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神は、エルフに祝福を与え賜うた②

エルフ回の、終盤まで、ニル視点が続きます。

 ーーーえー、何コレ?


 あまりに思いがけない出来事に、オイラは口と目をぽかんと開いて、空に開いた光のゲートから、ゆっくりと現れ出る美しい方舟を、ただ見つめた。

 どう反応していいのかわからず、父様達に助けを求める視線を投げかけたけど、いつも沈着冷静なハイエルフの父様と母様すら、口を開け、目を見開き、放送禁止的な表情で固まっていた。

 父様達も、あんな顔するんだな。


 父様達の面白い顔を見たお陰で、とりあえずオイラは緊張が解けて動けるようになった。だけど、オイラはその空飛ぶ方舟を見つめ続けた。

 他の奴らが何を考えて、あの方舟を見てるのかは知らない。

 オイラは、あの美しい方舟に、只々憧れた。恋い焦がれたと言ってもいいかもしれない。



 ーーーいいなぁ。オイラも、空を自由に飛びたいなぁ。



 森の外に出て、自由を渇望するオイラにとって、空を自由に思いのままに飛ぶ事は、究極の願いだった。

 まぁ、只飛べば良いと言うのであれば、方法はいくらでも有る。

 例えば、ルドルフ様のように、空を駆ける事の出来る者に、頼めばいいんだ。頭を下げて。

 そんなの冗談じゃない! オイラは()()()飛びたいんだから!

 だけど、オイラには羽も無ければ、父様達のような膨大なマナも無い。

 空飛ぶ方舟は、そんなオイラにとって、まさに自由の象徴だったから。

 いつか森を抜けて、オイラはきっとーーー。




 ◇◇




「よく来た。エルフ達よ」


 オイラは、そう言うレイス様を見て、なぜかものすごく哀しいような、切ないような、目を背けたくなるような、そんな感情が芽生えた。 

 何だろう。仮面(マスカレード)を外されただけなのに、なんだ?このレイス様の姿勢が良くないのか?


 何だか……心がイタイ!


 よくわからないその拷問は、レイス様が普通の姿勢に戻られるまで続いた。

 何だったんだろう? 神様のオーラ……なのかな?



「エルフ達よ、レイスはお前達がこの世界に産まれてくるのを、ずっと待っていた。ーーーハイエルフ達には、ただ、良くやってくれたと言っておく」


 そう言って、レイス様に視線を投げかけられた父様と母様は、感極まったように、震えながら敬礼した。

 レイス様は小さく頷くと、話を続ける。


「レイスは、ささやかだが、エルフ達に贈り物を贈りたいと考えている。お前たちは何がほしい?」


 ゼロス様はレイス様の後ろに佇んで、優しげな微笑みを浮かべていた。



 ーーーオイラの欲しいもの?


 オイラは考え込んだ。

 あんまり欲張ってもいけないだろう。母様の視線が痛いし。

 だからといって、謙虚になるのも勿体無い。だって万物の創造神様からの賜りものだよ? なんだって手に入るってことだ。


 オイラが突然の事に考え込んでいると、母様の腕からもぞもぞと抜け出したティニファが、トコトコと進み出た。


「神しゃま、てぃにふぁね、ダンシュがじょうじゅなのよ! ティニファがダンシュする用の、キラキラどれしゅが欲しいやぇしゅ!」


「ティニファ!」


 母様が慌ててティニファを取り押さえるが、レイス様はじっとティニファを見つめ、言った。


「ティニファと言うのか。ーーー可愛いな」


 どうやら、レイス様もティニファの可愛らしさにちょっとキュンと来たみたいだ。

 まあティニファは可愛いよ。“可愛い”と書いて、“ティニファ”と呼ぶほどに可愛いからね。


 レイス様は、足元に駆け寄ってきたティニファのふわふわの髪の毛を撫でると、それは美しい微笑みを、その顔に浮かべ言った。


「良いだろう。ティニファ。お前には光と植物の加護をあげる。ティニファのその愛らしさに、光は踊り、植物達は花を咲かせ、褒め称えるだろう」


 レイス様がそう言った途端、突然辺りの木漏れ日の光が集まり、ティニファの周りに小さなスポットライトを作る。

 風に乗り、色とりどりの花びらが、ティニファの周りをひらひらと舞う。

 花びらの運んできた小さな水滴が弾け、スポットライトの光の舞台の中は、キラキラと輝き、まるで別空間だった。

 ティニファは、喜び、「キャーー」と歓声を上げながらくるくると回っている。

 まるで、花の妖精さんだ。


 ーーーっていうか、ただ、踊るドレスが欲しいって言ってコレ!?

 すみません! 創造神様が神々しくないとか言ったの嘘です! ぶっ飛んでました!


 オイラが内心土下座をしていると、続いてシャンティが、名乗りを上げた。


「私の名は、シャンティと言います。レイス様、私は父様や母様達、ハイエルフと共にこの聖域の調和を護りたい。だけど私は……弱い。ーーーどうか、私に皆を守れる力をください!」


 シャンティのヤツ、生意気で気取ってると思ってたら、そんな事考えてたのかよ。4歳だろ!? しっかりしすぎだよ! なんかオイラ、兄様辞めたくなってきたよ。


「強さが欲しいか。良いだろう。ならシャンティには、大地()と風の加護を与えよう。土は力の象徴。何かを守る時は硬い盾となり、驚異が迫ればそれらを押しつぶすだろう。大地を揺らせば、破壊もツナミも思いのままだ。上手く使うといい。風はハイエルフ達と共に行動するための機動力となるだろう」


 そう言われたあと、シャンティは、自分の手を見つめ、ソレから少し離れた木に向かって手刀を切ってみせた。


 ーーーひゅん


 背筋のゾワッとする音がしたかと思うと、太い木の幹が斜めにずり落ちてゆく。

 だけど、半分程落ちたところで、木の周りから土がせり上がり、切れた木を支え、もとの位置に戻すと、そのまま泥で固め添え木する。

 シャンティは、信じられない物を見るように、自分の手をまた、まじまじと見ていた。


 ーーーというか! 危険だよ! 強すぎるんじゃないですか!? レイス様!


 俺のツッコミも虚しく、お礼も忘れて驚いているシャンティを横目に、今度はルフルが言った。


「レイス様、僕の名はルフルと申します。僕は、いつか森を出て、聖域の者達と外の者達を繋ぐ、架け橋のような者になりたいんです」


「そうか。ならば、水と熱の加護をあげる。水は流れ、澄んでは淀み、熱もまた留まる事を知らない。あげては貰い、互いに均衡を保つ性質がある。交流と安寧を望むなら、役に立つはず」


 ーーールフルも、ちゃんとやりたいことを見つけてたんだ。


 オイラは、皆の願いを聞いて、ふと自分がどうしようもなく浅はかな存在なんだと、そう思わずに居られなかった。

 だってオイラの願いは、自分勝手。誰の為でもない。


 ーーーだけど、誰にも譲れない。


 オイラは言った。


「レイス様! オイラの名前はニル! ホントはクリスマスエルフって奴になりたかったんだけど、虫が苦手で諦めたんです。今は、ただ……自由に生きたい! 色々ほしいけど、それが枷になるなら、オイラ何にもいらないです」


「……。」


「……。」


「……。」


 オイラの、願いにその場が沈黙した。

 そして、レイス様が口を開かれた。


「ーーーよし、きた。この世界から、1匹残らず虫を消……」


「駄目だよ」


 間髪入れずに、今まで沈黙を貫いていたゼロス様が仰った。

 もしかして、オイラ今、昆虫類の終焉の黙示録に触れかけた? いや、まさかそんな訳無いよね。きっとゴッド・オブ・ジョークってやつだ。


「……。まぁいい。お前の願いは“自由”か。なるほど、なかなか見込みがある。良いだろう。ニルには、取っておきの加護をあげる」


「取っておき?」


「この加護は、自由の枷にはならない。むしろ、自由の象徴。この世界でこの力を使える創造物は、まだ1匹しか存在しない」


「ーーーそれは、一体なんの力ですか?」


 オイラはレイス様の話の意図が読めず、馬鹿みたいに聞き返した。

 レイス様の顔が、ニヤリと笑った気がした。


「それは、“闇”だ」


「闇? よくわかりません。どうして自由の象徴なのですか?」


「世界の始まりは闇だった。それは知っているだろう? 人間共は、よく真っ白なカンバスに絵を描くなどとのたまうが、それは間違いだ。何かを創るのであれば闇の中に創り出す。光を、音を、大地を、全てを。そう、自由にな」


 ーーーそれは、創造神様だけです。


 オイラはそのツッコミを飲み込み、代わりに別の質問を投げかけた。


「もう一名、闇の力を使える方がいるんですか? それは一体誰ですか?」


 正直、闇の力て物の使い方、使い道が全くわかんない。

 使える奴がいるなら、また話を聞きに行きたいからね。

 レイス様は、少し懐かしそうに遠くを見つめて言った。



「ギドラス」



 ーーー終焉の魔物かぁーーーい!! 無理ですぅーーー!!


 オイラはポーカーフェイスのまま、内心盛大にツッコミを入れた。


 まぁ、その、何ていうか、大変な力を授かってしまった事だけは間違いないみたい。




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