森の番人3 《クワトロ視点》
ごふ、修正してたらいつの間にか日付変わってました。すみません。
それから間もなく、俺達はセインの後に続いて歩き出した。
いつもなら、立つ前に野宿の後片付けに小一時間ほどかかるものなのだが、俺が頷いた直後、待っていたとばかりに木ノ上からエルフ達が降りてきて、あっという間に焚き火の後を一切の痕跡も残さず片付けてしまったのである。
そして仕上げとばかりに細かい草の種子を撒くその様子に、野宿慣れしていると若干自負していた俺はその自信を打ち砕かれ、何となく情けない気分で、俺はキャンプ地を後にしたのだった。
セインに付いて俺とユウヒは一列になって森を奥へと歩いていく。
俺の隣には左右それぞれキメラとラーガが並んで歩き、更にその列を取り囲むように、表情を崩さない森のエルフ達が無言で付いてきていた。
……この無表情エルフ達には話し掛けづらいが、さっきの後始末をして貰って以来なんだかモヤモヤする。
俺は聞こえなければいいと内心で願いながら、ポツリと隣を歩くエルフに言った。
「……ありがとうな」
途端、俺の言葉を耳ざとく聞き付けたエルフが視線だけじろりと俺に向けてきた。
「一体何の事だ?」
「焚き火やテントの後始末してくれたことだよ。俺じゃ多分、あそこまで完璧には出来なかった」
すると、今まで仮面でも付けていたかのようなエルフの口角がふっと吊り上がった。
「フフン。まぁ、それが我等の本来の仕事のひとつだからな。我等はこの森を管理し、邪悪な侵入者を排除する者。あの程度、火竜が森の一部を燃やしてしまった時の後始末に比べれば、埃を払うにも足らん作業だったかな」
そう得意気に、聞いてもいないことまで語りだすエルフ。
「へぇ、この森には火竜もいるんだ」
「あぁ。だがそれより大変だったこともあるぞ。あれは3ヶ月前……」
……このエルフ、なんか思ってたよか喋るタイプの奴かもしれない。
そうピンと来た俺は、更に自分の偉業を披露しようとし始めるエルフを押し止め話を逸らせた。
「ふーん、この森のエルフは忙しいんだな。でもそんなに忙しいなら、なんでセインと一緒に俺達を迎えになんか来たんだ? 装備も付けてるし、始め威嚇されてるのかと思った」
「えっ、そうなのか?! す、すまない。これは我等の森歩きの基本装備なのだ。配慮が足りなかった……」
「いや、謝る程の事じゃないし別にもういいけどさ」
俺はそう答えつつ、アタフタと慌てるエルフの一挙一動を観察していた。
初めこそ話し掛けづらいと思っていたが、よく見てると何てことはない。ただプライドが高くて愚直な程に生真面目、そして遊びの無い単純な性格だと言うだけだ。
自己主張を始めると若干めんどくさそうだが、邪険にする程ではないし、何より森を心から大切にしている。……嫌いじゃない。
俺は突き放すこと無くエルフに再び尋ね直した。
「それで、そんな忙しいのになんで付いてきたって言うんだ?」
俺が話を戻すと、エルフは何か悪事を告白でもするかのように、恐る恐る俺の表情ををうかがいながら答えた。。
「えっと、その……、実はクワトロに頼みがあって、セイン様にどうか同行させていただきたいと願い出たのだ」
「俺……に頼み?」
俺は聞き間違いかと、首をかしげた。
だってユウヒでもなく、“シアンの息子”以外に肩書きを持たない俺なんかに、森のエルフ達が興味を示すことなんて一体何があると言うのだろう。
俺が首を傾げていると、猪突猛進気質のあるエルフは、もう回りくどいやり取りは終わりだとばかりに食い気味に本題を口にした。
「クワトロ、お前“銀のブランケット”を持っているか? ハーティーの刺繍が入ったやつだ。持っているんだろ?! それを一目でいいから我々に見せて欲しいのだがっ!」
「ブランケット……な、なんで?」
そのエルフが言うに、俺が昔親父の知り合いから誕生日プレゼントにと貰ったハーティーの刺繍入りブランケットは、この森にあるハイエルフの里で一番の機織り技術を持つ者の作品なんだそうだ。
そしてこのエルフ達は自分の防具を作る時の為に、その技術を参考にしたいのだとか。
「それからな、それからクワトロの錫も一度でいいから聞いてみたかったのだ! なぜならその錫杖は、かつて我等が里に……」
「ティスニー、クワトロ殿が困っておられるでしょう」
「あ、は、はいセイン様。申し訳ありません、クワトロ殿」
「いやいいけど。……ってかお前、名前ティスニーっていうのか」
「え? 名乗ってなかったか? す、すまない……」
ティスニーはさっきまでの勢いを完全に失くし、まるでお預けを食らった子犬のようにしょんぼりとうなだれ始めた。
そんな様子に俺は苦笑しながら声をかけた。
「な、森のエルフって皆そうなのか? 何と言うか……他人に警戒が無さすぎないか?」
「なっ、ふ、普段は来訪者に対し警戒から入るぞ。だがクワトロは特別だ。それに獣様が慕われている者を警戒するなんて、まさに無礼にあたるからな!」
そう、ティスニーは物凄い得意気に言うが意味がよく分からない。
ただ、別に何かするつもりなんかこれっぽっちもないが、俺もそこまで信用される程いい奴ではない自覚はあったので、一応突っ走り気味のティスニーに忠告しておいた。
「よく分からないけど、短絡的な考えはよくないぞ。盲信して先入観に囚われていると、いざという時に判断を間違えて守りたいものを守れなくなるから」
「えっ」
俺の言葉にエルフは驚いたように声をあげると、俺の隣を歩くラーガやハイエルフに助けを求めるかのようにキョロキョロと視線を送った。
だがラーガは相変わらずの人見知りを発揮してその視線を完全に無視しているし、ハイエルフはクスクスと小さな声をあげて笑うだけだった。
とうとう泣きそうな顔で俯いてしまったティスニーに俺は少しだけ不憫さを覚え、自分の余計な一言のせいだと言うことも棚にあげてハイエルフにポツリと言った。
「……笑うこと無いだろ」
「ふふ、気に触ってしまったのなら申し訳ありません。ただ一つ言い訳をさせて欲しいのですが、私はその子を笑ったのではありません」
「じゃ、何が可笑しかったんだ?」
「実はかつて、遠い遠い昔。我等も思考を放棄して、我等の主の命令のままに禁忌とされる一つの事柄を傍観したことがあったのです。まさにその時の苦い出来事を思い出したのですよ」
そんなセインの話に、ティスニーが驚いたように声を上げた。
「苦い出来事? し、しかし主様の命令とあらば従うのは我等の勤め。例えそれが禁忌であったとしても……」
「ええ。我々も当時はそう思ったのです。だからそれが駄目なことだという認識はあっても沈黙した。しかし結果、多くの者達が命を落とし、主様はもう御一方の主様と分別ある若者によって酷くお叱りを受けることになった。……その時の若者とクワトロは、とてもよく似た考えを持っているのですね」
そう言って何故か嬉しそうに笑うセインの考えが読めず、俺は視線をそらし話から逃げた。
「や、遠い昔の人なんて俺は知らないし……」
セインはそれ以上俺になにも言わず、代わりに優しい口調でティスニーに説教を始める。
「いいですかティスニー、誰しもが過ちを犯す。ならその時は、相手が誰であろうが己の信念を持ってお止めしなければならない。そうしてこの森の秩序を維持する。それが我等森のエルフの戦う目的なのです」
「は、はい! 肝に銘じ精進致します!」
ティスニーは素直に頷き、背筋をピンと伸ばしセインに敬礼すると、突然じろりと俺を睨んできた。
「そう言うことだクワトロ。いいか? 我等の里で余計な揉め事は起こすなよ? しっかり監視しているからな!」
「いや今さら過ぎるだろ。普通でいいよ普通で」
あまりの変わり身に思わずそう突っ込むと、とうとう今度こそ周囲から笑い声が吹き出す。
「いやー、ティスニーちゃんって言ったっけ? キミ面白いなー!」
「なっ、ゆ、勇者、何故肩を揉むのだ?! 馴れ馴れしいな!」
「それがこの子のいいところですからね。これからも広い心で見守ってやってくださいね、勇者にクワトロ殿」
「セ、セイン様まで?!」
朝の森に響く和やかな笑い声に、いつの間にか俺の声も混じっていたのだった。
こんばんは。今後、週一(木曜日)更新目指して頑張りたいと思います。
今後ともお付き合いいただけると幸いです(・ω・)




