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神は、咎人に罰を与え、強欲の邪竜を創り賜うた②

 聖域を出て、3ヶ月が経った。

 2ヶ月歩き、1月船に乗り続け、また歩き、そうしてオイラ達は、とうとうディウェルボ山脈の麓に到着したのだった。

 ドワーフ達の里は、山の中腹あたりにある洞穴が入り口となっていて、山の中に街が築きあげられているという話だ。

 だけど、山麓にもカロメノスと言う大きな街があり、様々な種族が入り混じりあって暮らしていた。

 このカロメノスという街だけど、不思議なことに、麓にある大きな湖の上に築かれた、水上都市だった。


「すっごいなぁ! 湖の上に街が浮かんでる!」


 オイラは、その光景を初めて見た時、思わず歓声を上げた。

 すると、ガーランドさんが笑いながら、街の成り立ちを説明してくれた。


「見事だろう。だがな、昔はこうじゃなかったんだ。儂のヒイヒイ爺さんの頃は、街なんぞない、ただの湖だった。まぁ、その湖の名が、山のしょんべん(カロメノス)だった」


「酷い名だね!」


「まぁ、確かにそれを嫌がる奴らが、意味を捻じ曲げて、山の聖水だの、涙だの言い始めたんだ。名前なんて、どうでも良いだろうに」


「……。(ションベンの街に住む人達の、自尊心とか誇りを考えてあげて!)」


「言ったとおり、初めはここに何もなかった。だが、儂等が山に住み着き始め、細々と鍛冶をやってたずっと昔、どんな奴だったかは聞いてねぇが、“冒険者”がやってきたんじゃ。そこそこ名の知れた奴だったらしいが、そいつの装備が何とみすぼらしい事! 儂の先祖は冒険者に、剣と盾と鎧をやった。そいつの持ってた酒や冒険譚と交換での。今でも、そいつの語った冒険譚は、ドワーフの間では有名な物語の1つじゃ。3勇士ダンドルの曾孫〜ガリバーの大冒険〜と言う。まぁ、里に居れば

そのうち聞く機会もあるじゃろう」


 大冒険……。なんて心に響くフレーズ! 是非聴きたい!!


「そして、人里に戻ったガリバーの話から、儂等ドワーフの工芸が世に広まったのじゃ。そこからは速かった。儂等の作った品が欲しいと、冒険者や商人が押し寄せてきた。だが儂等は所詮しがない職人。しかも神より賜った儂等の聖なる山に、土足で入られることを、良しとしなかった」


「湖の上にある理由って……もしかして?」


「そうじゃ。儂等の武器や工芸品を売る代わり、湖より向こうの山には、勝手に入ってはならないという決まりを、他の種族の者達につけたのだ」


 なる程。だからこんな変な所に、大都市が出来上がっちゃったんだ。


「だけど、エルフのオイラが言うのも何だけど、人間達は、周りの森を切り開こうとか思わなかったのかな? いちいち船に積み込んだりするの、大変じゃないの?」


「あぁ。ディウェルボ山脈の周りを囲む森は、黒狼王と呼ばれる魔物、ホーンウルフの巣なのだ」


 黒狼王……聞いたことがある。


 この世界にまだ魔物も聖獣も居なかったそんな大昔。初めて神が創り出した、始まりの魔物だ。

 聖域の外にいる魔物の中では、最強クラスのS級の魔物だ。母様達が言ってたけど、聖域の外に住む魔物達は、神の監視から離れているせいで、殆ど話も通じず、凶暴なんだそうだ。

 聖域内とは違い、出会ったら、コミュニケーションを取ろうなどと思わず、直ぐにやっつけるか、逃げなければならない。と、言うか、S級からなんて逃げられるわけないよ。


「がっはっはっ! そんなに青い顔をするな! あやつ等は、(キング)と呼ぼれるだけあって、強く、とても誇り高い。縄張りの領分さえ侵さなければ、襲ってくることは、まず無いの」


「つ、つまり、それで森を切り開けないどころか、ドワーフの里への道は、湖の上しか無かったってことか」


「そうじゃ。初めは、大きな船を停泊させ、宿代わりにしとったが、余りに来訪者が多くなり、とうとう岩礁を埋め島を作り、船を繋ぎ合わせ、家や橋を作った。それはどんどん大きくなり、今やこの有様よ」


 ガーランドおじさんは、そう言って目を細めながら、嬉しそうにその街を見つめた。

 自分達の技術が認められ、この大きな街が産まれたのだ。そりゃあ、嬉しいだろうね。


「さて、話はこのくらいにして、とっとと行こうか。みんなが待ってる」


 ガーランドおじさんはそう言うと歩き始めた。



 ◇



「これはこれは、ガーランド様!」


「巨匠! ようやくお戻りでしたか。待ってましたよ!」


「あ! ガーランド様! 僕はルーベンスといいます。ガーランド様の作品に惚れ込んで、この間商会で購入予約を入れました! 23年待ちと言われたので、どうかお身体に気をつけてくださいね!」


 街中を歩くと、ガーランドおじさんは沢山の人に、声をかけられた。

 だけどガーランドおじさんは、そんな人達に、無愛想に一瞥をくれるだけ。なのに、たまに女の人が気絶する。あ、ほらまたそこの花屋のお姉さんも。


「……渋い。 ああん、素敵♡」(ドサリッ)


 街の人たちも慣れた様子で、通行の邪魔にならない限り、そんな女の人達を助け起こそうとすらしない。

 オイラは、ルボルグに耳打ちした。


「お前の父ちゃん、凄いな!」


「そうさ。なんてったって、ドワーフの中で最高の職人なんだから。創造神様に献上したグレイプニルを作ったのも、オヤジなんだよ。まぁ、ドワーフ族一丸での作業だった事は、変わり無いけど鎚を握っていたのはオヤジなんだ」


「あのグレイプニルを!?」


 オイラはフェンリル様のリードと化した、あの美しい鎖を思い浮かべ声を上げた。

 そして、黙々と歩くガーランドおじさんの背を、尊敬の念をこめて見つめた。






 ◆◆◆◆◆◆◆◆






やがて、オイラが聖域を離れ、20年の時が経った。


オイラは、ディウェルボ山のドワーフの里の一角で、様々な研究に明け暮れていた。



ーーードンドン



不意に、ドアを叩く音が響き、オイラは顔を上げた。


「よぉ。“眠らずの錬金術師”サン、今暇か?」


そう言って入ってきたのは、幼馴染のルボルグだった。


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