神は、闇の力を、隠し賜うた
はい、終わりません。(*´ω`*)
この回でもエルフは終わりませんでした!
まぁ、気長に行きましょう(笑)
それからひとしきり、目を閉じたままファーブニルは、泣きながらベティーに謝り倒した。そしてふと、3人に聞いた。
『……そう言えば、聖域に居るって、なんで分かったんだ?』
「それはこの子、ディータのおかげです」
ベティーはそう言うと、黒髪の俯いている長男の頭を優しく撫でた。
『ディータ、なんでオイ……否、お前の父ちゃんの居場所が分かったんだ?』
ファーブニルがそう聞くと、ディータは俯いたまま、口元だけをニヤリと歪ませた。
「きひひっ、ーーーオレ様の崇拝する、ナイトメア様に聞いたのだ。ひひっ。闇の帝王にして、悪夢の支配者、神にも並ぶ存在にして絶望の化身。オレ様はこの生涯をナイトメア様に捧げると誓いを立てた。キヒッ」
ディータは、地を見つめたまま、酔いしれた様に、そう楽しげに答えた。
『ーーーっのぉおぉぉーーーーー!!! ちょっと見ない間に、更にこじらせちゃってるよ、この子ぉ! しかもナイトメアの奴、チビ達に接触禁止って言ってたのに! 何やってんのさ! ……いや、スマンじゃないよ!? スマンで済んだら、ハイエルフ要らないよ。まさに“済まん”だからねぇ!?』
ディータの答えに、ファーブニルは再び泣きながら叫んだ。
しかしまぁ、アレだ。今なお“キヒッキヒッ”と、含み笑いを続けるディータからは、なんだかレイスと同じ……とは言わないが、似た趣味や嗜好を持っている気配を感じるな。
『レイス様! オイラの一生のお願いです! あの子達に宿った闇の力を封印してください!! 駄目っ! アレは絶対、駄目なやつなんです!』
ファーブニルは、そう叫び、泣きながらレイスに土下座をして、額を土に埋めた。
レイスはその様子に肩をすくめ、面倒臭そうにボヤく。
「ーーー。全く。エルフを辞めたくせに図々しい……。だけどまぁ、レイスは以前、お前の願いは、全て聞いてやると心に誓った。ニルじゃ無くなったから、と言い訳するのは、格好良くない」
レイスはそう言って、俺の方にちらりとドヤ顔の視線を送ると、幼いエルフ達の頭にポフンと手を置いた。
うん。わかってるよ。
俺はちゃんと知ってる。
レイスはとても優しくて、とっても格好良いんだって事をね。
俺は嬉しくなって、ざわりと葉を揺らせた。
「闇の力に封印をかけた。今後、コイツラと、闇の力を持って産まれてくる奴らは、その力では目くらまし程度の事しかできない。レイスの掛けた封印を解かない限りは」
レイスはそう言うと、二人のふわふわの頭をもふもふと撫でると、踵を返した。
とはいえ、創造神の1柱である、レイスの掛けた封印を解く事など、本気のラムガルが千人居たって無理だろう。
そうして、後に産まれて来る、闇の力を持つ者達は、あまり役に立たない力の使い手として、認識されてしまう事になる。
初代闇魔法使い、“眠らずの錬金術師ニル”が残した膨大な研究資料や論文に関しては、幻の奇跡魔法、もしくは、悪魔に魂を売った狂人の幻想魔法として伝えられて行くのだった。
「ーーー畏れ多くも、私も1つお願いしたく申し上げます」
突然、この場で初めて聞く声が響いた。
今まで一言たりとも口を開くことの無かった、エルフ達の母、シェリフェディーダだった。
一同が驚く中、声は凛と響いた。
「アインス様、私にアインス様の葉の一枚を頂戴したく、お願い申し上げます」
あ、俺?
「もちろん構わないよ」
俺は愛すべき者からのお願いを、断る理由も無く、俺のとっておきに綺麗な葉っぱの一枚を、シェリフェディーダの前に、ひらりとゆり落とした。
1枚でいいのかな? 何ならもっと沢山あげるけど。
俺がそんな事を考えていると、ゼロスがハッとしたように叫んだ。
「ちっ、ちょっと待ってよ、シェリフェディーダ。まさかそれを食べる気?」
「「「「『!?』」」」」
ゼロスの言葉に、一同は息を飲んでシェリフェディーダを見た。
そう、ハイエルフはいかなる理由があろうも、俺を食べると呪われて、聖域を出禁となる。
そういう生き物なのだ。
「はい、ゼロス神様。聖域を守るよう与えられた使命を投げ出す事は、この上なく心苦しく思っております。しかし私は、母としての責を負うべきと感じております」
「ーーーそれは、ハイエルフの思考らしく無い、愚かな結論だよ、シェリフェディーダ。ファーブニルは、ここにある全ての罪を背負った。今更シェリフェディーダの負うべきものなど1つもない。それに、ファーブニルは、5000年経てば許されるけど、ダークエルフの呪いは永遠だ。その身が朽ち果て、生まれ変わって尚、二度と聖域に戻る事はできないんだよ」
一度呪われたその身は、死んで再び植物の種から生まれ落ちるときも、ダークエルフとして生まれ落ちる事になる。
「はい。理解しております」
シェフェディーダの落ち着いた声に、喘ぐようにファーブニルは、言葉を発した。
『母様……いや、シェリフェディーダ様。駄目だ。貴方のせいなんかじゃない。どうか』
「ふふ、そうですね。私のこの行動は、誰からも望まれず、全く無駄な事なのでしょう。自責という理由をつけた、唯のエゴ。ではこう言い直しましょう」
シェリフェディーダは、優しく微笑むと、震えるファーブニルの背に声を掛けた。
「どんな姿になっても、私は貴方を愛しているわ。今度こそ、最後まで貴方を見守りたいの」
『ーーー、駄目だよ。嘘だ。そんな筈ないよ。ティニファならまだしも、出来損ないのオイラだよ? 貴方はいつも、オイラを怒ってた。ため息ばかり吐いてた。オイラの事なんて……』
まるで懺悔でもするように、言い募るファーブニルを、シェリフェディーダは優しく制し、言った。
「そうね。母でしたから、愛する者の一挙一動に心を動かしたわ。先代の私が、まだ人の子であった頃のルシファーに、心を落ち着け、自分を見つめよ、なんて説いていたというのにね」
『ーーーっ』
言葉を発せなくなったファーブニルに、シェリフェディーダはとても楽しそうに、まるで遠足の計画でも話しているかのように話し続けた。
「そう、これは私の望み。それに、外に出ていった我が子達をこの目で見てみたいと、常々思っているうちに、聖域の外への好奇心が、湧き上がってきていたのです」
楽しげに語るシェリフェディーダに、やっと彼女の語る意味に思考が追いついたダッフエンズラムが、悲鳴を上げた。
「待てっ、シェリフェディーダ! 私はそのような事は聞いていない! 私はどうするのだ! そなたが往くなら私もっ」
「ダッフエンズラム、あなたは聖域に残って。貴方は我らハイエルフの長。私のように私情に流されてはならない立場です」
「ーーーっ、こんなはずではなかった。こんな事を決して望んではなかった! 私は、ただ……」
「ごめんなさい。ダッフィー、私もできる事なら、この命終わる時まで、側に居たかった。ーーー神々と、我等の仕えまする聖木の御前にて、私はここに誓います。たとえ二度と逢う事が叶わなくても、心は常に共にあると」
「シェリー……」
ダッフエンズラムは、やりきれない想いを抱えつつ、ただシェリフェディーダを見つめた。
その誓いの意味を、そして、彼女の想いは固く、どれほど自分の想いを重ねようと、その決意は覆ることが無いのだと理解したからだ。
シェリフェディーダは、人目をはばからず、ダッフエンズラムに軽く口付けた。
「また、いくつかの魂を超えた先で逢いましょう。世界の終焉、最後の神獣を眠りから醒めさせるその時に」
まぁ、ダークエルフになっても、ギドラスを起こすための条件は変わらないからね。
シェリフェディーダはふっと微笑むと、俺の葉をその口に含んだ。




