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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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森の番人2 《クワトロ視点》

 おそらくミスリル製だろう白銀の胸当てと兜で装備を固め、構えてこそいないものの弓矢と短剣を携えた、冗談のまるで通じなさそうな鋭い目付きのエルフ達。

 是迄会ったことのある冒険者をしていた雑多なエルフとは違い、研ぎ澄まされた姿勢で微動だにせずこちらを見下ろす彼等は統率の取れた兵隊のようで、まるで違う生き物のようにさえ思えた。


 早朝の冷たい森の空気が、余計に緊張を張り詰めさせる。

 俺はゆっくりとひと呼吸吐いてから、現状の分析を始めた。

 ……結論から言うと、戦闘になっても俺達が負けることは先ずないだろう。なんせこちらには勇者やキメラ、それにラーガ達だっているのだから。だけど無意味な争いはしたくはない。

 エルフなら言語での意志疎通が可能だから、出来るなら話し合いが望ましい。

 俺はチラリと無機質な表情のエルフ達を見た。

 ……声、掛け難いな。ま、でも直接彼等に問い掛けて刺激するより、もっと簡単で確実な方法があるか。


 俺は這い出したままの体勢で、目だけ呑気な笑顔を浮かべるユウヒにジトリと向けて尋ねた。


「……で、ユウヒ。俺が寝てる間に何したの?」


 別にわざわざ得体の知れないエルフに声をかけるより、ユウヒを問い質せばいい。


「えぇっ、僕?! って、なにその目。僕は何もしてないよ?!!」

「だって。じゃあなんで目が覚めたら包囲されてるんだよ。昨日の内にやっぱ禁忌か地雷みたいなの踏んでたんじゃねーの?」

「いやいやいや……、はぁ。なんでどーしてクロは先ず僕を疑うのかなぁ? これはつまり」


 ユウヒが呆れ口調で俺になにか説明をいれようとした時、不意に前方からシュルッと衣擦れの音が近くから聞こえた。

 突然感じた気配に俺がハッと顔を上げると、まるで光のエルフ・ミカエルを連想させるような綺麗な顔立ちをしたエルフが一人、静かな微笑みを湛えながら此方に歩み寄ってきているところだった。

 ただ歩いているだけ。なのに、そのエルフからはミカエルなんかとは比べられない威圧を感じる。

 肌がピリピリして、俺の本能がこう告げていた。―――俺達を取り囲むエルフ達全員より、たった一人のこのエルフの方が強いと。


 警戒を強め、俺はいつでも動けるよう体勢を整えたが、その綺麗なエルフは更に嬉しそうに笑い、此方に向かって優雅な仕草で頭を下げてきたのだった。


「お久しぶりですね、勇者。そして獣様方はつつがなく御過ごしのようで私共も喜ばしい限りにございます」

「?」


 ユウヒと……“獣様”?

 俺は首をかしげながら、ふと隣にいるラーガに目を向ける。

 ラーガはいつも通り姿勢よく座っていて、俺の視線に気付くと嬉しそうに鼻先を上げ尾を揺らした。

 いや、ラーガの事じゃないよな。だって俺は卵の頃からラーガ達とずっと一緒に居るが、この森のエルフとの接点なんて一度もなかったのだから。……なら、キメラの事か?

 俺は首をかしげつつチラリと隣のキメラを見上げるが、キメラはそしらぬ顔で欠伸をしているだけ。……ま、あのエルフが単に獣好きなだけかもしれない。

 俺はユウヒに視線を戻し、ヒソリと声を掛ける。


「ユウヒの知り合いなの?」

「そうとも。彼は僕の知古のハイエルフ。そして彼と一緒にいるのが、ハイエルフ達と共に暮らす“森のエルフ”達だよ。……だから来客って初めから言ったのに、クロは直ぐに僕を疑うし……」

「ごめんって」


 面倒臭いムーブに入ろうとするユウヒに、俺はさっさと謝って話を終わらせた。

 と、そんな俺とユウヒのやり取りを見てハイエルフがクスクスと笑った。


「聞いていた通り、良い御友人のようですね勇者。そして初めましてクワトロ殿。私は古よりこの森を守り続けてきたハイエルフが一人、名は……そうですね。“セイン”とお呼びください」

「えっと……」


 突然俺に話を振られ、思わずたじろいでいると、隣からユウヒがヒソヒソと助け船を出すように話しかけてきた。


「ハイエルフはね、神様から直々に名前を貰ったんだけどそれが目茶苦茶長くてさ。間違えられるのも間違えさせるのも不敬だからって、敢えて略称を名乗ることにしてるんだって」

「……あ、そう」


 ……いや、違う。助け船かと思ったら、今は必要ないただの豆知識だった。

 俺は気を取り直し、ハイエルフのセインに挨拶を返した。


「こ、こんにちは。いや、おはよう? えっと、……セインはどうして俺のことを知っているんだ? ハイエルフって種族はこの森の外に出られないって聞いてたんだけど」

「はい。我等はこの森を離れることは出来ません。しかし外界の様子を知る方法など幾らでもありますから」


 セインがそう言ったその時、俺はふとその胸元に、キラリと光るコインのトップスが付いたペンダントが掛けられている事に気が付いた。

 と同時に、俺の視線に気付いたユウヒが、まるでそのペンダントを隠そうとでもするかのように、突然俺とセインの間に割って入ってくる。


「ぼ、僕が話したんだよ! それにハイエルフは精霊達と仲良がいいしね。そりゃもう勇者である僕の親友クロの事ともなれば、お喋り好きの精霊達は嬉々として喋りまくってるだろうねぇー! そうだよねぇ、セイン?」

「えぇ、そうですね。そう言うことです」


 察しが良いのかセインはさりげなくペンダントを服の中に隠し、そのまま流れるようにユウヒに相槌を打った。

 だけど俺もまた、それらの一連の流れから察してしまう。

 ……あのペンダントは、クソ親父や叔父さんが仲間と連絡を取り合うのに使っていたアイテム。つまり……


「……チッ、つまりクソ親父の知り合いってことかよ」

「……」

「……」


 俺の呟きでユウヒとセインは黙り込み、一気に場の空気が重くなった。

 しまったと思いつつも、口を開く気になれず黙り込んでいると、ユウヒがおろおろとしながらそっと口を出してきた。


「えっとクロ……一応言っとくと、セインは別にシアンに頼まれて来た訳じゃなくてね……ただクロと僕と、それからクロの獣達に挨拶をしに来てくれただけなんだ……。本当に」


 だが、沸き上がる苛立ちは収まらず、俺はギュッと唇を噛む。

 ……かつて世界を巡った旅の中で、クソ親父が向かおうとしなかったこの森に来て、俺はアイツの目の届かない所まで来たつもりになってたんだ。それなのにこうして不意に気配を感じてしまうと、何処に行ってもその手の内にいるようで、そしてその存在の大きさを見せつけられているようで、無性に腹が立ってしまったのだ。

 ……だけど少し考えれば、親父とこの森が既に深い繋りを持ってるなんて直ぐに気付くことでもあった。ルドルフの故郷がこの森である以上、相棒のクソ親父が訪れていないわけがないのだから。

 それを浮かれて見落としてたのは俺。

 別にユウヒやセインが悪いわけじゃない。


 俺は小さな息を吐き、ユウヒとセインに自分の取った態度を謝った。


「ごめん、空気悪くした。気にしないでくれ」


 ユウヒがホッとしたように苦笑して話題を変えてくれる。


「いいよ。僕も変な気を遣おうとしてごめんね。……それでセイン、こんな早朝から尋ねてくるなんて一体何の用なんだい?」


 そしてセインも頷き返すようにまた微笑んだ。


「さっき勇者が言った通りですよ。お二人が折角我等の里の近くまで来てくださったのですから、挨拶もかねて朝食にご招待したくお迎えに上がったのです。もしご迷惑でなければ如何でしょう?」


 先ほど一方的に不機嫌になってしまった手前の断り難い雰囲気に加え、ユウヒが声を弾ませ俺に言う。


「ね、折角だしお相伴に預かっていこうよクロ」

「……わかったよ」


 失態からの若干の気まずさを感じつつも、俺は頷いたのだった。




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