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神は、邪竜に呪を掛け賜うた

エルフ編、今回で終わりませんでした(*´ω`*)

「こほん、えーっと。という事で、火は返す事となりました」


 自分達ののんきなやり取りに、1歩引いた視線を、創造物達から送られていることに気付いたゼロスが、慌てて体裁を取り繕うため、威厳いっぱいにみんなの方に向き直った。


「だけどスグに返すだけだと、お互いの遺恨を残す結果にはなるね。僕としては喧嘩はもう辞めて欲しい。そもそも、仲良くなる為、互いに歩み寄った結果、緩んでできた隙間が、運悪く悪い結果を招いてしまっただけなんだから。まさに、運が悪かったとしか言いようが無い。ーーーだけど、それだけで全てを許せる? ねぇ、ダッフエンズラム」


「……い、いいえ。畏れながら……」


 ダッフエンズラムは、ゼロスから突然振られた言葉に、戸惑いながら、しかしはっきりと、否と答えた。


「だろうね。だから僕から1つ、火を返す為の条件を付けよう」


「条件…? それは一体?」


「ドワーフ達に火を返すのは、5000年後だ」


「「「え!?」」」


「ご……5000年……後……」


 ドワーフたちの寿命は、エルフ達の更に半分の、約200年程だ。

 再び暗い闇に、その瞳を染めようとしたルボルグに、ゼロスがピシャリと言い放つ。


「自分が罪を犯したということを、忘れてはいけないよ。ルボルグ」


「は、……はい」


 優しくも残酷なゼロスの言葉に、ルボルグは俯くしかなかった。


「火が戻るまでの間、ドワーフ達は流浪の民となって、反省すると良い。個の罪は種の罪だ。二度と間違いを犯さないよう、しっかり反省するんだよ!」


 ルボルグは、跪いた。


「そしてその間、ハイエルフ達とエルフ達は、この話を絶対に口外してはいけない。語り継がれない歴史は、禍根もろとも史実から消える。ハイエルフ達の寿命は2000年だから、間違いが起こっても、2世代以上経てば間違い無く、この出来事は世界から忘れられるってわけだよ。……まあ、ハイエルフ達に限って、間違いなんか起こらないはずだと思うけど。ただ、エルフの監視はしっかりしておいて」


「はっ!」


 そう言って今度は、ハイエルフ達と、エルフ達が跪いた。

 その時、場を仕切っていたゼロスの背後から、レイスが巨大な金た……いや、金の卵を抱えてぬっと現れた。


「ゼロス。出来た」


「ありがとう! さすがレイスだ。いい感じだね」


 ゼロスはレイスの卵を感心したように眺め、みんなにその卵を説明してくれた。


「これは、黄金の火を閉じ込めた卵だよ。これをファーブニルに預ける」


「ギャオ?」


「そう。ドラゴンになった寿命は、高位の魔物と同じく数万年程ある。5000年間、ドワーフ達の住んでた穴蔵の中で、これを守るんだ。ーーーそんな馬鹿みたいな声出さなくても、マナを操れば喋れるでしょ? マナの保有量だって上がってるんだから」


『あっ、はい! こうですか! 出来ました』


 ゼロスは満足げに微笑んだ。


「5000年後、約束の時が来たら、ファーブニルの守っていた卵は孵化し、ディウェルボ山脈の腹に、再び黄金の光が灯る。そこまで無事卵を守り通せれば、ファーブニルの罪も、ドワーフ同様許される。そうだよね、レイス」


 ゼロスの言葉に、レイスは深く頷いた。


「そう。5000年の間に虫を克服して、ついでに罪を償って、元のエルフに戻るといい」


 レイスはとても優しく、ファーブニルに言う。

 レイスは諦めるということを知らないようだ。


 ファーブニルは、2柱の話に少し考え込んでから言った。


『レイス様、オイラエルフはもう懲り懲りです。無事、卵を守りきった暁には、オイラをドラゴンのまま、自由にしてもらえませんか?』


「!? ーーー……レイスは、エルフが良いと思う。ドラゴンなんかちっとも良くないと思う!」


 おそらく今この瞬間、レイスのこの言葉に、全世界〈のドラゴン〉が涙した。


 レイスは必死でファーブニルを説得しよとしたが、ファーブニルの心は固かった。というか、レイスは説得が下手だった。


『そんなこと無いです! 空も飛べるし力も強いし、最高です! オイラはエルフに心残りなんてありません!』


「……。」


 レイスは目に見えて落ち込んでいる。

 そしてボソリと言った。


「ーーーもぅいい。爆発してしまえばいい。そうだ、卵守れなかったら、山が吹き飛ぶようにしておく。そうなったら、火と山はなくなる。守るものが無いお前は、好きなとこに飛んでいけばいい。卵を奪われたら、お前は自由」


『えぇ!?』


 そうして、レイスの絶望から生まれた小さな呪いの言葉は、ファーブニルをつなぐ頑丈な鎖となり、今後五千年の間、ファーブニルをディウェルボ山に縛り付ける事となった。


『……あ、そうだ。“心残り”は1つだけありました。オイラの嫁と、ちび達の事。ーーーベティーは怒るだろうなぁ。チビ達は、まぁ、あと一回、抱っこしておけばよかった、かな』


 はは、と寂しげに笑うファーブニル。

 俯くドラゴンに、俺は言った。


「だったら、たくさん謝ったらいい。ベティーはとても優しいから、悲しむかもしれないけど、きっと怒りはしない。子供達も目を合わせないようにして、抱きしめてあげればいい。例えその()が偽りを映しても、真実は変わらずそこにあるからね」


『え?』


 ファーブニルが不思議そうに俺を見上げた時、丁度後の森の奥から、声が上った。


「ニル様!」


「パパァーーー!」


『!?』


 幼いクリスを胸に抱いた、ベティーとディータだった。


『え? べティー? それに、ディータにクリスもいるのか?』


 ファーブニルは振り返らず、だけどその気配を必死で感じようした。

 振り向けば、そこにはファーブニルにとって、悍ましい虫が蠢いている事がわかっていたから。

 そしてその温かく懐かしい気配を感じたとき、ファーブニルは目を閉じ言った。


『ベティー、オイラはファーブニルだ。ニルはもう居ない。主神様方に罰として、その存在は消された。ーーーなんで、ここに?』


「……。本当に困った方。いつも冗談ばっかり言ってるお調子者のあの方が、こんな手紙を残して居なくなったら、追いかけるしか無いじゃないですか」


 その手には、何度も読み返したのか、クシャクシャになった一枚紙が握られていた。




 二人によろしくな。


 駄目な父親でごめん。


 愛してる、ベティー。


 だけど、オイラの事は忘れてくれ。




 その紙に記されたのは、愛おしくなる程自分勝手で稚拙な文。


 何を思って書いたのか、何を諦め書いたのか、何を悟り書いたのか。

 おそらく幼いエルフは、こうなる事が全てわかっていたんだろう。道化を演じ、出会った者たちをからかいながらも心から愛し、懸命にずっと自分の居場所を探していた、愚かで賢いエルフ。


 俺は、今はもういない、そんなエルフを想い、目の前で目を閉じ涙を流すドラゴンを見つめていた。







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