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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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森の番人4

 俺達はエルフ達と森を進んだ。


 エルフ達は最初こそ無口で無表情、そして機械的な動きで歩いていたが、愉しげに俺達と話すティニスを見てか、徐々に口を開くようになっていった。

 エルフ達は森の知識を得意気に語っては、俺がそれに感心した途端、慌てて「それ程の事じゃない」と言って謙虚に黙り込む。

 そしてそんな様子を、セインは穏やかに微笑みながら黙って眺めていた。


 やがて、獣道のようだった小道がポツポツと所々に枕木のようなものが置かれはじめた頃、今まで沈黙していたセインが口を利いた。


「我等の里の結界内に入りました。もう間もなく着きますよ」


 そこから先は、まるでお伽の話にでも迷い込んだかの様な、眼を見張る光景の連続だった。


 朝霧に霞む薄暗い森に延びる小道は、いつの間にか枕木をしっかりと組まれた歩きやすい道となり、その両脇には分厚い苔と共に大きなキノコが群生している。

 更に進んだ先にあった大きな切り株の周りでは、スポットライトの様に朝日が差し込んでいて、その光を求めてか、そこにだけ色とりどりの花がこぼれる程に咲いていた。


「森に住む光のエルフ達の仕業だね」


 景色に見とれる俺に、ユウヒが耳打ちするように言ってきた。


「光のエルフ? って、ミックみたいな?」

「そう。この森の外にいる光のエルフはミックのような闇の加護を持った子達も多いんだけど、この森に住む光のエルフ達は大抵光と植物の加護持ちなんだ。そんな森で子達が遊ぶと、ああした形跡が残るって訳」

「へぇー」


 俺は頷きながら、そんな不思議で美しい光景を眺め歩いた。そして……


「うゎ、すごっ! なんか家が樹にめり込んでるんだけど! どうやって建てたんだ?!」

「ふふ、かつては若木の隣に建てたものだったのですが、2000年ほどでこうなってしまったのてますよ」


 大樹に呑まれる家屋の立ち並ぶハイエルフの里に、俺達は辿り着いたのだった。


「さぁ、こちらです。朝食は私の家に用意してありすので」


 だがそう言ってセインが示した方向をみて、俺は思わず顔を引き攣らせ一歩後ずさってしまう。

 なぜならそこは、里の中でもひときわ大きな大樹の上。地上から軽く20メートルはあろうかという位置の幹にめり込んだ家屋だったのだから。


「―――私の家は元々里を一望できる櫓の役目も担っていたのです。それであのような場所にあるのですが、勿論階段はありますので安心してくださいね。……と言っても、やはり樹に呑み込まれていてここからは見えないのですけれど」


 と、そんなセインの話にほっとしたのも束の間。

 何故かティスニーを含むエルフ達が、屈伸やストレッチを始めたのだ。


「……何してるんだ? ティスニー」

「お館まで樹皮を登る。トレーニングだ。おい勇者、競争だ。付き合え」

「えー、しょうがないなぁ」


 って、ユウヒも登る気か?


「手加減はなしだ。本気でこい」

「本気だしたら勝負にならないよ? あ、クロはセインとゆっくり階段で行くといいからね」


 軽い口調でそう言いながらも手首と足首をプラプラと回すユウヒ。……え? マジで本気出す気なの?

 俺はヤル気満々のユウヒとエルフ達を前に、困惑しながらも気付くとこう口走っていた。


「え、俺も登る」



 ◇◇◇



 ―――結果は、当然だが俺の惨敗だった。

 ユウヒが3秒、エルフ達が36秒、そして俺が18分である。

 途中息切れしつつも何とか目的の幹に指を掛けると、俺の目の前に手が伸ばされてきた。

 見ると、先に昇っていたユウヒがこっちに手を差し出しながら笑ってる。


「お疲れ! 朝食前のいい運動になったね♪」

「はは……そりゃユウヒにとっちゃ朝飯前だろうけどな」


 そう言って俺はユウヒの手を掴み太い枝の上に身体を滑り込ませると、額に浮いた汗をぬぐって深呼吸した。


「はぁ、木登りなんて何年ぶりだろ」

「昔はよくしてたの?」

「あぁ、イヴともっと高い樹に登ったこともある。……あの頃は、楽しかったな」

「今は?」

「楽しいよ」


 俺は即答した。そして若干の虚勢を張って付け加える。


「言っとくけど、別にあの頃みたいに森に帰りたいとかじゃないから。あの頃も今も、イヴやユウヒといるからいいんだ。ユウヒに誘われてなきゃ、俺はこの森にだって来てなかった」


 我ながら、何だか言い訳がましくなってしまったと思いつつも、ユウヒはそれ以上なにも言わず頷いた。


「そっか。んじゃ、呼吸も整ったみたいだしそろそろ行こっか。セインが待ってる」

「うん」



 ◇



「種族柄肉を食することがなく、人間には少し物足りない食事かも知れませんが」


 セインの住まいの大テーブルで、そう言って出されたものは、質素な豆や野菜の料理。

 だがその味に、俺はなんとも言えない満足感に満たされ、夢中になってその品々を食べていった。


「全然物足りなくなんかないよ。この森の食材って、なんか何でも凄く美味いんだけど、この料理は本当になに使ってるの?ってくらい旨い。何か特別な隠し味でもあるの?」

「いえ、今回ただ煮炊きしただけです。ですが気に入って貰えたなら、森の最深部、特にマナ濃度の高い場所から特別に採取した食材を使ったかいがありましたね」

「へぇ」


 俺は頷き、異様に旨い豆のサラダをまた口に運んだ。ハイエルフはそんな俺の食いっぷりを眺めながらにコニコと笑う。


「お腹がすいたら何時でもこの森にご飯を食べに来てくださいね。森は何時でもクワトロ殿を歓迎致しますから」

「……うん」


 何だか餌付けでもされている気分になり俺は少し恥ずかしくなって俯いたが、出された何の変哲もないその料理は旨すぎて、食事の手を止める気にはならなかった。


 それから食事を終えた俺は、エルフ達の要望に応え、錫を鳴らした。

 いつもは獣達への鎮魂も込めるが、今回は野菜ばっかの食事だったこともあり、ただエルフ達からの歓迎への感謝を込めて鳴らしてみた。


「ふぐっ、……っうぇぇん、何だこれはっ、何故この錫の音はこんなにも私の魂を揺さぶる?! なっ、涙がとまらないぃっ!」


 そう言って何故か俺の錫を聴きながら号泣するティスニー。相変わらず暑苦しい。


「さぁ? 本能が獣に近すぎるんじゃないのか? もともとこの錫は獣達の為の錫だし」

「なっ、なんだと?! お前私を馬鹿にしてるのか!」

「煩い。ってかまず涙と鼻水をどうにかしろよ、汚ねぇ」

「うぐぅっ! 何故こんな意地悪な奴の奏でる音にぃぃ!」

「んじゃ、止めようか?」

「いいや止めないでくれ! もっと聞かせてくれ! 頼む!」

「……お前の情緒大丈夫かよ?」


 変な奴、と俺は他のハイエルフ達と笑いながら、この暑苦しいエルフが満足するまで錫をならし続けたのだった。



 ◇◇《勇者視点》◇◇


「噂に勝る錫の音ですね。神獣様方がこの森を出られた理由がよく分かりました」


 エルフ達の輪から少し離れたところでクロを見ていると、セインが僕のとなりにやって来てそう声を掛けてきた。

 セインは今このハイエルフの里で長を勤めている。

 本来ハイエルフ達は、初めに神よりの創生を手掛けられたフェリアローシアの血筋を長としてきたのだけど、フェリがダークエルフに堕ち、その後継としてセインが長となったのだった。

 そして魂の記憶を全て覚えてる今の僕にとって、セインは最早、このセインが生まれた時からの顔見知り。なんなら先代や先々代すらよく知る阿吽の仲だった。


 僕はクロを見つめたままセインに頷く。


「だよね。僕も初めてあの音を聴いた時は本当に驚いた。そして今でもこの音を聞くたびに、あのティスニーって子程じゃないにしても泣きそうになるよ。胸の奥のトコがくすぐったいような、そして締め付けらるような気分になる。……まぁ、当のクロはあの音の価値を全く理解してないけどね」

「ええ、あの音があの子にとって無価値だと思える程、平素に鳴らせているということでしょう。二千年の寿命を神獣様に捧げ続けた我等ですら、この音色には到底届きそうにはないというのに」

「はは、それはそうだろうね。ハイエルフは真面目で凄い者達だけど、何時だって誰かに捧げ尽くすだけだったから」


 ……それに比べ、クロは何時だって誰とでも目線を合わせてきた。無意識に、無自覚に、無我夢中で隣に立とうとしてきたんだ。

 誰しもが逃げたくなるような相手、ひれ伏したくなるような相手すらも、まっすぐその目を見据えて。


「クロはね僕の親友で、獣様達の親で、ロゼ様の保護者で、そしてイヴちゃんの一番近くにいる家族なんだよ? そんな役、ハイエルフに出来る?」

「それは……―――確かに、私共には務まりそうにない立場ですね」


 セインはその肩書きに一瞬言葉を詰まらせ、すぐに首を横に振ってひきつった声で頷いた。

 僕はそんなセインの様子にクスリと笑った。

 そう、クロは本当に凄い子なんだよ。僕がこれまで見てきた誰よりも凄い。心から尊敬してる。……ま、口に出して言いはしないけどね。


「そう言えば、初めてですね。記憶を取り戻した勇者が誰かを“友”と呼ぶのは」

「まぁ実際、これまで友達なんていなかったからね。この勇者の力の大半を失って全てを忘れた状態ですら、誰一人僕を僕としてみてくれる者はほんの僅かだった」

「私は勇者を良き友と認識していましたが?」


 僕はその曇りない言葉に苦笑した。


「じゃ、どうして僕を“勇者”と呼ぶの? それは神より与えられた使命の呼び名だよ」

「……」


 ま、別に構わないんだけどね。


「でもクロはね、僕を勇者とは呼ばない。皆は当然のように僕に“勇者様助けて”と言うけど、クロは言わない。それどころかこの最強の僕に向かって“大丈夫か?”って心配してくるんだよ」


 セインは少し申し訳なさそうに肩を落とした。


「貴方がそのような事を気にしていたとは……、我々はただ」

「あぁ、いいんだ。実際気にはしてないから。僕も勇者として、いざとなれば世界の為に命を懸けるくらいは当然だと思ってるし、誰かにこの力を望まれるなら僕は正義の名のもとに惜しみなく全力で貸す。―――……だけど、そういうのって“友達”とは呼ばないよね?」


 でも、クロにだけはそんなことしなくてもいい。

 クロはきっと、この先も僕に“勇者の力”を貸して欲しいとは言わないと思う。

 そして僕もクロに、クロがクロでいてくれる以外に何も望んではいない。僕とクロはそんな関係なのである。


 そんなクロだから、一緒に居ても気張って高め合う必要なんかなく、競い合う必要もなくいられる。世界を救うとか大層な目的もなくダラダラと同じ道を歩いて、同じものを見て、下らない話を笑いながらする。

 そしてもしクロにやりたいことが出来たその時は、僕は自分の事以上に力いっぱいクロを応援したい。

 そんな、特別視しなくてもいい特別な関係なんだ。



「つまり、クロは僕の親友って事なんだ」



 ……だけど、僕はもう少ししたらクロと同じ道を歩けなく。くだらない話も、側で応援する事さえできなくなる。


 だから……。



「だからセイン。僕がいなくなっても、クロがお腹をすかしていたらこの森でいっぱいご飯を食べさせてあげて欲しいんだ。頼んでもいい?」

「勿論構いませんよ。クワトロ殿がそう望んで下さるのなら、我等はいつだって歓迎させていただきます」

「クロは望むよ。ううん、望まなくてもきっとここにクロは来る。……だってあの世界はもう、クロにとって狭すぎるから」


 せめて、クロの為に何かを残しておきたい。

 そしてそれを見て、たまにでいいから僕を思い出して欲しい。


 そう思ってしまうんだ。


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