神は聖域の守り人、ハイエルフを創り賜うた
レイスとゼロスの2人は……否、もう2柱と呼ぶべきか。
2柱の神は今、真剣な顔をして肉をこねている。
特にレイスは鬼気迫る勢いだ。
「このくらいでいいかな?」
ゼロスが『ふぅ』と息を吐きながら顔を上げた。
レイスも顔を上げるがその肉を見た途端、気持ち眉間に皺が寄る。
「だめ。弱すぎる。マナのキャパが低すぎる。最低その八倍は増やして。頭の中身も雑すぎる。余計なことを考えないくらい馬鹿にするか、どんな事にも惑わされない、情報処理能力を持たせないと駄目。それからもっと頑丈にして。マナ破壊にも耐えられるくらい。あと……」
「わかった、わかったよ!」
至って真剣な顔で、いつまでも注文を言い続けそうなレイスに、ゼロスは慌てて手を振って遮った。
「ゼロス、妥協はだめ。コレはアインスを守る為の見張り役。私達が遊んでる間、アインスに近付く者を消す為の者。妥協も失敗も駄目。ちゃんと完璧にして」
「わかってるよぅ」
レイスに言い募られ、若干ふてくされながらもゼロスはまた肉をこね始めた。
そんな2柱を見て俺は言う。
「レイス、俺の為に創ってくれるのは涙が……否、樹液が出そうに嬉しいんだけど、誰も来なかったら俺は少し寂しいかもしれない。一度レイス達が上空に行ってしまうと、千年くらい帰ってこない事もよくあるからね」
「……」
……ちょっと哀しそうに黙り込むレイス。
あぁ、そんな哀しそうにしないで。程々が良いって伝えたいだけなんだ。
「あ! いい事思いついた!」
その時、ゼロスの明るい声が響いた。
「レイスはレイスの思う“とっても強いやつ”を創りなよ。成型は手伝ってあげるからさ。僕は今あるこの肉を使って【種】を作れるやつを創る事にする」
「―――……人間やゴブリンみたいなのを創ると、またアインスをキズつけるかもしれない。レイス、いい事と思わない」
「人間やゴブリンより賢く創るし、制約をつけるんだよ。まずは“アインスを守り、傷つけちゃいけない”。更に、命の水の雨によってマナに充ちている“このエリアでしか、生きてはいけない”ってね」
「……大丈夫かな?」
「うん。それに、レイスの創るやつに絶対服従だ! 数があると、レイスの創ったやつの取りこぼしも見つけてくれるよ」
「……何だかいい事に思えてきた。本当に傷つけない?」
「うん。絶対、傷つけないように創るよ。……そうだな」
そう言って。ゼロスは少し考え込んだ。
「寿命は適当に2千年くらいかな。植物が大好きで、火を使わないんだ。食べ物は、アインス以外の植物しか食べなくて、もし万が一アインスを食べたら、呪われて体が真っ黒になっちゃうんだ。そして、二度とこのエリアに入れなくなる……とかどうかな?」
ゼロスはパズルを組むように、創作物の設定を呟く。
「レイスの創るやつの部下だから、“それ”になにか困ったことが起きたらお世話してあげたりもするよ。エリアへの侵入者がいたら、アインスを傷つけるような奴は直ぐにやっつけるか、レイスの創ったやつに報告。アインスを傷つけなさそうな者は、エリアの外に帰すか、場合によってはアインスの所に連れて行ってもいい」
静かに聞いていたレイスが、ハッと顔を上げた。
「っ!!? ……とっても良い考えだけど、最後のはナゼ? ナゼ、アインスのところに連れていく?」
「え? アインスが退屈しないように」
「……」
……そうか。俺に気遣ってくれたのか。ありがとうゼロス。
ゼロスがレイスに尋ねる。
「どう?」
「とってもいい考え! ゼロス、それ創って!」
レイスは、興奮して頷いた。
―――そうして、命の水の雨が降ったエリアは聖域と呼ばれるようになり、聖域の守り人【ハイエルフ】が出来たのだった。
ハイエルフは全部で306体。
二柱で話し合った結果、聖域内で数が増えすぎても困るという事で、一体死んでは近くの植物の実から、新たな一体のハイエルフが生まれ落ちるという仕様にしたそうだ。
大した数でもないからと、ゼロスはハイエルフ達を一体一体丁寧に手創りした。
本当にゼロスは器用な子だ。
俺は魔法のように創られていく至高の芸術品を前に、ただ見惚れた。
因みに一応ハイエルフ達は、種を作ることもできる。
だけど種から出来た子孫は、寿命もマナ保有量もオリジナルの5分の1程しかなかった。
代わりに“聖域に縛られる”という制約は適用されない。
まあ、聖域がハイエルフだらけにならないように、わざわざ種の作り方に制限設定までしたのだから、適用されないのは当然といえば当然である。
―――後にハイエルフの種から出来た子孫は【エルフ】と呼ばれるようになり、聖域から出て世界に散る事になる。
そして同時期、好奇心から世界樹の葉を食べる禁忌を犯したハイエルフが、神の呪いでその身が黒く染まり【ダークエルフ】と呼ばれるようになるのは……もっとずっとあとの話だ。