番外編 〜闇落ち勇者 なんか奴隷にされたから、魔王と手を組んでみる事にした11〜
これで99話。
こんなところまでお付き合いください、ありがとうございます!
◇
ありえん。
絶対にありえん! アレが勇者な訳がない。
あれは邪神の創り出した、新たな化物に間違いない。
奴は大々的に我ら人間を狩り始めた。かつての戦友や知人も情け容赦なくだ。
それどころかヤツは、事もあろうか魔王とともに並び立ち、魔物の軍勢すら率いている。
真の勇者は一体どこにいる?
あぁ、神よ! 絶対神ゼロス様よ!
どうか我等に希望を! 救いを!!
◇
「プーンだ! いい気にならないでよ? アビス。まだ同胞を殺された事、忘れてないからね。いつか寝首をかいて、ギタンギタンのボッコボッコにしてやるからね!」
「あー、ラミアっつったか? 奇襲作戦の予告はすんなよ。馬鹿なのか?」
「馬鹿じゃないっ!」
「ま、その節はなんだ。俺にも“使命”ってヤツがあったんだ。だけどそれももうノルマクリアらしい。あとは人間共を皆殺しにして、その後は煮るなり焼くなり、好きにしろや」
「え? 良いの? ヨッシ! 俄然やる気出てきたぁ!」
人間共の、総力軍勢を前にして、俺は魔物達から成る魔王軍の陣営で、一匹の小悪魔の相手をしていた。
そこに、スッとラウが現れ言う。
「駄目」
「よぉ、ラウ。今日もヤバイ位に可愛いな」
「アビスもとっても素敵。輝いてる」
ラウは俺の腕に細い腕を絡ませながら、じっとラミアを見つめ言う。
「アビスはね、ラウの物。傷つけたら、駄目。……ね?」
「う"……」
ラウに見つめられたラミアは妙な声を出して、すごすごと去っていった。
二人きりになった俺は、すかさずラウの腰を抱き寄せる。
「俺は確かにラウのものだが、ラウも俺のものなんだぞ。こんな魔物共のウヨウヨ居る所を一人で歩くんじゃねぇ。危ないだろぅが」
ラウは嬉しそうに俺の胸に額を埋め、言った。
「うん。ラウは弱い。ラウを守ってね? アビス」
「ったりメーだろが。二度と、 二度と失うかよ!」
俺は強くラウを抱きしめると、そのまま深いキスをした。
◇◇
「いよいよだな、アビス」
人間共との最終決戦の戦局を見下ろしながら、ガルガルが俺に話しかけてきた。
人間共は喧しく太鼓を叩きながら、亀のようにノロノロとコチラに進撃してきている最中だ。
「そうだな。今で人間共の半分位を消してきて、この群れを撃ち落とせば、もう残り2割を切るだろう。そうなったら後は索敵であぶり出すだけだ。世界中を探し出すぜ? ラウとのハネムーンがてらにな」
俺は笑いながら答えた。
「……。なぁ、ガルガル。一回ちゃんと聞きたかったんだ」
「なんだ?」
「お前魔王だろ? 何で、犬のフリしてあの時俺に近づいた? そして今も、なぜこうして俺に付き合ってくれる? お前の大切な神様に楯突いたやつだぞ?」
「ーーーレイス様が、手伝えと仰せになったからだ」
「ちっ、……そうかよ」
目を合わせず答えるラムガルに俺は舌打ちをしながら言った。
「しかしそれだけでは説明がつかんな。幼い頃のお前を見守る事は、予が勝手にやった事」
「?」
「予も、勇者の輝きに憧れていたのかも知れぬ」
ガルガルは顔をそむけたまま、話し始めた。
ーーー予は創造神より、永遠に死なぬ体を授かりこの世に生まれた。
痛みも、味覚も感じる事はできるが、億を超える時を過ごすうちに、感情や、思いに麻痺が出始める。
数千万回の悲しみ、喜びを繰り返すうちにその感情に飽きが出始めるのだ。
そして思う。
ーーーあぁ、またか。
だが、勇者は違った。
記憶のリセットのせいもあるだろうが、同じ永遠を持つ魂でありながら、常に心を感動させ、熱く奮い起ち、魂の色と同じく純粋に、真っ白に輝き続けている。
なんと、眩しいことか。
勇者の行動を監視する。勇者が無事勇者として立てるようになる迄その身の安全を確保する。
そんなのは言い訳だ。
予は、己の手放してしまいそうになる、その美しい物にすがりつきたかったのかも知れん。
難しいな。己の心を晒すのはーーー。
ガルガルは話し終え、俺の顔を困ったような顔で見た。
「ーーー、まぁその都度記憶をなくし、危なっかしいお前を放っておけなかったと言うのも、当然ある」
俺は鼻を鳴らして言った。
「ふんっ、邪神への対応を見る限り、到底心を無くしたようには見えなかったが?」
「なっ!? レイス様は邪神などではない! 口を慎め!」
「はは! ホラな!?」
俺は指さして笑った。
ガルガルは、はたっと動きを止めると、フッと笑い、“そうか”、と小さく呟いた。
さて、くだらねえ話してるうちにやっと到着だぜ人間共が。
さあ、行くぜ。 野郎共! 勇者(笑)の力って奴を、かましてやるぜ!!
◇
「何やってる! バカアビス!? ボクの部下までぶっ飛ばしてどうするの!? 折角2千まで増えてたのに……」
「おお、すまんラミア。俺の技、無差別殲滅系ばっかだからな。嫌なら下がってろよ」
「下がってたよ! 範囲デカすぎなの! ちょっとは自重してよ!?」
「えー、俺ほら、勇者だし? 魔物を滅するのが本能っつーか……」
「都合の良い時だけ、勇者の立場を使うなぁ! このクソバカ勇者!!」
涙目で叫んで来るラミアのツバがかからんように、俺は立っていた大きな岩の上から飛び降りた。
そこに、ラウが居た。
「よお、ラウ。どうした? 頬を膨らませて? ーーー……その顔も可愛いな。天使かよ? いや、もう神だな。俺の女神様だ」
「ーーー……ラミアとアビス、仲いいね?」
「! ラウ、もしかして嫉妬か? ……よし、待ってろ。ちょっと今すぐラミアの奴を殺してくる。それで安心だろ」
「ちょっと何言ってんのさ!? ヤメて!?」
俺が再び岩肌を登ろうとすると、遥か上空に飛び上がったラミアが叫んだ。
「別に嫉妬はしてない。アビスは、いつもラウだけを見てくれてるのを知ってるから。……ねえ、ラミア。ラウのアビスとお喋りするのは構わない。だけど、ラウの勇者様を、クソバカとか言ったら、許さないよ? 次は無いから。 ね?」
「ーーーヒッ……」
ラウが可愛らしく小首を傾げ、ラミアを優しく諭すと、ラミアは納得したようでそのまま彼方に飛び去っていった。
ラウめ。あのじゃじゃ馬を笑顔で諭すとか、マジで女神かよ。
そしてとうとう、俺達は人間共の、“オオサマ”って奴を引き摺り出した。
「お、おのれっ!化物め! たとえここで我らは死のうとも、ゼロス神様がお前達を許すはずが無い! 滅びよ! 化物共め!!」
誇り高く(笑)、信仰高く(笑)ほざく老害に、俺は教えてやった。
「そうかよ。俺が、その神様が遣わした勇者様なんだとよ? 残念だったな。神がいつも救ってくれると思うなよ? 奴らは俺達のことなんざ、歯牙にもかけちゃいねーさ。勇者である俺がこんな事してたって、これっぽっちもお怒りにならねーんだとよ」
「がっ……」
ーーーパン!
オオサマの側で剣を構える近衛兵の1匹の頭が弾け飛ぶ。
「なっ ーーー!? おのれ…… おのれぇえぇえぇぇ!!!!」
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
顔を真っ赤にして吠えるジジイの顔が面白くて、俺は笑った。
そして、剣を振り上げる。
その時だった。
ーーーー何をしている? やめるんだ。 今すぐ、全ての者よ、武器を下ろすんだ。
突然、この大地の隅々まで届く声が、天から降りてきた。
雲が割れ、一筋の光が差し込む。
ーーーなぜ、どうしてこんなことになってる? 何故……。
光の道から降りてきたのは、白く輝く衣を身に纏った、漆黒の髪の、少年。
言葉では、表現しがたいほどに美しく整った顔。
その目に憂いを浮かべ、その声は悲哀に満ち、まるで懇願でもしているかのような響きだ。
7体の白髪の天使を引き連れ、それは降りてきた。
俺はそいつが何者か直感した。
幼い顔とは裏腹に、鳥肌が立つほどの存在感とオーラ。
ーーーあれが、 絶対神、ゼロス!
このクソ暑いのに、いちゃいちゃ回でした。すみません。
次回、おそらく番外編の最終回となります!
おそらく、多分……。




