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神は、エデンを築き賜うた〜Let it go〜 ①

今回、以前感想を頂いたものをネタにさせて頂きました。(*^_^*)

 エルフ達の一件が落ち着いてすぐ、この聖域にも冬がやってきた。


 辺り一面には雪が降りしきり、音も無く降り積もる雪は、家路へ急ぐ動物達の足跡を、あっという間に消し去ってしまう。

 まるで命の気配のない、誰も居ない真っ白な世界。

 とは言っても、足跡を残すことの無いレイスが、さっきから、俺の周りでふわふわと浮きながら、人間の大人ひと抱えはあろうかと言う、雪の結晶を作って遊んでいるんだけどね。

 いつもレイスの後ろに控えているラムガルは、また増えすぎた魔物達の調整と、勇者の様子を見に行っている。

 レイスが呼ばない限り、もう20年程は戻って来ないだろう。


 俺は、ただ1柱きりで、黙々と氷の華を創り続けるレイスに声をかけた。


「綺麗だね。とても大きいそれは、雪の結晶かな?」


「そう。……正確には、“氷”の結晶」


 ! レイスが俺の言葉を訂正した!

 そうだね!確かにレイスの言う通りだ。

 雪の定義は“空から落ちてくる氷の粒”を指す。

 あのサイズの雪が降ってきたら、人間クラスにとってはチョットした大災害だ。当たれば、絶命は免れない。

 そうだね、それは間違いなく“氷”だ。

 あぁ、レイスはなんて賢いんだろう。


「そうか、それにしてもキレイだね。レイスは本当に、そういったものを作るのが本当に上手ーーー……ん?」


 俺がニコニコと、尚もレイスを褒めちぎろうとしたその時、吹雪の風の隙間から、誰かの悲鳴のような声が聞こえた。





 ーーーこのままじゃ、駄目なんだ!





 ?


 どうやらレイスにも聞こえたようで、手を止め、吹雪のベールの向こうに視線を向けている。

 ちょっと睨んでいるような気がするのは、気のせいかな?

 俺は、レイスを褒めるのを一時止め、吹雪の向こうを見つめた。



「ーーーだから、ちょっと黙れって!」


「ニャーン」


「オメーも黙れ」


 吹雪のカーテンを押し広げ現れたのは、なんとルシファーだった。

 一対の白骨の翼を、得意気にはためかせ飛びながら、腕には暴れ喚く一人の男(の魂)を抱え、もう片方の手では、ちょっと変わった猫の首根っこを摘み上げている。

 ちょっと変わった、というだけでは分かり難いかな。サイズはライオン程で、頭と前足が猫、首の付け根から山羊の頭が生え、後ろ足は蹄があるから山羊のものだろう。尾は、まるで独断で逃げ出そうとニョロニョロ動き回っている蛇の頭だ。


「ーーールシファー、それは何?」


 珍しくレイスは、その見たこともない謎の生物と、この状況に戸惑っている。


「レイス様! この度は突然の訪問、誠に恐縮でございます。いや、これは何かと言いますと……」


「ワシには、まだやる事が沢山あるんだ! ええい! 放せ! 降ろせ! ワシをその合成獣と家に帰せ! この化物めぇ、このまま、アレを放って置けるかぁ!」


「だからお前はもう死んだんだって。ーーー騒がしくて申し訳ありません、レイス様。こいつは、デュポソと言う名で、かつて医師をしていた人間の男です。こいつが、趣味で様々な動物達を解体し、繋ぎ合わせて遊んでいる内にできた物が、この奇妙な猫です」


「ニャぁーー……」


 猫は首根っこを掴まれたまま、掠れた鳴き声で返事した。


「ワシが死んだ!? 嘘をつけ! ワシはまだこうして生きてーーー……」


 ーーーぼっ……



 デュポソが尚も食ってかかろうと、再び口を開いた時、デュポソを形造っていたマナが弾け飛び、消えた。


 見ると、レイスの手から氷の結晶が消えていた。

 どうやらデュポソに投げつけたらしい。

 レイスに投げられたその、トゲトゲの美しい凶器は、寸分狂わずデュポソの上半身を消し飛ばしたのだった。

 とはいえ、幻に近いその身体は、すぐ再生されるんだけどね。


「え、ーーー……え?」


 ゆらゆらと空中に頭を再生させ、繋がっていない体を見下ろしながらデュポソはただ困惑の声を上げる。

 そこに、苛立ちをにじませたレイスが、飾らぬ言葉によって、とどめを刺した。



「お前はもう、死んでいる」



「ーーー………。 !? っあびゃぁーーー!!」


 一瞬後、やっと己の死を理解したデュポソが、悲痛な叫びを上げた。

 その事実に、相当傷ついたみたいだ。


「そんな事より、動物達を切り刻んだ? もふもふを? たかが人間如きが趣味で??」


「……っ」


「……お、おい、謝っとけよ……あの方は、この世界の最強の神様だぞ」


 死の現実に絶望しながらも、その絶望すら生ぬるいとさえ感じる、神の怒りに触れたデュポソは、言葉を失った。

 ルシファーすら、翼を縮こませ、顔面蒼白になりながらデュポソを小突いている。

 デュポソは、まだ上下の繋がっていない体をガタガタと震えさせながら、泣くように必死に言葉を絞り出した。


「……っ。 わ、わしはただ、神に憧れた……。 ーーー貴方様が神とおっしゃるか……、この世の全てを創造されたとおっしゃるのか」


「全てじゃない。レイスが創ったのは半分。残り半分の“綺麗な物”はゼロスが創った。ーーー……レイスは、上手じゃないから、この世界には綺麗じゃないものが在る……」


 レイスはそう、悲しそうに呟いた。


 そんなに傷つかないで。

 レイスが創った物も、とても素敵だよ。


 デュポソは、レイスの無表情に近い悲しげな表情には気付かず、相変わらず震えながら話し続ける。


「ワシは、医師という職に従事しておりました。病や怪我で傷付いた人を治す仕事です。小さな田舎だったので、人と言わず家畜と言わず、生ける者すべてを診ました」


「ワシは、壊れたものばかり治している内に、新たな物を造りたいという思いに駆られ始めたのです」


「だから、もふもふを切り刻んだと? 言い訳にもならない」


「ーーー歪んだ願いと言うことは承知しておりました。なので、誰にも打ち明けることなど出来なかった……。しかし、大工は、鍛冶士は、新たな物をうみだすのに、ワシだけが何故その様に制限を受けなければならないのか? 命の問題というのであれば人は獣を食らうではないか!」


 デュポソは拳を固く握り、何かに耐えるように声を絞り出した。


「悩んだ……悩んだが、耐えられなかったのです。ワシも、壊れた物を治すばかりでは無く、新たな物を造りたかった! 神の創られた神秘に触れ続け、出産など決められたルートでは無く、新たな命をこの手で造り上げたいという思いが止められなくなったのです」


「ーーー……。耐えられなくなり、願いのままに本性を表し、切り刻んだと。……何故、もふもふを選んだ? 人間を刻めば良かったのに」


「それは、……ただ、人間なぞつまらなかったから。動物達には申し訳なく思っております。しかし、それをしておる時は罪深くも喜びを感じておりました。失敗したときも、成功したときも、楽しく、その時ばかりは、罪深い己を好きになった程です」


「もふもふが、好きだから切り刻んだ、か。ーーーお前の愛は歪んでいる」


「承知しております。しかし、だからこそあれらの犠牲の上に、出来上がったワシの作品を完成させねばならんのです! 死んでなどたまるか! ワシは……、ワシは、後戻りできぬ罪を犯したのだから!」




「にゃーん」



 デュポソが熱くそう叫んだ時、不意に猫の鳴き声が響き、張り詰めた場が一瞬和んだ。

 俺は、思わず口を挟んでしまう。


「その作品というのが、その子の事かな?」


 俺の声に、皆は猫に注目する。

 そして、デュポソがコクリと頷いた。


「そう、ワシの造り上げたキメラです」


「キメラ?」


「猫のキティ、ヤギのメイ、ヘビのラーフ。皆の頭文字をとったのでございます」


 そう言うと、デュポソは愛しそうにキメラに目を向けた。しかし直ぐに険しい表情となり、レイスに向き直った。


「3体が合わさり、臓器も神経器官も全て完璧。生物としての活動や反応も可能。しかし、ーーーしかし、どうしても何かが決定的に足りない。生物と呼べる何かが、キメラには無い。柔らかく、温かく、なのにまるで植物の様。だが一体何が足りないのか、まるで分からない……ーーーこれでは、駄目なのだ!」


 話しているうちに身体が再生されたデュポソは、そう言うと、苦悩に雪の上に崩れ落ちた。




「ーーー簡単だ。魂が無いんだよ。難しいよね、魂を創るのは」




「「「!」」」


 不意に、誰も予想していなかった声がその場に響いた。


 ゼロスだった。


5月中、多忙につき更新が止まってしまってすみませんでした_(_^_)_

ブクマ外さずに来てくださった方、ありがとうございます。また、ポチポチ書かせて頂きますのでよろしくお願いいたします。

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