番外編 〜古代図書館の、忘れられた手記⑥〜完結
誤字報告有難うございました!
すべて適用させて頂きましたm(_ _)m
修正しようと思ってるんですが、なかなか見直してたら、目がしぱしぱしてしまいまして……。
あれから、20年程の年月が経った。
分からないが、おそらくそれ位だろう。と言うのも、あの日から僕は殆ど記憶があやふやだ。何年経ったのか、よく覚えていない。
あの日僕は、真相を知った両親に勘当を言い渡され、街からも追い出される事になった。
親から持たされた金は僅かで、それを元手に商売を始められるような物じゃなかったし、そもそも僕にその気力がなかった。
僕は、全てを失ったのだ。
未だに動物達の声は聞こえるが、もう、僕は二度と話しかける事はしなかった。
物乞いのような真似をしながら、僕は鬱々と死んだ様に生き続けている。
そう言えば僕もかつて、ウィルの全てを奪った事があった。
ウィルもこんな気分だったのかな? いや、ウィルは、奪われたあとも、復讐心や憎しみの感情はあったと言ってた。
僕には、何も無い。
何も…。
洗ったことの無いゴワゴワの毛布を、僕は体に巻き付け、誰かが投げ込んだ銅貨が2枚入った、壊れかけた籠を見つめた。
「さぁ皆様、これから始まりますは、麗しき獣使いによる、獣達の妙技の数々!」
向かいの広場から、客寄せの口上が聞こえた。
昔、僕の技を見た者達が、街の外で真似事を始めたと、聞いたことがある。これはきっとその流れを汲む見世物なんだろう。
そうは思いつつ僕は気になって、銅貨を掴むと、のそりと人だかりの方に歩いて行った。
「敬愛する主の為、獣達は己の力をあなた方に披露するでしょう! 大も小も、強も弱も、賢も愚も、己の全力を振り絞り、技を競い合います! そしてその勝負を決めるのは皆様のチップ! 皆様が勝者と思った獣のチップ箱に、銅貨1枚だってかまいせん! どうか応援の程をお願いします!」
客寄せの男が大仰にお辞儀をすると、黒いメイド服をぴっちり着込んだ、絶世の美女が前に進み出た。
なんでメイド?
美しいメイドの手には、長いレザー製の鞭が握られている。
そして、メイドは高いブーツのヒールをカツカツと鳴らし前に進み出ると、慣れた手付きでそれを唸らせ、振り下ろした。
ーーーーーピシィ!!!
目の覚めるような音が響く。
思わず、人々はメイドを見る。
メイドは麗しく妖艶な笑みを浮かべ、扇情的なポーズを取ると、頬を染め、恍惚とした表情で、濡れた舌で鞭をベロリと舐め上げた。
「私の愛が欲しいなら……」
ーーーギィ
メイドがそう呟くと、重い金属音が響き、鉄の檻が開かれる。
「戦いなさい! 強く、誇り高く! 私に、お前達の愛を見せるがいいわ!」
『『『『ジュリ様ぁーーーーーーーー!!!!』』』』
メイドの言葉の後に続いたのは、檻から溢れ出した何十匹もの動物達の熱狂的なコール。
『『『『ジューリッ、ジューリッ、ジューリッ!』』』』
『今日も美しいデすぅ!ジュリ姉さまぁあぁあぁん♡』
『俺の愛、今日こそ受けてめてもらうぞ!ジュリぃいぃぃーーー!』
『愛してるぜぇーーー!』
え、何これ?
広場の植木で休憩していたスズメも、唖然とその光景を眺めている。
その時、メイドが突然スズメに鞭を向け言い放った。
「覚悟があるなら、お前も参加して構わないわよ? 戦場に必要な武器は、愛。只それだけ。この子達に負けない愛があると言うなら、いらっしゃい? ちっちゃな小鳥ちゃん」
メイドは猫なで声で、物凄い上から目線で雀にそう言い放ち、顎で吠える動物達を指した。
『……。……あ、……』
メイドさんは、何を言っているんだろう? スズメもドン引きだ。
『……あ、………あ、あぁ……愛は時間じゃ無いって事を見せてあげる! この体に入り切らない程の愛が私には有る! 私が勝ったら、お姉さまと呼ばせてくださいぃいぃぃ! アアアアァーーー!!! 私の女王様ァァっっ!!!』
パタパタパタパタ……
そうして、スズメさんは、飛んで行ってしまいました。
僕は、出場していた小さな鼠に、銅貨2枚をあげ、その場を離れた。
ねぇ、レイス。
僕が間違っていた。
僕は今になって、やっと自分の間違いに気付いた。
ウィルは、友、と居る為、己の生活を友に捧げた。
あの時は信じられなかったけど、きっとウィル自身が、僕の想像もつかない努力をして、ドラゴンの友と在れる能力を手に入れたんだろう。
そしてあのメイドは、己の魅力を徹底的に磨き上げ、動物達に身を捧げさせている。
本来、それ程のものが無ければ、獣使いなどになる事は許されないのだ。
僕は、ウィル程の覚悟はないし、メイド程の自信もない。
そんな僕が身に余る能力を得て、勝手に自爆した。それだけの話だった。
不思議な乙女レイス、君が何者だったのか、最早知る事はできない。
きっと二度と逢うこともないのだろう。
だけどもし、出来るなら、僕が深く懺悔した事を、君にいつか知って欲しいと思った。
だから、僕はこの本を書く事にした。
レイス、ありがとう。
そして、ごめんなさい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私は、そっと本を閉じた。
ーーーしまった。ドリップ珈琲を蒸らしてる間(約20秒)に読み終わってしまった。
短い本だったし、まぁ仕方ない……。
私は蒸らした珈琲豆に、ゆっくりと熱い湯をかけながら、その本について考察を始めた。
この内容、今に伝わる童話、“ハーメルンの、ホラ吹き男”と被る点が幾つも見られた。
ハーメルンのホラ吹き男の話はこうだ。
昔、ハーメルンと言う街に、ネズミ使いの大道芸人が訪れた。
道化の男は、口上良く街の人々に取り入り、一躍有名になった。
だが、ある時ネズミ嫌いの役人が、ネズミを追い出せと道化に迫る。
怒った道化は、街中のネズミを操り街を貶めようとした。だがその時、神の使いが現れ、ネズミ共々、その道化を、街から追い出したという話だ。
この話を聞いたとき、“道化は別にホラは吹いていないんじゃ?”、“せっかく仲良くなった道化を追い出そうなんて、街の人たちが酷い”、等と子供ながらに思ったものだ。
しかしまあ、童話にツッコミを入れるのは野暮というものだ。うさぎは喋るし、狐がぶどうを食べるのだから。(キツネは肉食だろ!)
この手記が、ハーメルンのホラ吹き男のモデルになった可能性はある。その逆というケースも、否定はできないが。
実際ハーメルンでは、大昔に鼠の大量発生で、ペストがはやったという記録はある。とはいえ、ドラゴンや神が舞い降りたなどという事実は当然無い。
この手記に有るよう、その街での有名な豪商といえば、ガーロン商会が挙げられる。だが、その時期に、嫡男が居たとは家系譜には無かったはず。いくら勘当されたとしても、そこまで存在が抹消されるものだろうか?
また、この本が並べられてあったのは、魔人ガルシアが所持していた蔵書の一角だ。
つまりは生前のガルシアが買い求めた本ということになる。
一体この本に、本当にそんな価値があるのか?
「おっと!」
私は、カップから溢れ出しそうになる珈琲を見て、思わず声を上げた。
「しまった。お湯を入れすぎた。私、濃いめが好きなのに……」
私は肩を落とし、一応珈琲に口をつけた。
「……。うすい。淹れ直すか」
私は手記をもとの本棚に戻すと、また珈琲を淹れに茶室に戻った。
あの手記は、また今日の閉館前にでも、目録に追加しておけばいいだろう。
それより今度は、ちゃんと集中して淹れなくちゃ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……。レイスって、コレ絶対レイス様だよなぁ。そして、ジュリの動物共、そんな事言ってやがったのかよ」
「兄ちゃん、いい加減立ち読みやめないと、間違えてハタキで叩いちまうかもしれんよ?」
「ちょ! そんなハタキで叩かれたら、逆に汚れるだろ!」
「……。」
パタパタ……
「うわっぷ! ごめん、冗談だから! そして冗談抜きに汚え!」
「で、買うのかい?」
「ああ。いくらだ?」
「二束三文、銅貨5枚でいいよ。どっかの汚い浮浪者が置いてった、全く面白くもない本だ」
「……なぁ、本屋のばあちゃん。その浮浪者がまた来たら、これ渡しといてくれよ。貴重な資料をどうもってな」
「はあ!? はっ、白金貨!? しかも10枚だと!? こんだけあったら、豪邸が建つぞ!」
「ぼったくるなよ? 手間賃やるから」
「馬鹿にするな。お前からぼったくるなんて真似すれば、この街で生きて行けんわ。ただし、手間賃はきっちり貰うぞ。なにせ、そんな大金を預かるんじゃからな!」
「それは安心しろ。オレの馴染みの店に手ぇ出そうとするフてぇ奴は、それこそ職権乱用すらして、締めてやるからよ」
「なんじゃ。そんなこと言って、この年寄りを惚れさそうとしてんのかい?」
「あ、あぁ………。ごっ……ゴメンナサイ!! 申し訳御座いません! そんなつもりじゃなかったんですっ! 勘弁して下サアァアァァアイィ!!」
「ここは、土下座するとこじゃないじゃろが!」
パタパタパタパタパタパタ……
「冗談じゃ。まったく、伊達に100年生きとらんわ。いらん心配は無用と言う事じゃよ!」
「はは、そっか! しかし、その年齢でその元気さ。見習いたいもんだ」
「あぁ、兄ちゃんも長生きするといい。じゃあの、またご贔屓に」
ーーー完結ーーー
次回、本編に戻ります。
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