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神はディウェルボ火山の民・ドワーフを創り賜うた㊦



 俺はキッドに尋ねてみた。 


「どうしてキッドは最弱である事がそんなに悲しいの?」


 その感情らしきものが何処までキッドの物なのか気になったんだ。

 何故上を目指す必要があるか、キッドなりに考えた理由がね。


 だけど返されたその答えに俺は少しがっかりした。


「せっかく創って頂いたのだから、ボクもゼロス様の期待に応えたいんです」


 やはり魂の無い者に自我はない。

 何かの為と依存しなければ、その感情らしきものは現れないということなのだろう。


 だけどそれなら悲しむ必要などない。


「キッド、君は少し勘違いをしているね。ゼロスは君に何も期待してない。ただ君を創りたかったから創っただけなんだ」


 そう。ゼロスはただ、自分が愛しいと思う物を創っただけ。

 ゼロスにとってそれらの創造物は、ただあるがままで十分に愛おしく思っている。だから何かを期待したばかりにその仔が自責の念で涙する事など、あのゼロスが望むはずがない。それならいっそ何も期待などせず、ありのままを愛する筈だ。


「……な、何も……期待されてない……―――ボクは……っ」


 キッドはか細い声で俺の言葉を繰り返した。

 だが次の瞬間、何故かキッドは大粒の涙を溢し始めたのだ。


「ええ、ええっ、分かってます。だけどボクには鍛冶しかない。ボクは、鍛冶のネ申だからっ……だから期待されてなくても、ただの気まぐれだったとしても、ボクは鍛冶がやっぱり大好き。他には何もないけど……ボクはここに……ここに居るんだよ……っ」


 そんな震えながらも己の存在を主張するキッドを見て、俺はふと何か大切な鍵の1つが開いたような感覚を覚えた。



 ―――そうか。きっと関係ないんだ。



 魂があろうが無かろうが“在る”という事実。それが何より重要なんだ。

 俺はこれ迄この世界の全てを愛してると思ってたけど、心の何処かで生き物とそれ以外でカテゴリー分けをしてしまっていた。


 だけど、例えば幼い子供のただの人形がその子の親友足り得る様に、存在しているだけで魂などなくてもかけがえの無いものとなる。

 “路傍の石にも神”とは本当によく言ったものだ。

 魂などなくてもそれは間違いなくそこに存在している。

 そしてこれ程、素晴らしい事は無い。


 俺は今までの自惚れていた自分を恥じ、それを気付かせてくれたキッドに尊敬の念を込めて言った。


「うん。そうだ。その通りだね。(俺も)ようやく気付くことが出来た。君はとても立派な存在だ。ブリキッド、君は本当に素晴らしい神だよ!」


 キッドといえば一瞬驚いた様にキョトンと首を傾げた後、ハッと何かに思い至ったように顔を上げた。

 それから頬を紅潮させながら、今までと違う熱い眼差しを俺に向けてくる。

 

 はて? どうしたんだろう……と、俺が枝を傾げようとしたその時だった。



 “―――話は聴かせてもらった!”



 どこからとも無く声が響き、青空がビシリと裂けて割れた。

 そしてその裂け目からレイスとラムガルが姿を現す。


 レイスはフワリフワリと降りてくると、俺とキッドの間に割り込み、キッドを指差し言った。


「―――キッドよ。よくぞ自分の存在意義に気付いたな。所詮お前は塵芥と同じ。鍛冶以外まるでゴミなる存在なのだ。それをお前は“他が羨ましい”と嘆き、果ては全てゼロスのせいにしようとした。全く以て愚か極まりない事だ……。そんなことをせずともお前はただ、愛と信仰と崇拝を集め、自分の力を高めたかったがだけだろう? 違うか?」


優しいレイスはそうキッドを褒め、そして身の上に同情してあげたんだ。

だけどキッドはその威圧に怯え、声を失ってしまう。


「……あ……ぅ……っ」

「―――ふっ、図星だろう。何も言わないでもわかる。レイスもかつてはそうだったのだから!」


流石レイス。他の仔の気持ちを解ってあげられる神なんだね!

 俺がレイスの成長振りにハスハスと心の中で声援を送っていると、ふとレイスの声のトーンが落ちた。


「……だがキッドよ。愛と信仰は諸刃の剣だ。己が正しくなければ、それはそのまま自分に黒い歴史となり返ってくるだろう」


 正しくなければ……? あの“サタン”の件かな? 大丈夫、そんなに黒歴史じゃないよ。


「―――それでもお前は信仰、そして力を望むのか?」


 レイスの鋭い真っ直ぐな眼差しに、キッドは固唾を飲む。

 だけど直ぐに、ハッキリとした口調で答えた。


「のっ、望みます! ボクは鍛冶が好き。その為にボクはここに存在しているのですから!」


レイスは頷く。


「―――いいだろう。その覚悟を忘れるな」


だけどネ申に力と信仰を与えるなんて、一体どうやるのだろう……? 

なんていうことを考えていると、レイスが突然腕の肉を千切り取った。


「お前に眷族を創ってあげる。キッドは小さいから小さい者にしよう」


そうしてレイスが千切った肉を捏ねようとしたその瞬間、突然キッドが声を張り上げた。


「レイス様!」

「何?」

「成型はラムガル様にお願いしたいです!」

「……」


……わぉ。


 驚いた。ここまで正直に言い切る子は初めて見た。

 流石はネ申である。


 レイスは無言でラムガルに肉を押し付け、ラムガルは、「何故自分が?」と言い出せずにオロオロとしている。

 だって、もし堂々と「レイスよらラムガルの方が成型が上手いから!」なんて言われてしまった時には、きっと気不味すぎて立ち枯れたくなってしまうからね。


そして鍛冶以外にはまるで興味がないキッドは、その場の空気など欠片も読まずに注文を続ける。


「それから出来たら、ヒゲのダンディーな眷属がいいです! 厳しくも優しい、そんな“お父さん”みたいな感じにして頂けませんか? ボク、アインス様の様な方に憧れてしまって……♡」

「……わかる。だけどアインスは優しいだけ。只々深淵より深く優しいだけ。お前はまだまだ分かってないな」


レイスが頷き、そして何故かマウントを取ろうと言い返す。

そして俺は、何故か俺の話になっている事にちょっと照れた。


 俺は照れ隠しに枝を揺すりながら、彼等の会話の邪魔にならないようそっと呟く。


「ありがとう。俺みたいな樹に構ってくれて、優しいのは君達だよ……」




 ―――こうして鍛冶の種族ドワーフが創られた。

 ドワーフは小柄で髭を蓄えており、そして厳格な性格の者が多かった。

 職人気質と言うのかな? とにかく自分のやりたい様にするのだが、それは筋が通っていて、またそれが許される程の実力も十分に持っていた。

 そんなドワーフ達だけど、彼等は皆何故かハイエルフ達を嫌っていた。


『儂等の崇拝するブリキッド様が嫌うてるんじゃ。儂等が仲良くする訳にはいかんじゃろうて』


 成程。どうやらキッドはまだハイエルフへのトラウマを克服出来ていなかったようだ。

 レイスが“崇拝は諸刃の剣”なんて言ってたけど、これもまた1つの身から出た錆なんだろうね。


 それからドワーフ達は東の果てにある山脈の1つ“ディウェルボ火山”の中腹に穴を掘って住処を作り始めた。

 ディウェルボ山には「鍛冶に使うように」とレイスから聖火が贈られた。

 その聖火とは、神獣フェンリルと神獣フェニクスによって作り上げられたヒヒイロカネすら溶かす黄金の炎の事である。

ドワーフ達は神より贈られたその聖火を“黄金の宝”と呼び、種の宝として大切に扱った。

 だがドワーフは酒の席で雄弁になると、必ずと言っていいほどこの宝を自慢する。

 しかしその取扱の危険さから、他の種族に見せる事は絶対にしなかった。

 そんなドワーフ達を訝しんだ他の種族は、ドワーフの事を“強欲の黄金狂い”とか“穴掘り虫”なんて嫌味を言い始めてしまう。

 本当は誰より真面目で芯のある者達なんだけどね。




◆◆◆




それからキッドとドワーフ達がディウェルボ火山の腹の中で幸せな日々を送っていると、ある人ある客人がキッドの元を訪れた。


「いよぅ、キッド! 眷属出来たんだって? 羨ましい話じゃねぇかよ」

「あ、バッカス様! はい。おかげさまで」


 酒のネ申バッカスは、全ての八百万のネ申々の中でも兄の様な存在であった。

 そしてバッカスは最弱と云う事実とその見た目の幼さから、キッドの事を随分心配して目を掛けていたのである。


 因みにネ申々は、それらの情報や技術の多く集まる場所によく顔を出しては知識を吸収していく為、それに因んだ口調や表現力を持つようになるようだ。

 そしてバッカスはネ申の中でも歴史が長い方だから、“豪快”、“気さく”、“涙脆い”、“怒りやすい”、“喧嘩っ早いけど弱い”、“声がデカイ”等の酔っ払いのような特徴が現れてきていた。

 と云うことは、いつかキッドもドワーフ達の中で共に力をつける内に「儂は‥‥」とか言い出すのだろうか?

 まあ、あったとしてもまだ当分先の話だろうけど。


 俺の思考が彼方に脱線している間に、バッカスは上機嫌にドワーフ達に酒を配り始めていた。


「ほんじゃ、これはオレ様からの祝い酒だ! 鍛冶の事は全く分からんがまぁ飲め飲め! めでたい事があったらまず飲め! 悲しいことがあっても飲め! そんで腹が立っても、なぁーんも無くても飲め!ってな、がっはっは!」


 適当過ぎる酔っぱらいの話はともかく、バッカスから貰った酒を飲んだドワーフ達は皆目を見開いた。


「こっ……これは?!」

「どーだ? うめぇだろ。それがいけんなら中々行ける口だぜ? 次はこっちの火酒も呑んでみろ! これが飲めてこそ漢ってもんだ」

「かぁーっ! コイツぁきく! だが美味い!」

「分かってんねぇ! どんどん行くぜ」


 酒のネ申から直々に賜った酒だ。それは至上の味だっただろう。


 ―――こうしてドワーフ達は鍛治の女ネ申ブリキッドに続き、バッカスも崇め祀るようになった。


「はぁ、いいなぁ。ドワーフ達が凄くいい。バッカス様となんの話してるかは分からないけど、ドワーフ達が嬉しいならボクも嬉しいな」


 キッドはそんな事を呟きながらニコニコとその光景を見守っていた。




 ―――またこのキッドだが、後に溜めに溜めたネ申の力で“八百万のネ申々の最強の5柱”と呼ばれる内の1柱まで成り上がる事となる。



『あはははははは! さぁ、お待ちかねっ! レールガン、いっくよーっっ!』

『馬鹿なっ! いかん者共! ブリキッドにあれを撃たせるな!!』

『もう遅いよラムガル。あははっ! いっけぇ―――!!』


 そして、後にこの世界で起こる“黄昏の天界戦争”と呼ばれる大規模抗争の際、ラムガルに忘れられぬ苦汁を飲ませることになるんだけど……まぁ、それはまだ先の話。




ブクマと評価、ありがとうございました!



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