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番外編 〜闇落ち勇者 なんか奴隷にされたから、魔王と手を組んでみる事にした③〜

応援のお言葉を頂き、寝る時間を削り書くことができました\(^o^)/

感想は、メンタルアップの為の特効薬でした(笑)

 薄い幕をかけられた荷台に、俺は膝を抱えて座っていた。


 俺と同じくらいの、10歳にも満たない子供等が8人、幕の外から染み込んで来る冬の冷気から逃げるように、荷台の端で身を寄せ合っていた。

 俺は、その肉団子から離れた端にいる。


 寒さなど、どうでも良かった。



 ーーーあぁ、本当にこの世はクソだ。




 クソ、クソ、クソ、クソ、クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソーーー……。






「そのペット、触っていい?」





 突然、話しかけられた。


「あ?」


 見れば、俺の足元に、黒い毛玉が蹲っている。


「あなたのペット、触ってもいい?」


 再びそいつは俺に話しかける。

 雪のように白いうさぎ耳が頭から生え、人間には見られない灰色の長い髪、目は鮮血の色。アニマロイドの女だった。


「勝手にしろ。俺のペットじゃねえし。間違って紛れ込んだんだろ。あの人買い共が気付いたら、ソッコー捨てるだろうな」


 毛玉は頭を上げた。

 寝癖なのか、頭の毛が鶏冠のように立った黒い仔犬。

 仔犬は、フスンと鼻を鳴らすと、また体に頭を埋めた。


「だけどこの子、あなたから離れない」


 そう言って、うさぎ女は毛玉に触ろうとしたが、その瞬間、毛玉は頭を上げ、鼻にシワを寄せ唸った。


「ガルル……」


「……ほら、やっぱりあなたに懐いてる。ね、あなたから触っていいよって言って。そしたら、多分この子触らしてくれる」


「なんでだよ。そいつが嫌がってんならオメーのこと嫌いなんだろよ。自分を嫌ってるやつ触って嬉しいか?」


「……たしかに」


 うさぎ女はそう言うと手を引っ込めた。

 そしてじー、と仔犬を見つめ、また俺に聞いてくる。


「ね、名前つけていい?」


 知らんわ。勝手にしろよ。


 俺はもう、うさぎ女に答えることはしなかった。


「あなたの名前は、“ガルガル“ね。唸ってばかりいるから」


「!? ガルルルルーーー!!!」


 うさぎ女に言われた瞬間、仔犬は跳ね起き、毛を逆立てうさぎ女にうなりを上げた。


「ほら、やっぱりガルガルだ」


 満足げにうさぎ女は頷く。

 いや、それ明らかに嫌がって抗議してるだろ。まぁ、俺には関係ないけど。


「ね、あなたの名前は?」


「ーーー……うるせぇな」


「名前教えてくれたら黙るわ」


「……ちっ、イビスだ」


「そう、私はラウ。よろしく。なぜイビスは売られたの? 私はーー……」


「おい」


「なに?」


「黙るんじゃなかったのか?」


「いつ黙るとは言ってないけど?」


「……」


 なんだこの女。超うぜぇ。


 俺は苛立ちのあまり、黙り込んで、ただラウを睨んだ。


「良い。ゾクゾクする」


「は?」


「わからない? 私、あなたに一目惚れ。よろしく」


 鳥肌が立った。


「ガルル……」


 ガルガルが、一層激しく唸る。

 そうか、こいつ、ヤバイやつだったんだな。ガルガルは、こいつから俺を守ろうとしていたのか。


 俺はなんだか同士のような感情が芽生え、ガルガルの頭をそっと撫でてやった。

 ガルガルは、一瞬ビクッと体を震わせたが、すぐに大人しくなり、俺に頭を撫でられるに任せていた。




 ◆




「おーい、ガキ共! 飯の時間だぞ」


 日が高く登った頃、馬車を停め、人買共の中の一番下っ端っぽいヤツが袋を持ってきて、中身を配り始める。

 硬い小さなパンと干し肉。村の奴らから貰ってた飯よりよっぽど豪華だ。


「あの、野菜はなにかない?」


 パンと肉を受け取ったラウが声を上げた。

 アニマロイドは、元となった動物の習性を色濃く受け継いでいることが多い。

 まぁ、ウサギは肉は食わんしな。  

 パンは食えるだろうが、いかんせん小さい。1つじゃとても腹は膨れないだろう。


「えー、と。何かあったかな?」


 下っ端は頭を掻きながら、荷台を探ろうとするが、御者台から野太い下品な声が飛んできた。


「いらん事すんじゃねぇよ! ぜぇーたく言うやつにゃ、草でもむしって食わしとけ!」


「だけど兄ぃよぉ、ちゃんと食わしとかねぇと、商品価値落ちるんじゃねぇかな?」


「だからそこいらの草をむしっとけって! コレからコイツラはどっかのご主人様のペットになるんだ。身の程を覚えさせてやるいい機会だよ」


 ーーー……ホントクソだな。


 ラウは耳を垂らして、じっとパンを見つめていた。


「おいラウ。パンと肉を交換だ」


「……イビス?」


「ガルガルが、肉しか食わねんだよ。てめぇの肉だけ奪って何も返さねえのも気分悪ぃからな。ほらよ」


「え、イビスのご飯…」


「ちっ、……オメェは肉食ったことねぇから知らんだろうが、干し肉ってやつは、水や唾液を含ませて噛むと、20倍に膨れ上がるんだ。俺程にもなると、この一欠片で、一週間は持つね。だから気にすんな」


「……。」


 ラウは訝しげな目を向けながらも、俺の押し付けたパンを受け取った。


「ありがとう……。だけどイビス、私の名前はラウ。オマエとかテメェじゃ無くて、ラウと呼んでくれるまで、私はこのパンを食べてあげる事はない」


「貰っといてなんでテメェはそんな上から目線なんだよ! ……チッ、とっとと食えよ、ラウ」


「うん。いただきます」


 ラウはやっと小さなパンをカリカリとかじり始めた。

 ホント、面倒くさい奴だ。



 ◆



『おっ待たせぇーー!! イビスの指名した子達連れてきたよ!』


 ……。


『あっれぇ? もっと喜ぶかと思ったのに、なんでそんな死んだ魚みたいな目になるの?』


「……、イビスの指名の子……? ……しかも、子達? ……不潔!」


「何でだよ!?」


 口を覆い後退るラウに、俺は怒鳴り声を上げた。

 ってかなんでヒューズのやつ、ラウの前には普通に姿見せてんだよ。またややこしい事になるだろがよ。



「ったく、指名してねーよ! お前がどっか行くだけで十分だったんだよ! なぁ、ヒューズ?」


 俺がヒューズにデコピンをかますと、綺麗な弧を描き飛んでいったが、地面スレスレで持ち直し、またこちらに飛んで戻ってくる。


『僕の名前覚えててくれたの!! 感激だよ! じゃあ前に言ってたノイズとヴォイスを紹介するね』


 クソ、相変わらずコイツ、俺の話を全く聞きゃしねぇ。



『お初にお目にかかります。私、ヴォイスと申します。どうぞよしなに』


『ハイハイーー! ワタシちんはノイズだよー! よろピク☆』


 クソ、やっぱうざい感じだった。

 ノイズはまんまうぜえ。ヴォイスは、大人しめに見えるが、頭に黒いクラウンだの、顔にキモいペイントだのをしてて、ヤバイヤツ臭がプンプンしてやがる。


『あっれあれぇー? なんかお呼びじゃないっぽく無い?』


 そう。お呼びじゃねーよ。


『そんなことない! 僕ちゃんと聞いたんだから!』


 テメェ、言い訳するな!


『ほんとぉにー? ヴォイスちん、再生してよ』


『良いですわ。ーーー“やかましいチビを黙らせる魔法を教えてくれよ”、“黙らせる魔法を教えてくれよ”、“魔法を教えてくれよ”』 


 ヴォイスの口から、俺の声が響いた。

 ってか、妙な切り取り編集すんじゃねぇ!


『言ってるね』


『言ってるでしょ』


『言ってますわね』


『『『賜りましたなりー☆』』』


 おい! ヴォイスとヒューズ! キャラ変わったぞ!?


「凄い。こんな魔法初めて見た。ね、イビスの声で“ラブリーラウ☆”って言ってみて。飴玉あげるから」


 何言ってんだ、テメエは。


『営利目的の編集作成には、本人の許可が必要になりますので』


「イビス、いい?」


「良い訳あるか、ボケっ」


 うさ耳をピンと立てて聞いてくるラウに、俺は絶対零度の視線とともに返した。


『とに、かく! ちゃんと言ってたでしょ!しっかり魔法覚えてよ、イビス』


『光や風等の派手な魔法を好むことが多いのに、音魔法を習得したいなどとは……ウフフ、腕がなりますわね』


『ワタシちんもバーニングだよぉーーー!』


「イビスは曲がったことが大嫌い。肉の交換をしたときもそうだった。イビスは自分の言ったことはちゃんとする男」


 …

 ……。


 うぜえ……。もう、魔法くらい学んでやってもいいから、このうぜぇのを何とかしてくれ……。



「おーい、ガキ共! そろそろてめえらのご主人様のいる街につくぜぇ。気ぃ入れて、いい値段つけてもらえよぉ! へへっ」


「!」


 人買の下品な声で、俺は現実に引き戻された。



 そうだった。俺達は売られた身。自分の意思などまかり通らない奴隷の身分だったんだ。




 ーーーいいじゃねぇかよ。




 これでラウとオサラバだ。俺の飯を食ってたガルガルもどっかに捨てられるだろう。妖精共はもしかしたら付いてくるかもしれないが。




 ーーーこれでやっと静かになる。




 そう思い、俺の口がニヤリと歪んだ時だった。




 ーーーちゅ



「!?」



 目の前の、すぐそこ。 物凄い近い位置に、ラウの顔があった。




 は?


 はぁ? 何しやがったコノヤロウ!


「なっ、なっっ!?」


 俺が口を腕でゴシゴシとこすりながら、言葉を詰まらせていると、ラウがフッと笑いながら言った。


「ごめん。ちゃんとお願いしたら断られると思って。だけど、もう少しでお別れだから」


「なっ、テメっ、ラウ!! だからってっ……」


 不本意ながら、俺は動揺してしまい、顔が真っ赤だ。あくまで動揺だ。こいつに気が合ってとか、そんなんでは決してない。

 誰でもこんな事急にされたらビビるわ。


「私が売られた理由は、私の家が貧乏で、私が可愛かったから」


「……」


「この先自分がどうなるかくらい分かってるし、それはもう死ぬ以外に逃げられない。だけど私は死にたくない。何が何でも生きるって決めた。だから、」





 ーーー初めてのキスくらい、好きな人としたって良いでしょ?





 最後の言葉を、ラウは俺の耳元で囁くように言った。





 売られた先でラウがどんな奴隷になるのか?

 普通に考えればすぐに分かる。





 クソが。



 ホントにクソな世界だ。




 俺達は、街につくまで、もう口を開く事はなかった。






読んでくださってありがとうございました(*^^*)


寝ます!

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