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番外編 〜闇落ち勇者 なんか奴隷にされたから、魔王と手を組んでみる事にした⑩〜

 ◆


「ーーー……それは、勇者が正しい」


 世界樹様が話し終えた後、邪神がポツリと呟いた。

 世界樹様の語りは、まるでなんの飾り気もなく、まさに俺の人生のあるがままだった。

 それどころか、俺の知らない俺の名や、ラウの事迄知っている。

 まるでずっと俺と共に旅をし、共に泣き、共に笑い、今の時代に戻って来たような、そんな話だった。


「ラウを汚らしい手で汚すなど、万死に値する。ここに来るまで、使命を果たしつつ、害人共を消すとは、いい仕事をした。レイスは、お前の行動を称賛する」


 邪神は若干名残惜しげだったが、無感情にそう言うと、ラウを俺に渡してきた。


「お前、勇者にしてはなかなか見込みがある。レイスはお前を手伝ってやりたくなった」


「レ、レイス様!?」


 慌てるガルガルを無視して、邪神は続けた。


「ラウは生き返った。この後お前はどうしたい?」


 この後……?

 ラウを生き返らせることに必死で考えて無かった。

 だけど、ここまで来たら、もう、引き返せるわけ無いだろ?


「この世界の人間共を、皆殺しにする」


「そうか。奴隷などという階級が出るくらいだ。人間共も増え過ぎたということだろう。レイスが人間共に直接手を下す事はできない。ラムガル、手伝ってあげると良い」


「!? し、しかし、余が直接下したとしても……」


「ラムガルは人間共に対して、禁魔法制約は受けているけど、使わない分には消しても良い。今までだって、図らずも消した奴らは数百万じゃ効かない」


「た、確かに」


「勇者は、人間共の代表(リーダー)。それが人間を消すと決めたのだから、それはそういう事なのだろう」


「な、なる程。しかし、……」


「うん。だけど確かに、全滅させるとなると、流石にゼロスは落ち込むと思う。……お前、少し妥協して、人間を少し残すことにしない?」


 壮大なスケールで、サクサクと人類滅亡決定の予定が立てられる中、突然俺に話が振られ、俺は思わず口籠る。


「す、少しって……?」


一番(ヒトツガイ)位……?」


 って、2人かよ! つか、2人だけ残して後滅ぼすとか、寧ろ当てつけだよな!? 絶対喧嘩売ってるよな!?


 邪神、ハンパねえぜ。




「嫌なら、やめてもいいよ?」


 ふと、俺の胸から声が響いた。


「ーーーーーーーーーーーーーーッッ、ラウ!!」


 思わず叫んだ。

 そこには、美しい鮮血の色をした瞳で、じっと俺を見上げるラウの姿。



「お前……目が覚めてたのかよ……」



 生き返ったときも感動したが、今また、俺の中から熱い思いと、涙がこみ上げてくる。


「うん。実は、世界樹様の昔話の時から起きてた」


「結構前じゃねえかよ! ……ホントにお前ってやつは……」


「ラウって呼んでよ。ラウは、貴方の胸の中で起きたことにしたかったの」


「あぁ、ラウ。ラウ!」




「ねぇ、ガルガル。何あれ? なんだか胸がムカムカする」


「はっ、以前、おおっぴらに愛を語り合う者達を見たとき、それに苛立ちを感じる事があると聞いた事があります。予は何も感じぬので、真実を確かめようが無いのでございますが。……あのレイス様、予の名前は……」




 邪神と魔王が何か言っているが、俺はそれどころじゃ無かった。


「ラウを生き返らせてくれてありがとう。ラウも、貴方とまた一緒に居られて嬉しい。しかも、ラウにメロメロとか、最高過ぎる」


「……ラウ? ()()って、……?」


「だって呼び方が分からない。ラウは貴方が大好き。貴方の名前はイビス? ナラク? それともアルス?」


 ……名前?


 名前なんて、どうでもいい。

 見た事もないやつにつけられた名前や、嘲笑や畏怖から付けられた名前なんて……。

 名前なんて、何でもいい。   だけどーーー、


「お前がつけろよ。俺の名前。 得意だろ? お前がつけた名なら、俺はきっとその名を好きになる」


「そう。ーーーなら、“アビス”」


「アビス。 俺の、名前」


「そう、アビス。ラウの、勇者様」




「ねぇ、アインス。なんだか顔がムズムズして、目を背けたくなる。これは何?」


『そうか、これはレイスには少し早いかもしれない。だけど、きっといつかレイスも、憧れる日が来る。そう、アレは“アオハル”って言うんだよ』


「アオハル。ーーー、駄目。レイスには耐えられない。そんなものに憧れる未来なんて、来なくていい。 ……未来が、恐ろしい」




 邪神と世界樹がなにか話してやがる。


 まぁ、俺には関係ない。


「ねぇアビス。今なら引き返せるけど、どうする?」


「ーーー、俺は、 やっぱり許せねぇ。この世界を。お前をこんな目に遭わせた人間共を」


「そう、わかった。じゃあ、ラウも一緒に行くよ。良いでしょ?」




 そして、俺達の世界への復讐劇が開幕した。






 ◇◇◇




「ナ、ナラク!? ひひ、ひ、久しぶりだねっ」


「よぅラット。儲かってそうだな?」


「お、お陰様でね。その、色々おかしな噂聞くけど、僕は信じてないよ? 嘘だよね? 今だって、ナラクの声を聞いても、その……平気だし?」


「……。」


「な、何で答えないの? 何で? 嘘でしょ? 昔、ほら、仲良くしてたでしょ? 今だって、仲良しでしょ?」


「テメェが仲良しなのは、金払いの良い俺だろ? つまりはもっと金払いの良いやつが居れば、そっちと仲良くするってわけだ。例えば、国王とか?」


「なっ!? そ、そんなわけっ」


「そんなわけ無い? はっ、毒の入った茶の準備しながら言うやつのセリフじゃねーよな?」  


「な!? い、入れてるわけ無いでしょ!? 何でそんな事……」


「分かんだよ。俺には。違うってんなら飲んでみろよ。そのブルーのラインの入ったコップの方だ。 さぁ。」


「ーーっ。……ぅ、うわぁああぁあぁあぁっ!!」


「ほら、尻尾出した。チョロいな、ネズ公」


 窮鼠猫を噛む。

 言葉の如くラットは牙を向き、俺に毒を投げ付けてくる。

 そんなもん当然当たるわけもなく、ラットの耳元で俺はデスメタル(デスヴォイス)で囁く。



「後な、俺の名前はナラクじゃねえ。“アビス”だ。ーーーあばよ」


「ーーーがッ」


 ーーーッパン!



 皆殺しだ。

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