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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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青春旅行 (世界樹の袂1)

          生存報告です(*_ _)人





 森のエルフ達の里でご馳走を腹一杯食べて錫を奏でた後、俺はエルフ達に案内されながらこの森に住む獣達と遊んで回った。

 森のエルフ達は暑苦しいと感じつつも、不思議と気が合う。好きなものや俺の常識(感覚)が似ているせいだろう。

 彼等と過ごしていると、自分でも驚くほど自然に笑えた。学園で過ごしていた時はなぜかあれほど苛ついてたのに、ここでは極自然体でうまく呼吸ができたんだ。


 それから流れで昼食までセインにご馳走になったのだが、その席で予定を話し合っていた最中の事。

 ユウヒの放った一言に、俺は眉間にシワを寄せた。


「はぁ? 世界樹の所は一人で行ってこいってどういうことだよ?」


 するとユウヒは俺から視線をそらし、肩を竦めながら言い訳を始めた。


「いやぁ、世界樹様の根元にはさ、とある奴が住んでるんだよねぇ。僕はそいつが苦手って言うかぶっちゃけ会いたくないって言うか? まぁ……とにかく行きたくない。だから今回はやめとくね、僕は」

「我が儘言うなよ。そんなら俺だって行かないし!」

「いや、クロは行っといた方がいいって! 折角ここまで来たんだし、あの方に自覚がないとはいえ、神が認めるこの森の主だから挨拶しておいた方がいいよ」

「ならユウヒも行けよ」

「ヤダっ」


 ユウヒはそう叫ぶと俺に背を向けて、まるで蝉のようにダイニングチェアの背もたれにしがみついた。……っつか何歳だよ、お前は。

 俺がやれやれと呆れ返っていると、セインが温かい飲み物の入ったカップを置きながら横からポツリと口を挟んできた。


「そういえばその件についてですが、賢者殿なら先日から世界樹様の元を離れられていて不在ですよ」

「え? 誰? ユウヒが苦手だって言ってる奴の話? ならよかった。行けるじゃん」

「イヤだ」

「なんでだよ?!」


 尚も背もたれにしがみつくユウヒに、俺は思わず声を荒げツッこんだ。だがユウヒは頬を膨らませるだけで、それに答えることはなかった。

 そんな面倒くさいユウヒに更に苛立ちを募らせていると、見兼ねたセインが苦笑を溢しながら俺に説明をくれた。


「世界樹様と御対面するということは神聖な儀式であると同時に、我等全ての創造物にとって、それは()()()()()ですからね」


 大きな樹を近くまで見学に行く程度の認識だった俺は、セインの話に首を傾げる。


「と言うのも、世界樹様は我等の全てをご存知であらせられ、そんな我等の全てを愛し肯定してくださる“この世界の父”とお呼びしても過言ではない存在」

『―――いや、過言だよ』

「……ぇ?」


 一瞬、話に割り込むように不思議な声が脳裏に響いた気がして、俺は眉を寄せた。空耳……いや、幻聴? ……まぁいいか。

 不思議に思いつつも、変な声が聞こえたのは無かったことにして、俺はセインに訊ねた。


「へぇ。だけど、それがユウヒの捏ね回してる駄々とどんな関係があるんだ?」

「世界樹様に対面する際、その時の自身が正しい道を歩けていたなら何も問題ありません。ですが己を誤魔化したり嘘を吐いて道を逸れてしまった状態で彼のお方の前に立てば、その過ちや愚行の全てをも平等に愛し肯定されてしまう事になる。よって、その犯した罪の重さに比例し、罪悪感より自責の念に苦しめられることになるのです」


 おお、なんかちょっと神話に出てくる試練ぽいかもしれない。

 善良な人は祝福されて咎人は悶え苦しむ、みたいな?

 俺はその話からの推測した一つの事実をポツリと呟いた。


「……てことは、ユウヒはなんかやらかしたってことか」


 そう言ってチラリとユウヒの方に目を向けると、ユウヒは今にも死にそうな顔色で途切れ途切れに答えた。  


「うん、……まぁ、今はちょっと……数十世紀はアインス様に顔向け出来ない、かなぁ……」


 ……一体何をやらかしたんだ。


 結局、俺はそれ以上ユウヒを問いただすことはせず、ユウヒ抜きで世界樹の元に向かうことにしたのだった。

 ま、ユウヒにしては珍しく心底嫌がってる様だし、今回だけはそっとしといてやるか。


 ◇◇◇


 それから俺はキールとキメラを除く獣達を連れ、案内のハイエルフと共に里を出た。

 何故かはよく分からないが、今回、キールは俺と出掛けることを拒んだのだ。

 最近のキールは時々、気紛れにこういった我が儘を言うことがある。

 まぁ、一人で過ごしたいこともあるんだろう。ついでにキメラに関しては、キールの為に俺達と行動を共にしているところがあるから、俺と行動するよりキールの元にいようとするのは極自然なことだった。

 キメラもいるし、ハイエルフの里の奴らはいい奴等が多かったから、俺はキールの希望通り留守番をしてて貰うことにした。


 やがて、深い森の中を3時間ほど歩いた頃。ふと、森が途切れハイエルフが足を止めた。


「この先が世界樹様の御幹元となります。帰りは獣様方の案内で里まで帰り着けるでしょうから、私はこれで失礼いたしますね」

「うん、案内ありがとう」


 ここまで案内に付いてきてくれたハイエルフに手を振り、俺は世界樹と呼ばれる化物みたいにでかい樹に向き直った。

 途切れた森の木々の間から世界樹の袂までは、他に大樹がない代わりに、シダのような膝くらいの低木があちこちに群生している。

 だが、それも巨大な大樹の根にとってはささやかな苔程度にしか見えない。

 足元にはハイエルフ達が拵えたであろうミスリル細工が施された木製の小道が、遥か数キロ先の世界樹まで延びている。

 俺は小さく深呼吸すると、その小道に踏み出し、まるで高くそびえる白い壁のようにすら見える圧巻の大樹に向かって歩き出したのだった。



 小道は高く聳え立つ岩壁のような根を避けて曲がりくねり、時に陸橋のように根を跨いだりして続いている。

 その小道を歩く最中、空からはリィンと俺の奏でる錫にも似た音が、絶えず響き続けていた。


 ハイエルフ曰く、世界樹の葉はクリスタルのように透き通った結晶体になっていて、風に揺れる度に触れ合い、こんな音が響くんだそうだ。

 落ち葉でも落ちてれば手にとって観察してみたかったが、小道の上はおろか、小道を外れた茂みのどこを見渡してみても、枯れ葉ひとつ落ちてはいなかった。


 更に小川を越え、巨大な根の下に掘られた暗いトンネルを抜けると、俺達はとうとう小道の終わり、世界樹の御前にやって来たのだった。


「………デケェ」


 その幹の壁を見上げると、思わずそんな声が漏れた。

 と、そのとき。突然連れてきた獣達が世界樹に向かって飛び出した。


「あ、ちょっと待って!」


 俺は慌てて制止の声を掛けたが、翼のあるものは飛び、ラーガやルナ、ドルまでも大樹に吸い込まれるかのように柵を越えて行ってしまった。

 先程からなにか落ち着かず、ずっとそわそわとしている気配は感じていたが、まさか飛び出して行ってしまうとは。

 マナが濃いせいで興奮でもしてたんだろうか?

 まぁ、いずれにせよラーガ達が何かやらかしたら、契約者である俺も連帯責任だろう。


 俺は深いため息をひとつこぼし、目の前にそびえる大樹に向かって頭を下げて謝った。


「ぇ、えーと……あの、すみません。俺の連れが、そっちにいってしまって。ちょっと興奮してたみたいで悪気はないんです……」


 と、そこまで言って俺はふと我に返る。

 いやいや、なにやってんだ俺は。樹がんなこと気にする筈も答える訳も無い。

 子供に話すおとぎ話じゃねーんだし、『世界樹様は語り掛けてくださる』とかマジで言ってるクソ親父や盲信者なハイエルフ達に毒され過ぎたな……。


『いいんだよ。なんならクワトロも登ってみるかい?』

「うぉっ! 喋ったっ?!」


 樹に向かって独り言を言ってしまったことに後悔して2秒。

 突然頭の中に不思議な声が響いて、俺は反射的に驚愕の声をあげながらその場から跳び退いたのだった。


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― 新着の感想 ―
アインス様、耐えきれずに話しかけちゃっただろ…待ちきれなかったんだね。はい、よくわかります。 クロトワ君も世界樹に話しかけるなんてセンスあるわぁ…
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