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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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青春旅行(森の番人1) 《クワトロ視点》

 《クワトロ視点》


 聖域と呼ばれる森の中で、俺達は日が暮れるまで深い森を駆け続けていた。

 何故そんな馬鹿みたいに走り回っていたかと言うと、俺が思い付きでユウヒに“競争しよう”なんて提案をしたせいである。

 しかも競争という割にはゴールも決めてなかった為、その場のノリやどちらかの気紛れで大樹の天辺まで登ってみたり、水に潜って大河の底を突っ切ってみたりと進む先はコロコロと変わり、果てしない追い駆けっこが続いたのだった。

 ま、急ぐ旅ではなかったから、楽しければ別になんだってよかったんだけどな。

 そうしてる内に日が暮れてくると、俺達はどちらからともなく足を止め、清水が涌き出る小さな沢の傍で野宿の支度を始めた。

 ユウヒが簡易テントを張る為に近くの木の枝にロープを結わえ付けている間、俺は火を焚くための小枝集めていく。深い原生林だから、よく燃えそうな小枝はすぐに集まりそうだった。

 だけど小脇に半分ほど乾いた小枝を集めたところで、俺はふと作業の手を止め顔を上げると、不意に浮かんできた疑問を背後にいたユウヒに投げ掛けた。


「な、ユウヒ。そういえばさ。“聖なる森“で()()()なんてやっていいのか?」


 昔、クソ親父が“【森の番人】と呼ばれる聖域に住むエルフ達は、火を一切使用しない”と言っていた事を思い出したからである。

 オレの質問に、ユウヒはロープを結ぶ手を止めることなく生返事だけ返してきた。


「うん、いいよ」

「あ、そ」


 ……いいんだ。

 オレは内心で少し驚きつつ、再び小枝拾いを再開した。

 そしてそのまま手は動かしつつ、ついでとばかりに俺はユウヒへの質問を続ける。


「なら、この森で獣を捕って食べるのは?」

「別に聖獣じゃなければ構わないね」

「じゃ、例の聖樹(?)の方に足向けて寝たりとかは? 流石にダメだろ?」

「いや? 全然問題ないよ」


 間を置くことなく返されるユウヒの即答に、俺は再び手を止め、眉間にシワを寄せながら顔を上げた。


「……ってかさ。逆にこの森での禁忌とかってなに?」

「んー? 聖獣殺しはこの森に限らずだし……この森限定の禁忌は特にない、かなぁ」

「え……マジかよ」

「うん。世界樹様を利用して利益を図ろうとしたり傷つけようとしない限り基本何してもいいってことにはなってる。……というかそれだって、見境なしに利用されようとする世界樹様を止める為に周りが勝手に決めたことだしね」

「えぇ……」

「だから神々が不在となった今ならもう、世界樹様に木登りしようが落書きしようが誰も怒りはしないし、世界樹様に至っては寧ろ喜ぶ……あ、僕はそんなことしないけどね!」

「……」


 慌てて言い直すユウヒに、俺はツッコむのも忘れ返す言葉を失った。

 ユウヒは失言を取り繕おうとするかのようにひきつった笑顔を浮かべ締め括る。


「えーっと。……ま、つまりこの森の主である世界樹様は、全てを赦してくださるってことだよ」


 ……正直、聖域なんてもっとガチガチのルールがあるものだと思っていた。なんせ別名“入らずの森”なのだから。―――それがまさかそんな無法地帯だったなんて。

 俺が驚きに黙り込んでいると、ふとユウヒが忠告でもするかのように、少し声を落としこう付け加えてきた。


「―――何をしたっていい。……ただ、それは僕らだけに当てはまる事じゃないけどね」

「俺達だけじゃない……?」

「そう。この森の(あるじ)の前で、僕らは()()()赦される。つまり、この森に住まうSS級の魔物や聖獣達にも言えることなんだよ」

「……あぁ。成る程な」


 その瞬間俺は全てを理解し、頷いた。

 確かにここに来るまで、森の中には至るところで強い獣達の気配を感じた。

 ここに来るまではキメラやユウヒがうまく彼等を躱してくれていたが、もし俺がたった一人で対峙したなら、きっと何が起きたかにすらも気付かない内に、彼等の胃袋の中に送り込まれる事だろう。


「だからまぁ、(勇者)みたいに彼等から身を守る(すべ)を持たない者は、森に近づかないに越したことはない。だから人間は“入らずの森”って名前をつけたんだ」


 ユウヒの話に俺は若干冷めた気持ちで深く頷いていた。

 ―――弱肉強食が自然の掟。

 だけど人間はそんな掟に従いたくないから、自分達の手に負えないものを拒絶する。そして独自のルールと社会を作り上げるのだ。

 弱い者同士が群れ、僅かな異質すら赦さない、堅苦しい息の詰まる社会を……。


 と、そんなことを考えていると、天涯の設置を終えたユウヒが立ち上がった。

 そしてなぜか満面の笑みで此方に振り替えると、まるで剣を抜くような仕草で、腰に付けた荷物袋から何かをスラリと抜き取った。


「……とゆーことで、じゃーん! さっき河に入った時、魚を獲ってきちゃいましたー!」

「って、でっか!」

「あはは、これ夜ごはんにしようよ。ねぇクロ、いい感じに焼いてくれない?」


 取り出されたのは魔法でカチコチに凍結させた、全長1.5メートルを悠に越える大きな雷魚。

 その特大の獲物に俺のテンションは一気に上がる。


「おぉ流石ユウヒ! 実は丁度俺も走ってる途中、生えてた香草とか香辛料とか採取しといたんだよな!」

「本当?! 僕達いいコンビ過ぎってーw!」


 互いにハイタッチで手を叩きあい、差し出された雷魚を俺が受け取ると、途端に掛けられていた凍結の魔法が解け、雷魚はまるで絞めたての様な新鮮さを取り戻した。

 俺はワクワクしながらナイフを取り出し、手近にあった岩の上で鎧のように硬い鱗を剥がしにかかる。


 どう調理しようか? 

 折角の野外食だ。捌いた身は敢えてシンプルな香草の包み焼きにしよう。それから鱗や骨はじっくり油で揚げて夜食にするのがいいか。

 内蔵は苦くてエグくて臭いから……―――いや、捨てるのは勿体ないな。この森の生き物は草木に至るまでとにかくマナが沢潤だから。

 俺は鱗をはがし終わるまで悩ん末、結局内蔵は適当にスープにすることに決めた。

 ま、俺は食えれば別になんでもいいからユウヒに分けず俺専用にすればいい。


 やがて空に星がチラチラと瞬きだした頃。俺達は闇の中で小さな焚き火を囲み、焼き上がったばかりの魚と発酵させてないパンに齧り付いていた。

 湯気を立てる真っ白な魚の身を頬張りながら、ユウヒが夜ごはんの感想を口にする。


「うまぁい! やっぱ料理できる人との旅っていいねぇ♪」

「そりゃよかった」

「……なのにこのスープはなんなの? 見た目悪し、臭い悪し、味悪し。なんでクロはこんな悪しきスープを作って更に普通に食べてるの? ねぇ?」

「うるさいなぁ。だからユウヒは別に食べなくていいって言っただろ。それをどうしても味見したいって言ってきて文句言うなよな」

「も、文句じゃなくて僕は単純に! クロの舌とか胃袋の心配してるんだって……」


 言い訳をしてくるユウヒが面倒になり、俺は端に寄せられていたユウヒ用に取り分けたスープのカップを取り上げると、それを一気に飲み干した。

 ユウヒはそんな俺を信じられないと言いたげに眉を寄せながら見つめ、ついでに軽くえづいていている。

 ま、ユウヒは叔父さんに餌付けされてるから、味に関してはかなりうるさいのだ。

 俺は小さく肩を竦めると、手近にあった小枝で炭を崩して火加減を調整する。

 パチンと炭が爆ぜる様を見詰めながら、俺は独り言のようにユウヒに言った。


「あぁ、そうだユウヒ。これ食い終わったら、俺ちょっと錫を鳴らすな」

「え、錫? あー、いいね! キャンパーとかもよく火を囲んで賑やかにハーモニカとかギター弾いてるよね。あれいいなって思ってたんだ。勿論いいよ!」

「いや、俺のはそんなんじゃないけど」


 楽しそうに盛り上げてくるユウヒに俺は少し申し訳なさを込めて返した。

 俺が錫を鳴らすのは鎮魂と祈りを捧げる為だ。

 折角の楽しい旅行の筈なのに、俺ときたらいつも通りにしか出来ず、盛り下げてばかりいる。


「悪いな」


 俺がポツリとそう呟くと、ユウヒはまた一口魚を齧りながら何でもない様に笑った。


「いや、謝る事じゃないでしょ。なんにせよ僕はクロの錫の音が大好きだよ。それにこの聖域の夜には静かな響きの方がきっと合うだろうから」

「さっきと違うこと言ってるんだけど。あ、また適当なことを言ってるだろ」

「いやいや本気だって。()()ってなにさ?」


 俺は笑った。

 空腹は満たされ、心地よくテンポのいい会話が途切れることなく続く。

 この森の草木の香りや湿気った大地、その全てが俺にとって本当に心地よくて、いつも胸の内に絶えず感じていたモヤモヤとした不安は、いつの間にか消え去っている。

 誰もが赦される聖なる森。


 ―――……ずっとここに居たいな。


 ふとそんな願望が俺の中に湧いて出てきた。

 だけどその願いを口にすることはない。



“ ―――じゃあねクロ。また二学期にね ”



 あの約束がある限り、俺がここに留まる事なんて絶対にあり得ないからだった。



 ◇



 翌日。俺はユウヒの呼ぶ声で目を覚ました。


「クロ! 起きなよ。来客だよ」

「来客……?」


 外はまだ薄暗く、俺は目を擦りながらテントの中で身を起こした。

 ユウヒの事だから、どうせ兎かなんかが近くにやって来たのをそう誇張してるんだろう……。そんなことを考えつつ、俺はのそのそとテントから這い出した。

 だが外に顔を除かせた瞬間、俺は目にしたその光景にビクリと身を強張らせ言葉を失う。


 ―――這い出たテントの外に聳え立つ木々の枝の上。

 そこから、20人もの武装したエルフ達が、静かに此方を見下ろしていたのだった。


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