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ネ申は、幼いエルフを、保護し賜うた①

今回のサブタイトル、誤字ではありません。

 

「はぁーー……」


 精霊達のお勉強会(出処のわからない噂話の井戸端会議)に参加すべく、ルフルは、「ちゃんと寝なよ」と言い残し去って行った。

 ルフルの背中を見送り、オイラは溜息をついた。



『何だ? ため息なんかついて。フフン。寛大なオレ様が、子分の話を聞いてやろうか?』


 ーーーいや、120%あなたのせいですから。


 最近では、夢の中どころか、ぼーっとしている時も、ナイトメアの言葉が頭に響くようになってきた。

 寝ている時は、当然の如く一緒だ。おかげで寝た気がしなくて、慢性的な睡眠不足。そのせいで、頭がぼーっとしてくると、その隙をついて、また、話しかけて来る。

 正に悪循環。


 これを呪いと言わずして、なんと言う!?


「ナイトメア、何度も言うけど、オイラこの世界を滅ぼしたくないんだ。そんな事になるなんて知らずに、適当言っちゃったのは、本当にゴメンナサイ。だけどヤッパリ、解放するのは無理だよ」


『イヤだい! オレ様は、もう出るって決めたのだ! オレ様は決めた事は必ずやるぞ。オレ様は偉いからな! そんなオレ様の子分であるオイラも、一度言った事は、オレ様を見習いちゃんと守れ!』


「ーーーいや、だから……、はぁ……」


 オイラは、また溜息をついた。


 ナイトメアと、しばらく話して分かったことがある。

 このナイトメア、ーーーとんでもなくバカだ。何度言ってもオイラの名前すら覚えない。しかもワガママで、何様だと言うくらい高慢だ。 

 そして、笑いたくなるくらい、話が通じない。思い通りにならない事があると、すぐに「イヤだい!」と叫び、子供の様に駄々をこね続ける。

 夢で初めて見た時のあの貫禄は、最早どこにもない。


『い~やだ、イヤだいっイヤだい、ヤだい〜♪』


 うぜぇ。


 寝不足の頭に響く歌声に、オイラは率直な感想を内心で述べた。


「はぁ、……自由になりたい」


 オイラはため息とともに、自分でも気づかぬほど自然に、独り言を呟いた。


 『ん? オイラも自由になりたいのか? オレ様と一緒だな! 何から自由になりたい? 肉体の枷から自由になりたいのなら、オレ様が滅ぼしてやるぞ!』


「え? ち、違うよ! えー、と。その、オイラは森の外に出たいんだよ。森の外に出て、冒険者ってやつになりたいんだ」


 危うく滅ぼされそうになりつつ、オイラは慌てて独り言の説明をした。ーーーナイトメアからも解放されたい、と言う言葉は当然言わなかった。レイス様からの頼まれ事(というか、ムチャ振り)の件もあるし、言ったら多分、ナイトメアが泣いてしまうだろうから。


『ーーー? 何故出ない? 出たいなら、出ればいいだろう』


「……え?」


 不思議そうに言うナイトメアの言葉に、オイラは思わず聞き返した。

 オイラの中でありえない選択肢を、当然の様に言ってきたんだから。


「ーーーだ、駄目だよ。オイラはまだ子供で、外の事、なんにも知らないし……」


『子供ならば、なにか不都合があるのか? 外の事など、外に出ればすぐ分かる』


「ーーー。」


 ご飯なら、森で獲り方を学んだ。

 万が一、他の種族達の集落で生活できなくも、森さえあればオイラは生きられる術は、もう身につけてる。

 母様達は、もっと完璧にしなさいと言うけど、この里で暮らさない限りは、そこまで完璧である必要も無い。

 だって、人間って種族は3日に一回しか風呂に入らないらしい。それを初めて聞いた時は、「うぇっ!」って思ったけど、母様達の様に、1日必ず2度の沐浴は、正直面倒だなとも思っていた。

 外の事だって、おいらが自分で言ってたじゃないか。伝聞じゃなくて、自分自身で体験したいんだと。


 それに、ナイトメアに、世界中のいろんなものを見せて、“壊したく無い”って思って貰えれば、世界を滅ぼさないで済む方法もあるかもしれない!


 オイラの中で、何か光が見えた気がした。ーーー加護は、闇なんだけどね。  


 目からウロコの剥がれ落ちたオイラは、ワナワナと手を震わせながら叫んだ。


「そう、オイラ……何で外に行かなかったんだろ? そうだよ! オイラ、外に行く!」


 オイラは駆け出した。




 ◆




「駄目です」


 里に勇み足で駆けたオイラだけど、母様の一言で、オイラは現実と常識を思い出した。


「何を言っているのです? ニルはまだ6歳。いずれ出れば良いとは思いますが、まだ早過ぎます。孤児や、そういった種族なら仕方ないでしょうが、あなたはそうでは無い。聖域の外で何かあったとしても、ハイエルフ(保護者である私達)は駆けつけることができないのです」


 そうだよね。オイラまだ6歳だもん。


「ニルやルフルが森を出たいということは、私達も知っています。だから私達も今、そのための人脈を築いたりと、準備をしているのです。あなたも、今は力を付ける事に集中しなさい」


「……」


 ーーー母様も、色々考えてくれてたんだ。

 オイラは胸の奥に、ジンと何か温かいものを感じた。だけど同時に、こうも思う。“母様達の作った人脈の上でなんて嫌だな。またしがらみが多そうだし……”、と。


「すまんの! 少し口出しても良いかのぉ?」


 沈黙が続く中、突然別の声がした。

 オイラと母様は、とっさに声の方に振り返る。


 そこに居たのは、ティニファよりは少し上、シャンティよりは少し下、と言ったくらいの銀髪ショートヘアの、可愛らしい小さな女の子だった。

 くすんだ色のオーバーオールに、頑丈そうなブーツを履き、不釣り合いな大きな軍手を嵌めている。中でも目を引くのは、肩に担ぐ巨大な鎚。柄が長く、ヘッドに至っては、少女の身長と同じくらいのサイズがある。見た感じ、相当な重量がありそうだけど、少女はそれを軽々と担いでいる。


 その姿を認め、母様が口を開いた。


「これはブリキッド様。ご無沙汰しております」


 鍛冶の女神、ブリキッド様だった。


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