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神は怒り神罰を下し、奇跡の雨粒を降らし賜うた

 ある日事件が起こった。


 一匹のゴブリンが長い旅の果に俺の根本に辿り着いた。

 ゴブリンの身長が約一メートルとすると、俺は約二十メートル程。

 ゼロスにより創り出されたばかりの木々はまだ幼く、俺より成長が速いとはいえ、まだ俺の方が枝一つ分程は大きかった。

 それが気に入ったのかもしれない。そのゴブリンは俺の根元を住処にした。

 それからゴブリンは暫く俺の落葉を食べ、大人しく生きていた。

 俺の落ち葉には、他の植物より多くのマナが含まれていたせいか、そのゴブリンは寿命の5倍、約5年の年月を生きた。

 そしてそのゴブリンの残した子孫達も、他のゴブリン達よりも強いマナを持ち生まれてきた上、更に俺の落ち葉を食べ続け、代を重ねるごとに倍々にマナの保有量を増やしていった。


 30代を超えたあたりで、俺の根元はゴブリン塗れになった。

 勢いづき、落ち葉の分配が間に合わなくなったゴブリンは、俺の根本に小さな傷をつけて樹液を吸い始めた。


 これは少しまずい。


 噛み切り虫やアブラムシにロックオンされた状態だ。


 俺は仕方なく、遙か上空で遊んでいるレイスに相談する事にした。




 ―――レイス。




「なに? アインス」


 俺が呼びかけると、間もなくレイスが降りてきた。


「何だかゴブリン達が俺の周りで増えてしまったんだ。可愛いからそれは良いんだけど、俺の樹液を飲みたいらしくて根元を削りに来るんだ。やめてもらえるよう言ってくれないかな?」

「……」


 レイスの無表情な顔から、更に感情が消えた。


 そして、手を振り上げたかと思うと、




 ――――――カッ―――









 ―――ッドォォォォオォォオン――――――ッッッ









 俺の周りの全てが、一瞬で消えた。


 ゴブリンは勿論、ハーティの草も、産まれたばかりの木々も全て関係なく、一瞬で燃え尽きた。

 灰すら残らず、残った物と言えば深くえぐれた黒く焦げた大地だけ。



 ―――神の裁き。



 ふと、そんな事を思った。


 燃やす物が無くなっても、大気は灼熱の茜色に揺らぎ続けている。

 無表情なレイスの内に秘めた、熱い感情を表しているようだった。


 レイスは暫くその様子を悔しげに見ていた。

 そしてどれほどの時がたったのか、やがてレイスは自分の肉を千切り、それで沢山の【命の水】を創った。


 そして悲し気な表情で焦げた大地に雨を振らせた。

 【命の水】の雨だ。


 【命の水】の雨で茜色に揺らいでいた大気は冷やされ、レイスの悲しげな顔と同じ、グレーの世界を映し始めた。


「ゴメンナサイ。アインス。レイスの創ったゴブリンが、アインスを傷つけた」

「いいよ。大丈夫」

「……レイスはいつもそう。『こんなつもりじゃなかった』……そんな言い訳ばかりして、ゼロスやアインスに、いつも酷いことをしてしまう」

「ゼロスも俺も気にしてなんかいないよ。そんなレイスが大好きなんだもの。俺こそごめんね。こんな事にならないようにもっと対策しておけばよかった。レイスにレイスが創った物を壊させてしまってごめんね」

「っアインスは悪くない! レイスが悪い! レイスは悪い子でっ、不器用でっ、ワガママで! 自分勝手で!! レイスはレイスが嫌だ!!」


 レイスは悲鳴のような叫びを上げて泣いた。


 どう言えばいいのだろう?

 どうすれば、レイスが大好きだと伝えられるだろう?

 優しくて、残酷で、とても可愛い俺のレイス。俺の女神様。


「レイス泣かないで。レイスが泣くと、俺の幹が引き裂かれそうに辛いんだ。……どうかお願い……レイス……」


 俺は降りしきる雨の中、絞り出すようにレイスに懇願した。



「おーい、どうしたの?」



 その時、声も無く泣くレイスと声を掛けれず黙り込む俺達の元に、ゼロスが舞い降りてきた。




◆◆




「―――なるほど」


 泣き続けるレイスはラムガルに任せ、俺は事の顛末をゼロスに説明した。


「ちょっと700年程見てなかっただけで、そんな事があったんだ。それでアインスはもう大丈夫なの?」

「ああ。レイスが降らせてくれた命の水の雨のおかげで、もうすっかり元気だよ。それどころか、以前より調子がいいくらいだ」

「そうだね。この辺りは物凄いマナに充たされてる」

「ねえ、ゼロスから言ってくれないかな? 俺は大丈夫だしちっとも気にしてない。それよりレイスが泣いてる事が辛いんだ。俺がいくら言っても、レイスは俺を傷つけてしまったショックからか俺の言葉を聞いてくれない。何があっても……それこそ俺がチリになって消えても、俺はレイスがずっと大好きなのに」

「うん。僕もだ。たまにやらかすけどそれも……いや、寧ろそれがレイスだもんね」


 ゼロスはそう言ってクスクスと笑った。



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