

「あと私たちの(ネジ)を巻き切ってください、非常事態です」

「ええ」

イサベラはルルの鍵穴に(ネジ)巻き鍵を差し込むと、力いっぱい回し始めた。



それをハーバートは言葉もなく見つめるだけだった。

それを見て取ったエルマーは

「彼女達は僕が作った自動人形です」

「・・そうなのか・・」


(ネジ)を巻き終わったルルがハーバートの前に進み出てきた。

「私はエルマー様のメイドのルルでございます」

「君は造り物なのか?話せるのか、自分の力で考える事ができるのか?」

見るものを不安にさせるその容姿が普通の人間ではない何かである事を思い知らせる、ハーバートは何かを否定するかの様に首を横に振る。


そこに螺を巻き切ったブリジットが自己紹介をする為に居間に入って来た。

「ハーバート様、私はブリジットでございます、よろしく」

「よろしくブリジット・・」


全身金属の肌と巨大な真紅のドレス、薄暗い部屋の中で煌々と光り輝く両眼の人工の光は圧倒的な光度を誇る。


「二人の男女と言う先入観で後部座席を見ているようで見ていなかったか・・・」

ハーバートが小声で呟いた。

丘を登る自動車の前部座席に夢の中の男女の姿を認めた時の戦慄を思い浮かべた。


「だいぶ接近してきました、魚と人間の中間的な生物ですね、望遠機能の使用を控えたくなる不細工なお姿です」


エルマーは活き活きと動き回るルル達を見ていると何故か恐怖も不安も消えて行くような気がしたのだ、もしかしたらイサベラもそうなのだろうか?


窓際にエルマーとイサベラがかけよる。

「あいつらの目的って何かしら?庭を荒らして帰っていくだけでしょ?」

「この呪物が狙いだろうか?それだと館に入って来ない理由がわからない」

エルマーは懐から拳銃を取り出した。

「そんなの持ってたの?」

イサベラが目を丸くした。




その背後でハーバートがソファに崩れるように座り込み頭を抱えた、ハーバートは何か小さな声で呟いた。

「これが悪夢から逃れた先の現実だと言うのか?」



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