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神は輝く魂をその手に拾い上げ賜うた

 

「―――ガルシア?」


 宝石に向かって、ルドルフが少し不安げに聞く。



 ―――ポト……



 しかし直後、魂の結晶は地に落ちた。

 そして眩しく輝いていた青く美しい光は薄れ、今にも消えてしまいそうな明滅へと変わっていく。


 その様子にレイスが淡々と告げた。


「……失敗だ。まぁ、あくまでも仮説の領域だった」

「……」


 ルドルフが俯き歯を噛みしめる。

 レイスは息を一つ吐き、申し訳無さそうにゼロスに目を向けた。

 ゼロスは静かに頷く。


「しょうがない……―――いや、ちょっと待って」


 ゼロスは言いかけた言葉を止め、突然駆け出すと青い宝石を両手で拾い上げた。


「―――失敗……じゃない。これ、ガルシアだ。魂だけの存在に慣れてないだけだよ!」


 それを聞いたレイスの行動は早かった。


「ラムガル、これでガルシアに肉を創ってあげるといい」


 レイスは直ぐ様肉を千切ってラムガルに渡す。

 自分で捏ねようとしないのは、キッドの件を未だに気にしてるからかも知れない。


 ラムガルは素早く慣れた手付きで肉を捏ね上げ、形にしていった。

 ゼロス程ではないけどとても上手だ。


 そうしてラムガルはあっという間に一人の男の肉体を作り上げた。

 死者を思わせる透き通るような青白い肌。八頭身の長身に、ウェーブのかかった濃紺の艷やかな短髪。シニカルな笑みの似合いそうな美男子であった。

 ただ気になることいえば、男の左目には何故か蜘蛛の巣の眼帯が嵌められ、背には人間にはある筈のない“白骨の翼”が生え伸びている。

 一体何がどうなってこんな事になってしまってるのだろうか?


 完成した肉体を前に、ラムガルとレイスはとても満足気だ。


「出来ました」

「ほほう。なかなか良い出来だ。ゼロス、これに魂を入れてみて」


 そして、その肉体を受け取ったゼロスは、引き攣った笑みを浮かべながらその肉に魂を込めた。



 ―――かくして、魂は無事にその肉体に定着した。




 肉体を得たガルシアは直後、それはもう見事なジャンピング土下座を披露した。


「はは―――っっ!!! ゼロス様にレイス様! お久しぶりにございます!! それにアインス様! その節はお世話になり、大変不躾な事をもお願いした事がありましてずっと心残りにございました! ラムガル様もっ……」


 まぁ、目覚めた瞬間目の前にゼロスとレイスが居て注視されてたら、誰だって何事かと驚くよね。


「ガルシア、そんな挨拶はいいよ。もしかしてさっき魂が落ちて動かなかったのも、魂の姿で平伏しようとてたの? ね、ちゃんと顔を上げてよく見せてよ。再生された気分はどう?」


 ゼロスの楽しげな口調に、ガルシアはハッと我を取り戻して辺りを見回した。


「は……はい、気分はとても良いです。と言うか、え? オレ死んだ筈じゃ? 何この身体。指めちゃ長いし、お肌もツヤツヤ……それに……―――関節が痛くない!」


 うん。死因は老衰だったからね。


 とその時ラムガルがさり気なく進み出て、魔法で水銀の鏡を作り出すとガルシアの前に浮かべた。

 かつては人間だったとはいえ、新たな肉を得たガルシアはもう人間とは異なる種族である。

 “人間に魔法を使わない”という縛りのあるラムガルも、もう気兼ねする必要はない。


 ガルシアは鏡に映った自分の姿を唖然と見つめる。



「……なんすか……この姿」

「レイス様の御前だ。言葉が乱れているぞガルシア」

「はっ、も、申し訳ございません」


 慌てふためくガルシアに、ラムガルは小さな咳払いをすると少し得意げに説明を始めた。


「お前はかつて人間の生を全うし、その死を迎えた。だが諸事情によりレイス様がお前の魂の欠片を集め、再生なされたのだ。そしてその受け皿となる肉は余がレイス様の名の下に練り上げた」

「ありがとうございますっ! めっちゃ……めっちゃめちゃカッコいいです! オレ、もう死んでもいいくらい感激です!」


 ガルシアも新たな肉体が気に入ったようで、興奮気味に感謝を伝えた。

 というか、既に1回死んでるからね?


「そうか。気に入ってよかった。ルドルフから聞いたのだが、かつてお前は“オレの身長が後13センチ高ければ歴史が変わっていた”等と言っていたそうだな。一応伸ばしておいたが、その程度では変わらぬ」

「―――あの野郎、ラムガル様に何チクってんだよ」 


 成程。それで八頭身か。


「そしてお前は以前、アインス様に“レイス様の羽根が恰好良すぎる”と3日3晩、延々と語り続けたそうだな」


「……その節はどうも、若気の至りと言うやつです。まぁルドルフとは、死ぬまで語り続けてましたが」


 成程。それで白骨の翼か。


「付けておいた」

「マジでありがとうございます!」


 本人も喜んでるようだし、まぁ良いか。


「更にその眼帯の下の目は、レイス様と通信できる仕様になっている。お前のレイス様への崇拝心を認めた、おまけの仕様と言う所だ」

「なんとっ! 畏れ多いです!」


 その時、レイスがポツリと呟いた。


「もしもし、レイスだけど」


 その途端、ガルシアは崩れ落ちるように膝を付き、左目を抑えて震えながら言った。


「う……、オレの……オレの左眼が疼いてやがるっ」


 ……あぁなんだ、ただの魔眼か。

 そして何ともレイスとガルシアの好きそうな設定なのだろう。


 それからレイスとガルシアは楽しそうに何度か邪眼でのやり取りを行い、それも落ち着いた頃。

 最後にラムガルは言った。


「身体の説明はこれくらいにしておこう。先程お前がこうなった経緯について諸事情と言ったが、キッカケはお前の友の願いからだった。“お前に会いたい”、とな」

「え……、友?」


 ガルシアは左目を抑えながら振り返り、自分に背を向けたまま時たま尾を振っている黒麒麟を見た。

 ガルシアはニヤリと笑い、ルドルフに向かって歩み寄りながらその背に声を掛ける。


「よぉ、ルドルフ。お前から会いたいなんて初めてじゃねぇか?」


 ルドルフは気まずそうに振り返った。


「チッ。テメェだって“会いたい”とは言った事ねぇだろ。いちいち下らねぇ理由つけては、毎ある毎に呼び出してくれたがな」


 ガルシアは懐かしそうに不機嫌なルドルフをル見つめる。

 そして満面の笑みを浮かべるとルドルフに言った。


「なら今言っとく。会いたかったんだよ」

「ばっ、何言ってんだよっ! 今更、ふざけんなっ、恥を知れっ」

「ふざけてないよ。バレてたかもだけど、あの頃のオレは用がなくても、お前に会いたくて呼んでた。だから今回、ルドルフがオレを呼んでくれたって聞いて嬉しかったよ」


 ガルシアは相変わらず相手の事を良く思いやる子だった。

 未だに自分に素直になり切れない恥ずかしがり屋の黒麒麟の為に、自分の方から告白をしたんだろう。


 黒麒麟はブルルと大きな溜め息を吐き、ポツポツと1213年の時を経て再会した友人と話しし始めた。


「その、悪かったな……この実験にお前を使おうと提案したのは俺なんだ」

「ん?」

「だから! お前は満足して死んでったのに俺がだな……」

「あぁ、気にすんな。確かに死ぬ時はやりきった感に満たされてたが満足はしてなかったから。時間と体力さえあればまだまだ色んな事が出来ただろうし、実際やってたと思う。だから、こんなになったからってお前に怒ったりなんてしないよ。―――まぁ、敢えて言うならリーナが居ないのは少し寂しいが……」

「けっ、俺なんざこの千年、ジュリもお前も誰も居なかった! ……人間に惚れるのなんざ、もう懲り懲りだ」


 そう言ってまた俯いたルドルフにガルシアは苦笑する。


「はは、悪かったって。もうあれから千年も経ってんのか。な、これ迄の事を教えてくれよ」

「しゃーねーな」


 そんな風にガルシアとルドルフが感動的な再会を喜び合っている一方で、二柱は今回の実験結果の検証を黙々としていた。


「―――この実験により“魂の記憶”は立証された。実のところレイスも信じられない思いだ。副産物的なものだけど、魂には確かにその記憶が残ることがある」

「肉体の記憶のバックアップの様な物だね」

「そしてやってみて思ったが、魂の元となるマナ素体の集め方はさほど難しくはない。これからはいくらでも再構築可能だろう。……だけど強い輝きを放つ魂は一癖ある者が多いこともまた事実。ガルシアみたいに扱いやすい奴ばかりじゃない筈だ」

「復活させるのはいいけど、管理させる者が必要ってことか」

「創る? リーダーシップがあっ、相手の事を分かってあげられる、寛大さと柔軟さを持ち併せた様な奴」

「あとカリスマ性も要るね。それにそれなりの力を持たせるなら謙虚で真面目で、ある程度先を見通すことも出来ないといけないよ」

「ふむ。だがそう云う奴を創ったとして、果たして新参者に癖のある古参共がついてくるかは微妙……。いっそ力で全てを解決する奴の方にシフトを切り替えてみては?」

「いやいやいや……」


 そんな話を聞かながら、俺はふと昔話に花を咲かせる二人の方にそよそよと葉を揺らす。


「それなら創らなくてもぴったりな子がいるんじゃないかな。ちょうどほら、そこに」 


 それは聖獣や魔物どころか神獣とも友達になれる程寛大で、柔軟な思考の持ち主。そしてハイエルフ達を先生と呼んで慕い、彼等にも認められる程に真面目な人間達の英雄と謳われる存在。


「「あ。確かに」」


 二柱は声を揃えてガルシアを見たのだった。





続きます。


ブクマ、勝手にランキング投票、ありがとうございました

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