神は、エデンを築き賜うた〜Let it go〜 ④
俺の言葉に、レイスは俯き首を振った。
「出来ない。レイスには出来ない」
「きっと出来る、自分を信じて。だって、ほら」
俺は、泣きそうに俯くレイスに優しくそう言い、デュポソの後ろにある物に、俺の葉の一枚をゆり落とした。
「……氷の結晶?」
葉の落ちた先、地面に突き刺さった、直径3メートルを超えるそれを、ゼロスが不思議そうに見た。そして、
「これは、……凄く、ーーー凄く、綺麗だね」
「!」
ゼロスのポツリと呟いた声に、レイスの目が見開く。
「とても綺麗だよ。ねぇ、レイス、これで楽園の大地を創ってよ! これを空に浮かべたら、絶対に綺麗だから! レイスは、こんな綺麗なものを創れたんだね! 凄いよ! さすがレイスだ」
「こ、これは、水の分子の結合でできたシンメトリーの結晶。レイスが創ったわけじゃなく、分子組織の結合パターンが……」
ゼロスの心からの称賛に、戸惑うレイス。
ゼロスの好みは辛口だから、ここ迄褒めてもらったのは、一万年前、レイスが聖石を生み出して以来じゃないかな?
「関係ないよ! それで創って。頼むよ、レイス」
「!! ……ーーーわかった。 ゼロスの頼み事、レイスは力の限りを、尽くす!」
レイスの目に、光が灯った。
レイスは空を切り裂き、光のゲートから方舟を出現させる。
音も無く、レイスは方舟の上に浮かび上がり、両手をかざした。
何も無い空気中から、土が湧き出し、方舟を覆い包んでゆく。
見る間に土に包まれた方舟は、広大な大地となり、その大地の上に降り立ったレイスは、舞を舞うようにくるりと身を翻した。
レイスの手から放たれる高密度のマナは、美しく、固い氷となり、冷たく大地を包み込んで征く。
「凄い。土や空気が中に入ったせいで、クリアなのに、中で光の乱反射が起きてる。紫やブルー、グリーン、黄色……。大地が虹みたいに輝いてる。これが空に浮かんだら、絶対キレイだよ! ねぇ、アインス!」
ゼロスは、天高く舞い上がった大地を思い描いて、歓喜の声を上げた。
「まだ。ーーーまだ、レイスの力はこんなものじゃない。 ゼロスが褒めてくれた、華咲く、氷の結晶の模様も入れる」
レイスが激しく舞い、足を踏むごとに、手をかざす毎に、レイスの創り出した氷は、喜び舞うように弾け、伸び、その姿を現してゆく。
上の飾りはゼロスがすると言っていた為、主に氷は下に下にと伸びてゆく。
輝く大地の下に伸びる、青を基調とした、極彩色の氷の華。まるで、巨大なクオーツの結晶のようだ。
レイスは舞い続ける。
いいぞ。とても輝いてるよ、レイス!
俺は、胸が熱くなるのを覚え、大きく全身の葉を揺すった。
「ーーーこれで、決める!」
最後にレイスがそう叫ぶと、レイスがひとつの大きな氷の固まりを頭上高く投げた。
「!」
氷は天高くで弾け、眩しい光を放つ氷の粒となり、大地に降り注いだ。
ある物は大地に留まり、その身の輝きを大地に焼き付け、またある物は大地の下で、ダイヤモンドダストとなって留まり、不滅の虹を産み出した。
レイスは、ほっと息を付くと、おずおずと不安気に聞いてきた。
「……どう?」
「これでいいよ! 皆も好きになるよ! ね、マリア!」
「はい、大変美しいです」
ゼロスは少し興奮気味に答える。
よっぽど気に入ったんだね。
「ほんとに? これでいい?」
「はい。十分にございます。皆、これを見れば、レイス様への信仰を深める事でしょう」
「……そう」
レイスはマリアの答えに、そっぽを向きながら、嬉しそうに、小さな声で答えた。
「さあ、じゃあ聖者達。行くといい。聖者達の楽園に!」
ゼロスがそう叫ぶと、光の道が出来た。所謂、天国への階段というやつだろう。
マリアを筆頭に、聖者達がその道を、光の中を歩き出す。
「……ゼロス、上の飾り忘れてる」
その様子を見ながら、レイスがふとゼロスに聞く。
ゼロスは笑いながら答えた。
「うん。これだけ綺麗なら、僕が飾る必要なんかないよ。それに、この大地はマナに満ちてる。魔法に長けた聖者達なら、必要な物は、自分で作り出すだろうからね」
「……。……そう」
レイスは俯き、短く答えた。
ゼロスの位置からは見えなかった、レイスのその表情は、とても嬉しそうに微笑んでいたんだ。
◆
やがて、厳かに楽園へと渡った聖者達を乗せ、氷の大地はゆっくりと空へと舞い上がり始めた。
ゼロスが叫ぶ。
「そう! ゆっくりでいいからねー! 気を付けて!!」
ーーーゴンッ
「あ、ごめんなさい、アインス」
「だから、気を付けてって言ったのに!」
大丈夫。少しも痛くないよ。
My gods never bothered me anyway!
こうして、清く、高潔なる聖者達の魂の召し上げられる楽園が出来た。
ただ、死せる魂達の楽園であるわけだから、生きている者達は当然足を踏み入れる事はできない。
生きとし生けるもの達は、天空のその美しい大地を見上げ、憧れては、あの楽園にいつか足を踏み入れられるよう、より高潔に生きるよう努力を始めた。
実際のところ、魂の輝きも必要になってくるから、狙って行くには、かなりハードルの高い場所ではあるんだけどね。
ルシファーは、楽園ができたお陰で、復讐より、楽園に行きたいと望む亡者が増えたと喜んでいた。
そんな亡者達は、一通り楽園を観光した後、満足したようにマナの流れに帰っていくそうだ。
天空に浮かぶ、美しい大地を見上げながら、ゼロスがポツリと言う。
「ねぇ、レイス」
「ん?」
「もし、ーーー……もし、僕が居なくなったとしても……」
「?」
「いいや。……何でもない」
温かい日差しの中、笑いながらゼロスは首を振った。
いつの間にか、季節は春も終わりを迎え、緑の群生が風に靡いていた。
読んでくださって、ありがとうございます(*^^*)
次回、番外編を予定してあります。




