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神は天使ルシアに聖人の魂を聖地へと導かせ、天使ルシファーに怨念の魂を冥界に落とさせ賜うた

 

 ―――こうして、神々はガルシアに亡者の管理を行うよう無茶振り……ではなく、命を下した。



「じゃあ早速だけどガルシア。マリアと言う海に身投げした少女を見てきてくれないかな? その魂の輝きが足るなら拾ってきて欲しい」

「はい、賜りました!」


 レイスより直々に魂の元となるマナの扱い方を教えられたガルシアは、骨の翼をはためかせながら元気に飛んで行った。

 因みに飛んでいるのはあくまでも風の魔法によるものであって、白骨の翼による浮力ではない。

 本人とレイスが気に入っているからいいんだけど、あれはあくまで飾り。機能面では盲腸や、親知らず以上に不要な部位だった。




 ◆◆◆



 それから数日後。

 俺の前では美しい少女の幻影が跪き、ゼロスに挨拶をしていた。


「主神ゼロス様。私のような者を拾い上げて下さりありがとうございます。今この胸には、言葉に変えることの出来ぬ程の喜びが溢れております」


 享年16歳とはいえ、愛憎と謀略渦巻く世界を駆け抜けてきたその魂。

 並大抵の強さでは無かったようで、無事マリアの魂は復元された。


 再生させられたマリアの魂はガルシアから砂粒程の純度の高い魔核を仮の肉体として与えられ、今は精霊達の様に幻影で生前の姿を映し出している。


「僕も君に会えて嬉しいよ、マリア。君は美しくも、強く清らかに生きた。僕は、そんなマリアを祝福したかったんだ。君は、これからその体で未練を晴らすことも、マナの渦となり、全てを忘れて新たな肉体に宿ることも、ただ穏やかに過ごす事も出来る。君はどうしたい?」

「もし私の願いを聞いて戴けるのであれば、今暫くゼロス様のいらっしゃるこの地に留まりたく御願い申し上げます。生前どれほど望んでも得られなかった平穏を過ごしてみたく思います」

「いいよ。ねぇアインス、ちゃんとした場所が出来る迄マリアをアインスの枝に置いてもらってもいい?」

「勿論だよ。いつ迄でもどうぞ」


 俺はゼロスとマリアに微笑んだ。

 ゼロスはまたマリアに向き直ると注意事項を説明し始める。


「マリアの今の本体は一粒のマナ結晶だ。だからその幻影の姿で何かに触れるという事はできないよ」


 成程。つまり幽霊ということか。


「だけど人間の頃よりマナの量は増えているから、魔法は今まで以上に使えるだろう。何かを動かしたりしたければ、魔法で操るなり何とかするといいよ」


 成程。つまりポルターガイスト現象ということか。


「だけど魔法の使い過ぎには気をつけて。その核に内包しているマナを一度に全て使い切ってしまうと、核が砕けて砕けて定着させた魂ごと飛び散ってしまうから」

「はい。この賜りました身体、大切に使わせていただきます」


 そう言って頷くマリアに、ゼロスはふと苦笑を浮かべると一つ質問をした。


「うん。―――あ、ところでマリア、迎えに行った者が、……その、個性的で味のある外見の子だったと思うけど、怖くは無かった?」


 迎えに行った者……つまりガルシアの事だろう。

 マリアはゼロスの言葉に、ニコリと薔薇の様な微笑みを返した。


「生前の地獄を思えば、()()()()は私の天使様でございました」

「……ルシア?」


 ゼロスが眉を顰めたその時、マリアの後ろでガルシアが口に指を当てながら、慌てて大きく頭を振り始めた。

 どうやら黙っていて欲しいと言うことらしい。


 やがてマリアが楽しげに踊る精霊達に手を引かれながら去った後、ゼロスはガルシアに尋ねた。


「ねえガルシア。()()()ってどう言うこと?」


 木陰から出てきたガルシアは気まずそうに説明を始めた。


「いえ、実はマリアを迎えに行った際、ノルマン学園の近くを通ったんです。懐かしいなー、と思ってちょっと覗いたんですけど、……なんか、オレが死んだ後、尾ひれどころかお頭までついて、魔人とか、神の子とか、嫁が6人いて、それが精霊とか、とんでもない事になってたんです。で、コレはバレたらまずいと思って、とっさに偽名を……」

「そんなの、いつもの人間の勘違い。気にすること無い」


 と、慣れた素振りで言い放つのは当然レイスだ。

 ガルシアはその言葉に、納得しきれない様子を浮かべつつ返事を返した。


「はぁ……」

「だけどさ、ルシアってカッコいいよね。確か“光”っていう意味もあるんだったっけ? ねぇアインス」


 突然話を振られ、俺は深く頷いた。


「そう、“光”をラテン語で“ルシア”と言うんだ。他にも“光”を指す言葉はルキア、ルーチェ、ライトなんて云うのもある。どれも綺麗な響きだよね」


 俺とゼロスが話をしているとレイスも参加して来た。


「……“光”を司るという天使の名にも、似たような響きのがあった。確か……“ルシファー”」

「そう、よく覚えていたね。ルシファーは“明けの明星”とも呼ばれる光の天使なんだよ(堕天したけど)」


 俺とゼロスとレイスの話に、更にガルシアも参加してくる。


「あ、それ良い名前ですね! オレもう人間じゃないですし、心機一転今後は“ルシファー”って名乗りますよ。まぁ天使様って訳でも無いですけどね」

「ならルシファー。今後お前は自分の采配で輝く魂を集めるといい。魂を拾うも還すもお前の好きにして構わないが、管理はしておけ」

「はっ、賜りました」


 ―――こうしてガルシアはルシファーと名乗るようになり、後に世界の至る所にその名を残していく。

 ただゼロスの目に止まり、神の名において招集された魂達の間では()()()と、その名前が伝わっていった。……というのも、初代神に認められられし魂であるマリアが、後輩達の魂の教育ついでにその名を浸透させたのである。

 マリアは(のち)に後輩達から頼られ慕われるお母さん的存在となり“聖母マリア”と呼ばれるようになるのだけど、それはまだ先の話し。



 とその時、ふとガルシアが声を上げた。


「そう言えば、今回マリアは特に逆恨みも無くこの聖域に留まりたいって言ってましたけど“生者に復讐したい”って言い出す奴はどうしましょうか? マリアに生前の話しを聞いたのですが“それは恨んでも仕方ない”ってくらいのエグい体験してまして、きっと今後はそういう者も居ると思うのです」


 レイスが即答する


「やられたらやり返す。当たり前。やりたいと思ったらやれば良い。ただし自己責任」

「わかりました。ではそういう者達は、復讐を果たせるくらいの力をつけられるまでオレが面倒見ます」

「ならルシファーが亡者共を鍛えるための修練場として、地下の魔窟を使うがいい」

「魔窟?」


 復活したばかりのルシファーにとって聴き慣れない地名だった。

 首を傾げるルシファーに、レイスは声を潜め厳かに警告をした。



「―――……かつてその魔窟から“ディスピリア”という絶望が産まれた。だけどその事について、絶対に深く聞いてはいけない。さもなくばレイスの身が獄炎に身を焦がされる事になるだろう」


 成程。恥ずかしさの余り転げ回ってしまうということだね。

 だけどガルシアはその言い回しに目をキラッキラと輝かせながら頷く。


「その振りでもうワクワクが止まんないですが、分かりました。聞きません。そこを使わせてもらっていいんですね」


「今、魔窟の入り口は“暗い森”という魔物の巣窟の中に隠してある。魔窟はデーモン達の住処にするようあげたけど、あまり使われている様子はない。デーモン達は願いを叶える為アチコチ出張している事が多いから。……だからまぁ、たまには帰ってきた時にでも挨拶をしておくがいい」

「分かりました」


 サクサクと話をすすめるレイスとルシファーに、ゼロスがポツリとボヤいた。


「―――僕は喧嘩とか復讐は好きじゃないな……」


 ルシファーがすぐに頷く。


「はっ。でしたら復讐を望まぬ者のみ、この聖なる地で心穏やかに過ごさないかと提案し、連れて参ることにして宜しいですか?」

「うんそうだね。そうしておいて。それとルシファー。僕が気になった魂も、復活出来たら連れてくるようにしてよ。そんな仔達がいたら、左眼にレイスを通して教えるから」

「は。勿論で御座います。このルシファーは、ゼロス様の指示戴いたものを含める輝く魂を集め上げ、復元出来た者に未練を問い、無ければマナに還すかこの聖域に連れて参ります。その際復讐を望んだ者は、ゼロス様のお目汚しとなりましょうからこちらで引き取らせていただく事に致します。―――宜しいでしょうか?」

「ん、いいね」

「はっ!」


 ―――こうして生前魂を輝かせた者達の内、怨みを持つ魂達は亡者として悪魔の住む地下に集められる事となり、平穏を望む魂達は聖人としてゼロスの下へ導かれる事となった。


 その地下はその後、己を鍛える為集まった多くの亡者達によって更に掘り広げられ、日の光が届かない小さな世界“冥界”もしくは、復讐を叶える力を付ける迄出られない牢獄の意味を持つ“地獄”などと呼ばれるようになった。




 ◆◆◆



 それから数カ月後。

 ルシファーが魔窟でいそいそと居住空間を整えている所に、出張していたデーモンが帰ってきて挨拶をしてきた。


「あなたが噂に聞くガルシア様ですね。ラムガル様から話は窺いました」

「あ、もしかしてデーモンさんですか? どうも、間借りしてます。あの、オレの名は……」

「“ルシファー様”ですよね。そう呼んだ方がいいですか? 人間達の間じゃ“ガルシア”の名は有名ですしね」

「はは、そんな有名になりたかった訳じゃないんですけどね。ってか、それよりその“様”って何ですか? オレは元々ただの人間ですよ?」

「いえ、創生順で言うと大先輩ですし、その新たな肉体は平常時の僕らより10倍は強いですからね。どうぞ僕らの事は気軽にデーモンと呼んでやってください、ルシファー様」

「そうか? 若干気が引けるけど……。なぁ、そういやデーモンのその体って、超カッコいいんだけどもしかしてレイス様のオリジナルか……?」

「ほほぅ、わかりますか。その通りです。流石レイス様信者のルシファー様ですね」

「やっぱりか! くっそー、マジか! 超仲良くしよう! オレ、デーモン達超好きだわ!!」

「それは良かった。こちらこそ宜しく、ルシファー様」


 ルシファーは持ち前の性格と趣味を活かし、上手くデーモン達とも仲良くなったようである。



 そして魔窟の内部を整えたルシファーは、いよいよ本格的に亡者の魂の回収に乗り出すのであった。



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