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番外編 〜闇落ち勇者 なんか奴隷にされたから、魔王と手を組んでみる事にした④〜

今回五千文字超えてしまいました。


2話に分けようかとも考えたのですが、山がないのでそのまま投稿!

 


 ーーー  思い      出  せ






 何? 何だって?







 ーーーお前          の  使命






 使命?







「……お前は誰だ? 何を言ってる?」


 俺が今にも消え入りそうな声にそう言った時、霞む視界に、見慣れた汚い天井が映った。


「お前が何言ってんだよ? 寝ぼけてねーでとっとと起きろよイビス」


「……、おぉ」


 俺の問いかけに答えたのは、クソどうでもいい、同室なだけの関係しか持っていない、掃除担当の奴隷だった。


 俺は小さくため息をついた。

 また、あの夢か。


 黒い影が、夢の中で、俺に使命がどーのとか言ってくる。10歳を過ぎたあたりからか? ちょくちょく同じ夢を見るようになった。今年13になったが、最近ではもう、隔日には見る。


 使命だなんだと言ってくるのは、いつもあの黒い影。気味が悪い。



 6歳で奴隷として売られ、7年が経った。

 その間、18回、俺の主人は変わった。

 その理由は様々で、商売に失敗して奴隷もろとも売りに出されたとか、強盗に会い、主人が死んだなんてこともあったが、一番多い理由は魔物に襲われ主人が死んだことだ。

 魔物の跋扈するこんな時代だ。特に珍しいことでもない。

 とはいえ、流石に7年で18回主が変わるのは異例らしく、俺は現在、“奈落”なんて気味の悪いあだ名を、裏で呼ばれている。俺を雇うと、奈落に引きずり込まれるんだと。

 そんな縁起でもねえ噂のある俺は、奴隷の中でも兎に角、格安物件だった。


「しかしお前も難儀だなぁ、旅路で魔物と遭遇した時用のエサ役奴隷だもんな。」


「別に。食われたことねぇから、ここにいる訳だし」


「ははっ!確かにな! おい見ろよ、窓の外。またハチ公がご主人を探しに来てるぜ?」


 掃除係の奴隷が、窓の外を指差す。

 俺はそちらには目を向けず、寝巻きを脱いだ。


「ハチ公じゃねぇ。ガルガルだ」


「……その名前も、考えもんだよな」


「知るか。俺がつけたんじゃねぇし」


「お! ひゅぅーーっ! かわい子ちゃん、見っけ! おっコッチ見た!」


 掃除係の奴隷は、興味が移ったようで、それ以上話は振ってこなかった。

 お互いがお互いに興味がない。このくらいの距離が、俺にとって1番居心地がいい。


 俺は、外着に着替えると、ガルガルのもとへ向かった。



「よぉ、飽きもせずタカりに来んなぁ」


 俺はそう言って、昨夜の飯のウインナーを格子越しにさし出す。

 ガルガルは嬉しそうに喉を鳴らすと、大きな口でペロリとウインナーを平らげた。


「野犬刈りですぐくたばっちまうと思ってたのに、オメーもしぶといなぁ」


 俺は立ち上がり、踵を返すと、ポケットに手を突っ込んで歩き始めた。


 ふと思い出して立ち止まり、ガルガルに声を掛けた。


「明日は来んなよ。俺、居ねーし」


「ガル」


「主人が隣町まで出かけるんだとよ。俺は魔物の餌係として、それに同行してくっから」


 こんな事を犬に言って何になると言うんだろう?


 俺は不意に馬鹿馬鹿しくなって、そのままそこから歩き去った。




 あーぁ。ホント、クソつまんねぇよ。





 ◇





「出ったっ、出たぁーーー!! 魔物だ!」






 走り去る馬車。

 俺はあっさり捨てられた。


「グルルルルゥゥ……」


「……」


 さて。目の前にはB級のロックベア。

 高ランク冒険者が、チームで倒すような相手だ。

 そして俺は武器も防具1つもない丸腰。餌用なんだから当然か。


「グルァァァァーーーーー!!!」


 ロックベアが森を震わせる咆哮と共に、大木すら撃ち抜く石礫を飛ばして来た。



 俺は小さく、呟く。



「うぜぇ……」



 低い俺の声に、高速で空をすべる石礫が震えた。次の瞬間、




 ーーーーパパパパパパパパパパン………




「グォ?」


 すべての石礫が、塵となって消えた。




 ーーーズゥン……




 一泊遅れてロックベアが、耳から血を垂らしながら倒れた。

 既に事切れていた。



「はっ、くそつまんねぇよ」



 俺は事切れたロックベアにそう吐き捨てると、頭蓋を踏み抜いた。

 弱すぎる。

 弱すぎんだろがよ。



 そして俺は、馬車の去っていた方にまた歩き出した。

 あんな雑魚、この森にはまだうようよいる。1匹をスルーできたからと言って他の魔物に捕まってる可能性もある。


 死んだらなそれはそれで良い。だが一応は、まだ俺の主人だ。俺はゆっくりと歩き出した。



 クソだ。この世界は。そう、大嫌いだ。



 だけど、俺はこんな生き方しか知らない。今となっては、奴隷としての生き方しか知らない。



 ふと幼い頃の記憶が蘇る。



 ーーー母さん!出来ないよぉ!


 ーーーふふ、手伝ってあげるからもう一回頑張りましょうか。いっぱい練習すれば、きっと出来るから。


 ーーーレナさん、出来たよ。


 ーーー? ……嘘付くんじゃないよ。コレはアンタみたいな子供に出来るはずないんだから。


 ーーーえ、なんで? なんでできないの? 簡単だったよ? 何で皆んなはできないの?


 ーーーっ!あたしの子等を馬鹿にすんのはやめな! アンタがおかしいんだから!!


 ーーーえ? ちがっ、馬鹿になんて……


 ーーーうるさいぃ!!




 人より強い事を、知られてはいけない。

 人より物分りや理解が早いことも、知られてはいけない。

 愚鈍で、陰気で、口も意地も性根も悪い。

 そんな俺なら、この世界は“俺”を受け入れる。


 俺はそうあるべきなんだ。そんな俺だけが、この世界に在って良い存在なんだ。

 俺はそれ以外になんて、なれねんだよ。



 俺は俯き、あのクソ下らねえ世界に戻るために進んだ。だが、3歩進んだ所で、俺は歩みを再び止めた。



「……。」



 誰だ?


 その言葉すら発せられない程の存在感が、突然背後に現れたのだ。


「……。」


 無意識に握りしめた拳は汗に濡れ、かつてラウという少女に感じた不快からの鳥肌とは違う、腹の底を震わせる程の緊張で、鳥肌が立つのを感じた。

 全身を震わせながら、俺はふと、どこかこの気配を知っているような気がした。

 懐かしい? そんなはずない。俺が生きてきた中で、こんなヤバイ気配のやつなんていなかった。

 呼吸が苦しい。 

 なんだよ、これは。


 俺はゴクリと生唾を飲み、震え、ガチガチと音を立てる歯を食いしばって振り向いた。



 仮面をつけた、男が居た。

 魔族、なのだろうか? その風貌は、明らかに人間では無かった。

 2メートルを越す長身。漆黒の長い髪に、皮膚は灰色。その背には一対の不気味な黒い翼が生えている。

 黒く長いスカーフを首に巻き、見た事もない光沢を放つ黒いマントでその身を包んでいた。




 これは、ヤバい。




 瞬きすら忘れ、その男をにらみ続ける俺に、男は低い声で言った。



「思い出したか?」



「!?」



 その一言で、俺の頭の中にあった靄が一気に晴れていく。

 そうだ。何故忘れていたんだ? そうだよ、こいつが俺の夢にいつも出てきていた奴だ! 


 男の不気味な姿と、夢の中にいた黒い靄の影が重なり合う。


「っ、一体何の事だ!? テメェだろ。いつも夢に出てきてたのは。気持ち悪ぃんだよ!」


 俺は子犬のように吠えた。分かってる。コレは虚勢だ。どうしようもなく敵わない強敵に、成すすべのない弱者が見せる、精一杯のあがき。

 だけど他にどうしろってんだよ?


「……まだか」


 男はため息とともに小さく呟いた。そして、語り始める。その声に敵意や殺気は無く、淡々としたものだ。

 だが、その男から滲み出すオーラだけで、俺をでくの棒の様に、この場に縫い付けるには、十分の威圧だった。


「イビス、お前の出生の不幸は知っている。だがお前には使命がある。分かっているはずだ。お前には力がある事を。さっきの魔物を一撃で仕留めたその力、なんの為かお前は知ってるはずだ」


「……し、知ら 無い。 んな事、知らねぇ……」


「嘘だな。お前はただの人より賢い。だが何故か、己の使命から逃げ、弱者を演じる軟弱な甘えを持っている。もう一度聞く。お前の使命を思い出せ。お前は何者だ?」


 俺? 俺はイビス。 クソ見てぇな奴隷だ。 それ以外、何者だってんだよ?


 黙る俺に男はため息を吐き言った。


「本当に、どうしようもなく甘えた奴だ。過去に生まれ落ちたものもずいぶんな甘ったれだとは思っていたが、お前はずば抜けている。いいか? お前はーーー」




 は?





 男の言葉を、俺は理解することができなかった。


 ーーーユウシャ? 何だそれ?



 頭の中で、何かがカチカチと音を立てる。


 何を言ってるんだ、こいつは? 俺は知らない。 俺は違う。 違う、違う……



「その力、人の為に役立てず、使命も果たさず、お前は一体何をしている? それほどまでに、凡夫に塗れ、個を消し、馴れ合いたいか? 残念だがそれは叶わん。なぜなら、お前の魂には、そのようなヌルい道は歩めぬと、遥か昔、この世界にその魂が生まれた時に、そう定められたからな」


 違う。知らない。……ちが……


「もう一度言う。貴様は他の人間の凡夫にはなれん。どう足掻こうとな」


「ーーーっ」


 俺は、世界を嫌っていた。このクソみたいな世界を。

 なのに、それが俺の甘えだと? 違うだろ? 違うはずだ。



 ーーーなのに、なぜこうも悔しい? 違うと、言葉にして奴に言えないんだ?





 俺はふと、肩の力を抜いた。そして、小さく息をつき、目を綴じた。




「ーーーそうかよ。色々おかしいと思ったら、そういう事だったのかよ」



 ……俺は、あの黒い魔物の男の言葉を認めた。

 “仮に本当だったら……?”と考えたら、全て合点が合ってしまったんだ。


 俺の力、俺の能力全てが確かに異端だった。他の奴らに合わせられる事など、到底不可能な程に。


 俺の言葉に納得したのか、男は小さく首を傾げた。

 その仕草に、ふと、何故懐かしさを感じたのかに気付いた。そうだよ、この気配は間違いない。

 今まで、普通の人間は気配なんか気にしないから俺も気にしないふりをしてきた。

 だけど認めてしまえば、気配どころか、この世の至るところに漂う、マナの流れのすら緻密に感じ取れた。


「お前は何者だ?」


 俺は男に聞いた。


「余は魔王と呼ばれる者。魔物共を統べる者にして、勇者の宿敵でもある」


「は、魔王ね。なんだよ畜生。まさかオメーまで俺を裏切るとはな」


「裏切る? ーーーなんの事だ?」


 不思議そうに首を傾げる男。

 俺は男の目をまっすぐ見て言った。


「お前、ガルガルだろ?」


「……。   ……、違う。」



 少しの沈黙の後、男は、否、ガルガルは低く答えた。


「肉を貰ったりして満足したとき、左に首を傾げる癖があるよな。それに上手く隠してるが、その身の内のマナが流れるパターン、そして速度が同じだ。そりゃもう、クローン並みにな」


「余はっ、そのような名前では無い! 余の名はラムガル! それこそが、神から賜りし真名なり!!」


 ーーーラムガル。


「なんだ。やっぱり、ガルガルじゃねぇかよ。ラウのやつ、いいトコ突いてたんだな」


「だから、違う! 貴様わかっているのか? その名がどれほど屈辱的か。大真面目な顔で、勇者(ゆうくん)とか、勇者(ゆうちゃん)とか、勇者(勇者りんりん)とか呼ばれるに等しいのだぞ? 貴様はアンパンになっても良いのか!?」


 何やら殺気を放ちながら魔王は捲し立ててくるが、言ってることがよく分からん。あんぱんって何だ?


「俺は別に名前なんぞ何でもいい」


「良くないと言っておるだろう!! ええいっ、おのれ勇者め!!」



 油断すれば吹き飛びそうなオーラを発しながらも、ガルガルは俺を殺そうとはしてこなかった。

 勇者の天敵なんだろう?

 そもそも、なんで今まであんな犬っころの姿で、俺の前に居たんだ? 魔王にとってのメリットが全く無いだろ。


 その時俺は、人の事を甘ったれだのと罵倒しつつ、なんやかんやで攻撃の1つもしようとしないガルガルに、裏切られた腹立ちよりも、興味が湧いてきたのだった。



「なぁ、ガルガル。俺を連れてけ。こんなクソみてぇな世界も、お前となら、多少はマシになる気がしてきた」


 気づけば、俺はそんな事を口走っていた。


結局6歳の子供は何もせず、ラウをエロ親父のところに見送ったのでした。


そして今回やっと魔王と接触!やっとタイトルにストーリーが追いついてきました٩(๑´3`๑)۶

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