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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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青春旅行in聖域 ①  《クロ視点》

今話から世界樹目線から外れます。



 

 《クロ視点》



 ノルマンから聖域迄。

 大陸をまたぐその距離は、正規のルートで馬車や船を使えば一月は掛かるらしい。

 だが俺にはキメラがいる。

 SS級と呼ばれるこの神話クラスの魔獣の羽ばたきにかかれば、数時間もかからずその距離を渡ってみせた。


 ただまぁ、キメラなら普通に凄いなと思う程度だが、思わず“嘘だろ?”と言いたくなるのが俺の親友の方だった。


 空を蹴ってキメラと並走するユウヒに、俺は呆れ気味に声を掛けた。


「悪いなユウヒ。俺の獣達ってさ、キール以外皆人見知りなんだ。キメラもユウヒは乗せたくないって言ってて」

「あぁ。構わないよ。寧ろこの距離で魔獣と並走しておきながら、まだ僕が聖剣抜いてないだけで十分奇跡だから! いやあ、テイマーってのは凄いね♪」


 そう褒めてくるユウヒだが、俺から言わせればイヴのように強化するわけでもなく、生身でSS級の動きについてくる勇者の方が凄いと思うわけで……。


「あ、ほらクロ。見えてきたよ。あの緑の大地がそうだ」


 ユウヒにそう声をかけられて目を向けると、地平の彼方に緑の一本線が見えた。

 ユウヒがついでとばかりに息も切らさず説明をしてくれる。


「聖域は太古から存在する森で、世界樹様を中心に半径二百キロ程の円状に広がってるんだ。ジャックグラウンドのような侵入者に対する防衛機能はないんだけど、森のエルフ達が神々よりの命を受けてずっとこの森を守ってるんだよ」

「へぇ」


 そんな話しをしている内に、緑の線は広大な森林となって眼下に広がり始めた。

 地平線まで続く緑。

 だが、その緑の中に世界樹と呼べるほどの巨木は特に見当たらない。

 そんな俺の考えを察したのか、ユウヒがフッと笑って言った。


「ここからじゃ世界樹様は見えないんだ。神々が世界樹様に惑わしの迷彩魔法を掛けてるから」

「惑わしって言うと、ミックが使ってたみたいな目眩ましの?」

「あぁ。精度も規模も段違いだけどね」

「神様が世界樹を守るためにそうしたのかな?」

「そうじゃない。遥か昔、神々の創造物を愛する世界樹様が、自らの樹体や枝葉のせいでその根本に生える木々や草花に光や雨の滴が届かなくなることを嘆いたんだ。すると神々は、世界樹様が悲しい思いをしないようにと、世界樹様の茂る枝葉の隙間を光と雨水が通り抜ける魔法を掛けられた。その屈折が今の迷彩魔法の基軸であり、完成形となってるんだ」

「へぇ。樹がね……嘆くの?」


 トレント(樹の魔物)の一種なのだろうか……? なんて考えていると、ユウヒが額に手をあて森を見渡した。


「近付けば視えてくるんだけど、意味がわからないくらい大きいんだよ。昔一度だけその魔法が解除されて全容を見たことがあるけど、黄金の実を枝中に付けていて、それはそれは神々しい姿だったね」


 上空からこの平らな森を見るだけでは、ユウヒの話にまるで実感が湧かない。


「じゃ、そろそろ森の畔に降りようか。森のエルフ達を刺激したくないし、森の獣達がクロを待ってると思うから」


 そう言って森の淵を指差すユウヒに俺は頷き、乗っていたキメラに降りるよう指示を出したのだった。




 ◇◇◇




「ここが……聖域」


 そこに足を踏み入れた瞬間、俺はまるで別の世界に来たような感覚を覚えた。


 樹齢数千年は超えていそうな巨木がそこかしこに並び立つ森。

 静かだけど森の奥からは“リーン”と鈴の音のような音が絶えず響いてきている。


 俺は辺りを見回した後、目を閉じて大きく深呼吸をしてみる。

 すると体中が何かで満たされていくような気がした。

 それは物を食うだけじゃ満たされない、俺が第二の胃袋と呼んでいる所である。

 深呼吸をしてかつてない充足感に満たされると、心が軽くなって思わず笑みが溢れた。

 なんだか楽しくなった俺は、ふと目に止まった茂みに実る真っ赤に熟れた木苺を見つけ、摘んでそれを口に入れる。


「……うっま!」


 衝撃的な味だった。

 親父や叔父さんから口を酸っぱくして言われてた旨味云々の話じゃない。

 俺の体中の細胞が、これをもっと食いたいと叫んでいる様だ。

 俺はこの感動を伝えるべく、振り返ってユウヒに声を上げた。


「何だこれ。これまで食ったものと全然違う。ってかここの空気からしてうまいんだけど、何これユウヒ!」


 だけどはしゃぐことなく静かに立つユウヒを見て、ふと俺は我に返った。


「あ……やべ。ここって神様の住む神聖な場所なんだよな。勝手に取って食っちゃった。どうしよ……」

「大丈夫だよ。この森の主はそんな小さなこと気にしないから。何なら“もっとお食べ”って言うだろうね」

「へぇ、神様って結構優しいんだな」

「いや。神様達はどっちかといえば地雷まみれ……あ、これ内緒ね。―――だけどこの森の主である世界樹様はね、僕らが何したって笑っていてくださるんだ。ね、挨拶しに行こうよ。世界樹様のところに!」


 ユウヒはそう言って森の奥を指さし歩き出した。

 俺は小走りでユウヒに追いつくと、並び歩きながら訊ねてみる。


「さっきから気になってたんだけどさ。世界樹って別に唯の樹なんだろ? 樹齢がとんでもないってだけの。なのになんでユウヒやルドルフ、あと親父達は“様”なんか付けるんだ?」

「まぁ、うん。自称“なんの力もないただの樹”なんだけどね」


 自称? しゃべるのか? 樹が? 

 俺が頭の中でそんな疑問符を浮かべてる間にも、ユウヒはさも当たり前のことのように話しを続けた。


「僕らの間で伝わってる神話によれば、世界樹様はこう語られてるんだ。“暗闇の中に一粒の種があった。種は暗闇の中で一粒の砂に触れ、芽吹きを迎える。そして種に触れた一粒の砂は割れて二粒の砂となり、二粒の砂は創世と終焉の神となった”って」


 この不思議な落ち着く森の空気のせいか、そんな突拍子もない話しがなんだか神聖な話しのように感じた。


「ふぅん。世界樹が神様より前なんだ」

「そう。世界樹様が何もない闇の中で、小さな砂粒を拾い上げたところから世界が始まった。……ね、砂粒から神を育てちゃうなんて凄くない? 途方もないと思わない?」

「……いや。まぁ途方もないというか……うん。凄いな」


 俺は頷きながらチラリと足元の土に目を向ける。

 うん。凄いというか砂粒を神として育てようなんて発想が先ず俺には出てこない。


「そうして、神々を育て上げた世界樹様は、神々にとっても大切な存在になった。そこで神々はその愛情の証として、世界の魔法の根源とも言えるマナの原液“命の水”を世界樹様に注ぎ、その枝葉を伸ばさせたそうだよ」

「え? “命の水”って実在するの?」


 俺は思わず聞き返した。

 命の水なんて伝説に残るだけの空想上のアイテムだと思っていたからだ。

 だがユウヒは大真面目に、いつか親父から聞いた神話の一節を例に出してきて頷いた。


「勿論だよ。クロも聞いたことあるだろ。ハーティの精油に多くマナが含まれてるのは、かつて神がハーティに“命の水”を与えられたからだって」

「……この年でそんなお伽噺みたいなものを信じろって?」


 それは子供に読み聞かせるお伽噺。

 だけどユウヒはそんな俺の茶化しに肯定とも否定ともつかない笑顔をニッと浮かべ話しを続けた。


「ともかく世界樹様に蓄積されたマナの保有量は、今やマナ結晶である賢者の石を更に精製した聖石すらも遥かに凌ぐと言われている。だからそんな世界樹様の御聖葉が呼吸する森にはマナが満ち、世界樹様が落とされる聖葉を含んだ用土に根を張る木々には、聖域外とは比べ物にならないくらい大量のマナが含まれてるんだよ」

「へぇ……」


 マナに満ちた聖なる森……。その由縁の真偽はわからないけど、確かにこの森が普通でないのは俺にも分かる。


「因みに外界じゃ厳しい縄張り争いを繰り広げながら点在するSS級の魔物や聖獣達が、聖域内では争うことなく密生できてるのもそれが理由らしい。怒らせれば怖い神様がいる代わり、大人しくしてれば世界樹様の恩恵でお腹を空かせることがないからね」


 そんなユウヒの説明に俺は深く納得した。

 そしてまた一度胸いっぱいに森の空気を吸い込む。


「うん。……皆がここにいたがる理由が分かるよ」


 ずっと息苦しかったのに、ここではうまく息ができる。

 何処に居たって窮屈に感じてたのに、ここじゃ自分がとても小さく感じる。

 自分の正体が何者だったとしても取るに足りない存在で、何をしたってそれは風の(そよぎ)にも満たない詮無い事でしかない。

 果てしなく広くて、どこまでも深い。


「とても、いい所だね」


 そんな言葉が俺の口を突いて出た。


「そ。気に入ったなら良かった。これからもクロが来たければいつでも来ればいいよ」


 その投槍なユウヒの言葉に、俺は笑いながら言い返す。


「なんだよその言い方。次は一人で勝手に来いみたいな……」

「……―――」


 と、何故かユウヒが笑顔のまま言葉を詰まらせ足を止めた。

 俺は振り返って首を傾げる。


「ユウヒ? どうかしたのか?」




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