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番外編 〜闇落ち勇者 なんか奴隷にされたから、魔王と手を組んでみる事にした⑤〜

 その時、俺は何故か、当然のように、ガルガルと行くものだと思っていた。


 ーーーだが、


「ふ、有り得んな。余は魔王、お前は勇者だ。余には余の、勇者には勇者の使命というものがある。そしてガルガルと呼ぶな」


「ーーーっ!」


 俺の言葉を鼻で笑い否定するガルガルに、俺は震える程に恥ずかしく、そして怒りを覚えた。


「なっ! 何でだよ!? 別にいーだろ!? そもそも使命ってなんだよ!」


「本当にそんなことも知らんのか? 魂が思い出せずとも、それは人間の社会でも一般常識のはずだが。奴隷などという身分に身を窶し、最低限の知識すら学ぼうともしなかったということか……」


「う、うるさい!」


「仕方が無い。あまりにも馬鹿馬鹿しいが教えてやる。勇者の使命とは、人や世界に害を成す魔物を一掃することだ。そしてその力は、その使命を果たすために与えられたもの。神の鍛えし聖剣を手に、幾万の闇に立ち向かう希望。それが、お前だ」


 世界の害悪って自覚あんのかよ。だったらテメーら魔物が自粛すりゃいいだろが。

 ホントにガルガルの言う事は、行動がいまいち連動してねーよな。わけ分かんねぇ。


「要は、魔物共をぶっ殺せばいいってことか? いいぜ。やってやるよ」


「違う。ただ殺すでは、獣と同じ。人は神に作られたとき、愛を重んじる様に創られた。人を導きし勇者ともなれば、その愛を持ってして、使命に当たらねばならん」


「……はぁ?」


 思わず妙な声が漏れた。

 だって愛? 愛、だぞ?

 なんだそれって感じだ。

 確かに俺の主人になったやつは、愛だ何だとのたまう奴がいたから知ってる。エセ牧師も良くのたまってたしな。

 だが、そいつらの行動を見て、俺が感じたものは“価値観の押しつけ”、“偽善“、”世間体”。

 この上なく下らないものだ。否、()()()()()、か?


「お前のような甘えた奴には、まだ“愛”は分からぬか。そうだな。余と手を組みたいと言うのであれば、せめてその愛が何たるかを理解してから出直して来い。お前が何かを見つけた時、余は再びお前の前に、姿を見せようぞ」


「ち、ちょっと待てよ! どこ行くつもりだ!」


「今このとき、お前の前に現れたのは他でもない、緊急の用ができたのだ。神が余をご指名なされている。余は行かねばならん」


「神?  テキトーな事言ってはぐらかすなよ。そんなもんぃねーんだろ?」


「……神は、いらっしゃる。ーーーそんな事すら忘れたか。もうよい。貴様とのくだらん話は時間の無駄だ」


 そう言い残し、ガルガルは空を切り裂き出来たその黒い空間の中に身を投じ消えていった。


 一体何だったんだ?



 俺は元通りふさがり、何もなくなったその場所を、ただ呆然と見つめた。


 もう、奴隷の主人のもとに帰る気などサラサラになかった。



 ーーー愛? 愛ってなんだ?



 俺はただ、ガルガルの言い残した答えの出ない謎を考え、立ち尽くしていた。




 ◇◇◇◇◇




 それから1年、俺は奴隷の主人の元には帰らず、奴隷ということと、勇者であると言うことを隠し、冒険者となった。

 奴隷紋と呼ばれる呪印があったが、自分の中のマナをイジって、簡単に消すことが出来た。

 もともと、奴隷から逃げる事ならば簡単にできたんだ。

 ただ、以前の俺には逃げる気がなかっただけ。


「ようナラク! またソロでそれを仕留めたのか? すげーなぁ!」


 冒険者と言う者になり、魔物を狩れば、黙っててもその実力を羨み、俺の周りには多くのものが声を掛けてきた。


「ナラクぅ、あたし達のパーティーに、今日こそ入ってよ!」


「バッカ、てめぇ等なんかと組んだら、あしひっぱられてしょうがねぇよ。なぁ、ナラク?」


「……。」


「あ、おい。ナラク……」


 俺は、奴らに一言も話すことなくギルドを出た。

 声に出されなくても、奴らの本心なんか筒抜けた。“名を上げたい”、“楽して稼ぎたい”、“力や技を盗みたい”。

 みんな自分勝手な欲望に、俺を利用したいだけなんだ。そりゃ手の届く所に“勇者みたいに強い力”が転がってんだ。ま、本物の勇者とは誰も思ってねーだろぅが。



 俺は、人気のない路地裏で、一人ため息をついた。


「……愛って何だ? ……っかんねーよ」




 ーーーあなたの名前は、ガルガルね。    


 ーーーわからない? あなたに一目惚れ。よろしく



 ふと、ふざけたうさぎ女を思い出した。

 アイツの言った、その奇天烈な発言が脳裏をよぎり、俺の口元がふっと歪んだ。


「……ラウ、オメーはあの時、愛ってやつをなにかわかってたのか? それとも節穴で一目惚れとか言っちまっただけか?」



 って、やべ。独り言行っちまった。

 ……はぁ、相当キテんな、俺も。


 内心で言い訳し、俺は屋根の隙間から見える細い青空を見上げた。



「ーーーアイツ、何してっかな? やることもねーし、顔でも見に行ってやるか」


 俺は、また、言い訳するように独り言をつぶやき、細い道を歩き出した。




 ◇



「えぇ!? ナラクがエッチなお姉さんを探してる!? え、え? 早くない? ナラク今何歳だっけ?」


「14だ。いいから知ってんなら、とっとと情報よこせ! ちょっとした知り合いだよ。ナニをしたいからってわけじゃねぇよ」


「え〜……、ナニって、()()?」


「テメエ、マジでふざけんな!」


 俺が怒鳴るとラットは、へぇへぇ、と言いながら、鍵の付いたたくさんある引き出しからたった一つをガチャりと開け、分厚いファイルを1冊取り出しパラパラめくった。


 こいつはネズミのアニマロイド。チビで大きな耳が特徴的だ。良くムカつく要らんジョークを飛ばして来るが、情報屋の腕としてはまぁ良い方だろう。


「これじゃない?」


 目当てのページを探し当てたラットは、1枚のメモ付きの写真を俺に渡してきた。


「ーーーっ……」


 その写真を見て、俺は絶句した。 

 大きく成長した胸や尻が透けて見える薄い布でできた、それらを隠す気のない服(?)を身に着け、下品に足を開くポーズでこちらを誘う女の姿。

 雪の様に白い耳、薄汚れた灰色では無く、プラチナのように輝く髪、鮮血の色の潤んだ瞳。

 口は大きく開き、物欲しげに唾液で唇を湿らせている。



 ラウだ。

 ーーーだけどコレは、


「サティノスという街の高級クラブ“love birds cage”の嬢の一人だね。名前はラウ。奴隷上がりだから実名を使わせられてるんだろうね。ーーーだけど、正面から会いに行くのは無理だと思う。会員でなきゃ門前払いだし、新規会員になるためには、現会員の紹介が必要だ。貴族や要人の御用達だから、僕等みたいな冒険者なんてやってる者には高嶺の花もいいとこだね」


 まくしたてるようにラットはそう言うと、俺の手からピッとラウの写真を奪い、またファイルに仕舞った。


「情報は確かだよ? いくら出す?」


 ラットはこうやって、客に値段を決めさせる。

 出された金が、あいつの思ってる金額より安ければ、次来たときは門前払いを食らう。

 次回も世話になりたきゃ、妙な駆け引きはすんなってこったな。


 俺は、金貨の詰まった袋をラットの前に放り投げた。

 この稼業をやってれば、金なんてすぐ貯まるし、こういうところでしか俺はほとんど金を使わない。

 蓄えなど要らなかった。


「わぉ♡ 金払いのいい人は好きだよ。また宜しくね!」


 俺はラットの店を出た。


 ラットの奴は“正面から会いに行くのは無理だ”、と言っていた。

 つまり、裏から会いにいけということだ。


 俺は、ラウのいる何とかと言う店に向かい、歩き始めた。



 ◇



 俺はサティノスの1等地にある、重厚な石造りの建物に忍び込んでいた。

 外からは全く想像もつかない豪奢な装飾が施され、流石に金の亡者共の御用達と言ったところか。

 廊下には沢山の扉が並び、時たま扉の向こうから、くぐもった男のうめき声や、女の矯声が聞こえてくる。

 この中から、ラウを探し出すことは大して難しいことではない。

 俺はノイズに教えられた索敵を使った。

 音とはすなわちごく短かな波動。その波動が人間の鼓膜を揺らすことによって、音として認識される。

 俺は、マナで作った、一滴の“音”を垂らした。それが地についた瞬間“音”は初めて、波紋の様に広がった。

 広がった音は様々なものにぶつかり、反射し、それらの姿を、様子を俺に教えてくれる。



「いた」





 見つけた。最上階の1室にラウがいる。


 なんて声をかけてやろう? “久し振り”、いや、違うか。

 まあ、ラウのことだ。会えばあいつの方からなんか言ってくるだろう。


 そんなことを考えながら、俺は歩いた。



 ◆



 ーーーガチャ。



 入り口を見張っていた二人の男を気絶させ、俺はラウのいる部屋の扉を開けた。



「っ!?」



 ラウの姿を見た瞬間、俺の心臓は跳ね上がった。

 だって、まさに一糸纏わぬ素っ裸だったんだから。


 俺は目を背け、ラウに言った。


「と、とりあえずなんか着ろ!」


「……。」


「?」


 ラウは動かない。

 俺は目のやり場に困りながら、なるべくその体は視界に入れないように、ちらりとラウに視線を戻した。


「と、どうしたんだ? 俺だよ、イビスだ。んだよ。俺の事忘れちまったか? 取り敢えずそのシーツでも何でもいいから、体隠せ!」


 尚も動こうとしないラウに、俺はシーツを被せようと歩み寄った。

 ホント、相変わらず世話のかかる奴だな。





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