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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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幸せの行方⑤

 

 舞踏会の様式に則れば、この後に先ずデビュタントを迎えた若者達がパートナーと決められた一曲を踊ることになっている。

 本来であればそれは大勢のデビュタント達による華々しい大舞踏となるのだが、他の貴族達は新年の舞踏会でデビュタントを済ましている為、この舞踏会で踊るのはソラリスただ一人だった。

 たった一組の為というにはあまりにも広いダンスフロア。

 そこでソラは、衆目に怯えることもなく軽やかに踊りだした。


 ―――はっきり言ってソラはダンスが上手い。

 イヴ達とのおままごと(※俺はアレがおままごとだったとは認めたくない)で“舞踏会ごっこ”や“成り上がり令嬢ごっこ・ダンスのお稽古編”をして遊んだ時、ソラはどんなステップや難解な技も初見でほぼ完璧に再現してみせたのだ。

 極めつけには一度皆で“フーガのリズムで誰が最後までステップを踏み間違えずにいられるか”という謎の耐久勝負をした時、早々に脱落した自由人のイヴや兄貴はさておき、ソラはあのクワトロに競り勝って堂々の完封を見せたのだった。


 そして今、そんなソラの達人の域とも言えるダンスに、パートナーのジェイクが実力不足ながらも懸命に合わせている。

 だが衆目はそんなソラを見て嘲笑った。


「あのデビュタントったらまるで初々しさがないわね。(こな)れたダンスを見せびらかして本当に下品だわ」

「クスクス、殿方に見定められようと必死になりすぎじゃなくて? 痛々しいったらないですわね」

「まったくだわ。どうせ誰からも誘われる筈もないのに。―――あぁ、そうだわ。どうせならこの後……」


 ……下手なら下手で蔑むくせに、この手の輩は兎に角何か言わないと気が済まないらしい。


 そうして一部の者達から蔑まれながらも、ソラは社交界での初のダンスを華々しく踊りきったのだった。


 デビュタントによる最初のダンスが終わると、次は一般の者達を混じえたフリースタイルのダンスが始まる。

 ただその際、初めての社交界に飛び込むデビュタントには特別なルールが設けられていた。

 そのルールとは先ず、男性からダンスを誘われたデビュタントはその申込みを断ることをマナー違反とし、男性側は飲み物を手にしたデビュタントにダンスを申し込むことをマナー違反とする、といったもの。

 これらは本来デビュタント達が初めての社交界で、上手く場に溶け込める様にと設けられたルールなのだが、今回のそれは少し違う目的での使われ方をしているようだった。


「―――ファイブズ令嬢。どうか僕と一曲踊ってくださいませんか?」

「ではその後は是非私と……」


 一般のフリーダンスが始まった途端、ソラは三十名余りもの若い男性達に取り囲まれてしまっていた。


 本来舞踏会で踊る回数といえば、多くとも三曲程度が関の山。

 あの高いピンヒールを履いたレディー達の装いを考えれば、まあその程度が限界なのだろう。

 ……つまり、あれは嫌がらせ。

 デビュタントであるソラが断れないことをいいことに、ご令嬢達がドリンクを持ったボーイを牽制しつつ、彼女らのパートナーをソラに差し向ける。

 そしてソラに休みを与えず踊り疲れさせ、恥をかかそうとでも云う今旦なのだろう。


 俺はその浅はかな嫌がらせに肩を竦め、近くを通り掛かったボーイにドリンクのおかわりを注文した。


「君、グラスを替えてくれるか?」

「はい。こちらをどうぞムッシュ」


 受け取った新しいグラスを一気に呷り、俺は小さく息を吐く。


「ふぅ……。やっぱ無料(ただ)のシャンパンは美味いな」


 ま、助けはいらないだろう。なんせあのクワトロに競り勝つソラなのだ。

 夏休みに山籠りもせず社交界に顔を出すボンボンなど、何十人来ようがまっっっっっったくっ! 問題ない。


 俺は暫し極上のシャンパンを片手に極上の音楽を聴きながら、ダンスに興じるソラを遠くから眺めていたのだった。



 ◆◆◆



 それからおおよそ3時間。

 全くステップがブレないどころか息一つ乱さぬソラに対し、三十人ばかりいた若い貴族達は案の定、その屍を累々と積み上げていた。

 まぁ流石に屍累々は例えだが、今や彼等は皆、次のソラのダンス相手が自分に来るかもしれないと云う恐怖に青褪め、間もなく終わってしまいそうな曲に怯え震えているのだった。


 ―――彼等も一度踊れば分かった筈だ。

 ソラの狂いないステップには、多少ダンスを嗜んだ程度の者の力量では付いていくだけでも精一杯なんだと。

 なのに、背後からは本来のパートナー達に睨まれ、絶対にソラリスより先に間違えてはならないというプレッシャーがのしかかる。

 そんな緊張の中でどうにか一曲を終わらせバトンを次に回したところで、当のソラは疲れるどころか楽しげな笑顔を浮かべている始末。

 その心境と来たら、絶望の一言に尽きただろう。


 やがて一切の疲れも見せぬままソラが男性陣全員と踊り終わった時、女性陣は苛立ちを滲ませながら戻ってきたパートナー達へ無情に言い放ったのだった。“もう一度踊ってこい”と。

 そして今、男性陣は神経をすり減らしながら2周目も終え、間もなく3周目に入ろうとしていたのであった。


俺はそんなダンスフロアを眺めながらポツリと呟く。


「―――そろそろか……」


 俺はコツリとロッドを突いて壁から離れると、ここに来てからずっと着けていた仮面(マスカレード)を外した。

 そして近くに居たボーイに声を掛ける。


「ああ、君。シャンパンをくれないか」

「は……ぇ? あ、いえ! はい、畏まりましたムッシュ。こ、こちらをどうぞっ」


 先程迄は淡々と給仕に徹していたボーイだったが、一瞬驚いた様に仮面(マスカレード)を外した俺を二度見し、それから慌ててトレイに乗ったドリンクを差し出してきた。


「ありがとう。2つ貰うよ」


 俺はそう言ってグラスを2つ取ると、呆気に取られた様なボーイに気遣うこともなく、ゆっくりとダンスフロアの方に向かって歩いていった。

 一歩踏み出すごとに、今までスルーされていた会場の視線が一気に俺に集まってくる。

 特に今日はソラの為にめかし込んできたせいもあり、その視線の圧はノルマンに居た時の比ではない。

 中には不躾にも目を擦って二度見する者や、呆気に取られてグラスを落とす者までいるが、片付けをする筈のボーイ達迄俺を注視して固まってしまっているものだからどうしようもない。

 ……だからヤなんだよな、大勢の前で顔を出すのは。まるで珍獣にでもなった気分だ。

 だけどま、視線が集まる代わりに俺の向かう方の人垣が勝手に割れていってくれるのは楽でいい。


 俺は真っ直ぐソラの下に歩み寄ると、今流れていた曲の終わりに合わせ声を掛けた。


「―――ご令嬢。次はこの私めとグラスを1杯交わしては戴けないでしょうか? このような脚では貴女のステップに乗れそうにありませんので」


 そう言って俺がよそ行き用の笑顔を浮かべると、さっきまでソラを睨みつけていた女性陣の集団から小さな悲鳴がいくつも上がる。

 先程“ソラが誰にも誘われるはずがない”などと話していた彼女らも、目に星を浮かべながら俺を見詰めて固まっていた。

 そんな変わり身の速さに呆れる一方で、男性陣らは「もう踊らなくていい……!」と、明らかにホッとした表情でひと目も憚らず大きな息を吐いている。


 ソラは不思議そうな顔でテールコート姿の俺を見 詰めると、次の瞬間いつもの高慢な笑顔をフッと浮かべて俺の差し出すグラスを取り上げた。


「ええ、構わないわ。丁度少し喉が渇いていたところなの」


 その仕草に俺は一瞬ドキリとして息を呑む。

 こんな風に着飾ったソラを間近に見ていると、何だか緊張して心音が速くなってしまう……。

 俺はなんとか落ち着こうと大きく息を吸い込もうとしたが、その時ソラがコトもあろうか突然俺の脇腹に手を差し込み、そのまま俺の腕に身体を密着させてきたのだ。

 刹那、おれは思わず内心で『うひゃあっ』と悲鳴を上げて固まってしまった。


『……ちょっとミック。何やってんのっ! 早くリードしなさいっ』

『あ、そっか。うん、ゴメン』


 ヒソヒソと掛けられたソラの素の囁きに、俺はハッと我を取り戻し慌てて歩き始めた。

 ……そう、落ち着け。これはこういうマナーなんだ。

 リードする時男は肘を上げて腕を差し出し、女はその腕を取ってリードされる。そういう事なんだ。

 そういうこと…………だけどさ、実際やってみて思うんだが近すぎだろ! こんな露出度の高いドレスでさ?!

 危険! 貴族のマナー、危険んんっ!!


 早急に頭を冷やしたくなった俺は足早にダンスフロアを抜け、静かなバルコニーに向かうことにしたのだった。




 ◆◆◆



 バルコニーに出れば会場の熱気はたちまちに消えた。

 夏の夜とは言え、山の麓の湖に浮かぶカロメノスに吹く風はヒンヤリと冷たく、火照った頬を冷やしてくれる。


「あー……、ソラを待ってる間にシャンパン飲み過ぎて顔が火照ったー。風が超気持ちいー……」


 顔が赤くなっていないか心配で、説明口調でそう言いながら自分の頬を揉んでいると、隣で夜のカロメノスを眺めていたソラの肩が震えだした。


「ん? どうしたソラ? 寒くなったのか?」

「……っアハ! そうじゃないわよっ! というかミックのその格好何!? シャンパン持ってきた時笑いそうになったじゃない!!」


 そう言って大爆笑を始めるソラ。

 俺は思わず眉を顰めた。


「何って、これ侯爵様が選んでくれたやつだからな。ってかそんな笑うほど似合ってない……?」


 今すぐこの服を脱ぎたい気分になって凹んでいると、ソラは目に涙すら浮かべながら俺を指さしてきた。


「ふくくっ、似合ってるわよっ。似合ってるから可笑しいの! 何でそんなに似合うのよぉ?!」


 ……似合ってちゃ可笑しいのか? うーん、解せぬ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最初らへんの誤字があった その後も誤字は減ってるけどまだ出てくる [一言] ちゃんと書けてないところもあった
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