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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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青春旅行in聖域 ②  《クロ視点》

 

「ううん。何でもない」


 ユウヒは一瞬俯き、何かを振り払うように首を振るとニパッと笑い弾む声を上げた。


「ホントそうだよね。次も一緒に来れたらいいね♪」


 だけど、いつも言葉を持たない獣達と一緒に居る俺には分かってしまう。―――それが嘘だということを。

 何故かわからないけど、ユウヒはもう俺とここに来るつもりはないんだ。


 いつも通りの脳天気な笑顔を浮かべながら、いつもより1.5ミリだけ下に下がった肩。

 その僅かな無意識下での動作が、言葉よりも正確にその心を語っていた。

 だけどそのことを俺が指摘してもユウヒはいつもはぐらす。


「とか言って来る気ないだろ」

「なんでそんなこと言うのさ?」

「だって…………いや、もういい」


 そしてこういう時のユウヒは、何を言っても頑なにその理由を話そうとしない。

 だから俺は軽く流すように提案した。


「“いいね”じゃない。絶対に来ようぜ。来年か、再来年か、学校卒業して大人になった時か……。でもいつかまた来よう。……な?」


 だけどそれにすらユウヒは頷かず、苦虫を噛み潰したような顔でくしゃりと笑う。

 そしてワシャワシャと乱暴に髪を掻き毟ると独り言のように呟いた。


「あーあ、今になってあのクソ野郎の言葉が刺さるなぁ」

「ん? 誰のどの言葉?」

「いや。―――ねぇクロ、改めて聞くけどさ……僕達って親友?」


 俺は食い気味に即答する。


「たり前だろ。何だよ今更。ってかユウヒは違うと思ってるのか?」


 ユウヒは首を振って笑いながら言い直したが、最後は俯き重い口調でポツリと付け加えた


「ううん。僕も思ってるよ。クロは僕の親友だよ。―――本当にゴメンね」

「いや……いいよ」


 この時、俺はユウヒが一体何に対して謝ってるのかがまるで分かってなかった。  

 だけどユウヒが無意識に握っている拳から、それが心からの謝罪であることが伝わってきて、俺は笑い飛ばすこともできずに押し黙ってしまった。


 ユウヒが何を考えてるのかは分からない……だけど、どんな事情があるにしろ、俺がユウヒを責めるなんてことはない筈だ。


 俺は駆け寄ると、俯き立ち尽くしているユウヒの手を取って引っ張った。


「もう行こうぜユウヒ。せっかく聖域に来たんだし、前に進もう」

「ク、クロ?!」


 手を強く掴んで歩き出すと、ユウヒが驚いたように俺を呼んだ。

 ……そういえばユウヒはよく俺に絡んで触ってくるけど、俺からユウヒに手を伸ばしたのはこれが初めてかもしれない。

 俺は前方の森をまっすぐと見つめ、歩きながらユウヒに言った。


「もういい。ユウヒが何をやらかしたかは知らないけど許すから謝んな。そんで今は折角の旅行を全力で楽しもう。ほら、いつもユウヒが言ってる事だろ。“今を楽しめ”って」


 それでも、俺の後ろを付いて歩くユウヒは無言で俺の手を握り返そうともしてこない。

 まるで迷子のような便りないユウヒの手を強く握ったまま、俺は森をズンズンと進み続けた。


 いつもは喧しいほどに喋るユウヒが無言だと、俺も黙り込んでしまう。

 変わり映えのない森を黙々と歩いていると、頭の中で余計なことを色々と考えてしまった。


 例えば、こうして誰かに長い間触れてることなんて普段なら絶対にこんなことしない。……いや出来ない。

 何故なら俺は、人に触れるとそいつの持つマナの躍動をを強く感じてまうからだ。

 その躍動から逃げるように、俺はいつも他人と距離を取り続けていた。


 だけど今は、こうしてユウヒの手を掴んでいても平気だった。


 慣れないはずの手の温もりを穏やかな心持ちで感じながら、俺は森の空気を胸いっぱいに吸い込んで深呼吸する。

 すると、こんな考えがごく自然に俺の中に思い浮かんできた。



 ―――別に()()を食べなくてもいいし……。



 その刹那、ギクリと肩を強張らせ俺は思わず握っていたユウヒの手を払うように放した。


 ―――……いや。そうじゃないだろ。

 俺今、ユウヒに向かって何を思った……?


 ゾッとして振り返れば、ユウヒが不思議そうな顔で俺を見ている。


「どうかしたの? クロ」

「な、何でもない」


 まるで疑いを持たずこちらを覗き込んでくるユウヒに、俺は腹の奥が捩れるような感覚と物凄い罪悪魔感が湧き上がってきた。

 居た堪れなくなり、俺はポツリと呟く。


「―――……俺の方こそ、ごめん」

「うん? 何が?」

「……」


 ユウヒの質問に、俺は答えることができなかった。

 黙り込む俺にユウヒはいつもの笑顔を浮かべ、また弾む声で怒涛のごとく喋り始めた。


「な~にしょぼくれた顔してるのっ。ごめんね黙り込んでて。心配してくれたの? まさかそれを気にして謝ってくれた? も~全然御門違いだからね。クロは何も悪くないからっ」

「そりゃいつも喋りっぱなしのユウヒが黙ってたら誰でも心配するよ。……ごめんっていうのはそれとは関係ないけど」

「そっか。ありがとう♪ でもクロはなんにも謝んなくていいよ。だってクロは何も悪くなんてない。だってクロは僕の自慢の親友だからね!!」

「だっての意味がまるで分からねぇ。それに“謝んなくていい”ってのはこっちの台詞だよ。それより早くもっと奥行こうぜ。森の中心まで200Kmあるんだろ?」


 まだ腹の奥がムカムカと痛むのを我慢して隠し、俺はニッとユウヒに笑い返した。


 ―――だってユウヒは勇者で俺の親友だからな。


 曰く、勇者ってのは悲しんでる奴や苦しんでる奴を見れば、自分がどんなに悲しくても苦しくても、励まして力になってやんなきゃならないらしい。そうせずにいられない存在なんだそうだ。

 だけど俺は“勇者に守られる奴”にはなりたくない。

 だからユウヒの前では絶対に弱味も弱音も吐かない。―――友達でいたいから。


 俺は笑いながら無理矢理声を張り上げた。


「キメラ、もう一回俺を乗せてくれ! なぁユウヒ、競走しようぜ。飛ぶのは禁止でな! あと障害物破壊も禁止!」


 そして俺はキメラの背に飛び乗ると、ユウヒの返事も聞かず木々の隙間を風のように駆け出した。


 キメラの背に乗っていると、木々の影が飛ぶように背後に消えていく。

 だけど直ぐに、そんな景色の中でたった一つ止まって見える朱い髪が見えた。

 ユウヒが追いついてきたのだ。


 キメラが滑るように木々の隙間をすり抜けて走るのに対し、ユウヒはまるで鏡に反射する光のように凄まじい反射で障害物を回避しながら森を突き進んでいる。

 楽しそうに笑いながら駆けるユウヒを見て、俺はふとさっき言い忘れていた事を思い出した。


 大したことではないが、俺はポツリとそれをユウヒに言ってみる。


「そうえばさっき“俺は何も悪くない”ってユウヒが言ってたけどさ」


 ユウヒはこっちに目を向けることなく集中して走っている。

 この速さの中だし聞こえてないのかもしれない。

 まぁ別に聞こえてなくてもいいけど、ここでやめるのも何だから一応最後まで言っておこうと俺は続けた。


「―――“悪くない奴”なんて居ないから。俺も、それからユウヒもな。だから逆に大丈夫だよ。コレ迄も、そんでコレからもユウヒが何をやらかしてたってさ」


 その時。ふとユウヒの走る速度が僅かに上がった。

 キメラよりも前に出たユウヒの表情は俺から見えなくなる。

 キメラは渾身の力でユウヒに追い付こうとしてくれたが、その距離は一向に縮まらない。


 俺は前を走るユウヒの背を見ながら、今度こそユウヒに聞こえないよう吐息なような小さな声で呟いたのだった。



「……ったく。聞こえてるならなんか言えよな……」





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