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番外編 〜古代図書館の、忘れられた手記④〜

書いてたら意外と長くなり、これを含め3話続きます。

次回完結とか書いてスミマセンでした!

 

 巨大な黒い影は、どんどんこちらに近づいて来る。


 僕の異変に気付いた鼠達も、空を見上げ、それを目にした者は、皆呆気にとられてその場に凍りついた。



「クオォーーーーーーーーン!!」



 ドラゴンが高度を落とす毎に、地上に立つ風は強くなり、いつの間にか鼠は飛ばされ、どこかに行ってしまった。

 僕は、それに気付くことなく、只々その美しいドラゴンに目を奪われていた。

 体長は10メートル程だろうか。エメラルドグリーンに輝く滑らかな鱗が全身を覆い、長い首に小さな頭。その頭部には、雄々しくも繊細な濃紺の角が2本生えている。そして、体長の倍はあろうかという、一対の巨大な被膜を持つ翼。

 その存在全てが、お伽噺の様に雄大で、夢の様に美しい。


 ーーーいいなぁ。僕も、ドラゴンと友達になりたいな……。


 そんなことを考えながら、僕は地に降り立つドラゴンの一挙一動を見逃さないよう、瞬きすら忘れ、見つめていた。

 ドラゴンが地に降りたその時、その背中でドラゴンではない何かが、動くのが見えた。

 そして、それが何者なのかを認めた時、僕の頭の中は真っ白になった。


「ーーー……ウィル……?」


 そう、かつて僕をいじめ抜いた、隣に住む少年、ウィルだった。


 ーーーなぜウィルがドラゴンに乗っている?


 ーーーなぜウィルがここにいる? 


 ーーーこの街から、僕が追い出したはずなのに!



 あまりに予想外の出来事に、一瞬思考が飛んだものの、僕はすぐ我に返り、叫んだ。


「ウィル、何故ここにいる!?」


「……。」


 ウィルは答えない。


 彼をこの街から追い出して、既に五年の年月が経っている。

 かつて、僕がひょろ長いと表現したウィルの身体は、ガッシリとした肉の鎧に覆われ、ソバカスの浮いた少年の顔は、10人中、9人は美青年と呼ぶだろう容貌へと変わっていた。

 意地悪な少年はなりを潜め、精悍な好青年へと、ウィルは成長を遂げていたのだ。


 その姿に、僕は、未だに筋肉ではない肉がたっぷりついた自分の体を思い、嫉妬や羞恥を超え、例えようのない怒りをウィルに覚えた。


 ーーー何であいつばっかり? この僕を虐めたくせに! ドラゴンを手に入れ、見目も良くなって、そんなのズルいじゃないか!


 沈黙を破り、ウィルは口を開く。

 すっかり声変わりを終え、低くなった声が発した言葉は、到底理解できない物だった。



「お前を、助けに来た」



 ーーーはぁ?


「まず、お前に謝らせてくれ。俺が悪かった」


 ーーー何を今更。


 僕はお前に謝ってもらう必要などない。何故なら、お前の全てを奪い、この街から追い出したことで、僕のウィルへの倍返しの復讐は果たしたのだから。

 憎まれこそすれ、謝られる筋合いは無い。


 ウィルは、そんな僕の想いなど気にせず、一言ずつじっくり言葉を選びながら、話し続ける。


「幼い頃、俺は裕福なお前が羨ましくて、酷い事をした。友達がいない事を笑ったり、遊びと称して、心身を痛めつけたりもした。だがある時からお前は、獣使い(テイマー)としての実力を発揮し出し、周りから認められるようになっていった。俺が好きだったサーシャも……俺を捨て、お前に付いていくことを選んだな。俺は躍起になって、お前を引きずり降ろそうと、無様にも足掻いた。そして、そんな俺はみんなから見放され、この街から、出て行かざるを得なくなった」


 まぁ、そう仕向けたのは僕なんだけどね。


「俺は、その惨めさに全てを呪った。中でもお前には、必ず復讐してやると心に決めていた」


 そうだ。僕は、僕の惨めさを、お前にも味わわせたかったんだ。


「……俺は、愚かだった。そんな、復讐の鬼となろうとしていた俺を止めたのが、レイス様だった」


「ーーーは?」


 僕は思わず、おかしな声を上げた。


 何でそこでレイスが出てくるの? 写真旅行に行ってるんじゃなかったの? 確かに自由な子だったけど、何してるの?


「レイス様は俺の前に現れ、おっしゃった。“憎むな(ゼロスが悲しむ)。アイツを止めろ(もふもふを見世物にするとか、調子に乗りすぎ)。ウィルをレイスがマシになる様、鍛えてあげる。ウィルが、あれを止めて(レイスが潰すと、ゼロスの機嫌が悪くなる)”、と」


 僕を止めろ?

 レイスがくれた力だろう? 

 僕はあれから、よく考えて思い出したよ。この力は、僕が動物達と友達になれるようにと、レイスがくれた力だ。

 僕はその力を存分に使ってきた。間違ってなかったはずだ!


 僕は奥歯を噛み締めた。

 レイスへの怒りじゃない。僕をのけ者にして、レイスと仲良くしていたウィルへの怒りだ。


「俺には始め、レイス様の仰ったその意味が分からなかったよ。だけどレイス様は、それ以上俺に何かを話してはくださらなかった」


 レイスは、無口だからね。


「それから始まった、レイス様との想像を絶する修行の日々。人間と言う枠の限界を越えさせられたよ。俺はその日々に、何度死を願ったか知れない。お前への復讐心すら、その日々の中では、すっかり霞んでしまった」


 大袈裟な。

 所詮、お前の僕への憎しみ等、その程度の物だったと言う事か。


「やがて俺は、ドラゴンライダーとしての技術を身に着けた。お前のように言葉は分からないが、その表情や仕草で、その心を理解する事は出来るようになった」


 僕の苛立ちは限界を迎え、キッとウィルを睨みつけ、蔑む様に言った。


「結局何なの? 自慢をしに来たの? 俺様は動物如きじゃ無く、ドラゴンが使えるんだぞ、とでも言いたいのか?」


「違う! 聞いてくれ。お前は友と言う存在を、勘違いしている!」


 とも? 友達のことか?

 あぁ、そうか。動物達の扱いを間違えたから、こんな事態になったと嗤いに来たのか。


 そう納得した僕に、次にウィルが言い放った言葉は予想外なものだった。


「友とは、肩を並べ、同じ時を過ごす者。決して、何かを見返りを期待して、付き合う相手ではない」


「お前は何を言ってるんだ? 僕は、動物達に見返りなんてーーー……」


 僕はそこで言葉に詰まった。


 本当に、動物達に見返りを求めていなかった? 本当に、彼等と肩を並べていたのか?




続きます。



イジメっ子のウィルがここに来て、大活躍です。

この番外版の裏タイトルは、『ドラゴンライダーと呼ばれた英雄 〜幼馴染を奪われ復習を誓った俺が、女神様に拾われ、英雄と呼ばれるまでの物語〜』です。


……そっち書いたほうが面白かったかもと、少々後悔中。ま、いいか!


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